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第一章 妖術鬼の愛娘
【覇闘】の掟②
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放っておいたらこの二人はそれこそ明日の朝になるまで舌戦を展開しているだろう…そう判断した冬河黎輔は、彼自身の疑問もあり、意を決して会話に割って入った。
「いきなり失礼します、光城さん。
自分は絆獣聖団の冬河黎輔です。
無礼を承知で伺いますが、覇闘が明日に迫っているのにこうして電話を掛けてきたということは、当然何らかの意図があってのことでしょう…?
事ここに及んで、このまま口喧嘩を続けたって何の意味もない…、
どうか、そろそろ要件をおっしゃって頂けませんか?」
剛駕嶽仁が切った啖呵に更に噛み付くつもりであったらしい“光至教最強戦士”は不意を打たれてうぐっと言葉を飲み込んだが、先程までの獅子吼とは別人のように打って変わった穏健な口調で話し始めた…。
「…いや、面目ない…つい熱くなってしまって…!
年下のキミにたしなめられて一言も反論出来ぬとは、誠にもってお恥ずかしい限りだ…。
もちろん要件は明日に…しかも冬河に関することなんだ…。
…光城威紅也との覇闘、光至教側としては[BB]を申し入れたい!!」
「!?」
聖団側の三人は皆一様に息を呑んだ。
これはつまり、光城威紅也は単独では黎輔と戦えず、相棒と組んで覇闘に臨むということを意味する…。
そしてこれは同時に、この勝負を事実上光至教側が捨てたことを意味していた…。
何故ならたとえこの覇闘に黎輔が敗れようとも、聖団は〔覇闘札〕を失わずに済むからだ…!
されど、何故この名実共に最も割に合わぬ悪手を敢えて彼らは採るのであるか…?
「[BB]ですか…。
もちろんこの時点でボクの敗けは無くなったわけですから、嫌も応もありませんがね…。
それならば《闘則》に従って、威紅也氏の相方を教えて頂きましょうか…?」
「もちろんだ…!
…〈人外戦力:登録番号25〉=【妖仙獣】呀門が弟と組んでキミに見えることになる…!」
ここで、一気に酔いが覚めたらしい宗 星愁がたまらず割って入った。
「光城さん、同じく〈聖団中国支部〉の宗 星愁です。
挨拶もそこそこに口を挟むのをお許し願いたいが、あえて代打を立てることなく、基本的にそちらに不利益しかない[BB]を選択するということはそれなりの事情があるのだろうということは十分に察せられるが、こちらとしても未来ある若者を複数の敵者に晒す以上、〈闘了〉は自由裁量でやらせてもらうことになることだけはご承知して頂くことになりますな…!」
「…もとよりそれは承知の上だ。
指摘された通り、我々とて決して好き好んでこうするわけではないということだけは理解して頂きたく思う…!」
「まあ、その点はね…。
その他に変更点はございますか?」
「いいや、以上だ。
それでは明日、【誓覇闘地】でお目にかかろう…。
それでは失礼する」
「お、おいテメエちょっと待ちや…」
当の対戦相手には些かの言葉も残すこと無く一方的に会話を打ち切ったのは、光城玄矢の闘志の昂りを突き付けると同時に、この電話訪問が一軍の将たる彼にとっていかに屈辱的な事態であるのかを如実に感得させた。
「これは予想外の展開になったな…!
しかも前日になって伝えてきたということは、何らかのアクシデントが突発したと見るしかないが…。
どうだ黎輔、威紅也を分析する過程で何か前兆はあったのか?」
「いや、別に…。
っていうか、今までの戦いで対戦相手の最近の勝敗以外の近況をキャッチ出来たことがただの一度でもありましたかね?
そもそも覇闘は撮影厳禁(違反した場合の罰則は一年間の参戦除外!)だから確たるデータはそもそも存在しませんし、彼自身の実戦は実に八ヶ月ぶりというじゃないですか?
まあ、ボクもここ二戦は相手が軽かったこともあって小型絆獣使ってお茶を濁してたから人のことは言えませんけど、光至教のNo.2としてはちょっとあり得ない展開ですよね…急病にでもなったのかな?」
白皙の美少年も不愉快そうに眉根を寄せつつ、深刻な表情で応じる。
「うむ…そうとしか思えんが…。
だが[PW]じゃなくあえて[BB]を採ったのは、光至教の意向じゃなくてその上の…」
星愁の言に嶽仁と黎輔が同時に頷く。
「妖術鬼の命令ってことですか…」
「たとえコンディションが最悪でも敵に背中を見せることは許さん、ってか…?
異世界人のくせに、妙に浪花節的な野郎だな…。
あ~あ、黒焦げになっちまった、
残ったら明日の朝喰おうと思ったのに!
あの野郎、これでますます許せなくなっちまったぜ!
明日は食い物の恨みってやつを骨の髄まで味わわせてやるわッ!!」
ロースターのスイッチは嶽仁と玄矢の舌戦中に黎輔が切っていたが、放置が長すぎたため片面の炭化は免れ得なかったようであった。
「全く意地汚ねえな…せめて当日の朝メシはあっさりと、タンメンかたぬきうどんあたりに抑えとけよ…。
だがまあ、これでとりあえず覇闘札の喪失は最悪でも1枚に留まるわけだ…、
尤も威紅也が殆ど戦闘不能の状態だとしても呀門って妖仙獣は連中にとっての切り札的存在だろうから、黎輔クンの負担が些かも軽減されるわけじゃないだろうが…。
むしろ人間じゃない分、ストップ掛けてもすぐにゃ止まってくれやせんだろうからな…!
何しろおまえも久々の〈磁甲戦〉だ、老婆心ながら忠告しておくが限界以上に気張る必要なんてないから、“20分間の〈覇闘刻〉”を無傷で闘了することだけを考えればいい…。
何しろ、今回の覇闘ではあくまでもおまえに関する限り、敗けは無いんだからな!」
「いきなり失礼します、光城さん。
自分は絆獣聖団の冬河黎輔です。
無礼を承知で伺いますが、覇闘が明日に迫っているのにこうして電話を掛けてきたということは、当然何らかの意図があってのことでしょう…?
事ここに及んで、このまま口喧嘩を続けたって何の意味もない…、
どうか、そろそろ要件をおっしゃって頂けませんか?」
剛駕嶽仁が切った啖呵に更に噛み付くつもりであったらしい“光至教最強戦士”は不意を打たれてうぐっと言葉を飲み込んだが、先程までの獅子吼とは別人のように打って変わった穏健な口調で話し始めた…。
「…いや、面目ない…つい熱くなってしまって…!
年下のキミにたしなめられて一言も反論出来ぬとは、誠にもってお恥ずかしい限りだ…。
もちろん要件は明日に…しかも冬河に関することなんだ…。
…光城威紅也との覇闘、光至教側としては[BB]を申し入れたい!!」
「!?」
聖団側の三人は皆一様に息を呑んだ。
これはつまり、光城威紅也は単独では黎輔と戦えず、相棒と組んで覇闘に臨むということを意味する…。
そしてこれは同時に、この勝負を事実上光至教側が捨てたことを意味していた…。
何故ならたとえこの覇闘に黎輔が敗れようとも、聖団は〔覇闘札〕を失わずに済むからだ…!
されど、何故この名実共に最も割に合わぬ悪手を敢えて彼らは採るのであるか…?
「[BB]ですか…。
もちろんこの時点でボクの敗けは無くなったわけですから、嫌も応もありませんがね…。
それならば《闘則》に従って、威紅也氏の相方を教えて頂きましょうか…?」
「もちろんだ…!
…〈人外戦力:登録番号25〉=【妖仙獣】呀門が弟と組んでキミに見えることになる…!」
ここで、一気に酔いが覚めたらしい宗 星愁がたまらず割って入った。
「光城さん、同じく〈聖団中国支部〉の宗 星愁です。
挨拶もそこそこに口を挟むのをお許し願いたいが、あえて代打を立てることなく、基本的にそちらに不利益しかない[BB]を選択するということはそれなりの事情があるのだろうということは十分に察せられるが、こちらとしても未来ある若者を複数の敵者に晒す以上、〈闘了〉は自由裁量でやらせてもらうことになることだけはご承知して頂くことになりますな…!」
「…もとよりそれは承知の上だ。
指摘された通り、我々とて決して好き好んでこうするわけではないということだけは理解して頂きたく思う…!」
「まあ、その点はね…。
その他に変更点はございますか?」
「いいや、以上だ。
それでは明日、【誓覇闘地】でお目にかかろう…。
それでは失礼する」
「お、おいテメエちょっと待ちや…」
当の対戦相手には些かの言葉も残すこと無く一方的に会話を打ち切ったのは、光城玄矢の闘志の昂りを突き付けると同時に、この電話訪問が一軍の将たる彼にとっていかに屈辱的な事態であるのかを如実に感得させた。
「これは予想外の展開になったな…!
しかも前日になって伝えてきたということは、何らかのアクシデントが突発したと見るしかないが…。
どうだ黎輔、威紅也を分析する過程で何か前兆はあったのか?」
「いや、別に…。
っていうか、今までの戦いで対戦相手の最近の勝敗以外の近況をキャッチ出来たことがただの一度でもありましたかね?
そもそも覇闘は撮影厳禁(違反した場合の罰則は一年間の参戦除外!)だから確たるデータはそもそも存在しませんし、彼自身の実戦は実に八ヶ月ぶりというじゃないですか?
まあ、ボクもここ二戦は相手が軽かったこともあって小型絆獣使ってお茶を濁してたから人のことは言えませんけど、光至教のNo.2としてはちょっとあり得ない展開ですよね…急病にでもなったのかな?」
白皙の美少年も不愉快そうに眉根を寄せつつ、深刻な表情で応じる。
「うむ…そうとしか思えんが…。
だが[PW]じゃなくあえて[BB]を採ったのは、光至教の意向じゃなくてその上の…」
星愁の言に嶽仁と黎輔が同時に頷く。
「妖術鬼の命令ってことですか…」
「たとえコンディションが最悪でも敵に背中を見せることは許さん、ってか…?
異世界人のくせに、妙に浪花節的な野郎だな…。
あ~あ、黒焦げになっちまった、
残ったら明日の朝喰おうと思ったのに!
あの野郎、これでますます許せなくなっちまったぜ!
明日は食い物の恨みってやつを骨の髄まで味わわせてやるわッ!!」
ロースターのスイッチは嶽仁と玄矢の舌戦中に黎輔が切っていたが、放置が長すぎたため片面の炭化は免れ得なかったようであった。
「全く意地汚ねえな…せめて当日の朝メシはあっさりと、タンメンかたぬきうどんあたりに抑えとけよ…。
だがまあ、これでとりあえず覇闘札の喪失は最悪でも1枚に留まるわけだ…、
尤も威紅也が殆ど戦闘不能の状態だとしても呀門って妖仙獣は連中にとっての切り札的存在だろうから、黎輔クンの負担が些かも軽減されるわけじゃないだろうが…。
むしろ人間じゃない分、ストップ掛けてもすぐにゃ止まってくれやせんだろうからな…!
何しろおまえも久々の〈磁甲戦〉だ、老婆心ながら忠告しておくが限界以上に気張る必要なんてないから、“20分間の〈覇闘刻〉”を無傷で闘了することだけを考えればいい…。
何しろ、今回の覇闘ではあくまでもおまえに関する限り、敗けは無いんだからな!」
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