ボクらは魔界闘暴者!

幾橋テツミ

文字の大きさ
上 下
2 / 60
第一章 妖術鬼の愛娘

【覇闘】の掟①

しおりを挟む
「…今更言うのもアレだが、とてもいい趣味とは言えんな…。

 尤も稼業を意識しての演出のつもりなのかもしれんが…。

 せめて、『魔笛』あたりにすりゃいいものを…」

「でもモーツァルトの着メロに、果たしてその曲あんのかよ?

 まあ、探しゃああるんだろうが…。

 それよりテメーいっつもケチつけやがるが、あのドブ川を引っ掻き回したような〈ブラックメタル〉なんざよりゃよっぽどいい趣味だと思うぜ…!」

 したたかに酔った盟友の非難めいた視線を傲然とはね返しつつ巨漢が反撃するが、自身の愛好物をあげつらわれたイケメン整体師が忽ち目を吊り上げていきり立った。

「何いっ!?

 てめえ一回も聴いたことねえくせに、何を聞いたふうなことをッ‼」

──聴くに耐えんという意味ではどっちも同じじゃんか…。

 そもそも、今の音楽シーンに【SILKY⚔BRADES】以外に聴くに値するシロモノがあるっていうのかよ?

 …17年の悩み多き人生において、唯一の心のオアシスというべき5人組のアイドルユニットの光り輝く麗姿を想起しつつ心中で吐き捨てた黎輔であったが、目下の最大の苦悩は二年越しのである百年に一人レベルの美貌&歌唱力&ダンス力を誇る不動のセンター(もちろん人気もダントツ)=桂城聖蘭かつらぎせいらに熱愛が発覚したという衝撃の事実である!

 意外にも相手は最も身近にミュージシャンをはじめとする芸能関係者などではなく、新進気鋭にして超絶美形の青年実業家ということであったが、よほどの〈上○国民〉ででもあるものか、腹立たしいことにその正体は闇のベールに包まれたままであった(そもそもが違うのだから知り得たところでどうなるものでもないが)…。


「うおっ!?、お、おい、ちょっと待ってくれよ!
  
 何と明日の対戦相手から電話がかかって来たぜ‼」

「…な、何だとッ?

 だがどうして光城家ヤツらだと分かる!?」

 アルコールの魔力によって普段のクールさを根こそぎ剥奪されたか、無様に狼狽する星愁に黙って差し出されたスマホ画面を覗き込んだ二人の目を、

“光霊至聖教団 岡山県支部 T野分教会”

 の文字がしたたかに打った。

「そういや、相手は全国に根を張るカルト集団だったんだっけ…。

 (不謹慎にも含み笑いしつつ)だが、何でまたT野あそこから…?

 リラックスするため…いや、明日の運試しのためにナイター競輪でもやってんのかよ?
 
 それに、何で連中がアンタの番号を知ってんだ?」

「知るかよ…とりあえず出るしかねえだろ」

 まずジョッキの底に残った烏龍茶を飲み干し、ボリュームを最大にしてからスピーカーをONにした剛駕嶽仁だが、最初ハナからまともな会話を交わすつもりはないらしく、

「ああ!?一体何の用だよッ!?」

 とまずは痛烈な先制パンチをかました。

 当然それも想定内の反応であったのであろう、一瞬息を呑む気配こそ感じられたものの、直ちに落ち着いた野太い声が返される。

「いや、戸惑うのは尤もだ…、

 だが、こっちとしても決戦を明日に控えてこんな電話を掛けるのは心苦しい限りだということだけは察してもらいたい…。

 実はな…」

──コイツ、オレより渋い声してやがる…ということは…。

 忽ち闘志を掻き立てられた自称“備前の覇王”は精一杯凄みを効かせて割って入った。

「それより、何でオレの番号知ってんだよ?

 気の毒な信者使ってコソコソスパイ行為やってんじゃねえぞコラァッ‼

 ああ?そうじゃねえスかね!?

 “光至教最強戦士”光城玄矢さんよッ‼」

 返答は、銅鑼ドラを打ち鳴らしたかの如き爆笑であった。

 巨漢と酔漢はぽかんと口を開けて理解不能を表明するが、聡明なる高校生は渋面で無糖炭酸水を飲み干し、コップを叩き付けて苛立ちを表現する。

──全くアホだよな!

 これで一気に会話の主導権を握られちまったし、その流れ次第じゃ明日の覇闘にも大いに影響するだろう…。

 少なくともさっきまではタケさんと玄矢アイツの戦闘力は少なくとも五分、と見てたけど、どうやら雲行きが怪しくなってきちゃったぜ…。

 …光城玄矢の野放図な高笑いはたっぷり15秒は続き、ようやく会話に復帰したものの、まだ尾を引いているようであった。

「グフフハッ…ああ、どうも失礼。

 だが、剛駕嶽仁…いや、【ヤマルウト】(岡山とオカルトを掛け合わせた店名)オーナーさんよ、フリマやオークションサイトに堂々と載っけといてその言い草はねえんじゃね!?」

「あっ…‼」

 まさに取り返しの付かない痛恨のミスであった。

 やらかしちまった…まさに絵に描いたようなTHE・自爆じゃねえか…!

──ああ、これで“岡山の剛駕嶽仁は後先考えず感情を爆発させるイタすぎるおバカ“との烙印を押され、瞬く間に敵陣営に知れ渡ることだろう…。

 ちきしょう…せっかく苦心して作り上げた〈オカルトショップオーナー〉という、“神秘と凄みある知性”を演出するためのがこれで台無しじゃねえか‼

 …こうなったら明日、玄矢ヤツして口を塞ぐ(手遅れだが)しかこの恥辱をそそぐ術はねえ…!

 かくて主導権をガッチリと握った光城一族の嫡男は、一旦飲料で唇を湿したものとみえ、舌も滑らかに喋り始めた。

「まあ、そっちもキャリアを重ねる過程で少なからぬダメージを脳に蓄積してるだろうし、多少の物忘れはやむを得んだろう…。

 …くっくくく(苦しそうな忍び笑い)…。

 幸いにも、オレにはまだはないがな…。

 ひっひひ…それにな、光城家こっちはアンタの店からネットで何度も購入してる、いわば“お得意様“なんだぜ…。 

 おっと、誤解するなよ?

 もちろんオレにそんな不健全な趣味は無くて、もっぱら買ってるのはオカルト狂いの末っ子(ついでに引きこもりの中学生)・橙哉とうやだがな…。

 だが喜べよな、我が妹ながらすっげえ美人で画家を目指してる美大生の長女(名前は教えられねーよ、当たり前だろうが!)もちょくちょくアンタの“フリマの出店”を物色してるらしいぜ。

 のくせに、妙に品揃えが充実してるんだってよ。

 ついこないだも、何万もする東欧の幻想画家の画集をまとめ買いしたって言ってたぜ。

 ホームページの店主日記ブログもその濃すぎる内容にハマって毎日チェックしてるとか…。

 ああ、それから、倉敷にはぜひ一度行きたい美術館があるから、その折には絶対ヤマルウトに立ち寄りたいって…、

 …バーカ、ウソに決まってんだろうが!

 てめえの立場も忘れて調子に乗ってんじゃねえぞ、このクソ田舎のゴリラ野郎ッ‼」 

 相手が一通り言いたいことを言い終えて溜飲が下がったのを見計らい、剛駕嶽仁が静かに語り始めた。

「…さっきから黙って聴いてりゃ、とても“宗教関係者”とは思えねえ発言のオンパレードだが、テメエらの人間性なんざ一皮きゃあその程度だろうからまあそれはいい…。

 だが、これだけは言わせてもらうぜ…。



 もうガキじゃねえんだから分かってるだろうが、一旦吐いたツバは飲み込めねえぜ…!

 覚えとけっ、

 なあ、プライド高き東京人さんよ、

 テメエが反吐が出るほど嫌いらしいこの〈大都会オカヤマ〉で、人生最後の一夜をせいぜい楽しめやッ‼」



 



 
 




 


 


 



 

 
 



  

 

 



 

 

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したところで

緑窓六角祭
ファンタジー
普通の男子高校生である篠崎陽平はどうやらクラスごと異世界に転移したらしいのだが、よくわからないので、友人の栗木と佐原と3人で手探りで地味にやってくことにした。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません ※カクヨム・アルファポリス重複投稿

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...