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第八章 学校と研修
304 目指せ! 貢がれる女!
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リスティアンは、今年十ニ才になる最年少の聖女だ。
神教国が任命する五人の聖女には序列があり、それは教皇が決める。教養は貴族の令嬢に匹敵する程度が基準。だから、単純に年功序列か魔力量で決まると思っていたのだが、実際は後見する司教達の数だと、聖女になって一年後に第四位の聖女に教えられた。
「所詮は孤児上がり。わたくしより上にとお考えなら、娼婦のように媚を売るしかないかもしれませんわね」
ようやく聖女として自信が付いてきた時に教えられたのだ。明らかな嫌味と一緒だった。
他の聖女達も、リスティアンを目障りに思っているのは感じていた。リスティアンは見た目で選ばれた聖女だと言われる。それは自覚していたし、聖女とは美しく教養高い女性が成るものなのだと教えられて育ったのだから否定していない。
「ふんっ。今にあいつら、嫌味なおばさん顔になるわっ。ざまあっ」
どれだけ嫌味を言われても、リスティアンはめげなかった。
リスティアンは孤児で、暮らしていた孤児院は女児院と呼ばれていた。その名の通り、女児しか居ないのだ。それも、将来的に美しくなるだろうと判断された女児達が集められてくる。
日々はひたすら自分を磨くことで過ぎていく。これにより、上位の神官や司祭、司教の付き人にとなることが約束されていた。そして、その中でも特に優秀で美しい者としてリスティアンが聖女に選ばれたのだ。
「ふっふっふっ。浮浪児上がりを舐めんじゃないわよっ。環境適応能力カンストしてんだからねっ」
努力すれば求める立場へ昇り詰めることが可能だと知ったリスティアンは、その後も決して努力を怠らなかった。常に望まれる姿や行いをする。そうすることで、聖女の地位を揺るぎないものにしなくてはならなかった。考え方はまさに貴族の令嬢と同じだ。
リスティアンは表向き上には扱いやすい聖女と思われるように、少し世間に疎い様子を見せてきた。だが、見せているだけで、下手をすれば司教達よりも情報は持っていた。だからこそ、リスティアンは最年少で聖女にまでなったのだ。
「おじさん達を転がすぐらいわけないわよっ。目指せ! 貢がれる女!」
中身はこんなだ。打たれ強く、要領が良かった。とりあえず司教たちを転がしておけば安泰。そう思っていた。
そんな時。聞いたのだ。かつて聖女の中の聖女と言われたファムリアという人が居たことを。
孤児達にも優しく、人々からも愛される聖女。こんな聖女になりたいと思い描いた美しく慈悲深い女性だったのだと。
そんなファムリアは病で亡くなったらしい。それを聞かされた時。感じたのは不信感。恐らく、ファムリアに憧れていた誰もが同じように思っただろう。
後見する司教達ですら信じてはいけないのだと、この時はっきりと認識した。所詮は元孤児。ファムリアでさえ、上に都合が悪ければ消されるのだ。知っても知らない振り。けれど、情報がなければ、どれが知ってはならないものなのか分からない。
「マッズイ……やっぱ上は腐ってるわあ。何とかして防御力の高い盾とネズミさんを手に入れないとね~」
だからリスティアンは、自分に逆らえない人を探した。いくら権力があるといっても、司教や司祭ではいけない。権力とリスティアンが天秤に掛けられた時。絶対に切り捨てられる。
そうして考えたのは、程よい距離に配置されており、権力よりも神への信仰心が篤い存在。それが聖騎士のブランナだった。
女児院と同じように、孤児の男児だけを集めた男児院。別名を聖騎士院と言う。彼らは聖女と神のために生きるように教育された戦士。
リスティアンに付けられた聖騎士の副官が、まだ若いブランナだった。筆頭ではないのは、いくらそういう教育を受けた所で、後見の司教たちに指示されるような者は信用できなかったからだ。
「ねえ、ブランナ。あれから神官殺しについての情報は入って来ているかしら?」
ブランナは人当たりが良く。噂話も自然と耳に入るような、誰にも憎まれにくい性格の持ち主だった。だから、教会内の情報もそうだが、周辺の国の情勢も拾ってきてくれる。これを知った時。神は自分に味方したと喜んだものだ。
「うっしゃ! 最強の無自覚情報収集人ゲットだよー!! 天は私に味方した!!」
そうして情報を着々と集め、聖女としての地位を盤石なものとする頃。リスティアンはふと幼い頃に一目惚れした神官殺しらしき人物についても調べられるんじゃないかと思い至った。
「私ってば、なんでもっと早く、あの方のことを探そうとしなかったのかしらっ。待っていて、私の王子様!」
聖女として、神官殺しの動向を探ることには不思議がられたりはしないだろう。だから、ブランナにその情報も仕入れたきてもらうことができた。
最新の情報は、トルヴァランの辺境近くに現れたというもの。しかし、それ以降の足取りは掴めていない。
「いいえ。残念ながら……」
「そう……」
「ですが……その……これは行商人に聞いたのですが、ユースールに新しく出来た教会に居る神子様が、似たような容姿をしているようなのです」
「新しい教会……? 神教会ではないの?」
これは知らない情報だった。
「はい。私も今朝方教会の方で確認しました。『聖魔教』というそうです。その司教はかつてファムリア様の聖女教育を任されていた方々だそうで……神教会から追放されていました。今回、抗議のために神官や聖騎士が送られたようですが、逃げ帰ってきたそうです」
「その司教様達が追い返したってことかしら?」
『何それ、笑える』とは口にはしない。そんな素敵な司教にはは是非とも会ってみたいと思った。
「……そのユースールへ向かった聖騎士と話ができました。ユースールへ入る寸前であちらの神官に出迎えられたそうなのですが……彼が言うには、あれは神官殺しに追従していた者ではないかと……」
「聖魔教に神官殺しが居る……っ」
話を聞いた聖騎士数人。彼らは全員、思い出すと恐怖で震えたという。しばらく使い物にならないだろう。
これを聞いた時。リスティアンの心は沸き立った。
「その聖魔教。気になるわっ。直接見たいのだけれど……ダメかしら?」
「リスティアン様……わかりました。ちょうど、次のトルヴァランでの定例会が回って来ます。そこで、ユースールまで行けるようにしましょう」
「ありがとう。ブランナっ。あなたは最高の聖騎士だわ」
これできっと会える。
「待っていてっ、私の王子様!」
そうして、定例会後。王都に進出してきた聖魔教の教会で運命的な出会いを果たしたのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
神教国が任命する五人の聖女には序列があり、それは教皇が決める。教養は貴族の令嬢に匹敵する程度が基準。だから、単純に年功序列か魔力量で決まると思っていたのだが、実際は後見する司教達の数だと、聖女になって一年後に第四位の聖女に教えられた。
「所詮は孤児上がり。わたくしより上にとお考えなら、娼婦のように媚を売るしかないかもしれませんわね」
ようやく聖女として自信が付いてきた時に教えられたのだ。明らかな嫌味と一緒だった。
他の聖女達も、リスティアンを目障りに思っているのは感じていた。リスティアンは見た目で選ばれた聖女だと言われる。それは自覚していたし、聖女とは美しく教養高い女性が成るものなのだと教えられて育ったのだから否定していない。
「ふんっ。今にあいつら、嫌味なおばさん顔になるわっ。ざまあっ」
どれだけ嫌味を言われても、リスティアンはめげなかった。
リスティアンは孤児で、暮らしていた孤児院は女児院と呼ばれていた。その名の通り、女児しか居ないのだ。それも、将来的に美しくなるだろうと判断された女児達が集められてくる。
日々はひたすら自分を磨くことで過ぎていく。これにより、上位の神官や司祭、司教の付き人にとなることが約束されていた。そして、その中でも特に優秀で美しい者としてリスティアンが聖女に選ばれたのだ。
「ふっふっふっ。浮浪児上がりを舐めんじゃないわよっ。環境適応能力カンストしてんだからねっ」
努力すれば求める立場へ昇り詰めることが可能だと知ったリスティアンは、その後も決して努力を怠らなかった。常に望まれる姿や行いをする。そうすることで、聖女の地位を揺るぎないものにしなくてはならなかった。考え方はまさに貴族の令嬢と同じだ。
リスティアンは表向き上には扱いやすい聖女と思われるように、少し世間に疎い様子を見せてきた。だが、見せているだけで、下手をすれば司教達よりも情報は持っていた。だからこそ、リスティアンは最年少で聖女にまでなったのだ。
「おじさん達を転がすぐらいわけないわよっ。目指せ! 貢がれる女!」
中身はこんなだ。打たれ強く、要領が良かった。とりあえず司教たちを転がしておけば安泰。そう思っていた。
そんな時。聞いたのだ。かつて聖女の中の聖女と言われたファムリアという人が居たことを。
孤児達にも優しく、人々からも愛される聖女。こんな聖女になりたいと思い描いた美しく慈悲深い女性だったのだと。
そんなファムリアは病で亡くなったらしい。それを聞かされた時。感じたのは不信感。恐らく、ファムリアに憧れていた誰もが同じように思っただろう。
後見する司教達ですら信じてはいけないのだと、この時はっきりと認識した。所詮は元孤児。ファムリアでさえ、上に都合が悪ければ消されるのだ。知っても知らない振り。けれど、情報がなければ、どれが知ってはならないものなのか分からない。
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だからリスティアンは、自分に逆らえない人を探した。いくら権力があるといっても、司教や司祭ではいけない。権力とリスティアンが天秤に掛けられた時。絶対に切り捨てられる。
そうして考えたのは、程よい距離に配置されており、権力よりも神への信仰心が篤い存在。それが聖騎士のブランナだった。
女児院と同じように、孤児の男児だけを集めた男児院。別名を聖騎士院と言う。彼らは聖女と神のために生きるように教育された戦士。
リスティアンに付けられた聖騎士の副官が、まだ若いブランナだった。筆頭ではないのは、いくらそういう教育を受けた所で、後見の司教たちに指示されるような者は信用できなかったからだ。
「ねえ、ブランナ。あれから神官殺しについての情報は入って来ているかしら?」
ブランナは人当たりが良く。噂話も自然と耳に入るような、誰にも憎まれにくい性格の持ち主だった。だから、教会内の情報もそうだが、周辺の国の情勢も拾ってきてくれる。これを知った時。神は自分に味方したと喜んだものだ。
「うっしゃ! 最強の無自覚情報収集人ゲットだよー!! 天は私に味方した!!」
そうして情報を着々と集め、聖女としての地位を盤石なものとする頃。リスティアンはふと幼い頃に一目惚れした神官殺しらしき人物についても調べられるんじゃないかと思い至った。
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聖女として、神官殺しの動向を探ることには不思議がられたりはしないだろう。だから、ブランナにその情報も仕入れたきてもらうことができた。
最新の情報は、トルヴァランの辺境近くに現れたというもの。しかし、それ以降の足取りは掴めていない。
「いいえ。残念ながら……」
「そう……」
「ですが……その……これは行商人に聞いたのですが、ユースールに新しく出来た教会に居る神子様が、似たような容姿をしているようなのです」
「新しい教会……? 神教会ではないの?」
これは知らない情報だった。
「はい。私も今朝方教会の方で確認しました。『聖魔教』というそうです。その司教はかつてファムリア様の聖女教育を任されていた方々だそうで……神教会から追放されていました。今回、抗議のために神官や聖騎士が送られたようですが、逃げ帰ってきたそうです」
「その司教様達が追い返したってことかしら?」
『何それ、笑える』とは口にはしない。そんな素敵な司教にはは是非とも会ってみたいと思った。
「……そのユースールへ向かった聖騎士と話ができました。ユースールへ入る寸前であちらの神官に出迎えられたそうなのですが……彼が言うには、あれは神官殺しに追従していた者ではないかと……」
「聖魔教に神官殺しが居る……っ」
話を聞いた聖騎士数人。彼らは全員、思い出すと恐怖で震えたという。しばらく使い物にならないだろう。
これを聞いた時。リスティアンの心は沸き立った。
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「ありがとう。ブランナっ。あなたは最高の聖騎士だわ」
これできっと会える。
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