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ミッション8 王都進出と娯楽品

282 この国はどうなるんかねえ

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商売人が商業ギルドへの不満を口にするのは、その権限を剥奪される恐れもあることだ。だからこそ、今まで商業ギルドは横暴な事もできていた。

驚愕する目に気付いたのだろう。女主人が肩をすくめる。

「ああ。商業ギルドの悪口に驚いたかい? 意外と、王都では誰でも陰では言っているよ。最近は、あの有名なセイスフィア商会が喧嘩を売られたって聞いたからね。陰どころか、表でもこうして口にするのさ。この際、潰して欲しいからね」
「……っ」

恨まれることはあるだろうと思っていた。キラーリの目からしても、商業ギルドの行商人やこうした露天商に対する態度はあからさまだった。

その違いにキラーリ自身は悦に入り、気持ちが良かった。組織に優遇されているというのは、自慢でもあった。

「ふふっ。この数日の商業ギルドを見たかい?」
「……いや……」
「周りの住民達から、壁にゴミを投げつけられていてね。今までも酷い臭いだったけど、もっと酷いことになっているよ。それで更に抗議されて、職員達もボロボロだったねえ」
「……」

そんな事になっているとは、自分の店にさえ居なかったキラーリは知らなかった。

「冒険者ギルドに掃除の依頼を出したけど、突っ返されたってのも聞いたよ。自分らで掃除しろってさっ、それで、今日の朝は、職員達が涙目になりながら掃除してたわ。あんなクズなギルド長の下に居るからだよ」

ざまあないと愉快そうに笑う女主人。恨みは深そうだ。

「喧嘩を売った手前、あの人らには頼めないしねえ」

そう言って、クリーンリングの者達を見る。

「知ってるかい? あの人ら、臭いの処理まで完璧なんだよ。だから多分、前のあの商業ギルドの酷い臭いも、あの人らならどうにか出来ただろうね」
「っ、確かに」

以前は感じた、この辺りの独特の臭いがしないことに気付いたのだ。

「まあ、これからどうなるか、私らは見守らせてもらうよ。うちも王都から出て公爵領に行こうと思っていたけど、見届けてから行くのも悪くない」
「……そうか……」

『うちも』という言葉を聞き留める。ここ最近は、露天商が王都から減ったとは聞いていた。商業ギルドの者達は、ゴミ商人が減ると笑っていたから、大した問題とは思っていなかったが、改めてキラーリは町を見回す。景色と同じように見ていた露天商は、間違いなく減っているというのが実感できた。

若干だが、出歩いている人も減っているように感じる。実際、住む人自体が減っていたのだ。栄えている都らしい活気もない気がする。

商業ギルドや、キラーリ達大店の商人達にとっては、露天商や行商人など気にするものでもなかったが、それだけ外から入ってくる物がなくなっているということ。

それを求めている人も居ただろう。もちろん、キラーリ達が相手にする高貴な者達、お金を持っている者達はあまり使わないが、貧民街の者は使っていた。

そうして使う事が出来なくなり、住みにくくなるということは、必然的に人は流れ出て行く。

「最近は、王都から出て行く住民も多いしね。騎士達が貧民街がなくなるのも時間の問題かもって笑っていたが、それがどういう結果になるか分かっているんだか……」

キラーリは今更ながらにその問題に気付いて顔を青くする。

「ここからは遠いが、ある国で同じような事があって、めちゃくちゃになってるって聞いたけど、この国はどうなるんかねえ」
「……っ……」

その国では、主要の町から多くの人々が離れ、物価や賃金の変動が激しくなった。雇える人も居なくなるのだ。取り残されるのは、富裕層の者達だけ。

町から離れた人々は、自給自足の生活になる。生活は厳しいが、上から抑圧されるよりは良い。何より、今までも厳しかったのだから、やり甲斐も感じられるのでそれほど不満もない。

町の方では、作物などをそうした人々から買い上げるしかなくなり、そうして町が廃れていく。逆に町から離れた住民達が潤っているという。

立場が逆転してきたと旅の者達は笑っているらしい。王都や大きな町でこそ、働き手である庶民を大切にしなければいけないのだと、吟遊詩人達は歌で広めていると聞く。

ただし、貴族や富裕層にとっては、不名誉極まりない話なので、それを広げないように妨害しているとも聞いた。それで更に自分たちの首を絞めることになると理解できないようだ。

「まあ、セイスフィア商会が王都に落ち着けば、住民もある程度戻るだろうけどね。庶民こそ利用したがる店だって言うからさっ」

セイスフィア商会のことは、行商人や露天商の方が詳しい。

「……セイスフィア商会……」
「建物がものすごい勢いで建ってるよ。住民達が減ったから、更に土地も広げたらしいけど」
「……」

間違いなく住民は減っているようだ。

「見てきたらどうだい? 見せ物並みに人が集まっているから、場所もすぐに分かるよ」

気にしているというのが分かったのだろう。さすがは露天商をやっているだけはある。そうした内面の想いなども察してくる。

「……そうしよう。気になってきた」
「ははっ。あ、一つだけ。あんたは大丈夫だと思うが……」
「……なんだ?」

女主人が声をひそめて、口元に手をやり、周りに聞こえないようにと身を乗り出してくる。自然にキラーリも屈みこみ、耳を寄せた。

「聞いたことがあるかもしれないが、セイスフィア商会には、凄腕の制裁部隊があるんだ。あの人らに絡んだ奴らもそれにやられて大人しくなった。気を付けな」

『あの人ら』というところで、クリーンリングの者に視線をやった後、護衛達へ目を向けて忠告する女主人。この護衛達は、普通にしていると確かに荒くれ者の類いに見える。だからこその忠告だろうとキラーリは察した。

それから女主人は身を起こす。普通の声の大きさに戻った。

「まあ、理不尽なやつじゃないって噂だ。その代わり、犯罪者には容赦しないらしいけどさ。治安が良くなるなら私らは大歓迎だよ」
「そう……だな」
「「……」」

護衛達が目を逸らす。あっという間にフィルズに制圧された時の事を思い出したのだろう。信じられないが、あれがまとめている制裁部隊ならば、相当の腕だろうと思ったのだ。

「そんな訳で、セイスフィア商会の建てている辺りは、逆に平和だし、子どもや年寄りも集まって見てる。けど、人は多くなってるから、そこは気を付けてな」
「ああ。情報、感謝する」
「気にするな」

そうして、キラーリはセイスフィア商会の建設現場へと向かったのだ。








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読んでくださりありがとうございます◎



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