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第七章 ギルドと集団暴走
251 精霊は自由なんでしゅ
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ダンゴはずっと『咆哮の迷宮』での一件を気にしていた。
「……ダンゴちゃん? ちょっと圧を弱めないと、あの子喋れないよ?」
《あ、そうでしゅね……悪かったでしゅ……》
無意識に威圧していたダンゴ。神の眷属であるダンゴの威圧は、かなりのものだ。だいたい、レベル差もあり過ぎる。
「っ、は、はあ、はあ……っ」
「お、俺でもキツかった……ソルマ、大丈夫か?」
「は、はっ……」
ソルマが膝をつくのを見て、ルナッカーダが震えそうになる足に力を入れて立ち上がる。ソルマは戦闘などしたことがなさそうだ。かなりの衝撃だったのだろう。
そんな二人など全く気にせず、タリスはダンゴを持っている手を少し上げて目線を近付ける。
「どうしたの? あ、使役ってのが問題? ダンゴちゃんみたいな精霊と従魔契約できる人なんて、普通居ないよね?」
《……そうでしゅ。精霊は本来、大地と契約するもの。人とは契約できないんでしゅよ……主さまは特別でしゅ。だから、従魔契約であっても物凄く条件が難しいんでしゅ……》
まだコウヤが魔工神であった頃には精霊と契約できる者も何人か居た。けれど、今はまずないだろうとダンゴは確信しているのだ。
《条件の一つがエリスリリアさまの加護による最高位スキルの『治癒師』を持っていることなんでしゅよ》
「それ、神子でも無理なんじゃない?」
《そうでしゅ。『治癒魔法士』スキルを【神】まで上げないといけないでしゅから》
「それスキル熟練度? 因みに【越】よりもいくつ上なの?」
《そこからでしゅか? 【越】【臨】【神】 なので、三つでしゅね》
魔工神コウルリーヤが討たれてから、三神は加護をほとんど与えなくなった。与えたとしてもかなり弱めている。エリスリリアだけは、最低限人々が生きていくためにと与えていたが、それでも本当に最低限だ。これにより、熟練度が低下した。
『治癒師』とは『治癒魔法士』を最高位まで上げることで変化するもの。そこまで出来る者は、現代ではまずない。加護なしでは、途方もない時間と努力が必要となるのだから。
「ムリだね」
《でしゅよね? マスターさんでも【越】以上は難しいみたいでしゅし……その上にもう一つ、条件で絶対に無理な物があるんでしゅ》
「これ以上?」
今にも、うわあと言いそうなタリス。その表情を見ながらダンゴはそれを口にした。
《『魔工師』スキルがいるんでしゅ》
「それムリだ」
判断は早かった。『魔工師』スキルは、先ほどの『治癒師』と同じ。『魔工学士』のスキルを上げ切ることで『魔工師』となる。
ただし違うのは、魔工神コウルリーヤの加護がなくとも魔工学を学ぶことで得られるスキルだ。もちろん、魔工神コウルリーヤの加護があれば熟練度は格段に上がり易くなる。
常に発動させ続けることのできないスキルのため、どれほど長く生きる種族で勤勉でも、加護がなければ【越】に至るのでさえ百年はかかるといわれている。仮に加護があれば、十年ほどしかかからない。それほどまでに加護があるかないかだけで違うのだ。
「コウルリーヤ神が復活したとはいっても、まだ加護はほとんど与えてないでしょ?」
《そうなんでしゅ。『魔工神の加護』はもうこの世界には実質存在しないでしゅから……》
ここまで、ソルマとルナッカーダが聞いていないのをいいことに話を続けてきた。だが、そろそろ二人も落ち着いてきたように思い、タリスはチラリと視線を送っていた。
「だから使役? ってなるの? 確か魔導具であるとか聞いたことあるけど」
《『使役の楔くさび』でしゅね》
この魔導具は人の手によって開発された魔導具のため、迷宮から出るものではない。形状は時代によっても変化があり、首輪や腕輪など様々だ。
魔獣や魔物につければ、使役される方の意思を無視して力を使わせることができる。とはいえ、絶対的なものではない。
対となるものを着けている者とのレベル差によっては術式をはね返すし、何かの拍子に壊れればそれまでだ。逆に、知能の高い魔獣や魔物が契約は出来ないし、いつでも壊せるが甘んじてという感じで受け入れる場合もある。
だが、一番多いのは弱らせて反撃が出来なくなったところで装着するというものだ。もちろん、レベル差が大きければ、回復した後にこれを壊していくだろうが、それがないように薬で思考力を奪うらしい。
「コウヤちゃんとか、ああいうの嫌いなんじゃないの?」
この質問は、コウルリーヤとしてのコウヤについてだと、ダンゴは察する。
《導具は使いようでしゅからね。全部否定することはないんでしゅ。昔は従魔術師が従魔を子どもに引き継ぐ時なんかにも使われてたんでしゅよ》
親や師の従魔だ。レベルも高くなっていたりする。何より、主人が亡くなり、契約が切れたから野へ放つのでは、どこで討伐されるかも心配だし、それが魔獣の意思だとしても、知らない誰かとまた契約をされるのは気に入らないと考えるのが子や弟子だ。
《魔獣は魔獣でしゅからね……誰かの従魔であることか、使役されたものとしてしか町では暮らせないでしゅ。だから、繋ぎとして使ってたんでしゅよ。寧ろ、そのために出来たものでしゅから》
引き継ぐことを認めてもらうまでの間、不本意だろうが行動を制限していたのだ。
コウルリーヤやゼストラークは、どんな導具であろうと、使い方によって良いものにも悪いものにもなるのだと知っている。だから、神の方で規制したりはしない。人々が気付き、世界のために正しいと思う選択をしていくことが大事だと願っているから。
「なるほどね~。でも、ダンゴちゃんは気に入らないんだ?」
ここで話が戻ってきた。というか、タリスは無理に戻した。この場でこれ以上神の話に踏み込むのは良くないと判断したのだろう。
《精霊は自由なんでしゅ。何より、精霊の領域に人が関わっていいものではないんでしゅよ。精霊の役目は大地の魔核の調整……》
大地の魔核とは、迷宮の元となるコアのことだ。
《ただ側にあるなら許すでしゅ。けど、精霊の決まりを破らせたなら……使役者を許すことはできないでしゅ》
「どうなるの?」
《氾濫でしゅよ。確実だと精霊たちに伝わったら、きちんと人の手の入っていない迷宮は、ただでさえ精霊が短気になってるでしゅ。氾濫はコアの暴走でしゅ。普段は力の放出を精霊達で調整しているんでしゅが……そもそも、力の放出を止めることはできないんでしゅ》
ただそれを緩やかにするのが精一杯。完全に止めることはできない。そんな調整している精霊たちが怒ればどうなるか。一気に力を放出させることになる。
《酷い所は一気に二階級上げるでしゅ》
氾濫が起きると、迷宮の難易度が一つ上がる。階層が増えたり、通路も変わる。リフォームする感じだ。
こうなると、前の地図や資料は役に立たなくなる。
「それって、Bランクの迷宮がSになる感じ? Aランクってどうなるの? SSとか?」
タリスは表情を変えていないが、かなり内心は焦っていた。話は、めちゃくちゃになっている。因みに、迷宮のランクはパーティで挑むための指標だ。とはいえ未攻略の迷宮は程度が分からないため、辿り着けた最深部である程度予想して測る。
《何言ってるでしゅか。Sランクより上はないでしゅよ。精霊の怒りが治るまで氾濫を続けるんでしゅ。最後はコアの力を使い切って消えるだけでしゅよ》
「……歴史に見る『大氾濫』ってそうゆうことなの……?」
いくつもの町や国が滅んだといわれる『大氾濫』は何度かあった。それはただ理不尽な『迷宮の暴走』といわれてきたが、原因があると聞いてタリスはさすがに動揺を隠せなくなった。
《そうゆうことでしゅよ? だから、主さまもギルド職員としてきちんと迷宮の管理してるんでしゅ。あの辺のは若い迷宮でしゅけど、人があまり居なかった時期があって、ランクが高かったりするんでしゅよね》
辺境にある迷宮だ。人も寄り付かなかった。その間に出来ていた『咆哮の迷宮』は辛うじてAランクで止まっている。
「うん……ギルドの方でも漠然と迷宮の定期調査はするべきだって言われてきたけど……すごく重要だったんだね……」
《氾濫の兆候が分かれば、外に出ない内に対処できるでしゅから》
一般的な氾濫は、精霊たちの憂さ晴らしのためだ。人の手が入らないと、精霊たちだって迷宮を維持し甲斐がない。何より、生み出した魔獣や魔物は、倒してもらわないと増える一方だ。
コアの力を一気に暴走させないため、ただの氾濫でも加減はしてくれているのだ。
「なるほどね……ところでルナちゃん。この辺の迷宮はきちんと調査できてる?」
「あ、いや、そのっ……」
先ほどからルナッカーダは青くなっていた。支えようとしていたソルマにも構っていられないくらい、ルナッカーダの方がふらついている。
きちんと調査はしていなかったらしい。だが、それがある意味普通だ。きっちりやっているギルドは少ない。
「そっちの子に聞くけど、その使役者、迷宮に入ったりしてないよね?」
「っ、そ、それは……っ」
こっちも確定だ。
まずい気がすると、タリスも冷や汗を流す。背中が冷たい気がするのは気のせいではない。
「そいつ、どこに行ったの? で、どんなやつ?」
「っ、い、五日前にっ、『大蛇の迷宮』の地図を……っ、南の大陸の……王族の一人だと父に紹介されて……っ」
《南……ちょっとビジェさんを呼ぶでしゅ!》
「あ~、なるほど。彼の探し人かも?」
ダンゴが転移していく。
「……」
「まずいね~……『大蛇の迷宮』って、辺境の隣の元伯爵領に近いやつでしょ? やだなあ、あそこ、まだ落ち着いてないのに」
この王都から馬車で三日、馬で二日だろうか。辺境の方が近い。
何かと最近ちょっかいをかけて来ていたベルゼンのある領だ。新しく仮の領主が立ってまだ混乱している。
「わざわざこっちで地図を手に入れるとか、怪しいって思いなよ~。氾濫は覚悟しとかないとダメかなあ。こっちに影響あるかもだし……あそこの冒険者ギルド、微妙に融通効かないのが多いんだよね~」
タリスは面倒くさそうに背を倒し、少々上を見る形で思考する。
「ん~、とりあえず調査させるかな。コウヤちゃんやボクが行けば確実だけど、さすかにね……うん。通信の魔導具借りるよ~」
「は、はい!」
そうして、タリスは迷宮近くの支部に警告した。だが、既に迷宮は危ない所まできていたのだ。
************
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
「……ダンゴちゃん? ちょっと圧を弱めないと、あの子喋れないよ?」
《あ、そうでしゅね……悪かったでしゅ……》
無意識に威圧していたダンゴ。神の眷属であるダンゴの威圧は、かなりのものだ。だいたい、レベル差もあり過ぎる。
「っ、は、はあ、はあ……っ」
「お、俺でもキツかった……ソルマ、大丈夫か?」
「は、はっ……」
ソルマが膝をつくのを見て、ルナッカーダが震えそうになる足に力を入れて立ち上がる。ソルマは戦闘などしたことがなさそうだ。かなりの衝撃だったのだろう。
そんな二人など全く気にせず、タリスはダンゴを持っている手を少し上げて目線を近付ける。
「どうしたの? あ、使役ってのが問題? ダンゴちゃんみたいな精霊と従魔契約できる人なんて、普通居ないよね?」
《……そうでしゅ。精霊は本来、大地と契約するもの。人とは契約できないんでしゅよ……主さまは特別でしゅ。だから、従魔契約であっても物凄く条件が難しいんでしゅ……》
まだコウヤが魔工神であった頃には精霊と契約できる者も何人か居た。けれど、今はまずないだろうとダンゴは確信しているのだ。
《条件の一つがエリスリリアさまの加護による最高位スキルの『治癒師』を持っていることなんでしゅよ》
「それ、神子でも無理なんじゃない?」
《そうでしゅ。『治癒魔法士』スキルを【神】まで上げないといけないでしゅから》
「それスキル熟練度? 因みに【越】よりもいくつ上なの?」
《そこからでしゅか? 【越】【臨】【神】 なので、三つでしゅね》
魔工神コウルリーヤが討たれてから、三神は加護をほとんど与えなくなった。与えたとしてもかなり弱めている。エリスリリアだけは、最低限人々が生きていくためにと与えていたが、それでも本当に最低限だ。これにより、熟練度が低下した。
『治癒師』とは『治癒魔法士』を最高位まで上げることで変化するもの。そこまで出来る者は、現代ではまずない。加護なしでは、途方もない時間と努力が必要となるのだから。
「ムリだね」
《でしゅよね? マスターさんでも【越】以上は難しいみたいでしゅし……その上にもう一つ、条件で絶対に無理な物があるんでしゅ》
「これ以上?」
今にも、うわあと言いそうなタリス。その表情を見ながらダンゴはそれを口にした。
《『魔工師』スキルがいるんでしゅ》
「それムリだ」
判断は早かった。『魔工師』スキルは、先ほどの『治癒師』と同じ。『魔工学士』のスキルを上げ切ることで『魔工師』となる。
ただし違うのは、魔工神コウルリーヤの加護がなくとも魔工学を学ぶことで得られるスキルだ。もちろん、魔工神コウルリーヤの加護があれば熟練度は格段に上がり易くなる。
常に発動させ続けることのできないスキルのため、どれほど長く生きる種族で勤勉でも、加護がなければ【越】に至るのでさえ百年はかかるといわれている。仮に加護があれば、十年ほどしかかからない。それほどまでに加護があるかないかだけで違うのだ。
「コウルリーヤ神が復活したとはいっても、まだ加護はほとんど与えてないでしょ?」
《そうなんでしゅ。『魔工神の加護』はもうこの世界には実質存在しないでしゅから……》
ここまで、ソルマとルナッカーダが聞いていないのをいいことに話を続けてきた。だが、そろそろ二人も落ち着いてきたように思い、タリスはチラリと視線を送っていた。
「だから使役? ってなるの? 確か魔導具であるとか聞いたことあるけど」
《『使役の楔くさび』でしゅね》
この魔導具は人の手によって開発された魔導具のため、迷宮から出るものではない。形状は時代によっても変化があり、首輪や腕輪など様々だ。
魔獣や魔物につければ、使役される方の意思を無視して力を使わせることができる。とはいえ、絶対的なものではない。
対となるものを着けている者とのレベル差によっては術式をはね返すし、何かの拍子に壊れればそれまでだ。逆に、知能の高い魔獣や魔物が契約は出来ないし、いつでも壊せるが甘んじてという感じで受け入れる場合もある。
だが、一番多いのは弱らせて反撃が出来なくなったところで装着するというものだ。もちろん、レベル差が大きければ、回復した後にこれを壊していくだろうが、それがないように薬で思考力を奪うらしい。
「コウヤちゃんとか、ああいうの嫌いなんじゃないの?」
この質問は、コウルリーヤとしてのコウヤについてだと、ダンゴは察する。
《導具は使いようでしゅからね。全部否定することはないんでしゅ。昔は従魔術師が従魔を子どもに引き継ぐ時なんかにも使われてたんでしゅよ》
親や師の従魔だ。レベルも高くなっていたりする。何より、主人が亡くなり、契約が切れたから野へ放つのでは、どこで討伐されるかも心配だし、それが魔獣の意思だとしても、知らない誰かとまた契約をされるのは気に入らないと考えるのが子や弟子だ。
《魔獣は魔獣でしゅからね……誰かの従魔であることか、使役されたものとしてしか町では暮らせないでしゅ。だから、繋ぎとして使ってたんでしゅよ。寧ろ、そのために出来たものでしゅから》
引き継ぐことを認めてもらうまでの間、不本意だろうが行動を制限していたのだ。
コウルリーヤやゼストラークは、どんな導具であろうと、使い方によって良いものにも悪いものにもなるのだと知っている。だから、神の方で規制したりはしない。人々が気付き、世界のために正しいと思う選択をしていくことが大事だと願っているから。
「なるほどね~。でも、ダンゴちゃんは気に入らないんだ?」
ここで話が戻ってきた。というか、タリスは無理に戻した。この場でこれ以上神の話に踏み込むのは良くないと判断したのだろう。
《精霊は自由なんでしゅ。何より、精霊の領域に人が関わっていいものではないんでしゅよ。精霊の役目は大地の魔核の調整……》
大地の魔核とは、迷宮の元となるコアのことだ。
《ただ側にあるなら許すでしゅ。けど、精霊の決まりを破らせたなら……使役者を許すことはできないでしゅ》
「どうなるの?」
《氾濫でしゅよ。確実だと精霊たちに伝わったら、きちんと人の手の入っていない迷宮は、ただでさえ精霊が短気になってるでしゅ。氾濫はコアの暴走でしゅ。普段は力の放出を精霊達で調整しているんでしゅが……そもそも、力の放出を止めることはできないんでしゅ》
ただそれを緩やかにするのが精一杯。完全に止めることはできない。そんな調整している精霊たちが怒ればどうなるか。一気に力を放出させることになる。
《酷い所は一気に二階級上げるでしゅ》
氾濫が起きると、迷宮の難易度が一つ上がる。階層が増えたり、通路も変わる。リフォームする感じだ。
こうなると、前の地図や資料は役に立たなくなる。
「それって、Bランクの迷宮がSになる感じ? Aランクってどうなるの? SSとか?」
タリスは表情を変えていないが、かなり内心は焦っていた。話は、めちゃくちゃになっている。因みに、迷宮のランクはパーティで挑むための指標だ。とはいえ未攻略の迷宮は程度が分からないため、辿り着けた最深部である程度予想して測る。
《何言ってるでしゅか。Sランクより上はないでしゅよ。精霊の怒りが治るまで氾濫を続けるんでしゅ。最後はコアの力を使い切って消えるだけでしゅよ》
「……歴史に見る『大氾濫』ってそうゆうことなの……?」
いくつもの町や国が滅んだといわれる『大氾濫』は何度かあった。それはただ理不尽な『迷宮の暴走』といわれてきたが、原因があると聞いてタリスはさすがに動揺を隠せなくなった。
《そうゆうことでしゅよ? だから、主さまもギルド職員としてきちんと迷宮の管理してるんでしゅ。あの辺のは若い迷宮でしゅけど、人があまり居なかった時期があって、ランクが高かったりするんでしゅよね》
辺境にある迷宮だ。人も寄り付かなかった。その間に出来ていた『咆哮の迷宮』は辛うじてAランクで止まっている。
「うん……ギルドの方でも漠然と迷宮の定期調査はするべきだって言われてきたけど……すごく重要だったんだね……」
《氾濫の兆候が分かれば、外に出ない内に対処できるでしゅから》
一般的な氾濫は、精霊たちの憂さ晴らしのためだ。人の手が入らないと、精霊たちだって迷宮を維持し甲斐がない。何より、生み出した魔獣や魔物は、倒してもらわないと増える一方だ。
コアの力を一気に暴走させないため、ただの氾濫でも加減はしてくれているのだ。
「なるほどね……ところでルナちゃん。この辺の迷宮はきちんと調査できてる?」
「あ、いや、そのっ……」
先ほどからルナッカーダは青くなっていた。支えようとしていたソルマにも構っていられないくらい、ルナッカーダの方がふらついている。
きちんと調査はしていなかったらしい。だが、それがある意味普通だ。きっちりやっているギルドは少ない。
「そっちの子に聞くけど、その使役者、迷宮に入ったりしてないよね?」
「っ、そ、それは……っ」
こっちも確定だ。
まずい気がすると、タリスも冷や汗を流す。背中が冷たい気がするのは気のせいではない。
「そいつ、どこに行ったの? で、どんなやつ?」
「っ、い、五日前にっ、『大蛇の迷宮』の地図を……っ、南の大陸の……王族の一人だと父に紹介されて……っ」
《南……ちょっとビジェさんを呼ぶでしゅ!》
「あ~、なるほど。彼の探し人かも?」
ダンゴが転移していく。
「……」
「まずいね~……『大蛇の迷宮』って、辺境の隣の元伯爵領に近いやつでしょ? やだなあ、あそこ、まだ落ち着いてないのに」
この王都から馬車で三日、馬で二日だろうか。辺境の方が近い。
何かと最近ちょっかいをかけて来ていたベルゼンのある領だ。新しく仮の領主が立ってまだ混乱している。
「わざわざこっちで地図を手に入れるとか、怪しいって思いなよ~。氾濫は覚悟しとかないとダメかなあ。こっちに影響あるかもだし……あそこの冒険者ギルド、微妙に融通効かないのが多いんだよね~」
タリスは面倒くさそうに背を倒し、少々上を見る形で思考する。
「ん~、とりあえず調査させるかな。コウヤちゃんやボクが行けば確実だけど、さすかにね……うん。通信の魔導具借りるよ~」
「は、はい!」
そうして、タリスは迷宮近くの支部に警告した。だが、既に迷宮は危ない所まできていたのだ。
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