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第320話 魔族の支配体制

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「確かに兄者サマの言う通り、アタシたち魔族の長は大魔王様だ。
だけど大魔王様が魔界の奥で眠りについて500年。
それより後に生まれた魔族は大魔王様に実際に会ったことは無い。
アタシたち魔族は強さが全ての価値観。
自分を従わせるものは自分より強い魔族のみ。
だが力が強いだけでは駄目だ。
心身共に自分より強い御方に仕えるもの。
だから実際に顔も見たことも無い大魔王様に仕えることなど出来ない。
よって500年前の大戦後に生まれた若い魔族は
今の魔界で最も強い魔族である五人の上位魔族、
魔界五軍将の方々のいずれかにお仕えすることになる。
アタシ、エクゼヴ殿、ガグーン、ライゼガの場合は
大魔王様直属の魔界五軍将のひとり魔言将イルーラ様にお仕えしている。
つまり今の大魔王様は直接的では無く、
魔界五軍将の方々を通して
間接的に魔族を従わせているという支配体制だ。

アタシたちはイルーラ様に直接お仕えしているのであって
大魔王様に直接仕えている訳では無い。
そこへ大魔王を名乗る存在が急に現れて、
恩あるイルーラ様を、仲間であるエクゼヴ殿たちを理不尽な理由で殺したなら…
敵討ちの為に戦うのは当然ということになる。
アタシの一族は戦闘魔族ではあるけれど、
義を重んじる一族でもある。
理不尽な存在に黙って従うことなんて出来ないのさ」

 なるほど…俺はこの三週間、
 人間側の知識のみで異世界エゾン・レイギスについて学んでいた。
 魔族の社会は強い力を持つ者が全ての価値観、
 絶大な力を持って魔界を制した大魔王を
 盲目的に服従する縦社会と俺は聞いていた。
 でもそれは魔族側の知見が反映されていない
 あくまでも人間側の知見のみの云わば偏った知識。
 実際の魔族の社会とは、かなりのズレがあったという事である。
 確かに絶対的な力を持った大魔王でも500年も眠りについて動けないのなら
 そこまでの支配力は無いよなあ…そりゃあ当然だ。

 ん、ちょっと待て…?
 さっきの話だと…今、目の前で話している獣人型じゅうじんがた魔族の女性は…?

「つまりあんたは…?
もしかして…ヴィシルなのか?」

「…なんだよ、アタシの顔をもう忘れてしまってたのかい?
連れないねェ兄者サマは?
ああ、そうか…この姿だとわかんないかァ…それじゃあ」

 彼女は目を閉じ身体の力を抜いた。
 膨れ上がった筋肉がしぼんで、
 全身の体毛、その背中の翼が収縮し消えていく。
 頭の猫耳も小さくなり、逆立ち気味の頭髪も垂れる。
 その姿は…
 イルーラ達を大魔王に殺されて逆上し挑み掛かったものの、
 反撃を受けて倒れたところを俺が助けて回復魔法を掛けてその傷を癒した
 獣人型じゅうじんがた魔族ヴィシルだった。
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