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第八章 学校と研修

300 私の構想をお伝えしますね

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コウヤが王都拡大の提案をしてから二日後。

当たり前のように今回の重役会議に参加させられていた。

この日は沢山話し合うことがあるから、丸一日空けておいてねと伝えてあった。

しかし大臣達はそんなことよりも、この場に未だ王子としてのお披露目をしていないコウヤが居ることに戸惑う。彼らはコウヤの存在を知っていても、付き合いはなく、戸惑うのも仕方がないだろう。他の王族の出席はアビリス王と次期王と発表されているジルファスのみなのだから。

「先ず、刑部の方から報告を」
「はい」

ベルナディオに指名され、刑部の長は疲れた顔をしながらも報告を始めた。

「先日、第三騎士団からの密告があり、多くの者が収賄の罪に問われることとなりました。ただ、爵位の返上等といった重いものではないと判断し、賠償金を請求しております。詳しい状況などは、財務局の方からお願いします……」
「うっ……」

同じく、疲れた様子の財務の長が、思わず呻く。丸投げしやがったなと恨めしげに刑部の長を睨み付けた後、ベルナディオへ頷きかけて引き継ぐ。

「刑部からの要請により、調べました所、王都にある主立った商家が、市井の経済を圧迫していることが分かりました」

そんなことがあるのかと、他の大臣や部署の代表達がざわつく。

「十年ほど前から、仕事量に対して賃金が低いという不満の声が市井では上がっておりました。これには、関与していた商業ギルドが聞く耳を持たず、王都だからと答えにもならない答えを返していたそうです。実際、他の領に比べて支払われる賃金は半分以下にまで下がっておりました」

半分以下と聞いてそれはないだろうと、またざわついた。この世界では、賃金の基準がはっきりと決められていない。それは、整えなくてはならないなとコウヤはチェックを入れている。

「っ、それはおかしいのではありませんか? さすがに、商業ギルドでも誤魔化せないでしょう」

税を納める関係上、収支の報告書は必ず上げることになっている。賃金が半分以下となれば、あまりにおかしい数字が出てくるはずだ。それを、商業ギルドの本部が見逃すわけがない。

それだけ商業ギルドは信頼されている。逆に、信頼されているからこそ、税の徴収も任されているのだ。

これは国との契約である。同じように、冒険者ギルドも置かれている場所の領地に税を納めている。当然の関係だ。

日々の状況により冒険者の出入りが激しく、安定的な税を上げられない冒険者ギルドに対して、商業ギルドは信頼度が高い。何よりも信頼が重要なのだから、誤魔化すなんてことはあり得ないと信じていた。

「賃金は正しく支払われたことになっておりました。しかし、聞き取り調査の結果、正しく労働者に対して渡らなかった金銭があることは明白となり、その行方を探しました結果、その半分以上は神教国の教会と一部の貴族へ流れていることがわかりました」

ここで、神教国の教会が出てきたことに、多くの者が目を細めた。

「またあの教会ですか」
「もう良いのではありませんか? これほどまでに不義理を通されては、教会の意義もありますまい」
「国内から撤退させるべきです」
「恩恵を与えず、金銭を奪っていくだけの教会など、教会とは言えません」

それぞれの領地での神教会への見方は変わっていた。王都の神教会で起きていたことが、自分たちの領地でもあるのではないかと、懐疑の目を向けるようになっていたのだ。

まだ本格的な調べには入っていないが、怪しいと睨んでいた。そこにきて、これである。領地に戻ったらすぐにでも調べをと決意した。

これに、アビリス王も重く頷く。

「この後、全ての領主に通達を出す。これ以上、神教会に食い潰される民があってはならない。よって、神教会を我が国から追放する。これに代わり、聖魔教の大司教から、代理で神官達を送るとの回答も得ているので、安心して欲しい」
「「「おおっ」」」

あの教会ならば安心だと、この場の誰もが安堵した。彼らは領地よりも王都にいることの方が多い。これにより、話題にも登る聖魔教会へも足を運んでいた。

「教会の方は問題ないようですね。神教国への抗議につきましては、外務局にお任せいたします。聖魔教会の大司教達も協力すると仰っていただいておりますので、難しいことはないかと」

ベニ達がとっても乗り気なのだ。賠償金もしっかりもらって来るだろう。怖いものなどない。

「商業ギルドについては、総本部の方へ既に抗議を入れておりますので、そちらは、財務局と法務局で話し合いを」
「承知しました」
「お任せを」

こちらもやる気満々だ。

「では、次にこちらをご覧ください」

補佐官達が王都の地図を広げて見せる。

「現在の王都は、今回発覚した経済状況もあり、多くの民達が貧困に喘いでおります。確認していただきたいのは、この赤い部分です」

王都に満遍なく点々とある赤い丸。それをベルナディオは指さした。

「これは、十年前の貧困層……スラムの場所です。ご覧になって分かるように、小さいですがいくつも点在しております。そして、現在の場所です」

もう一枚出された地図を見て、多くの者が理解した。赤い丸が大きく拡がっているのだ。場所も更に多くなっている。

「この問題の大きさがご理解いただけるでしょうか。たった十年で約三倍に増えているというのが分かりました」
「三倍!?」
「これは……集めたらかなりのものですな……」
「バラけているので、意識しておりませんでしたが……これは……」

愕然とする者が多かった。王都は職に困らないというのが一般的な認識だ。しかし、実際は確かに職は溢れていたが、見合った報酬が出ないことで、多くの離職者も出ていた。そして、体を壊しても教会に頼れず、結果無職で彷徨うことになる。

「賃金の問題については、今回解決するでしょう。ですが、このスラムの住民達が仮に働けるようになったとしても、住む場所は限られています。そこで、コウヤ様から提案がありました」

ここでようやくコウヤの出番だ。コウヤは元気に立ち上がる。そして、魔法で王都の地図を空中へ映し出す。それは、3Dの王都の立体映像だった。

目を丸くする一同は気にせず、コウヤは話し始める。

「現状、王都に住む人数に対して、土地が圧倒的に足りません。なので、先ず手始めにこの西側部分を拡げようと思います」

王都はいびつな形をしていた。丸から四角になろうとするようなそれは、少しずつ外へ外へと拡げてきた結果だ。

この世界では、外に魔獣や魔物が存在している。五メートルほどの高さと、魔獣達が来ても崩れない頑丈な厚さの外壁に囲まれることによって、平穏な暮らしを可能としている。

周りは森などを切り拓いたことで、王都の傍では魔獣達はほとんど現れない。とはいえ、外壁の外での作業はとても危険だ。だから、軽く拡げましょうと言われても、どうぞとは言えない。

「そ、その……拡げると言われましても、予算や人員確保など考えなくてはなりませんし……」

そこも簡単にはいかないよと、大臣達は子ども相手にどう言い聞かせようかと頭を働かせる。そんな反応などコウヤは予想していた。

「そこは承知しております。なので、使えるお金は全部回収して使いましょう。先行投資は必要です。王都が安定すれば、他の領にも良い影響が出てきますからね」
「……?」

意味が分からないと大臣達の顔には書いてあった。なので、コウヤは目を瞬かせて情報を整理する。

「問題は予算ですよね? なので先ず、本来得るべきだったものを回収しましょう。大丈夫です。回収できる場所は沢山ありますよ♪」
「沢山……一体、それは……」

どこだと首を捻る大臣達に、コウヤは無邪気な笑顔を向けた。

「先ずは神教会です! いっぱい貯えてますよ♪ 追い出すなら、もらってもいいですよね? だって、本来の働きをしていないどころか、内緒のお金もあるんですよ? 全部貰っちゃいましょう♪」
「「「……」」」

ベルナディオやアビリス王も含めて、コウヤと控えているニール以外が唖然とする。そんなニールにコウヤが声をかけた。

「ニールさん。お願いします」
「はい。コウヤ様の指示で独自に調査した結果、神教会が貯め込んだ金銭はかなりのものだと分かりました。それを含め、同時に用意しましたこちらが、拡張工事における資材、人件費等の試算です」

事細かく出された試算表。思わず感嘆の声を上げる中、雇うべき人数を見て目を丸くした。

「この金額を賄えるだけの金銭がある……というのは分かりました。ですが……人数が……」
「はい。この人数は、最大数です。現在、スラムに居る働ける大人の数を仮に入れてみました」
「……」
「拡張工事には、彼らを中心に雇います」
「……」
「そして、拡張した部分には、彼らの住む場所を作ります」
「……スラムの者たちに、自分たちの住む場所を作らせるということですか……それなら……」

失敗したとしても良いかなと、そんな考えが大臣達の頭を巡った。それもコウヤは予想している。だから、そう思うのは構わない。

「私の構想をお伝えしますね。先ず一つ。彼らに新しい場所と仕事を用意します。二つ。これにより空いたスラムのあった場所を均します。三つ。その場所に新たな宿屋や宿舎を建てます。四つ。現状、維持が難しい建物の建て直しや改修を促します。五つ。これに伴い、生活が困難になった一人暮らしのご老人や病人を保護し、彼らを宿舎や教会に集めます」

これらの説明は、3D映像を回転、変化させて続けた。

「六つ。最終的に空いた土地を整備し、徐々に狭くなった路地などを広げて、犯罪の潜みやすい場所を無くしていきます」
「……」

大臣達は絶句していた。かつて、このような大掛かりな計画を立てた者などいない。だが、コウヤの口にした計画を頭で整理すると、それほど不可能で、困難なものであるとは思えなかった。

「あ、あと。地下を使おうと思います。地下街。作ってみませんか? そうすると、もっと土地に余裕ができますし。それと、広くなるし移動のために地下道があったら良いなって」
「「「……っ」」」

出来れば地下鉄とも考えたのだが、あれは整備するのが難しいかなと思っている。追々考えようと後回しにする。

金銭的なものの不安はない。神教会からもらった後は、商家や商業ギルドから徴収できる。貴族達にも賠償金が発生しているし、しっかりお金は回収して回す気満々だ。

そんな夢想を繰り広げている間。大臣達は情報量が多すぎて、大混乱中だった。

ニールがここで進行役のベルナディオへ耳打ちする。

「休憩されますか」
「……そうしましょう……」

落ち着くまで休憩となり、それはついでに昼食が終わるまで続いた。

午後は学園の話が上がる。これにまた思考が停止し、会議は予定通り丸一日続けられたのだ。

そして、翌日。

聖魔教の神官達を主導にして、各領地の神教会の摘発が始まる。

これをきっかけに王都の改革が始まった。

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読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
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