元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第八章 学校と研修

325 一時離脱します

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何かあればすぐに対応できるようにと、リクトルスとコウヤの見える場所で待機していたのはリエラだった。

「リエラさん、ちょっと」

リクトルスに呼ばれて、リエラはすぐに駆け寄ってくる。

「少し調べて欲しいことがあります」
「お任せください」

内容を聞く前から、リエラは笑顔で了承する。だが、リクトルスはリエラに話す前にと、コウヤへ確認する。

「コウヤ君が昔、関わりのあったのは、あの金の腕輪をしている人たちで間違いないですか?」
「あ、うん。細工師や魔工技師が多く出た一族で、仲間の証としてお守りも兼ねてそれを着けてるって聞いた」
「なら、間違いなく魔工神教だったはずです」
「あ~……そう。だからあの時も気付いたんだ……」

かつて、この島に辿り着いた者たちの存在に、コウルリーヤはいち早く気付いたのだ。祈りが届いた。

「あの腕輪、かなり弱まっていますが、防御の護りがかかっていました。新たには作れてはいないようですが、強い信念と共に受け継いでいるのは、戦う姿勢からも感じられましたよ」

リクトルスはニコニコとご機嫌に笑う。

「だから、きっと……」
「ん?」

優しく慈愛に満ちた笑みに変えたリクトルスは、そのままコウヤの頭を撫でた。そして、リエラに伝える。

「彼らの集落が別にあるようです。残っている方は居ないようですが、様子を見てきてください」
「承知しました。全て明らかにして参ります」
「お願いしますね」

何を調べて欲しいのかを察して、リエラは優雅に身を翻す。それを見送り、リクトルスはその視線を森へと移した。

「気付いていますか?」

言われて同じ方へとコウヤも目を向ける。感じるのは、不満と行き場のない憤りだ。それは、今はまだ沈黙しているBランクの迷宮から感じられていた。

「うん……ダンゴが話し合いに行ったみたいだけど、抑えるのは多分無理だと思う」
「そう……住民の移動は完了しているんですよね?」
「家も壊れても良いって了承ももらってるよ」
「ふふふ。用意が良いですね。なら、綺麗にしてしまいましょう」

ぽんぽんとコウヤの頭を撫で、リクトルスは仮設のギルド本部へ向かう。

「コウヤ君も行くよ」
「うん」

それを追いかける。しばらくして、リクトルスは何やら喚いている第一王女に顔を向けた。

「アレはどうするのかな」
「どうしようか迷ってるんだ。けどそろそろ、エリィ姉が来ないかなって」
「ああ……城の方に居るんでしたか」
「ルー君とテンキに任せて来たんだけど……ん?」

コウヤには目を凝らせば、ダンゴの不可視の結界も透けて視える。なので、城の方へと目を向けた。何か変化があればと思ったのだが、しかして、確かに変化はあった。

「えっと……飾り……じゃない……よね……」

立ち止まって目を凝らすコウヤを振り返り、リクトルスも城へ目を向けた。そして、同じように何とも言えない顔をする。

「……飾りではないですよ……逆さにしないだけ優しいですね」
「あ~……なんか思い出すなあ。アレ、ルー君がやったんだ」

器用に縄を編み、尖塔から尖塔に繋げた縄に括り付けられた人が見えた。

ルディエに出会う前、盗賊たちが絡まって笑い狂っていた時の編み方と同じだ。

「下が良く見えそうです」
「なんか……薄っすらと見える術は……防御?」
「テンキですね。あの強度なら、魔獣に踏み潰されることもないですよ」

膜を張るように、絡まった人々は防御の術式で守られていた。かなりの高さに括り付けられているが、落ちても少し転がるだけで助かる強度だった。

「あの強度でってことは……エリィ姉も迷宮のこと、気付いてる?」
「ですね。それに、ほら。ルディエ君とテンキは向こうの領城に居ますよ」
「本当だ。なら、もしかして……そっちも同じように?」
「でしょうね。準備も着々と進んでいますし、タリス達にも話しておきましょう」
「うん」

この後の予定は決まった。

そして、最後のCランクの迷宮での集団暴走スタンピードが始まる前に、冒険者達へ連絡した。

「次の戦闘が終わりましたら、速やかにこの島から一時離脱します。この国にお住まいの方も全員です。沿岸の集落の方々の保護も済んでおりますので、ご安心ください。お忘れ物のないようにお願いいたします」

笑顔でそれだけ言えば、冒険者達は深く考えることなく頷いた。

「可愛いなあ。あの笑顔に癒される……了解!」
「離脱? 島を出るってことか。まあ、あの子が笑ってるし悪いことじゃないんだろ。速やかにだな」
「かあちゃん達も保護されてんなら、いいか。な~んか、嵐が来る前のピリピリした感じもあるし、出れるんなら出た方が良さそうだ」

金の腕輪をした者たちは、敏感にその空気の変化を感じ取っていた。国にも追いやられ、沿岸にへばりつくように出来ている集落は、嵐の時には多くの家が海に流される。

着の身着のままの生活も珍しくない。だが、そこで生きるのが当たり前なだけで、執着しているわけではなさそうだった。

「忘れ物……ねえな。こんだけだわ」
「ここの金も、外じゃ使えんしなあ」
「外国っつうの? 行けんの? 楽しみだわ」
「うめえもんいっぱいあるかもなあ」
「さっき飲んだ飲み物も美味かったしなあ」

因みに、戻ってきたミラルファやアルキスは王女の態度を見て無表情で頷き合うと、本部に入って行った。何やらやる気のようだ。そちらは放っておいて大丈夫だろう。

冒険者達はどこか、ソワソワと出かけるのが嬉しい様子。まるで、遠足前の子どものようだ。それを見て、コウヤはホッとした。

これからこの島は一度全てを無くすことになるのだから。

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読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
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