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ビアンカと共に入場した先。大広間にはその広さに反して客と見える人は少なかった。それでも閑散として見えないのは、豪奢な装飾のおかげだろう。王宮にも負けないほど立派な吊り下がったシャンデリア、そこかしかの花瓶には大輪の花が生けてある。
広間の最奥。
神父の手前に、一人の男が立っていた。
白く輝くような服はレオと揃いのものなのですぐわかる。レオも小さい訳ではないが、頭半分程度はレオを上回る背丈だろう。すらりと伸びた手足、少しだけ癖のある金髪が靡く。
小太りで髪の少ない男を予想していただけに、後ろ姿だけでも衝撃だった。
遠くから見た衝撃は、一歩一歩近づくにつれて違和感へと変化した。
まるで、どこかで会ったことがあるかのような。
そういえば、急に決まったことだったのと、なるべく希望をまだ持っていたかったために名前も肖像画も見ていない。
ビアンカの手が離れ、もうすぐそこにた彼が振り返った。
人懐っこそうなタレ気味の眼差し。眉はやや太め。全体的に可愛らしい顔立ちだが、ガタイと背丈があるため、やたらデカい犬を相手にしている気分になる。
男は、後ろ姿の雰囲気と変わらず、精悍な好青年であった。レオが母に似て近寄りがたいタイプの少しツンとした美人だとすれば、彼は人を寄せ付け、公に人気を獲得するタイプの美人だった。
胸のざわめきが最高潮に達する。
確信した。
レオは彼と会ったことがある。
「レオ先輩、久しぶりですね?」
レオにだけ聞こえるよう、彼が『あの頃』通りの言葉を吐く。
記憶よりも低く掠れた声が妙に色っぽくて耳に残った。
「──ヨアヒム」
この男の名前はヨアヒム・クーネンフェルス。
レオに挫折を味合わせた、大嫌いな後輩だった。
「予想してはいたが、僕の送った肖像画は見なかったらしいな」
砕けた口調に変化する。もう既に後輩と先輩の仲ではなし、更に言えば夫婦になるのだから、むしろこれで良いのだが。
相変わらず、何を考えているかわからない。
何故、ヨアヒムはレオと結婚することを望んだのか?
彼と最後に会った時の記憶は曖昧だが、レオが殴りかかろうとしたことだけは覚えている。少なくとも好かれているなんてことはないはずだ。自分を殴ろうとした相手を好きになる人がいるとしたら、とんだドMだ。
むしろ嫌われている、と考えるのが妥当だろう。
それならば、この結婚はヨアヒムからレオへの、遠回しな嫌がらせかもしれない。
レオの表情が強張ったのを見て、ヨアヒムは静かに鼻を鳴らす。
気まずい空気が流れる中、神父の宣誓が始まる。
神聖な言葉も耳に残らない。
レオの頭は、突如として狂った計画に適応するため、懸命に動いていた。
年上のおじさんに愛されていればいいと思っていたが、相手がヨアヒムだとすれば、もしかするとむしろ虐げられるかもしれない。
父に仕送りするお金さえ手に入らないかもしれない。
「では、誓いのキスを」
漸く、考えに耽っていたレオの耳に神父の言葉が届く。
キス。そうだ、キスをしなければ。
ぎくしゃくしながらヨアヒムに向き合う。
しかし、ヨアヒムはレオを一瞥しただけで、キスをする素ぶりがない。
もしかして、レオからしろと言うことだろうか。
困惑したままの体に無理に命令し、手を動かす。少し位置の高い唇に、自分のものを押し付けた。
ヨアヒムが呆けた顔をしていた気がするが、そのまま離れて距離を取る。
客人たちの拍手がレオたちを祝福していた。
その後、結婚式はつつがなく進んだが、ヨアヒムは必要最低限しかレオに近寄ろうとさえしなかったし、レオもヨアヒムに話しかけることはしなかった。
結婚後の不安も、姉二人と共に話すことで誤魔化す。
式は終わり、客人が見送られると屋敷は途端にがらんとする。
夜。
結婚初夜だった。
広間の最奥。
神父の手前に、一人の男が立っていた。
白く輝くような服はレオと揃いのものなのですぐわかる。レオも小さい訳ではないが、頭半分程度はレオを上回る背丈だろう。すらりと伸びた手足、少しだけ癖のある金髪が靡く。
小太りで髪の少ない男を予想していただけに、後ろ姿だけでも衝撃だった。
遠くから見た衝撃は、一歩一歩近づくにつれて違和感へと変化した。
まるで、どこかで会ったことがあるかのような。
そういえば、急に決まったことだったのと、なるべく希望をまだ持っていたかったために名前も肖像画も見ていない。
ビアンカの手が離れ、もうすぐそこにた彼が振り返った。
人懐っこそうなタレ気味の眼差し。眉はやや太め。全体的に可愛らしい顔立ちだが、ガタイと背丈があるため、やたらデカい犬を相手にしている気分になる。
男は、後ろ姿の雰囲気と変わらず、精悍な好青年であった。レオが母に似て近寄りがたいタイプの少しツンとした美人だとすれば、彼は人を寄せ付け、公に人気を獲得するタイプの美人だった。
胸のざわめきが最高潮に達する。
確信した。
レオは彼と会ったことがある。
「レオ先輩、久しぶりですね?」
レオにだけ聞こえるよう、彼が『あの頃』通りの言葉を吐く。
記憶よりも低く掠れた声が妙に色っぽくて耳に残った。
「──ヨアヒム」
この男の名前はヨアヒム・クーネンフェルス。
レオに挫折を味合わせた、大嫌いな後輩だった。
「予想してはいたが、僕の送った肖像画は見なかったらしいな」
砕けた口調に変化する。もう既に後輩と先輩の仲ではなし、更に言えば夫婦になるのだから、むしろこれで良いのだが。
相変わらず、何を考えているかわからない。
何故、ヨアヒムはレオと結婚することを望んだのか?
彼と最後に会った時の記憶は曖昧だが、レオが殴りかかろうとしたことだけは覚えている。少なくとも好かれているなんてことはないはずだ。自分を殴ろうとした相手を好きになる人がいるとしたら、とんだドMだ。
むしろ嫌われている、と考えるのが妥当だろう。
それならば、この結婚はヨアヒムからレオへの、遠回しな嫌がらせかもしれない。
レオの表情が強張ったのを見て、ヨアヒムは静かに鼻を鳴らす。
気まずい空気が流れる中、神父の宣誓が始まる。
神聖な言葉も耳に残らない。
レオの頭は、突如として狂った計画に適応するため、懸命に動いていた。
年上のおじさんに愛されていればいいと思っていたが、相手がヨアヒムだとすれば、もしかするとむしろ虐げられるかもしれない。
父に仕送りするお金さえ手に入らないかもしれない。
「では、誓いのキスを」
漸く、考えに耽っていたレオの耳に神父の言葉が届く。
キス。そうだ、キスをしなければ。
ぎくしゃくしながらヨアヒムに向き合う。
しかし、ヨアヒムはレオを一瞥しただけで、キスをする素ぶりがない。
もしかして、レオからしろと言うことだろうか。
困惑したままの体に無理に命令し、手を動かす。少し位置の高い唇に、自分のものを押し付けた。
ヨアヒムが呆けた顔をしていた気がするが、そのまま離れて距離を取る。
客人たちの拍手がレオたちを祝福していた。
その後、結婚式はつつがなく進んだが、ヨアヒムは必要最低限しかレオに近寄ろうとさえしなかったし、レオもヨアヒムに話しかけることはしなかった。
結婚後の不安も、姉二人と共に話すことで誤魔化す。
式は終わり、客人が見送られると屋敷は途端にがらんとする。
夜。
結婚初夜だった。
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