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第八章 学校と研修

303 調べ物も得意なんです

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子どもがと聞いて、コウヤは少し目を細めて確認する。

「子ども……その子どもはいくつくらいの子ですか?」
「あ~、確か、一番下の子は五つだった。だいたい、十才頃の子が多かったかも」
「うちもだよ。一番上が十才だった」

それを聞いて、コウヤは出口の方向へ目を向ける。そこに、神官が居た。

「マウラさん。ルー君の方には子どものこと、報告来てますか?」

冒険者と職員はビクリと体を震わせた。気配が全くなかったのだ。視界に入るはずの位置なのに、突然その場所に現れたのだから驚くのは当たり前だった。

しかし、コウヤは気にせずこちらを優先する。マウラと呼んだ男性は、白夜部隊の一人だ。白夜部隊は日替わりで一人か二人、コウヤの側に常に控えている。

神教国や他国への警戒のためだ。未だ王子としての身分を証明されていないので、近衛騎士は付けられない。そんな事情もあるが、どのみち白夜部隊の方が近衛騎士より実力は上なので今後も変わらないかもしれない。

「報告にはないものです。すぐに確認させます」

国内の神教会は全て接収済みだ。そこで報告がなかったということは、国外へ連れ出されたのだろう。

「お願いします。あ、でも、気にならなかったってことは……人数は少ない?」

これはミュザ達の方への確認だ。彼らも、ただ事ではないと感じたらしく、真剣な表情で答えは同時だった。

「三人」
「四人」
「それくらいなら、引き取られる子どもとしてはおかしくないか……」

聞いていたマウラも頷く。

「はい……急がせます」
「うん。子ども達の安全を優先して」
「承知しました」

マウラは頭を下げると、すぐにギルドを出て行った。姿を瞬時に消す事も出来るが、最近は暗殺者ではないのだからと、誰かの視線がある所では移動制限を掛けているようだ。もちろん、その視線が外れた直後に消えている。因みに、現れる時は気付かなかったと思わせられるのでアリらしい。彼らは意外にも、拘りが強い。

「なあ……あれが噂の聖魔教の神官様?」

ミュザ達はマウラの背中を見送ったままの状態で止まっていた。驚異的な身体能力は見せなかったが、それでも彼らには実力者として映ったようだ。

「そうですよ? 調べ物も得意なんです」
「へえ……」

気のない返事。調べ物が得意な神官って何だろうと、混乱しているようだった。

「皆さんの村のことも気になりますし、お時間があれば、詳しい話を教会の方で聞かせてくれませんか?」
「こっちからも頼みたいことだ。どのみち、昼から教会にって思っていたからな」

ヤタがミュザ達へ目を向けながら言えば、全員頷きを返していた。どうやら、問題ないようだ。

「よかった。俺はこれから休憩なので、案内しますね。昼食は摂られましたか?」
「いや、まだだ」
「昼の時間はとっくに過ぎてるし、鑑定を待ってる間にどこで食べようか相談しようと思ってたんだよ」

王都とはいえ、食事処が豊富とは言えない。特に外食が主な冒険者も、昼は依頼で外に出ているのが大半だ。なので、店の方も夜しか営業しない所が多い。

昼にやっていても、昼時を過ぎると次の夜の仕込みのために閉めてしまう。

よって、昼を幾分か過ぎてしまった今の時間は、店を開けている所は少なかった。

「では、教会の食堂へ行きましょう」
「教会の? 食堂って、神官さん達のじゃ……」

今ではかなり王都の中でも周知されているのだが、ミュザ達は知らないらしい。確かに聞いても『教会の食堂?』となるのが自然だ。

「いえ。教会が運営している食事処です。最初は認知度も低くて、教会って印象も悪いので近寄り難かったみたいですけど、今は労働者や冒険者の方のほとんどが利用してますよ」

教会の印象は『金がかかる』だ。聖魔教の評判は広がっていても、実際に関わってみなければ実感できない。

それこそ、ミュザ達が噂を確認するためにわざわざ先行偵察のような真似事をしに来ているくらいだ。教会の食堂と聞いても意味が分からないだろう。

接収された教会も、今は神官達の指導更生期間中で、一般的な教会としての活動はしているが、大規模な改装などはまだ手付かずだ。よって、孤児院と療薬院としての活動はできていても、食事処にまで手は回っていない。

「鑑定も終わったみたいですし、行きましょう」
「コウヤが言うなら……」

コウヤへの信頼度が教会の悪名よりも勝ったようだ。

そうして案内した食堂で、彼らは度肝を抜かれた。

「……なんだよここ……」

先ず広さにビックリしたらしい。

「めちゃくちゃ安いけど……」

値段を知って、量が少なかったりするんだろうかと不安そうにする。

「ッ、早い上に美味い!」
「こんなのはじめてなんだけど!」
「出来立て? なのか? こんな早く!?」

この時間でも、それなりに人が入っており、食堂は賑やかだ。今も数分に何人か入ってきている。そんな中で、席に着いてすぐに温かい食事が用意されるのだ。普通は注文があってから十分ほどは待つ。その常識から考えてもあり得ないだろう。

「魔導具を使ってますから、ある程度作り置きをしていても、出来立てのままなんです」

コウヤが関わっている以上、時間経過停止の保存箱だって用意されていて当然だ。

「ちょっ、魔導具使っててあの値段!? 他にどこからお金持ってきてるのよ!」

戸惑うのもわかる。神教会のこともあり、教会の維持には莫大なお金がかかると思い込んでいるのだから。

「この食事に関しては、大半が自家製です。裏の畑で採れた野菜を使ってます。育ててるのは孤児院の子どもや、職を求めて来た人たちです」

ハウス栽培もしていたりと、他とは育つ環境も種類も豊富だ。

「もちろん、それだけでは賄いきれないので、買い付けもしますが、出荷出来ない出来の悪い作物に重点を置いてます」

やはり王都は、形の良いものを選ぶらしく、不出来と判断されたものが多かった。だが、だからといって地方へ出荷ということも、この世界では難しい。そこで、少し割安に、直接農家と契約を結んだというわけだ。

「お肉類は冒険者の方が寄付だと言って置いていったり、訓練を兼ねて神官さん達が狩りで取ってきたものになります」
「狩り……神官さんが……狩り……」

『神官』と『狩り』は絶対に繋がらないと、首を振っていた。

「けど、そうなると、この教会って神官さんたちが生活するのにそんなお金がかからないんじゃないか? この食堂? でも、これだけ人が入ってれば、利益はそれなりに出てるよな?」

ならばそんなにお金が取られないのも納得だと、食事をしながらも小さく頷き合う。

それを見て、コウヤは少しはこの教会への警戒は解けたかなと感じた。情報を全て出してもらうためにも、ここはしっかりと聖魔教が神教会と違うということを説明しておこうと考えた。

「教会は本来、国からの支援金だけでも問題ないはずなんです。もちろん、支援金も常識的な範囲ですよ? 孤児院として子どもに最低限の暮らしをさせてあげられるだけの金額と、町の病人や怪我人の治療を頼むという意味での献金ですね」

孤児の保護は、教会の当然の役割。そして、教会の大きな役割が住民の治療だ。疫病や大怪我で職を手放さなくても良いようにしてくれという依頼の元に教会は置かれているのだから。

「その献金がめちゃくちゃかかってそうだが……」
「神教会はそうですね……いえ、基本の献金は国も納得できるものだったんですけど、便宜を図ってもらいたい貴族や商人たちからの献金が多かったみたいです。それで感覚が麻痺してしまって、あのようなお金で判断する状態になったんです」

神教会だって、最初からそうだったわけではない。長い時間をかけて今の金の亡者としか思えない活動の仕方になったのだ。

「神教会は、神官達を希少な能力を持つ者としていました。なので、そもそもの治療費が高く設定されているんです」

技術職などは、高いものも多い。だから、治癒魔法も高くても不思議ではないだろうという考えから、暴利を貪るようになったのだ。

「分からんでもないけど……それで体が治っても、生活できなかったら意味ないよな……」

そう。納得されてしまうのだ。治癒魔法は高く付いても当然だと。

これに苦笑していると、ジザルスがやって来た。

「神教会の……神教国の考え方は、神の御意志を無視したものです。それとは違い、我々聖魔教では神から与えられた能力として、その恩恵を広く人々に分け与えるべきものと考えています。ですので、治療費は食事と同じように手軽に、健康を保つための手段としての値段をつけさせていただいています」

薬師の協力もあり、治癒魔法一つで時間をかけるのではなく、それぞれの良いところを使って確実に、的確に治療する。

それこそが、エリスリリアとコウルリーヤの願った関係だった。

ミュザ達がジザルスを見て戸惑い、聞いた話を頭で整理している間、コウヤが声をかける。

「ジザさん。こんにちは。マウラさんから聞いているかもしれませんが、食事が終わったら、彼らの相談に乗ってもらえますか?」
「はい。案内を付けさせます。それで、一つコウヤ様のお耳に入れたいことが……」

そうして耳打ちされたのは、神教国の聖女が一人、保護を求めてやって来たというものだった。

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三日空きます。
よろしくお願いします◎
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