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第八章 学校と研修

323 対応も変わってきます

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この国の王侯貴族は、迷宮がどうなろうと、なんらかの守る術を持っているのかもしれない。

集団暴走スタンピードが起きるという危機感が薄いように思えた。

結界があっても、第一王女が普通に護衛数人だけで出て来てしまうくらいだ。とはいえ、この王女の様子を見るに、ただの物知らずのような気もする。

近付き難そうにしていたビジェの妹と二人の王女は、今やギラギラとした目で第一王女を睨みつける民達に怯えていた。

そう。民達の様子に気付いていないのは、第一王女とその護衛だけだ。

因みに、これらのやり取りを、実は記録と同時に他の町にも伝えていた。戦闘中の冒険者には、気が散るので聞かせてはいない。だが、恐らく他の町でも民達は顔を顰めているだろう。

「この国の王族は、集団暴走スタンピードが怖くないのかな」

シンリームは、そんな民達の様子を確認しながらも尋ねていた。民達の気持ちを感じ取ったのだ。

「城には、冒険者ギルドから接収した特別な魔導具がありますの。この結界はそれと同じでしょう?」
「……」

コウヤは、思わずシーレスとタリスを見た。

二人も顔を見合わせて驚いている。紛失したことになっているのかもしれない。間違いなく、冒険者ギルドの許しのない、この国の独断だ。

「ならなぜ、その結界でこうして町を守ろうとしなかったんだい? なにもやろうとしないから、こうして冒険者ギルドの方が対応しているのだと思うけれど?」

シンリームは最初から来ているわけではない。だが、予想は容易い。パックンのパックンがあったとはいえ、国の兵士達の姿がないのだから。

「なぜですって? 只人を守ってどうするの? 寧ろ、なぜ闘いに出ずに、こちら側に居るのかしら」

そこで、ようやく第一王女は民の方は顔を向けた。そんな彼女は、他の町にも伝わっているとは知らずに続けている。

「あなた達、なぜそこにいるの? あなた達が戦わずにいるから、冒険者ギルドなんて野蛮で卑しい者たちに大きな顔をさせるのよ。この国の民なら、国のために闘いなさい!」
「「「………」」」

民達は、何を言われたのか咄嗟に分からず、動きを止める。思考が追いつかないのだろう。予想外の言葉に混乱していた。

タリスやシーレス、冒険者ギルド職員達も絶句する。シンリームもこれには唖然とした。だが、コウヤは違った。

一歩進み出たコウヤは、第一王女へ真っ直ぐに目を向ける。さすがに我慢ならなかったのだ。

「あなたは?」

不審に思いながら、ギルドの制服を着ているのを見て、すぐに下に見る第一王女。その態度には構わず口を開いた。

「こちらの王族は、自分たちの尻拭いを民達にさせるのが当たり前と考えているのですか?」
「子どもがなに? 民が王族のためにあるのは、当然のことでしょう?」

本当に当然と彼女は思っているようだ。

だから、その後ろの王女達にも確認した。

「あなた方も、そうだと思っていますか?」
「っ……わ、わたしは……」

幼い妹を抱きしめながら、少女は目を逸らす。しかし、コウヤは逃げることを許さなかった。

「王族の中での立場はどうであれ、あなたも王女でしょう。こちらのかたの言い分が王族全体の総意だというのならば、我々冒険者ギルドの対応も変わってきます」
「何ですって?」

これは、民達にも聞こえるように伝える。

「冒険者達は、自分達の住む町と町に住む人々のために戦います。そこに、戦い方も知らない方々が参戦するとなれば、彼らへの負担も大きくなるでしょう。そうした戦闘時に冒険者達を危険に晒す行為を、冒険者ギルドは見過ごせません」

ギルドは、どんな時でも冒険者をサポートし、守るものだ。国の勝手な方針でその命を危険に晒されることは許さない。国とは別の組織としてある意味がこれだ。

「そして、国の原因ではなく、魔獣や魔物の脅威に晒されようとしている住民達を守るのも、冒険者ギルドの仕事です。場合によっては、国からも逃すことも考えます」
「……なん……ですって……?」

理解には至っていないが、民達を国から出されると察したようだ。

コウヤはタリスとシーレスに目を向けた。二人は頷き合って前へ出た。シーレスが職員達へ伝えるため、声を張り上げながら手を打つ。これは都合が良いと内心笑っているのがわかった。

「これより、住民の避難を開始します」

そこに、聖魔教の代表としてリエラが降り立った。

「聖魔教の神官として、不当に国に酷使されようとする人々を見過ごすことはできません。こちらでも、保護させていただきます。もちろん、残られる意思のある方は無理にお連れいたしません。神は人々の行動を強制することはしませんわ」

個々の意思は尊重いたしますと笑うリエラ。この映像も、コウヤはきちんと各町に伝えた。

そうして、結界を張って回っていたダンゴを呼び寄せ、マンタも出して大規模な住民の移送が始まった。

王女を睨み付けながら、我先にと住民達は移動を開始する。

行き先はトルヴァラン王都とユースールだ。この国の住民の数はそれほど多くない。王侯貴族を抜けばユースールの約二倍弱だ。受け入れに問題はなかった。

「誰も居なくなっても王族面できるか、見ものだね~」

こう言って密かに悪い笑みを浮かべるシーレス。聞こえたコウヤとシンリームは思わず顔を見合わせて笑い、頷いた。

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