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第七章 ギルドと集団暴走

250 リクエストは聞いてもらえる?

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ユースールに一旦飛んで、呼んで来たのはテーラ主任だけ。件数は多いが、一人で対応すると宣言されたのだ。

「何日か滞在してもらうことになると思いますが、良いんですか? あ、滞在は教会でどうぞ。部屋はもう用意されていると思います」

今は一応、コウヤが教会経由で連れてきた。ユースールでは、転移が神官なら出来るという認識になっており、その中で神官が出来るのならばコウヤができてもおかしくないと思っているらしい。それを利用させてもらっている。

「構わん。それに……私以外は特に王都がダメだからな……」
「そういえば……」

無理でもやる意味はそれだった。ペット担当は他に二人。その二人ともが王都にトラウマを持っている。だが、テーラも王都に決していい思い出はないとコウヤは知っていた。

「テーラ主任は良いんですか?」

心配して背の高いテーラの顔を見上げる。彼は表情をあまり変えない。目は普段から鋭くシャープな顔立ち。一度絶対似合うからと近所のおばちゃん達に連行され、騎士風に仕立ててもらったらバカみたいに似合った。

それからテーラは、ユースールで絶大な人気を誇っている。ただし、テーラのユースール行きの理由が『婚約者に裏切られたため』だ。何度か付き合った女性にも浮気されて別れたらしく、婚約者ので決定打となった。

よって『女は裏切る生き物』という認識が強い。ユースールの女性達はそれを察しており、ちょっかいをかけるのはもっぱらおばちゃん達ばかりだ。

そんなテーラだが、最近心境の変化があった。

「ゆ、ユストが頼むと言ったからな」
「なるほど。ユストさんの頼みなら聞いてもらわないといけませんね。よろしくお願いします!」
「もちろんだ」

そう。どうやらユストに気があるらしいのだ。ユストも満更でもない様子なので、この二人の関係はユースールで今注目されている。

よって、今回もコウヤはユストにきちんと会わせるつもりだった。真っ直ぐに先ずペット達を置いている部屋にやってきたのも八割ほどはそのためだ。

「お待たせしました。ユストさん。テーラ主任を連れて来ました」
「テーラ! 悪い、手伝ってくれ」
「ああ」
「では、落ち着いたら上のマスターの執務室にお願いします。先にテーラ主任のことを伝えてくるので」

ここでようやくユストもコウヤの方を見た。多分、テーラしか見えてなかった。

「すみません、コウヤ様! こいつら落ち着かせたらすぐに」
「はい。テーラ主任も居るならそんなに時間かかりませんもんね」
「ええ、テーラとならすぐに!」
「っ……」

ユストがはにかむように笑うと、テーラの耳が赤くなっていた。ちょっと強引なところもあるユストと控えめなテーラは上手くいきそうだ。というか、ユストがこんな風に笑うのをコウヤも知らなかった。

「では、よろしくお願いします」

パックンは賢く箱の振りで二人を見守るようだ。テンキは静かにコウヤと部屋を抜けた。ダンゴはテーラを呼びに行った時からコウヤの胸ポケットに入っているので、邪魔者は居ない。

再びマスターの執務室に向かう。

「コウヤです」
「入って~。お帰り~」

タリスがソファに座ったまま手を振って迎えてくれた。

「お待たせしました。すみません。先にテーラさんもユストさんと一緒に、保護した子達の健康状態のチェックをしてもらっています。終わり次第挨拶に」
「うん。いいんじゃない? 挨拶よりペットちゃん達の方が重要だからね~」
「……っ」

何か言いたそうな視線が来たが、コウヤはあえて目を向けなかった。相手にしていられない。

「では、やれることはやれましたし、少し出てきますね」
「え? どこ行くの?」
「近くの迷宮です。料理酒を切らしてしまったので『酩酊めいていの迷宮』に」

名前からして察せられるように、この迷宮では様々なお酒が手に入る。難度Bランクの迷宮だ。

「コウヤちゃん。一応言うのが義務みたいなものだから言っておくけど、迷宮にお買い物みたいに行くのどうかと思うよ? リクエストは聞いてもらえる?」
「いいですよ」

本当に一応注意するだけのタリスだ。コウヤを心配するだけ無駄だろうと分かっている。

「なら五十階層以降に出るロゼのワイン。あそこで出るのはものすっごく飲みやすくて綺麗なんだよね~」

八十階層まである『酩酊の迷宮』は、深層に向かうほどにいいお酒が手に入る。

「美味しいんですか?」
「うんっ。あ、そうか。コウヤちゃんは成人前だっけ。まだ知らないよね~」
「はい。でも、たまにノンアルコールのものも出るので、それは飲んでます」

それ、もはやジュースじゃないかと言えなくもないものも出る。例えばウーロンハイのノンアルコール。もはや烏龍茶だ。カクテルなんてジュースだ。入っている瓶の見た目がお酒っぽくしてあるだけだ。

だが、このノンアルコール類も、深層に行くほど美味しいものが出る。

「そうなの?」
「はい。冒険者の方の晩酌に付き合う時があるので、その時用にストックしてるんです」
「へえ。そんなに値段もつかないし、ただのハズレって認識しかなかったけど、なるほどね~。さすがはコウヤちゃん。気遣いが神だね!」
「ありがとうございます!」

これでも元神ですし、と思わず言いそうになるのに気を付けた。

「二時間くらいで帰って来られる?」
「そうですね。料理酒が出るのも五十ぐらいからなので、寄り道もないですし、帰る時間も考えて……うん。二時間で戻りますね」
「夜勤だもんね~。こっちが早く終わってたら、教会で待ってるよ」
「分かりました。一応、下にパックンが居ますし、ダンゴを置いて行きます」

これを聞いて、ダンゴがもぞもぞとコウヤの胸ポケットから出てきた。フワリと浮いてタリスの手の中に降りる。

「いいの? ダンゴちゃん」
《この辺の子達はちょっと頑固で警戒心の強い子が多いんでしゅ。刺激しないようにしてるんでしゅよ》
「へえ。難しいんだねえ」

ダンゴは迷宮の管理者である精霊の上位種だ。全ての精霊の上に立つ。彼らは本能でダンゴに従うが、長く存在している者たちには誇りもある。簡単に手を出せてしまうダンゴが現れるのは、彼らのプライドを傷付ける場合もあるだろう。

神の眷属だろうと、所詮しょせんは余所者。だから、変に刺激し警戒させないよう、ダンゴは極力、コウヤと迷宮に行かないようにしていた。

《特に『酩酊の迷宮』の子達は頑固だって有名なんでしゅ。何より……あの酔っぱらい共に見つかったら……心底面倒臭いでしゅよ》
「ダンゴちゃんが毒吐いてる? 意外と精霊さんにも個性があるんだ?」
《ありましゅよ……》
「……ダンゴちゃんもそんな目するんだね……」

何かを諦めるような、そんな遠い目をつぶらな瞳のダンゴがしていた。

「では、少し行ってきます」
「うん。あまり買い過ぎっ、じゃなかった。遅くならないようにね」
「はい! 失礼します」

ルナッカーダにも頭を下げて、コウヤは部屋を出て行った。

再び残されたタリス達。

ルナッカーダがダンゴをチラリ、チラリと見ながら口を開いた。ここまで、実に見事な百面相を披露していたのだ。

「あの……彼について、色々聞いても……」
「いいよ? どうせ、今はエルテの方での確認待ちだしね」
「ありがとうございます……」

どこから聞こうと、ルナッカーダは悩む。

一方のソルマは、先ほどからずっとダンゴを気にしているようだ。

タリスは一応牽制しておく。

「ダンゴちゃんはあげられないよ」
「っ、も、もちろんです……ただ……わ、私の知っている方が、同じような精霊様を使役されていたので……」

これに反応したのはダンゴだ。

《しょれ! どこの誰でしゅか!!》
「っ!!」
「ダンゴちゃん?」

毛を逆立てて怒りさえ滲ませるダンゴに、ソルマはゴクリと喉を鳴らしていた。

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