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第五章 秘伝と天使と悪魔
235 ただの的当てゲームです
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明らかに、見つけたことを自慢げにする褒めろと言わんばかりの態度。これに高耶は頭を抱えながら呟く。
「子どもか……」
「『申し訳ない……』」
高耶の結界によって阻まれてはいるが、滝の裏から飛び出してきた悪魔達は、上空からこちらを見下ろしていた。
下級悪魔は、姿がはっきりとしない。怨念と違い、純粋に瘴気から生まれるものだからと言われていた。だからこそ、欲望しかない。
精神が核としてあり、正確には肉体を持たない。だからといって壁を通り抜けたりできるかといえば、出来ない。悪魔がこちら側に影響を与えるためには、きちんとこちら側へ来る必要があるからだ。
怨霊でも妖でも、人が認識できないのは、彼らが人が存在するのとは、違う次元に居るから。薄い膜一枚向こう側。いくつも重なった次元の壁の向こう側にいるからだ。
その膜一つ先を見えるか見えないかが視える者と視えない者の違い。座敷童子達の影響で素質ある者が視えるようになるのは、彼ら座敷童子が、その膜を通り抜けてこちら側と向こう側を行き来できるから。要は、目が慣れるのだ。
ただし、人とはそもそも存在の仕方が違うため、同じ次元に来たとしても、視線を合わせることも難しい。触れるのにもコツが要る。
悪魔も同じように、次元を行き来することが出来るのだ。何より、こちら側には良いものがあると思っている。それは、感情だ。
彼らはそれを感じたくて仕方がない。特に、大きな感情である『恐怖心』が大好物だ。次元の向こう側からでも干渉できる術者なら、もっと手に入りやすい。
統二と勇一、それに近くにいた翻訳担当や設営準備の裏方をしていた者たちが、咄嗟に高耶の側まで来ていた。彼らが恐怖で微かに震えているのを感じ、高耶が声をかける。
「落ち着いて。呼吸をゆっくり。恐怖心を捨てろとは言わない。体の力も抜け。座っていい。対処出来ない相手じゃないんだ」
「は、はい……っ」
ゆっくりと、連盟の者たちも慎重に近付いてきていた。彼らは、無意識に高耶を頼ったのだ。
「ひ、秘伝の御当主……っ、わ、我々はどうしたら……っ」
橘の者たちも、当主の蓮次郎ではなく、高耶へ指示を求めた。
「先ず、落ち着きましょう。恐怖心は、彼らの興味を引いてしまいます。姿や、感じる力は異質に思えるでしょうが、少々凶暴な怨霊と変わりありません。寧ろ、普通に物理攻撃が出来る分、戦いやすい相手です」
「え……」
こちらでは、悪魔はほとんど見ない。通常は、こちらに出てきたとしても、なぜか大陸の方に向かってしまう。そちらの方が出入り口が開きやすく、弱った時にすぐに逃げ込めるかららしい。存在も認識されやすく、恐怖心も強いのだろうと、高耶は推察していた。
「ストレス発散に、その辺の棒で滅多撃ちなんてどうですか?」
「……え……」
「そういえば、兄さん……乱取り相手にしてるんだっけ……」
「ああ。あいつら、欲望しかないから、良心も痛まない。なんなら、普段使わない術の試し撃ちとかもできますよ。やってみますか? こうして……」
高耶は立ち上がって、一体の悪魔に強めの雷撃を飛ばす。するとその悪魔は、塵になってあっさり消えた。
「……あ……え?」
「どうです? 結界の調整は出来てるので、こちらからの術は通ります。今の雷撃、普通に使うと、家一軒、割ってしまうんですよ。周りの人に当てないようにだけ気を付けてください」
「……あんな簡単に……」
「『こんなことが……』」
威力にも驚いているようだが、普通は、結界を通して攻撃なんて出来ないことに、驚愕していた。
「それなりに威力がないと、あそこまで届きませんが、どうです? ただの的当てゲームになったでしょう?」
「……確かに……わ、私もやってみても?」
「どうぞ。悪魔は、危機感よりも欲望優先ですから、彼らが騒いでいる間は、逃げられたり、こちらを敵視したりしません。今のうちに、存分に技を試しましょう」
「っ、はい!!」
恐怖に震えていたのが嘘のように、連盟の術者たちは立ち上がり、普段は人里で使えないような、とっておきの大技を繰り出していく。
「いけ!」
放たれた焔の槍が、結界を抜けて悪魔に突き刺さった。浄化の焔に纏わりつかれ、その悪魔は塵となって消えた。
「できました! これ、使えるって知ってても、怖くて練習できる場所もなくて……そっか、空に向かってならいけるかも……」
「浄化の焔って、ちょっと失敗すると、普通の焔になるもんな。山で練習するのも怖かったけど、行けるんじゃないか?」
「集中力要るよ。けど、相手がこっちに近付いてこないなら、安心してできる」
「なら、これくらい安心できる場面じゃなきゃ、使わない方がいいな」
「そうだね。気を付けよう」
式を結界のギリギリまで飛ばし、攻撃させる者もいた。
「うわあ、やっぱりアレも、結構威力高かったんだな。最大火力は、やっぱり封印だ」
「あれだと、人家は吹っ飛ぶよね。意外と、場所を気を付けてたんだな。俺ら」
「なんか、ヤバい感じは伝わってきたもんね。今まで強行しなくて良かったよ」
だんだんと、容赦がなくなってきた。完全に恐怖心よりも好奇心が優っているようだ。
「いいねえ、コレ。高耶君の結界有りきだけど」
そう言って、蓮次郎も爆散させて笑っていた。
「統二、しっかりあそこまで届くように、最後まで意識しろ」
「はい!」
高耶も指導に回るくらいの余裕。
「勇一は、もっと小さく貫通力を意識するんだ」
「分かりました!」
きちんと勇一にも指導する。時折、他の術者たちもアドバイスを求めてきたりと、高耶も楽しみながら、いつの間にか残り数体となっていた。
これらを、最初は自分たちもと、恐怖心を無理やり振り払って動こうとした祓魔師達だったが、そもそもの距離がありすぎて、年配の者が数体、相手に出来ただけだった。
自分たちには無理だと、次第に理解していった彼らは、はしゃぐほどに楽しむ連盟の術者たちを、ただ呆然と見つめることしか出来なかった。
同時に、彼らには自分達が敵わないと知ったため、悪魔に対する恐怖心は強まった。お陰で、悪魔達をこの場に引きつけ続けることができたので、結果的にはよかったのだ。
「『こんな遊び半分で……』」
一番側にいたレスターは、恐怖心より、情け無さの方が上回っていたようだ。
しかし、本番はここからだった。
「さて、上級悪魔のお出ましだ」
それは、確かな存在感を持って、近付いてきていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「子どもか……」
「『申し訳ない……』」
高耶の結界によって阻まれてはいるが、滝の裏から飛び出してきた悪魔達は、上空からこちらを見下ろしていた。
下級悪魔は、姿がはっきりとしない。怨念と違い、純粋に瘴気から生まれるものだからと言われていた。だからこそ、欲望しかない。
精神が核としてあり、正確には肉体を持たない。だからといって壁を通り抜けたりできるかといえば、出来ない。悪魔がこちら側に影響を与えるためには、きちんとこちら側へ来る必要があるからだ。
怨霊でも妖でも、人が認識できないのは、彼らが人が存在するのとは、違う次元に居るから。薄い膜一枚向こう側。いくつも重なった次元の壁の向こう側にいるからだ。
その膜一つ先を見えるか見えないかが視える者と視えない者の違い。座敷童子達の影響で素質ある者が視えるようになるのは、彼ら座敷童子が、その膜を通り抜けてこちら側と向こう側を行き来できるから。要は、目が慣れるのだ。
ただし、人とはそもそも存在の仕方が違うため、同じ次元に来たとしても、視線を合わせることも難しい。触れるのにもコツが要る。
悪魔も同じように、次元を行き来することが出来るのだ。何より、こちら側には良いものがあると思っている。それは、感情だ。
彼らはそれを感じたくて仕方がない。特に、大きな感情である『恐怖心』が大好物だ。次元の向こう側からでも干渉できる術者なら、もっと手に入りやすい。
統二と勇一、それに近くにいた翻訳担当や設営準備の裏方をしていた者たちが、咄嗟に高耶の側まで来ていた。彼らが恐怖で微かに震えているのを感じ、高耶が声をかける。
「落ち着いて。呼吸をゆっくり。恐怖心を捨てろとは言わない。体の力も抜け。座っていい。対処出来ない相手じゃないんだ」
「は、はい……っ」
ゆっくりと、連盟の者たちも慎重に近付いてきていた。彼らは、無意識に高耶を頼ったのだ。
「ひ、秘伝の御当主……っ、わ、我々はどうしたら……っ」
橘の者たちも、当主の蓮次郎ではなく、高耶へ指示を求めた。
「先ず、落ち着きましょう。恐怖心は、彼らの興味を引いてしまいます。姿や、感じる力は異質に思えるでしょうが、少々凶暴な怨霊と変わりありません。寧ろ、普通に物理攻撃が出来る分、戦いやすい相手です」
「え……」
こちらでは、悪魔はほとんど見ない。通常は、こちらに出てきたとしても、なぜか大陸の方に向かってしまう。そちらの方が出入り口が開きやすく、弱った時にすぐに逃げ込めるかららしい。存在も認識されやすく、恐怖心も強いのだろうと、高耶は推察していた。
「ストレス発散に、その辺の棒で滅多撃ちなんてどうですか?」
「……え……」
「そういえば、兄さん……乱取り相手にしてるんだっけ……」
「ああ。あいつら、欲望しかないから、良心も痛まない。なんなら、普段使わない術の試し撃ちとかもできますよ。やってみますか? こうして……」
高耶は立ち上がって、一体の悪魔に強めの雷撃を飛ばす。するとその悪魔は、塵になってあっさり消えた。
「……あ……え?」
「どうです? 結界の調整は出来てるので、こちらからの術は通ります。今の雷撃、普通に使うと、家一軒、割ってしまうんですよ。周りの人に当てないようにだけ気を付けてください」
「……あんな簡単に……」
「『こんなことが……』」
威力にも驚いているようだが、普通は、結界を通して攻撃なんて出来ないことに、驚愕していた。
「それなりに威力がないと、あそこまで届きませんが、どうです? ただの的当てゲームになったでしょう?」
「……確かに……わ、私もやってみても?」
「どうぞ。悪魔は、危機感よりも欲望優先ですから、彼らが騒いでいる間は、逃げられたり、こちらを敵視したりしません。今のうちに、存分に技を試しましょう」
「っ、はい!!」
恐怖に震えていたのが嘘のように、連盟の術者たちは立ち上がり、普段は人里で使えないような、とっておきの大技を繰り出していく。
「いけ!」
放たれた焔の槍が、結界を抜けて悪魔に突き刺さった。浄化の焔に纏わりつかれ、その悪魔は塵となって消えた。
「できました! これ、使えるって知ってても、怖くて練習できる場所もなくて……そっか、空に向かってならいけるかも……」
「浄化の焔って、ちょっと失敗すると、普通の焔になるもんな。山で練習するのも怖かったけど、行けるんじゃないか?」
「集中力要るよ。けど、相手がこっちに近付いてこないなら、安心してできる」
「なら、これくらい安心できる場面じゃなきゃ、使わない方がいいな」
「そうだね。気を付けよう」
式を結界のギリギリまで飛ばし、攻撃させる者もいた。
「うわあ、やっぱりアレも、結構威力高かったんだな。最大火力は、やっぱり封印だ」
「あれだと、人家は吹っ飛ぶよね。意外と、場所を気を付けてたんだな。俺ら」
「なんか、ヤバい感じは伝わってきたもんね。今まで強行しなくて良かったよ」
だんだんと、容赦がなくなってきた。完全に恐怖心よりも好奇心が優っているようだ。
「いいねえ、コレ。高耶君の結界有りきだけど」
そう言って、蓮次郎も爆散させて笑っていた。
「統二、しっかりあそこまで届くように、最後まで意識しろ」
「はい!」
高耶も指導に回るくらいの余裕。
「勇一は、もっと小さく貫通力を意識するんだ」
「分かりました!」
きちんと勇一にも指導する。時折、他の術者たちもアドバイスを求めてきたりと、高耶も楽しみながら、いつの間にか残り数体となっていた。
これらを、最初は自分たちもと、恐怖心を無理やり振り払って動こうとした祓魔師達だったが、そもそもの距離がありすぎて、年配の者が数体、相手に出来ただけだった。
自分たちには無理だと、次第に理解していった彼らは、はしゃぐほどに楽しむ連盟の術者たちを、ただ呆然と見つめることしか出来なかった。
同時に、彼らには自分達が敵わないと知ったため、悪魔に対する恐怖心は強まった。お陰で、悪魔達をこの場に引きつけ続けることができたので、結果的にはよかったのだ。
「『こんな遊び半分で……』」
一番側にいたレスターは、恐怖心より、情け無さの方が上回っていたようだ。
しかし、本番はここからだった。
「さて、上級悪魔のお出ましだ」
それは、確かな存在感を持って、近付いてきていた。
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