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第5部 新魔王と結婚なんて、お断り!
第30章 アリーシャ、再び貞操の危機(?)
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オリヴィアスは、まるで今回が初対面のように、素知らぬ顔で挨拶してきた。
腹立たしくて、思わず「先日はどうも」なんて言ってやりたくなったが、ギリギリで思いとどまる。
こういう冷血でキレ者っぽい相手を、下手に刺激するのは、たぶん良くない。
「陛下が御自ら、姫君をエスコートですか。仲のおよろしいことで」
オリヴィアスの口調は恭しかったが、何となくその目は、ブランのことさえ馬鹿にしているように見えた。
「……お前は、魔王家に人類の血を入れることに反対か?」
ブランも何かを感じたのか、やや険のある声でオリヴィアスに問いかける。
「いいえ。陛下のお決めになることに、異存はございません。人間界一の美姫を妃となさるのも、魔王として箔がついて、大変よろしいかと」
「ならば、姫が正式に妃となった後は、誠意を尽くすように。人類だからと言って軽々しく扱うことは許さん。良いな」
念押しするように言い残し、ブランは宰相執務室を後にするが……
金の手枷で私の自由を奪っていることは "軽々しく扱う" ことにならないんだろうか……。
「あの男には気をつけろ。ああ言っていたが、結局は人類であるお前を、あの男は快く思っていないだろう」
快く思われていないことは、言われなくても知っている。
何せ、ムリヤリ薬を盛ろうとするくらいだ。
「私の父の正妃に対しても、出自を理由に蔑視していた。もっとも、父の存命中は、それを表に出さなかったがな。私のことも、名門クロード家の血筋と持ち上げながら、内心は妾妃の子と嘲っているのだろう」
ブランは皮肉げな眼差しで笑う。
「……そもそも、何で魔王の妃を、人間から娶ろうとしてるんですか?魔界の民から選べばいいじゃないですか」
私はそもそもの疑問を口にする。
前々から不思議に思ってたんだよね。
何で魔王とか人外のラスボスが、人間の姫を攫いたがるのか。
種族の血が薄まって、良くないんじゃないかと思うんだけど。
「一つには、人類の戦意をくじくためだ。人間の王国の "宝" たる姫が、魔王の所有物になるということは、人類にとって敗北であり屈辱。人類が魔界に屈したという、何より分かりやすい "証" となる」
……前から薄々思っていたけど、魔界人の思考回路って、本当にシュミが悪い。
「もう一つの理由は、魔王家の血を薄めるためだ」
ブランは思いもよらない話をしだした。
「魔王は代々、顔も良く血筋も良い魔界の女を妃としてきた。しかし、それゆえ血が濃くなり過ぎてな……。時々、歪な子が生まれてしまう。強い血と強い血をかけ合わせれば、良い子が得られるとは限らん。強い血同士が反発し、生命としての形を歪めてしまうこともあるのだ」
「……それで、人間の血を入れるわけですか?」
「ああ。何代かに一度、人類の女の血を入れると、ちょうど良い具合に血が "調整" されるのだ。私も既に、吸血鬼と堕天使の血が混ざり合っている。だから、伴侶には人間の姫が望ましい」
「……そんな、ブリーダーみたいな理由で伴侶に選ばれても……」
イラッとした気持ちをそのまま口に出すと、ブランはフッと笑った。
「血の問題を抜きにしても、私はお前が気に入っている。私に対して物怖じしないその態度、実に良い……」
言いながらブランは私の顎を掴んできた。
……しまった、油断した。
相手は、私を嫁にしようなんて言ってる魔王。
どんなことをしてくるか、分かったものじゃないないのに……。
「やめてください!ひ……人前ですよ!」
私はとっさに、手枷の鎖を握る魔物たちを指差す。
「気にするな。あれは私の忠実な下僕。背景の一部とでも思っていれば良い」
ブランは全く気にする素振りもなく、唇を寄せてくる。
「あんなに存在感のある背景、ありませんから!……って言うか、キスとかムリ!」
顔を背けて手でガードしようとした、その時……聞き覚えのある鈍い音が、ブランの後ろから鳴り響いた。
「接吻の強要はセクシャル・ハラスメントだ。魔界のトップがそんなことでどうする」
「スカイ、貴様……何度主君に手を上げたら気が済むのだ」
ブランが眼光鋭く振り返った先には、黒衣のスカイがブスッとした顔で腕組みしていた。
「主を諌めるのも臣下の務め。叱られたくないなら、君主らしい態度を取るんだな、ブラック」
「人に妙なあだ名を付けるな!相変わらず、主君を主君と思わん奴だな」
スカイとブランのやりとりに、私は微妙に不安になる。
……何か、この前見た時と、ブランに対する態度が全く変わっていない気がするんだけど……
ちゃんと、白兵衛の説得が効いてるのかな?
「えっと……スカイ、助けてくれてありがとう。魔王と仲が良いんだね?」
洗脳がどうなったのか分からないので、とりあえず探るように訊いてみる。
「ビジネスパートナーですから、それなりのつき合いはしていますよ。ちなみにブラックと言うのは、いちいちブラン・クロードとフルネーム呼びするのが面倒なので、縮めてみました」
ブランの時とは打って変わり、スカイは私に対しては、相変わらず丁寧な言葉遣いだ。
「主の名を勝手に縮めるな!どれだけやりたい放題なんだ、お前は!」
「えっと……スカイ、白兵衛とは、おしゃべりできたんだよね?」
「はい。興味深い一時を過ごさせてもらっています。もう少しだけ借りていても良いでしょうか?」
白兵衛の話題を出したのに、スカイには動揺のカケラも見られない。
「え?うん。……それだけ?」
「はい。それだけですが……何か?」
逆にこっちが不審がられてしまった。
……え?どういうことだろう。
まだ全然、洗脳が解けていない気がするんだけど……。
腹立たしくて、思わず「先日はどうも」なんて言ってやりたくなったが、ギリギリで思いとどまる。
こういう冷血でキレ者っぽい相手を、下手に刺激するのは、たぶん良くない。
「陛下が御自ら、姫君をエスコートですか。仲のおよろしいことで」
オリヴィアスの口調は恭しかったが、何となくその目は、ブランのことさえ馬鹿にしているように見えた。
「……お前は、魔王家に人類の血を入れることに反対か?」
ブランも何かを感じたのか、やや険のある声でオリヴィアスに問いかける。
「いいえ。陛下のお決めになることに、異存はございません。人間界一の美姫を妃となさるのも、魔王として箔がついて、大変よろしいかと」
「ならば、姫が正式に妃となった後は、誠意を尽くすように。人類だからと言って軽々しく扱うことは許さん。良いな」
念押しするように言い残し、ブランは宰相執務室を後にするが……
金の手枷で私の自由を奪っていることは "軽々しく扱う" ことにならないんだろうか……。
「あの男には気をつけろ。ああ言っていたが、結局は人類であるお前を、あの男は快く思っていないだろう」
快く思われていないことは、言われなくても知っている。
何せ、ムリヤリ薬を盛ろうとするくらいだ。
「私の父の正妃に対しても、出自を理由に蔑視していた。もっとも、父の存命中は、それを表に出さなかったがな。私のことも、名門クロード家の血筋と持ち上げながら、内心は妾妃の子と嘲っているのだろう」
ブランは皮肉げな眼差しで笑う。
「……そもそも、何で魔王の妃を、人間から娶ろうとしてるんですか?魔界の民から選べばいいじゃないですか」
私はそもそもの疑問を口にする。
前々から不思議に思ってたんだよね。
何で魔王とか人外のラスボスが、人間の姫を攫いたがるのか。
種族の血が薄まって、良くないんじゃないかと思うんだけど。
「一つには、人類の戦意をくじくためだ。人間の王国の "宝" たる姫が、魔王の所有物になるということは、人類にとって敗北であり屈辱。人類が魔界に屈したという、何より分かりやすい "証" となる」
……前から薄々思っていたけど、魔界人の思考回路って、本当にシュミが悪い。
「もう一つの理由は、魔王家の血を薄めるためだ」
ブランは思いもよらない話をしだした。
「魔王は代々、顔も良く血筋も良い魔界の女を妃としてきた。しかし、それゆえ血が濃くなり過ぎてな……。時々、歪な子が生まれてしまう。強い血と強い血をかけ合わせれば、良い子が得られるとは限らん。強い血同士が反発し、生命としての形を歪めてしまうこともあるのだ」
「……それで、人間の血を入れるわけですか?」
「ああ。何代かに一度、人類の女の血を入れると、ちょうど良い具合に血が "調整" されるのだ。私も既に、吸血鬼と堕天使の血が混ざり合っている。だから、伴侶には人間の姫が望ましい」
「……そんな、ブリーダーみたいな理由で伴侶に選ばれても……」
イラッとした気持ちをそのまま口に出すと、ブランはフッと笑った。
「血の問題を抜きにしても、私はお前が気に入っている。私に対して物怖じしないその態度、実に良い……」
言いながらブランは私の顎を掴んできた。
……しまった、油断した。
相手は、私を嫁にしようなんて言ってる魔王。
どんなことをしてくるか、分かったものじゃないないのに……。
「やめてください!ひ……人前ですよ!」
私はとっさに、手枷の鎖を握る魔物たちを指差す。
「気にするな。あれは私の忠実な下僕。背景の一部とでも思っていれば良い」
ブランは全く気にする素振りもなく、唇を寄せてくる。
「あんなに存在感のある背景、ありませんから!……って言うか、キスとかムリ!」
顔を背けて手でガードしようとした、その時……聞き覚えのある鈍い音が、ブランの後ろから鳴り響いた。
「接吻の強要はセクシャル・ハラスメントだ。魔界のトップがそんなことでどうする」
「スカイ、貴様……何度主君に手を上げたら気が済むのだ」
ブランが眼光鋭く振り返った先には、黒衣のスカイがブスッとした顔で腕組みしていた。
「主を諌めるのも臣下の務め。叱られたくないなら、君主らしい態度を取るんだな、ブラック」
「人に妙なあだ名を付けるな!相変わらず、主君を主君と思わん奴だな」
スカイとブランのやりとりに、私は微妙に不安になる。
……何か、この前見た時と、ブランに対する態度が全く変わっていない気がするんだけど……
ちゃんと、白兵衛の説得が効いてるのかな?
「えっと……スカイ、助けてくれてありがとう。魔王と仲が良いんだね?」
洗脳がどうなったのか分からないので、とりあえず探るように訊いてみる。
「ビジネスパートナーですから、それなりのつき合いはしていますよ。ちなみにブラックと言うのは、いちいちブラン・クロードとフルネーム呼びするのが面倒なので、縮めてみました」
ブランの時とは打って変わり、スカイは私に対しては、相変わらず丁寧な言葉遣いだ。
「主の名を勝手に縮めるな!どれだけやりたい放題なんだ、お前は!」
「えっと……スカイ、白兵衛とは、おしゃべりできたんだよね?」
「はい。興味深い一時を過ごさせてもらっています。もう少しだけ借りていても良いでしょうか?」
白兵衛の話題を出したのに、スカイには動揺のカケラも見られない。
「え?うん。……それだけ?」
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