114 / 475
第六章 新教会のお披露目
209 浜辺でカニパした♪
しおりを挟む
一方は美少女。一方が美女。二人が再会を喜び抱き合う姿は見ていて目の保養になる。
「ベニちゃんはやっぱりその姿の方がしっくりくるわ♪」
「エリィちゃんも服はその色が一番似合うよ」
「本当? ふふっ。懐かしいわねえ。確か、最後に会ったのって五百年前くらい?」
「そうやねえ。海に近い国を乗っ取った頃だもの」
「あ~、そうそうっ。浜辺でカニパした♪」
「そうやった、そうやった。乱獲し過ぎて、リクト様に叱られたやつ」
「うわぁっ、懐かしいぃぃっ」
とっても盛り上がっていらっしゃる。ベニも気付いていないかもしれないが、言葉使いがいつもと違う。きっと若い頃のものだろう。けれど、コウヤが一番気になったのはそれではない。
「いいなあ。カニ……こっちに戻ってきて、まだ一度も食べてないや」
それが聞こえたらしいエリスリリアとベニが声を揃えた。
「「それはダメだわっ。今すぐ乱獲する!?」」
必死の形相だ。ちょっとびっくりした。
「それ、やってリクト兄に怒られたんでしょ? いいよ。もうすぐエアボ出来るから、それの試験も兼ねて海行ってくる」
「エアボ? ああ、コウヤちゃんが空飛ぶ暴走族になるためのやつね? へえ。もうすぐなんだぁ」
ルディエとコウヤでは身長的にも、体付きにもサーナ達に支給したバイクは不向き。そこで考えていたものだ。
「うん。見た目はサーフボードで楽しそうでしょう?」
「ふふ。お父様が作ってるところを見てブツブツ言ってたわよ」
「え、あ、見られてたんだ。そっか。今度そっちに行った時に改良点がないか聞いてみる」
きっと、色々と意見を出してくれるだろう。物作りはゼストラークが唯一夢中になれるものだ。
そんなコウヤやエリスリリア、ベニの間に入って行こうという者はおらず、ただただ驚いた様子で、誰もが成り行きを見つめていた。それに気付いたわけではないが、コウヤはエリスリリアへ話を振った。
「そういえば、ベニばあさまに会いたかっただけ?」
「ん? ああ。忘れてたわ。ねえ、ベニちゃん。ここの教会が出来たら、すぐにでも神降ろしの儀式してくれない?」
「それは構わないけど、いいの? 何度も呼ばれるの嫌だって言ってたじゃない」
神降ろしの儀式とは、その名の通り、神であるエリスリリア達を顕現させる儀式だ。もちろん、応えるかどうかは神の方が決める。邪神としてコウヤが討たれる前までは、教会を認める意味でも度々応えていた。ただし、この儀式は大巫女か大神官しか可能とはならない。
「あれは、ベニちゃん達も命令されてたでしょ? ただ教会の権威のためだけにやってたじゃない。ベニちゃん達大巫女が儀式をやると、声だけはしっかり聞こえるから、無視するのも大変なのよ」
神界に声だけは聞こえる。それも、集まった信者達の心の声も全部だ。一方的にオンラインになると言えばいいのか。とにかく煩いのだ。時間が経てば聞こえなくなるが、それでも煩いものは煩いし、不快だ。
「まあ、最近はその儀式のやり方も分からなくなってるし、大巫女や大神官の役職の称号を持ってる人が居ないから問題ないけど♪」
エリスリリア達は、コウヤが消えてからすぐに三人で密かにそれらを処分した。役職も与えないようにしていたのだが、それは口にしなかった。
「今回の件でいい加減、あの神教国の子達には愛想が尽きたのよ。今まではベニちゃん達がいたから、大目に見てやってたけど、コウヤちゃんも戻ってきたことだし、そろそろ一つにまとめても良いと思うの♪」
「なるほど。分かったわ。すぐに準備するわ」
「楽しみにしてるわ♪ それじゃあ、用も済んだし、帰るわねん♪ コウヤちゃん、今夜にでも神界で待ってるから♪ リクトとお父様の感想聞きに来てね♪」
そう言って、いつの間にかその手に現れたバスケットを掲げて見せた。
「うん。分かった」
「それじゃあねん♪ あ、そこの子達は、また後日、ここの教会ができた時の神降ろしの儀式の時にね☆」
「……っ?」
そこの子と呼ばれた王達は大混乱だ。そして、そんな中、エリスリリアは発光しながら消えていった。
エリスリリアのことを知らないアビリス王達は、ポカンと口を開けたまま光の消えた場所を見つめている。そんな中、アルキスが口を一度閉じて、誰にともなく呟いた。
「……な、なあ、今の誰なん?」
おそらく、予想は出来ているのだろう。若干震えているように見える。ベニが鼻を鳴らす。
「ふん。分かっているだろうに」
「っ、いや……でも……マジで? だってよ……神なんて……」
「エリスリリア様を見られるなんて幸運だったねえ」
「「「っ……!!」」」
今更ながらに、動揺しているようだ。そこで部屋の隅のベビーベッドからレナルカが顔を出してコウヤを呼ぶように声を出した。
「あー、あー、あ♪」
「なんかご機嫌だね? レナルカ。そろそろ行こうか」
「うだぁ♪」
コウヤが近付いて抱き上げる。
「なら、行こうかねえ。また追加で提案でもあれば、四日後に頼むよ。これから忙しいからねえ」
「ばばさま。さっきまでエリィ姉と話してた感じが良かったのに」
「ん? 何か変わっていたかい?」
「ふふ。ううん。いいんだ。ばばさまらしいから」
「そうかい?」
ベニは分かっていないようだ。それにクスクスと笑いながら、ではまたと言って、あっさりコウヤとベニに続きサーナも一礼してから部屋を出て行った。
だが、コウヤだけが忘れてたと言ってニールへ大きなバスケットを差し出す。
「これ、分けてくださいね」
「はい。お預かりいたします」
「にいさま、またすぐあえますか?」
「うん。また近いうちにね。シン様もあまり無理されないように」
「え……」
コウヤはシンリームへ小さな包みを渡した。
「塗り薬です。訓練の後は、きちんと水で手を洗ってくださいね。潰れたマメから良くないものが入りますから。手を洗った後に塗って使ってください。また今度持ってくるので、ケチっちゃダメですよ」
「っ、うん! ありがとう!」
「ふふ。ではまた」
そんな一連の光景を見ても、アビリス王達の混乱はまだ解けない。ニールがコウヤの作ったパンケーキサンドをそれぞれの前に用意し、お茶の匂いを嗅いだことで、ようやく正気付くのだった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
次回、三日空きます。
よろしくお願いします◎
「ベニちゃんはやっぱりその姿の方がしっくりくるわ♪」
「エリィちゃんも服はその色が一番似合うよ」
「本当? ふふっ。懐かしいわねえ。確か、最後に会ったのって五百年前くらい?」
「そうやねえ。海に近い国を乗っ取った頃だもの」
「あ~、そうそうっ。浜辺でカニパした♪」
「そうやった、そうやった。乱獲し過ぎて、リクト様に叱られたやつ」
「うわぁっ、懐かしいぃぃっ」
とっても盛り上がっていらっしゃる。ベニも気付いていないかもしれないが、言葉使いがいつもと違う。きっと若い頃のものだろう。けれど、コウヤが一番気になったのはそれではない。
「いいなあ。カニ……こっちに戻ってきて、まだ一度も食べてないや」
それが聞こえたらしいエリスリリアとベニが声を揃えた。
「「それはダメだわっ。今すぐ乱獲する!?」」
必死の形相だ。ちょっとびっくりした。
「それ、やってリクト兄に怒られたんでしょ? いいよ。もうすぐエアボ出来るから、それの試験も兼ねて海行ってくる」
「エアボ? ああ、コウヤちゃんが空飛ぶ暴走族になるためのやつね? へえ。もうすぐなんだぁ」
ルディエとコウヤでは身長的にも、体付きにもサーナ達に支給したバイクは不向き。そこで考えていたものだ。
「うん。見た目はサーフボードで楽しそうでしょう?」
「ふふ。お父様が作ってるところを見てブツブツ言ってたわよ」
「え、あ、見られてたんだ。そっか。今度そっちに行った時に改良点がないか聞いてみる」
きっと、色々と意見を出してくれるだろう。物作りはゼストラークが唯一夢中になれるものだ。
そんなコウヤやエリスリリア、ベニの間に入って行こうという者はおらず、ただただ驚いた様子で、誰もが成り行きを見つめていた。それに気付いたわけではないが、コウヤはエリスリリアへ話を振った。
「そういえば、ベニばあさまに会いたかっただけ?」
「ん? ああ。忘れてたわ。ねえ、ベニちゃん。ここの教会が出来たら、すぐにでも神降ろしの儀式してくれない?」
「それは構わないけど、いいの? 何度も呼ばれるの嫌だって言ってたじゃない」
神降ろしの儀式とは、その名の通り、神であるエリスリリア達を顕現させる儀式だ。もちろん、応えるかどうかは神の方が決める。邪神としてコウヤが討たれる前までは、教会を認める意味でも度々応えていた。ただし、この儀式は大巫女か大神官しか可能とはならない。
「あれは、ベニちゃん達も命令されてたでしょ? ただ教会の権威のためだけにやってたじゃない。ベニちゃん達大巫女が儀式をやると、声だけはしっかり聞こえるから、無視するのも大変なのよ」
神界に声だけは聞こえる。それも、集まった信者達の心の声も全部だ。一方的にオンラインになると言えばいいのか。とにかく煩いのだ。時間が経てば聞こえなくなるが、それでも煩いものは煩いし、不快だ。
「まあ、最近はその儀式のやり方も分からなくなってるし、大巫女や大神官の役職の称号を持ってる人が居ないから問題ないけど♪」
エリスリリア達は、コウヤが消えてからすぐに三人で密かにそれらを処分した。役職も与えないようにしていたのだが、それは口にしなかった。
「今回の件でいい加減、あの神教国の子達には愛想が尽きたのよ。今まではベニちゃん達がいたから、大目に見てやってたけど、コウヤちゃんも戻ってきたことだし、そろそろ一つにまとめても良いと思うの♪」
「なるほど。分かったわ。すぐに準備するわ」
「楽しみにしてるわ♪ それじゃあ、用も済んだし、帰るわねん♪ コウヤちゃん、今夜にでも神界で待ってるから♪ リクトとお父様の感想聞きに来てね♪」
そう言って、いつの間にかその手に現れたバスケットを掲げて見せた。
「うん。分かった」
「それじゃあねん♪ あ、そこの子達は、また後日、ここの教会ができた時の神降ろしの儀式の時にね☆」
「……っ?」
そこの子と呼ばれた王達は大混乱だ。そして、そんな中、エリスリリアは発光しながら消えていった。
エリスリリアのことを知らないアビリス王達は、ポカンと口を開けたまま光の消えた場所を見つめている。そんな中、アルキスが口を一度閉じて、誰にともなく呟いた。
「……な、なあ、今の誰なん?」
おそらく、予想は出来ているのだろう。若干震えているように見える。ベニが鼻を鳴らす。
「ふん。分かっているだろうに」
「っ、いや……でも……マジで? だってよ……神なんて……」
「エリスリリア様を見られるなんて幸運だったねえ」
「「「っ……!!」」」
今更ながらに、動揺しているようだ。そこで部屋の隅のベビーベッドからレナルカが顔を出してコウヤを呼ぶように声を出した。
「あー、あー、あ♪」
「なんかご機嫌だね? レナルカ。そろそろ行こうか」
「うだぁ♪」
コウヤが近付いて抱き上げる。
「なら、行こうかねえ。また追加で提案でもあれば、四日後に頼むよ。これから忙しいからねえ」
「ばばさま。さっきまでエリィ姉と話してた感じが良かったのに」
「ん? 何か変わっていたかい?」
「ふふ。ううん。いいんだ。ばばさまらしいから」
「そうかい?」
ベニは分かっていないようだ。それにクスクスと笑いながら、ではまたと言って、あっさりコウヤとベニに続きサーナも一礼してから部屋を出て行った。
だが、コウヤだけが忘れてたと言ってニールへ大きなバスケットを差し出す。
「これ、分けてくださいね」
「はい。お預かりいたします」
「にいさま、またすぐあえますか?」
「うん。また近いうちにね。シン様もあまり無理されないように」
「え……」
コウヤはシンリームへ小さな包みを渡した。
「塗り薬です。訓練の後は、きちんと水で手を洗ってくださいね。潰れたマメから良くないものが入りますから。手を洗った後に塗って使ってください。また今度持ってくるので、ケチっちゃダメですよ」
「っ、うん! ありがとう!」
「ふふ。ではまた」
そんな一連の光景を見ても、アビリス王達の混乱はまだ解けない。ニールがコウヤの作ったパンケーキサンドをそれぞれの前に用意し、お茶の匂いを嗅いだことで、ようやく正気付くのだった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
次回、三日空きます。
よろしくお願いします◎
326
お気に入りに追加
11,119
あなたにおすすめの小説


【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。