元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

文字の大きさ
上 下
196 / 475
第八章 学校と研修

301 力を貸してください

しおりを挟む
会議から二ヶ月が経って、王都は大きく様変わりしていた。

王都拡張工事が始まったのは、会議から一週間後のこと。神教会からのお金の回収の目処が立ってすぐだ。白夜部隊がバイクで強襲したため、丸っと生捕に出来た。

そのまま矯正更生施設に放り込まれ、順次聖魔教に寝返っている。

一方この時既に、スラムの者たちの大半は聖魔教会で仕事をもらい、一日一食は摂れるようになっていたこともあり、働くことを前向きに受け入れようとしていた。

余裕が出ててきた者は、体力を付けるために軽い訓練を受けたりしており、健康的とまではまだいかないが、それなりに動けるようにはなっていた。

現状に満足していた彼らだが、それではいけない。教会では現金支給をしていないのだ。それは、本当に働いているとは言えない。

コウヤは彼らを前にして勧誘した。

「ここで、あなた方がしているのは、お手伝いです。奉仕です。食事が出来るのは、あくまでもお礼です。だから厳密に言って、あなた方は働いているとは言えません」

彼らは、働いている気でいた。人として正しい暮らしをし始めているのだと思っていた。

一度は弾かれ、ようやく立ち直れたと思っていたのだ。

「現状に満足してはいけません。あなた方は今、生きようとしている。生きるために働こうと思えている。それは良いことです。外で働きませんか? きちんとお金を稼いで、それで暮らしてみませんか?」

働いて、働いて、働いても苦しい暮らし、それがもうどうにもならなくて、抗うことを諦めて、無気力に路地に座り込んだ。時に寒くて、腹が減って惨めで、それらも感じなくなっていた。

けれど、神官達に追い立てられるようにして、また食事が出来るようになった。周りが見えるようになった。また生きようと思えたのだ。

だが、またきっと苦しくなる。そう思うと、教会の外で働くという勇気は出なかった。

そんな彼らに、コウヤは穏やかな笑みを向ける。語りかけるように告げる。

「堅実に働いて、それで生活できないのなら、それはあなた方が悪いわけではありません。国も動きました。これから、この王都は大きく変わります。正しく働いた者にそれに見合ったものが返るように」

それでも、怖いのだろう。挫折する自分が。絶望することが。

「少なくとも、ここで真面目に奉仕するあなた方の様子から見ても、外で働けないということはないはずです。試してみませんか? 皆さん一緒に」

彼らは周りを見た。同じ境遇となった者たち。一人ではないならばと少し心が楽になったようだ。

「あなた方にやっていただくのは、王都の拡張工事です。国が主導する仕事です。悪いようにはしません。力を貸してください」

これに彼らが応と答えたのは、コウヤだからだ。

教会の世話になっていた彼らは、コウヤのことも知っていた。目が合えば声をかけてくれるし、服を繕ってくれたりもした。そんなコウヤが勧めるのだ。やっても良いかなと思い始めていた彼らの心も決まる。

そうして、彼らは彼らと同じ状況の者たちにも声を掛け合い、拡張工事に参加してくれた。二ヶ月もすれば、スラムの住人達だけでなく、スラムの住人一歩手前という者たちにまで声を掛け、多くの者が集まった。

指揮を執るのはドラム組だ。

いくらドラム組でも、拡張工事は大事業だ。少数精鋭とはいえ、手に余ると思い、コウヤは王都にある大工へ声をかけていた。

最初は相手にされなかったのだが、ドラム組のやる作業を見学させた所、コウヤの勧誘から一週間後。大工達の方から手伝わせて欲しいと頭を下げてきた。

棟梁としれっと紛れ込んでいたゼストラークの指揮の下、働き出して数日後。大工達は全てドラム組の傘下に入っていた。

「棟梁! ゼスト様! 本日もよろしくお願いします!!」
「「「お願いします!!」」」

職人達は、腕を認め合うもの。お陰で、ゼストラークは近寄り難い神ではなくなっているらしい。神と分かっているかは半々だが、指導してくれる師匠的なポジションのようだ。

それは、棟梁がゼストラークの相棒のような、そんな関係を見たからかもしれない。ゼストラークもその関係を嬉しそうに受け入れていた。

初めて出来た親友らしい。

当然、棟梁も白目を剥かなくなっていた。

コウヤが現場に行くのは週に一度。国の代表として進捗しんちょく具合を確かめにニールやジルファス、ベルナディオを連れて行く。

終わりが見えて来た今は、次の段階の学園の設計図を手がけているが、この二ヶ月、コウヤは週の半分を王都の冒険者ギルドで過ごしていた。

「コウヤさ~ん。Z依頼の整理終わりました~」
「お、終わりました……」
「ありがとうございます。マイルズさん、ソルマさん」

タリスにせっ突かれ、冒険者ギルドの全てに監査が入った。手始めにこの国から始まったため、王都のギルドは既に済んでいる。

幸い汚職はなかったのだが、教育不足の職員が多いとの判断が下り、ギルドマスターのルナッカーダ以下、全てのギルド職員に指導と減給が言い渡された。

予想通り、ギルドマスターの補佐をしていたソルマは問題だった。本来、ギルドマスターの補佐の役職はサブギルドマスターだ。そう名乗っていなくても、そのポジションにいた。

本来のサブギルドマスターは、あの受付に居てコウヤへ声をかけてきた人だった。あの時は彼もソルマへの対応には消極的になっており、もう好きにしろという状態だったらしい。

ルナッカーダも他の職員とトラブルが起きて冒険者たちに不愉快な思いをさせるくらいならばと、手元に置くしかなかった。とはいえ、元貴族という出自と、知り合いから託されたという事情があったとはいえ、ギルド職員と認めたからには、そう指導しなくてはならなかったと反省している。

その責任は重いとし、ルナッカーダは本来の給料の半分以下にされている。その上に、一年以上放置されていた所謂いわゆる雑用依頼を、三ヶ月で消化するようにとの課題が課せられた。その内の大半は、ルナッカーダ自身で解決しなくてはならないらしい。

既に問題が解決されていたり、問題が更なる問題を引き起こしていないかの調査が出来ていなかったため、そこから始める必要があった。それらをルナッカーダがやれというわけだ。

しかし、罰とはいえ無理をさせるつもりはない。そこで、コウヤが派遣されたのだ。手始めに、王都のギルドを使えるようにしてくれと。わざわざ、現グランドマスター直々にコウヤの元へ来て頭を下げた。

エルフの血を引いた線の細い彼は、儚げに見えた。とっても美人な男性で、けれどタリスに匹敵する実力のある人らしい。武器は双剣。それも魔剣。コウヤは見た時にあっと思った。

伸びたり、縮んだり、炎が出たり氷が出たりするおふざけで作った凶暴な武器。戦闘狂の気がないと扱えない難しいその双剣は、氷に閉ざされた大地にある迷宮に隠したはずだった。

彼が普通に持っているというのを目の当たりにして、コウヤは頷いた『見た目じゃ分からないな~』と。

エルフの、美人で儚げな美中年さんが実は戦闘狂。きっと、その見た目のせいで実態が伝わらないのだろうと予想できてしまった。

この時も、戦闘狂のせの字も見当たらなかった。ひたすら申し訳なさそうにコウヤへ頭を下げていたのだ。


『言う事聞かない人達は気にしなくていいから……ごめんね。子どもの君にこんなこと……本当に、不甲斐ない大人でごめんね……っ。ああ、でも、君がいじめられたらどうしよう……そんな大人が居たら……埋めちゃう? バラバラにして畑の肥料にしようね。だから、嫌な事言われたりしたら言って? ね?』


物騒なことも聞こえたが、気のせいだろう。目の前のその人は、ウルウルと目を潤ませているのだから。

そんな訳で、コウヤは王都の冒険者ギルドの立て直しに駆り出された。これに伴い、面倒なソルマ対策のため、マイルズも引っ張ってきたのだ。コウヤへのグランドマスターの言葉を聞いていたタリスが『さすがに職員がミンチになるのは良くないからね』と言って決定した。

その後に『シーちゃんは言った事は止めない限りやる子だしね~』と言っていたのは、周りも聞かなかったことにした。

そうして、とりあえずソルマは関わらなければ良いと考えて仕事を開始したコウヤ。だが、一日経って、マイルズが言い含めたのか、すっかり大人しくなって仕事をもらいに来たため、そのままマイルズと一緒に仕事を割り振ったのだ。

話などはするタイミングがなかったため、二ヶ月ほど経った今でも、彼の考えは分からない。恐らくソルマも、謝るタイミングを失っているのだろう。とはいえ、コウヤからそのタイミングを作ってやる気はなかった。

「時間も良いので、二人とも先に休憩に入ってください」
「コウヤさんは?」
「買い取り窓口を確認してから休憩に入りますよ」
「分かりました。ではお先に休憩いただきます」
「休憩いただきます……」

二人を見送り、買い取りの窓口へ向かう。そこで、懐かしい顔ぶれに出会った。

「えっ、あ、やっぱりコウヤ!」
「ああ。お久しぶりです」

それは、コウヤがユースールの冒険者ギルドで働き出した頃、問題のあったギルドの上層部と喧嘩して出て行った冒険者達だった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 2,775

あなたにおすすめの小説

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。