元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

文字の大きさ
上 下
113 / 475
第六章 新教会のお披露目

208 波瀾万丈な人生

しおりを挟む
ベニは話が終わっていないのか、まだ城にいてくれているようだ。それを確認して、コウヤはエリスリリアを案内する。並んで歩くコウヤとエリスリリアの後ろには、迅速に動くために、リルファムを抱き抱えたニールと、シンリームがついてきている。

「あの子達、やっぱり期待できそうねえ」
「今頃はもう、ゲンさんに指示をもらって走り回ってるかも」

コウヤ達が上へ移動するという時。リウム達、神官は、早くエリスリリアに認められるようになりたいから手伝いをというので、ユースールのゲンの所にテンキに送ってもらったのだ。

ゲンは今も運び込まれた患者達を診ている。その手伝いをしてもらうことにしたのだ。

「ゲンさんって、薬師だったかしら? コウヤちゃんが認めた子だものねえ。きっと頑張ってくれるわ」
「うん。とっても頼りになるんだ」

コウヤが聖魔神となってから、初めて加護を与えた人。間違いなく現代で最高の薬師だ。その上、面倒見が良くて、教え方も上手い。指示の出し方も的確にできる。これほど頼りになる人はいないだろう。

「ユースールに繋がったら、絶対に会わせてちょうだい?」
「もちろんだよ」

そんな約束を口にしながらも、コウヤ達は飛んでいた。シンリームにはコウヤが魔法で保護をかけ、一気に二階分を飛ぶコースを辿っているのだ。

「楽しいわね♪ ここを改造する所、ゼストお父様が面白そうに見てたの思い出すわ~♪」
「へえ。うん。ゼストパパが好きそう。これやったの、王様だったんだよね?」
「そうよ~。教育係から逃げて~、婚約者達からも逃げてたわね~。まあ、頭はそれなりだったから、勉強も問題なかったけど。結婚相手は自分で探すって、こういう道を使って城からも抜け出してたわ。よっぽど婚約者達が嫌だったらしくてね」

エリスリリア達が興味を持つくらいの問題児だったようだ。

「選んだのが、酒場で働いて国の内情を調べてた神教国の諜報員だったのよ」
「諜報員居るんだ~」
「居るわね。ただ、コウヤちゃん達の周りには近付けてないけど」
「あ、ルー君達?」
「そう。コウヤちゃんが空飛ぶ暴走族さんにしちゃったから、最近はこの国内にも入り込めないようにしちゃてるわ~」

バイクを与えたことで、国外にも軽く出ていけるようになった。それだけの機動力があるのだ。与えられたおもちゃにはしゃいでいるということもあり、移動に時間が取られないことで、外敵の排除は驚くほど迅速にできるようになった。

もうすぐ部屋に着くという所で、一つ衝撃的な事実を教えられた。

「それで、その酒場にいた諜報員ってのが、巫女ってことが知られる前のサーナって子だったのよね~」
「……ん? サーナ……さん? 今、ルー君達と一緒に居るサーナさん!?」
「お呼びでしょうか」
「わっ、サーナさん!」

突然現れたサーナに、コウヤが思わず声を上げる。城の中ということで、油断していたとはいえ、直前まで気配に気付かなかった。

「まあっ。相変わらず、いい腕ね♪ さすがは、元諜報員だわ。影の王妃って呼ばれてただけあるわね」
「恐れいります。女神様に関心を持っていただいていたとは知らず……知っていれば、楽しんでいただけるよう努力したのですが……申し訳ありません」

真面目だ。

サーナは当然のようにエリスリリアの正体に気付いており、更には、見られていたと知っていたなら、もっと波瀾万丈な人生を送ったのにと言う。さすがはサーナ。意識が高い。

「ん? 王妃?」

気になるのはそれだ。これにエリスリリアがズバリ答えた。

「そうよん♪ 何代前かは忘れたけど、正真正銘の王妃よ。逃げまくった婚約者達の手前、国民には顔も見せずに『影の王妃』って呼ばせてたけど。ちゃんと直系を産んでる正妃さんよ♪」
「……お恥ずかしい」

サーナが照れてみせる。だが、どこからどう見ても二十代にしか見えない。そんなサーナが子持ち。それも、コウヤやシンリーム達にも通じる血縁者。驚かないはずがない。

「……っ」

あまりのことに絶句した。

「十分、波瀾万丈な人生だったわよ? 子どもが生まれてすぐに神教国に戻ってるの。その後、アレになったみたいだけど」
「アレ……あ、無魂薬の?」
「はい。一応、仮にも王妃ですので、あの国に情報は渡せません。ただ、私が王妃と知れれば、あの国は手を伸ばしてきます。それを避けるためにも、裏切り者として戻るしかなかったのです。後は……ルディエ様に助けられ、コウヤ様の知るところとなりました。本当にお恥ずかしい限りです」
「……そんなことないと思うけど……」

侯爵家の関係で自害をすすめたという話は王妃になる前らしい。それが、結婚することになる王の三代前。だが、そうなるとおかしなことに気付く。

「そういえば……サーナさんの年齢……っ、ごめんなさい。なんでもないっ」
「はい」

にっこり微笑まれた。無魂兵として保護した時に、コウヤは年齢など確認している。その時、確かに、サーナを含めた数人は年齢がおかしかった。

「ふふ。ベニちゃん達を見れば分かるでしょう? 巫女って、稀に成長がすごく遅くなるのよ。大神官とか大巫女になると更にね♪」
「あ、そっか……」

ベニ達はもう数百年生きている。それでも、タリスがいつか言ったように、少し前でも、特に容姿が変わっていなかったのだ。そう考えると理解できた。

「ふふ。私事わたくしごとはお気になさらず。どうぞ中へ。皆さまお待ちでございます」

そして、ドアを開けると同時にエリスリリアが駆け出した。

「ベニちゃん! 会いたかったわ~!」
「私もだよ、エリィちゃん!」
「……え?」

感動の再会らしかった。

************
読んでくださりありがとうございます◎
次回、二日空きます。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 2,775

あなたにおすすめの小説

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。