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第九章 再び潤の部屋にて
アダムの罪
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潤は、明るく晴れた五月の朝日が射し込む窓を背に、アダムが、神の前で告解するように、悪びれない裸身をさらしていた。
このアダムは、この狂った家を楽園とみるならば、知恵の実を食べる前なのだろう。すると僕は、蛇かイブか。叔父様こと大洗氏は神ではないので、楽園追放上等なのだが、潤にとっては神なのだ。狂った楽園のルールしか知らない潤は、楽園外で、苦労することは目に見えていた。
学校では、まだ、美しさと聡明さと、妙な純粋さで、周囲を魅了して、ルールにはずれた振る舞いをしていても、許されている状態だった。それでもすでに、潤は常に、孤独と疎外感に悩まされているようではあった。
とはいうものの学校では、比較的のびのびと過ごしていたようだった。一年の文化祭前までは。
文化祭で上級生に嬲られたのが、学校では安全だという潤の希望を、打ち砕くことになったのだろう。それから、精神的安息の場を失った潤は、快楽にそれを見出すようになっていったものと思われた。それが、美しい潤にとって一番手に入りやすいドラッグだったから、だろう。
大洗氏は、本来潤が受け取るべき正当な財産や権利を保留という形で掌握していたので、本当に潤の手に経済的権利が渡るかは、大洗氏の胸先三寸のようだった。そんなことも、潤が大洗氏や大洗家の人々に縛られている理由だっただろう。
潤は、ギリシャ神話の神のように、一人、裸身でいることに、たいした恥じらいも見せずにいた。裸身に抵抗がないのは、幼い時から、いつも、こうだったせいなのかもしれない。それでも、媚態の一つとしてかもしれないが、恥部を手で隠していたのが、かろうじて人間らしかった。潤は真面目くさった顔で邪教の儀式の告解をした。
「俺は、純情な友達を、たぶらかしました。童貞の少年を、いやらしい話で興奮させ、そそのかし、キスをして、恋人にしました。森で彼と兄と三人でセックスをして、家でもしました。彼が兄に狙われるのを知りながら放置し、僕は、その間、叔父の妻と姦淫の罪を犯しました。人妻を誘惑した上で非情にも捨て、彼女を絶望させ自殺未遂の罪を犯させました。また、その直後、叔父と変態的なサドマゾヒズムの淫欲に耽り……」
「よろしい」
大洗氏は、遮った。ことが自分に及ぶのを避けたようにも受け取れた。
それにしても、潤の罪状は、なかなかどうして大したものだった。僕の恋人は、虫も殺さぬ綺麗な顔をして、とんだ不良少年だったのだ。
「もういい。十分だ。全て述べなくても今述べたものだけでも充分すぎるくらいの罪だ。それだけ自覚してはっきりと述べられるならば、自分がお仕置きを受けなければいけない罪深い子だということが、よくわかっているはずだ。そうだね? 潤」
「はい」
潤は深妙な顔つきで答えた。
「お前は、さすが賢い子だね、潤」
潤は、ほめられて頬を染めた。いや、そこで嬉しがってる場合と違うから、と僕は突っ込みたかったが、まるで神聖な儀式でもしているかのような大真面目な二人の雰囲気は、口をはさむことができる感じではなかった。
「お前は、すすんで罰を受けたい気持ちになっていることだろう」
うやうやしくいかなる仕置きにも甘んじようという覚悟の面持ちの潤に、大洗氏は満足げに一人首肯した。
「さて、君だが」
と潤に対する、お裁きを終えた叔父様は、僕を振り返った。傍聴人のつもりでのんきに見学していた僕は、まさか自分が被告人席に座っていたとは知らなかったので、お鉢が回ってきたことに、あわてた。
「礼拝堂の裏でしていたのは、よく見えたよ。噴水の所でもね。いけない子だね」
「見ていたんですか!?」
僕は、驚いて尋ねた。
「当然だよ。監督責任もあるからね。不審者が寄ってきでもしたら大変だ」
確かにそれはそうだが、そういうまともな理由だけじゃなくて、絶対、見て楽しんでただろう、このオヤジ、と僕は思った。大洗氏に、僕の淫らな行いを見られていたのだと知って、それで、寝ないかなどと誘われたのか、と先ほどのことを納得した。
「潤、机の上に乗りなさい」
頭のネジがはずれているかのような、ぶっ飛んだ叔父様、大洗氏が潤に告げた。罪状認否で、あっさり罪を自白させられた潤に対して、刑罰の執行が始まるらしかった。
「机に手をつくのでは、だめなの?」
潤は、机に乗るのが、嫌そうだった。
「鞭で、ぶっていいから」
潤は、上目づかいで叔父様にお願いした。
「では、友達の方をそうしてあげよう」
「ええっ ?」
潤が驚いた。
「さっきから、お前の友達は興奮して我慢ができないようだからね。そうだろう?」
と大洗氏が僕に確認した。僕は、そうだとも言いかねたが、そうでないとも言えなかった。
「下を脱ぎなさい」
大洗氏は僕に命じた。
僕は確かに興奮していたので、気持ちよくしてもらえるなら、と思って、下を脱いだ。潤が、あまりにも気持ちよさそうだったので、自分もしてほしくなったのだ。それに潤ばかり叔父様にかまってもらえるのが、うらやましくなっていた。さっき断ったのは、寝ないかと言われたからで、そんなことしたら、また潤に殺されかかるかもと思って警戒した。それに、そうでなくても会ったばかりの叔父様に、誘われて、うんと言う少年なんているわけない。いくら友達の叔父様と言ったって、どんな人かわからないのに。それにまあ、常識的な考えでは普通、友達の家族と寝たりしないだろうし。
鞭というのは、ちょっとこわいけど、寝るよりは軽いかな、などと思ったのだ。痛そうだけど、お尻に挿れるのよりは痛くなさそうだ。寝ないかという誘いにうんと言ったら、挿入を断るのは難しいのかもしれない。譲さんは無理やりしなかったけど、潤には無理やりされそうになったし。それでも同い歳で体格も同じくらいの潤だから、押しとどめられた。正確には僕のが数ヶ月年上で、体重は僕のがあったし、潤はたぶん後遺症のせいか時々ぼうっとして集中力を欠いているようだったので、僕のが性的経験が少ないというハンデがありながら互角に闘えたんだと思う。
このアダムは、この狂った家を楽園とみるならば、知恵の実を食べる前なのだろう。すると僕は、蛇かイブか。叔父様こと大洗氏は神ではないので、楽園追放上等なのだが、潤にとっては神なのだ。狂った楽園のルールしか知らない潤は、楽園外で、苦労することは目に見えていた。
学校では、まだ、美しさと聡明さと、妙な純粋さで、周囲を魅了して、ルールにはずれた振る舞いをしていても、許されている状態だった。それでもすでに、潤は常に、孤独と疎外感に悩まされているようではあった。
とはいうものの学校では、比較的のびのびと過ごしていたようだった。一年の文化祭前までは。
文化祭で上級生に嬲られたのが、学校では安全だという潤の希望を、打ち砕くことになったのだろう。それから、精神的安息の場を失った潤は、快楽にそれを見出すようになっていったものと思われた。それが、美しい潤にとって一番手に入りやすいドラッグだったから、だろう。
大洗氏は、本来潤が受け取るべき正当な財産や権利を保留という形で掌握していたので、本当に潤の手に経済的権利が渡るかは、大洗氏の胸先三寸のようだった。そんなことも、潤が大洗氏や大洗家の人々に縛られている理由だっただろう。
潤は、ギリシャ神話の神のように、一人、裸身でいることに、たいした恥じらいも見せずにいた。裸身に抵抗がないのは、幼い時から、いつも、こうだったせいなのかもしれない。それでも、媚態の一つとしてかもしれないが、恥部を手で隠していたのが、かろうじて人間らしかった。潤は真面目くさった顔で邪教の儀式の告解をした。
「俺は、純情な友達を、たぶらかしました。童貞の少年を、いやらしい話で興奮させ、そそのかし、キスをして、恋人にしました。森で彼と兄と三人でセックスをして、家でもしました。彼が兄に狙われるのを知りながら放置し、僕は、その間、叔父の妻と姦淫の罪を犯しました。人妻を誘惑した上で非情にも捨て、彼女を絶望させ自殺未遂の罪を犯させました。また、その直後、叔父と変態的なサドマゾヒズムの淫欲に耽り……」
「よろしい」
大洗氏は、遮った。ことが自分に及ぶのを避けたようにも受け取れた。
それにしても、潤の罪状は、なかなかどうして大したものだった。僕の恋人は、虫も殺さぬ綺麗な顔をして、とんだ不良少年だったのだ。
「もういい。十分だ。全て述べなくても今述べたものだけでも充分すぎるくらいの罪だ。それだけ自覚してはっきりと述べられるならば、自分がお仕置きを受けなければいけない罪深い子だということが、よくわかっているはずだ。そうだね? 潤」
「はい」
潤は深妙な顔つきで答えた。
「お前は、さすが賢い子だね、潤」
潤は、ほめられて頬を染めた。いや、そこで嬉しがってる場合と違うから、と僕は突っ込みたかったが、まるで神聖な儀式でもしているかのような大真面目な二人の雰囲気は、口をはさむことができる感じではなかった。
「お前は、すすんで罰を受けたい気持ちになっていることだろう」
うやうやしくいかなる仕置きにも甘んじようという覚悟の面持ちの潤に、大洗氏は満足げに一人首肯した。
「さて、君だが」
と潤に対する、お裁きを終えた叔父様は、僕を振り返った。傍聴人のつもりでのんきに見学していた僕は、まさか自分が被告人席に座っていたとは知らなかったので、お鉢が回ってきたことに、あわてた。
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僕は、驚いて尋ねた。
「当然だよ。監督責任もあるからね。不審者が寄ってきでもしたら大変だ」
確かにそれはそうだが、そういうまともな理由だけじゃなくて、絶対、見て楽しんでただろう、このオヤジ、と僕は思った。大洗氏に、僕の淫らな行いを見られていたのだと知って、それで、寝ないかなどと誘われたのか、と先ほどのことを納得した。
「潤、机の上に乗りなさい」
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と大洗氏が僕に確認した。僕は、そうだとも言いかねたが、そうでないとも言えなかった。
「下を脱ぎなさい」
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僕は確かに興奮していたので、気持ちよくしてもらえるなら、と思って、下を脱いだ。潤が、あまりにも気持ちよさそうだったので、自分もしてほしくなったのだ。それに潤ばかり叔父様にかまってもらえるのが、うらやましくなっていた。さっき断ったのは、寝ないかと言われたからで、そんなことしたら、また潤に殺されかかるかもと思って警戒した。それに、そうでなくても会ったばかりの叔父様に、誘われて、うんと言う少年なんているわけない。いくら友達の叔父様と言ったって、どんな人かわからないのに。それにまあ、常識的な考えでは普通、友達の家族と寝たりしないだろうし。
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