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第5部 新魔王と結婚なんて、お断り!
第39章 アリーシャ、伝説の中尉を召喚する
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叫んだ直後、ボフッと音がし、玉座の間に暗雲が立ちこめた。
…… "たとえ" じゃなくて、本当に真っ暗な雲が目の前に出現したのだ。
ゆっくりとその雲が晴れていくと、徐々に特徴あるアフロヘアの人影が見えてくる。
だがその姿は、前回と前々回、どちらの姿とも違っていた。
アフロヘアの両側には、いかにも悪魔らしい、ぐるりと渦巻いた角。
半裸の肉体に黒い毛皮を引っかけ、剥き出しの右腕には鷹の刺青、左脚に蛇を巻きつけた、浅黒い肌の男……。
その両目は燃えるように赤く輝き、歯と歯の隙間からコオォォォ……と得体の知れない呼気が洩れ出ている気がする。
あまりに迫力あるその姿に、私は一瞬「え?間違って大魔王でも召喚しちゃった?」と思ってしまった。
悪魔的と言うか、野獣的と言うか、邪神的と言うか……とにかく人間味が無さ過ぎて「このヒト、ちゃんと自我あるのかな?」「言葉ちゃんと通じるかな?」と心配になるレベルだ。
「えっと……アフロ中尉……ですよね?」
「ああ、そうだ。……まさか、天使を相手に戦り合える日が来るとはなァ……。面白ぇ」
アフロ中尉は私の問いに短く答えた後、ブランを見つめ、独特なハスキーボイスでひとりごちる。
「ヤダ。イイ男じゃない。霊体なのが残念だわ」
気づけば、シトリーンがうっとりした目でアフロ中尉を眺めている。
……って言うか、このド迫力悪魔が "イイ男" なんだ……。さすがは元魔王妃様……。
「……え?ちょっと待って。熊の毛皮の胴着に、鷹の刺青、羊型の角に、蛇……?まさか、このヒト……バートン=シェーン・ナラカム中尉……?」
情報通のヴィヴィアンヌが、戦慄の表情で名を呟く。
「え?ナラカム中尉って……もしかして、不慮の死を遂げたって言う、あの伝説の中尉さん?」
シトリーンも、その名は知っていたらしい。
アフロ中尉って、魔界の有名人だったのか。
「そう。本来であれば軍団長クラスの実力を持つ軍人だったけど、その型破りな性格ゆえに、周囲……特に上の人たちとぶつかって、階級は結局、中尉どまり。その死も、彼を危険視した何者かによる謀殺と言われているわ」
「……過去の話はよしてくれ。今は、目の前のコイツをどうするか、だろ?」
アフロ中尉はそう言って、親指でクイッとブランを指差す。
「そうですよ!呑気におしゃべりしてる場合じゃありません!攻撃、来ますよ!」
創君がそう叫ぶのと、ほぼ同時に、ブランがさっと右手を掲げた。
「千の十字」
ブランの背後に一瞬、幻の南十字星が輝いた。
直後、数えきれないほどの十字型の光が、ざぁっと私たちに降り注ぐ。
「ひきゃ……っ、い……痛い……ッ」
高温の光に灼かれる痛みが、全身を断続的に襲う。
それは、一瞬だったのかも知れない。
だが、永遠のように長く感じられて……頭の中にふと "死" の一文字が過る。
レイの塔で穴から落ちた時と同じく、脳内に走馬灯のようなものが流れる。
そんな場合ではないのに、私はぼんやり自分の人生を振り返っていた。
……そうだ。やっぱり、私は…………
「アリーシャ様……っ、回復魔法を!」
創君の声に、ハッと我に返り、今の状況を思い出す。
自分の姿を見下ろすと、ドレスはボロボロ、肌にも無数に傷がついているが、まだ死んではいない。
見渡せば、私だけでなく他の皆もボロボロだった。
私はあわてて回復魔法をかけて回る。
「アリーシャ様も回復を!はい、タウリン1000mgドリンクです!」
創君が回復アイテムを投げて寄越す。
「ありがとう。そ……創君」
私がちびちびドリンクを飲んでいると、アフロ中尉がいきなり走り出してブランを拳で殴りつけた。
「奈落の底まで案内するぜェ!」
禍々しい笑みとともに繰り出されたパンチは、ブランのみぞおちにヒットし、その身を後方の壁に叩きつける。
「……え。霊体なのに物理攻撃なんだ?」
「きっと生身の拳でなく、拳から衝撃波的な何かを出して攻撃してるんですよ。そういうことにしておきましょう」
創君が妙に言い訳がましく、そんな推測を口にする。
「天使ってのは慈愛の生き物だと思ってたがなァ。なかなかエグい攻撃して来るじゃねぇか!気に入ったぜ!」
アフロ中尉が狂喜の表情でそう叫ぶ。
……このアフロ中尉、ひょっとして戦闘狂タイプなのかな。
ブランはヨロヨロと立ち上がり、片手でみぞおちを摩る。
「駄目だ!また回復される!スキを与えるな!連続して叩くぞ!」
レッドが再び剣を振り上げ、ブランに向かって行く。
「仕方がありません。私も加勢します」
創君もダガーを手に床を蹴る。
「ブラン!おイタが過ぎるわよ!いい加減にしなさい!」
シトリーンが爪を振りかざし、飛びかかる。
「天使様は光属性だから、弱点は闇属性ね~。行きなさい!暗黒の炎の獅子!」
ヴィヴィアンヌが杖を振る。
何だかもう、総力戦の様相を呈して来たな……。
私もヴァルキュリエ・ソード改を手に、走り出した。
「恨みは無いけど……ゴメンね、ブランさん!」
…… "たとえ" じゃなくて、本当に真っ暗な雲が目の前に出現したのだ。
ゆっくりとその雲が晴れていくと、徐々に特徴あるアフロヘアの人影が見えてくる。
だがその姿は、前回と前々回、どちらの姿とも違っていた。
アフロヘアの両側には、いかにも悪魔らしい、ぐるりと渦巻いた角。
半裸の肉体に黒い毛皮を引っかけ、剥き出しの右腕には鷹の刺青、左脚に蛇を巻きつけた、浅黒い肌の男……。
その両目は燃えるように赤く輝き、歯と歯の隙間からコオォォォ……と得体の知れない呼気が洩れ出ている気がする。
あまりに迫力あるその姿に、私は一瞬「え?間違って大魔王でも召喚しちゃった?」と思ってしまった。
悪魔的と言うか、野獣的と言うか、邪神的と言うか……とにかく人間味が無さ過ぎて「このヒト、ちゃんと自我あるのかな?」「言葉ちゃんと通じるかな?」と心配になるレベルだ。
「えっと……アフロ中尉……ですよね?」
「ああ、そうだ。……まさか、天使を相手に戦り合える日が来るとはなァ……。面白ぇ」
アフロ中尉は私の問いに短く答えた後、ブランを見つめ、独特なハスキーボイスでひとりごちる。
「ヤダ。イイ男じゃない。霊体なのが残念だわ」
気づけば、シトリーンがうっとりした目でアフロ中尉を眺めている。
……って言うか、このド迫力悪魔が "イイ男" なんだ……。さすがは元魔王妃様……。
「……え?ちょっと待って。熊の毛皮の胴着に、鷹の刺青、羊型の角に、蛇……?まさか、このヒト……バートン=シェーン・ナラカム中尉……?」
情報通のヴィヴィアンヌが、戦慄の表情で名を呟く。
「え?ナラカム中尉って……もしかして、不慮の死を遂げたって言う、あの伝説の中尉さん?」
シトリーンも、その名は知っていたらしい。
アフロ中尉って、魔界の有名人だったのか。
「そう。本来であれば軍団長クラスの実力を持つ軍人だったけど、その型破りな性格ゆえに、周囲……特に上の人たちとぶつかって、階級は結局、中尉どまり。その死も、彼を危険視した何者かによる謀殺と言われているわ」
「……過去の話はよしてくれ。今は、目の前のコイツをどうするか、だろ?」
アフロ中尉はそう言って、親指でクイッとブランを指差す。
「そうですよ!呑気におしゃべりしてる場合じゃありません!攻撃、来ますよ!」
創君がそう叫ぶのと、ほぼ同時に、ブランがさっと右手を掲げた。
「千の十字」
ブランの背後に一瞬、幻の南十字星が輝いた。
直後、数えきれないほどの十字型の光が、ざぁっと私たちに降り注ぐ。
「ひきゃ……っ、い……痛い……ッ」
高温の光に灼かれる痛みが、全身を断続的に襲う。
それは、一瞬だったのかも知れない。
だが、永遠のように長く感じられて……頭の中にふと "死" の一文字が過る。
レイの塔で穴から落ちた時と同じく、脳内に走馬灯のようなものが流れる。
そんな場合ではないのに、私はぼんやり自分の人生を振り返っていた。
……そうだ。やっぱり、私は…………
「アリーシャ様……っ、回復魔法を!」
創君の声に、ハッと我に返り、今の状況を思い出す。
自分の姿を見下ろすと、ドレスはボロボロ、肌にも無数に傷がついているが、まだ死んではいない。
見渡せば、私だけでなく他の皆もボロボロだった。
私はあわてて回復魔法をかけて回る。
「アリーシャ様も回復を!はい、タウリン1000mgドリンクです!」
創君が回復アイテムを投げて寄越す。
「ありがとう。そ……創君」
私がちびちびドリンクを飲んでいると、アフロ中尉がいきなり走り出してブランを拳で殴りつけた。
「奈落の底まで案内するぜェ!」
禍々しい笑みとともに繰り出されたパンチは、ブランのみぞおちにヒットし、その身を後方の壁に叩きつける。
「……え。霊体なのに物理攻撃なんだ?」
「きっと生身の拳でなく、拳から衝撃波的な何かを出して攻撃してるんですよ。そういうことにしておきましょう」
創君が妙に言い訳がましく、そんな推測を口にする。
「天使ってのは慈愛の生き物だと思ってたがなァ。なかなかエグい攻撃して来るじゃねぇか!気に入ったぜ!」
アフロ中尉が狂喜の表情でそう叫ぶ。
……このアフロ中尉、ひょっとして戦闘狂タイプなのかな。
ブランはヨロヨロと立ち上がり、片手でみぞおちを摩る。
「駄目だ!また回復される!スキを与えるな!連続して叩くぞ!」
レッドが再び剣を振り上げ、ブランに向かって行く。
「仕方がありません。私も加勢します」
創君もダガーを手に床を蹴る。
「ブラン!おイタが過ぎるわよ!いい加減にしなさい!」
シトリーンが爪を振りかざし、飛びかかる。
「天使様は光属性だから、弱点は闇属性ね~。行きなさい!暗黒の炎の獅子!」
ヴィヴィアンヌが杖を振る。
何だかもう、総力戦の様相を呈して来たな……。
私もヴァルキュリエ・ソード改を手に、走り出した。
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