6 / 30
5
しおりを挟む
「ん、ん~」
伸びをする。幸にして今日はベッドから落ちていなかった。伯爵家のものより大きなベッドだからかもしれないし、高級な毛布のおかげで夢見は悪くなかったからかもしれない。
自分の呑気さに少し呆れつつ、朝から忙しなく動く使用人達を眺める。
彼らのご主人は結婚相手を飾り立てるのにご執心らしい。目が飛び出るほど高いブランドのオーダーメイドで仕立てられたウエストコートに袖を通す。張り巡らされた刺繍は上品で、値段を予想すると眩暈がしそうだった。コートを羽織り、クラヴァットを付けられている間、心を無にしていた。
元はレオも金に困らぬ貴族の息子だったのに、今ではすぐ算盤を弾いてしまうのだから悲しい性である。
白を基調としたそれは古臭くもなく、かといって流行に突き抜けたわけでもない、センスの良い一品だった。そして何より、一度も測った覚えがないのにぴたりとサイズが合ったのだから恐ろしい。
「短期間でこれほどの品を揃えるのは大変だったろう」
髪のセットを使用人に任せつつ、レオは側に控えているハンネスに話しかける。
「旦那様はこの縁談が決まる前から準備を進めておいででした。バルシュミーデ様のサイズもわからなかったため、ある程度見当をつけたサイズを複数着オーダーしていらっしゃったのですよ」
「つまり、これと少しサイズが違う服があと何着かある、と…?」
正気の沙汰ではない。
使用人の態度や、馬車、与えられた部屋、服などを鑑みるに結婚相手はレオに好意を寄せているように思えるが、昨日から頑なに姿を見せないところが怪しい。
初めはそこまで好かれてないのではないか?なんて思っていたが、服の話を聞いてしまうともしや超ド級の人見知りとか、そういう説が濃厚である。
使用人達の静かな戦いは実を結び、レオは見事に飾り立てられた。
「非常にお似合いです」
レオは自分の顔が良いことをよく理解している。
ある程度品質の良い品であれば、むしろ似合わない衣装などないだろう、と言えるほどに。だが、それにしても。
「ああ……」
生まれてからずっと自分の顔と向き合っていると言うのに、ここまで自分を引き立てる服を着たのは初めてだった。長い付き合いの姉達だって、もしかするとここまで似合う服は注文できないかもしれない。
母に似ていると散々言われていたけれど、母と自分は違う。似合う色も、服装も微妙な差がある。近親者だって難しい微妙な違いを絶妙に突いた服だった。
「あと数十分で式が始まりますので、暫くお待ちください」
本当にギリギリまで粘った使用人達に感謝の意を伝え、ハンネスの言葉に従って待つことにした。
「式では、みんなの主人に会えるんだよな?」
ハンネスは目を瞬かせる。
「勿論でございます。旦那様のご希望でとても小規模な式ではございますが、主催者が顔を見せないなどあるはずがございません。……ああ、もしや昨夜旦那様が会わなかったことで不安を抱かせてしまったのでしょうか」
ハンネスは口を開いて閉じ、固いものを飲み下したような顔をした。
「申し訳ありません。旦那様にも考えがあるのですが、私の口から言えることではありませんので……気になるようでしたら、旦那様に直接お尋ねください」
その内、他の使用人が来て、屋敷の大広間前に案内される。
客人とレオの結婚相手は先に広間に入っているらしい。段取りは口頭で説明されたが、流石にこの静まり返った部屋に一人で入るのは勇気がいる。
緊張で足が震えてきた。
「レオ!」
そこへ、聞き慣れた明るい声が届く。
「ビアンカ姉上!?」
「そ。カサンドラお姉様は身重だから、貴方と一緒に式場の入る役目は私が任されたの」
そもそも、二人がいるとは思っていなかった。
ならば、もしかして。
「お父様はいないから安心して。私が招待を断っておいたわ」
固くなった体が安堵で和らぐ。身内がいるということ、父がいないということは、レオの緊張を解すのに十分だった。
「さあ、いきましょう」
扉が開く。
レオの結婚式が始まった。
伸びをする。幸にして今日はベッドから落ちていなかった。伯爵家のものより大きなベッドだからかもしれないし、高級な毛布のおかげで夢見は悪くなかったからかもしれない。
自分の呑気さに少し呆れつつ、朝から忙しなく動く使用人達を眺める。
彼らのご主人は結婚相手を飾り立てるのにご執心らしい。目が飛び出るほど高いブランドのオーダーメイドで仕立てられたウエストコートに袖を通す。張り巡らされた刺繍は上品で、値段を予想すると眩暈がしそうだった。コートを羽織り、クラヴァットを付けられている間、心を無にしていた。
元はレオも金に困らぬ貴族の息子だったのに、今ではすぐ算盤を弾いてしまうのだから悲しい性である。
白を基調としたそれは古臭くもなく、かといって流行に突き抜けたわけでもない、センスの良い一品だった。そして何より、一度も測った覚えがないのにぴたりとサイズが合ったのだから恐ろしい。
「短期間でこれほどの品を揃えるのは大変だったろう」
髪のセットを使用人に任せつつ、レオは側に控えているハンネスに話しかける。
「旦那様はこの縁談が決まる前から準備を進めておいででした。バルシュミーデ様のサイズもわからなかったため、ある程度見当をつけたサイズを複数着オーダーしていらっしゃったのですよ」
「つまり、これと少しサイズが違う服があと何着かある、と…?」
正気の沙汰ではない。
使用人の態度や、馬車、与えられた部屋、服などを鑑みるに結婚相手はレオに好意を寄せているように思えるが、昨日から頑なに姿を見せないところが怪しい。
初めはそこまで好かれてないのではないか?なんて思っていたが、服の話を聞いてしまうともしや超ド級の人見知りとか、そういう説が濃厚である。
使用人達の静かな戦いは実を結び、レオは見事に飾り立てられた。
「非常にお似合いです」
レオは自分の顔が良いことをよく理解している。
ある程度品質の良い品であれば、むしろ似合わない衣装などないだろう、と言えるほどに。だが、それにしても。
「ああ……」
生まれてからずっと自分の顔と向き合っていると言うのに、ここまで自分を引き立てる服を着たのは初めてだった。長い付き合いの姉達だって、もしかするとここまで似合う服は注文できないかもしれない。
母に似ていると散々言われていたけれど、母と自分は違う。似合う色も、服装も微妙な差がある。近親者だって難しい微妙な違いを絶妙に突いた服だった。
「あと数十分で式が始まりますので、暫くお待ちください」
本当にギリギリまで粘った使用人達に感謝の意を伝え、ハンネスの言葉に従って待つことにした。
「式では、みんなの主人に会えるんだよな?」
ハンネスは目を瞬かせる。
「勿論でございます。旦那様のご希望でとても小規模な式ではございますが、主催者が顔を見せないなどあるはずがございません。……ああ、もしや昨夜旦那様が会わなかったことで不安を抱かせてしまったのでしょうか」
ハンネスは口を開いて閉じ、固いものを飲み下したような顔をした。
「申し訳ありません。旦那様にも考えがあるのですが、私の口から言えることではありませんので……気になるようでしたら、旦那様に直接お尋ねください」
その内、他の使用人が来て、屋敷の大広間前に案内される。
客人とレオの結婚相手は先に広間に入っているらしい。段取りは口頭で説明されたが、流石にこの静まり返った部屋に一人で入るのは勇気がいる。
緊張で足が震えてきた。
「レオ!」
そこへ、聞き慣れた明るい声が届く。
「ビアンカ姉上!?」
「そ。カサンドラお姉様は身重だから、貴方と一緒に式場の入る役目は私が任されたの」
そもそも、二人がいるとは思っていなかった。
ならば、もしかして。
「お父様はいないから安心して。私が招待を断っておいたわ」
固くなった体が安堵で和らぐ。身内がいるということ、父がいないということは、レオの緊張を解すのに十分だった。
「さあ、いきましょう」
扉が開く。
レオの結婚式が始まった。
410
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
竜神様の番
田舎
BL
いつかX内で呟いた、
『えーん、えーん…💦
竜人の攻めが長いこと探してた番の人間くんを探して(半強制的)に結婚したのに、ツンデレどころかクーデレが過ぎてたせいで、ある日人間くんが「離縁します」と置き手紙残して失踪…!
後悔とブチギレしてる話がなきゃ掃除と洗濯できない😭😭』
という自分の愚痴から始まったツイノベもどきを、再構成と校正しました。
「番」とは何かも知らされず、
選択肢すら与えられなかった人間リオと、
大切にしている“つもり”だった竜人のナガレ。
ちゃんとハッピーエンドです。
双子のスパダリ旦那が今日も甘い
ユーリ
BL
「いつになったらお前は学校を辞めるんだ?」「いつになったら俺らの仕事の邪魔をする仕事をするんだ?」ーー高校二年生の柚月は幼馴染の双子と一緒に暮らしているが、毎日のように甘やかされるも意味のわからないことを言ってきて…「仕事の邪魔をする仕事って何!?」ーー双子のスパダリ旦那は今日も甘いのです。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる