霊感少女は事件がお好き?

てめえ

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第11話 友人の死に涙する霊感少女 後編

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ネアの村を離れる直前、司祭様から耳打ちをされた。
行為中どこか上の空で聖女たちの事を見ておらず、
別の誰かの名前を叫び、それは女性名ではない。
そもそも途中で諦める状態。
どの聖女からもそのような報告があった。と。
セイリオスの言った、団員達は初めから団長に惹かれているという言葉。
どこか信じたくはなかったが、そういう事なのだろう。
それにしても、なかなか失礼な奴らだ…。
あんなにはしゃいでいたくせに。
「お手を煩わせてしまい大変失礼いたしました……」
深々と謝罪すると、司祭様はゆったりと微笑んだ。
「諦めた先に光を灯すからこそ、私共は聖女を名乗れるのです。
「副団長様。これは、独り言になりますが。
煩う殿方は中々に愛い。と。皆、大変喜んでおりました。
新たな命の廻りに感謝いたします」
……さすが、プロ集団である。


馬に乗り先頭を行く団長をチラリと見た。
彼こそが、団員達の煩いの元。
ボサボサの髪。
凪いだ、底知れない目。
顎髭の生えた、いかつい人がそこにいる。
なるほど。
……見た目ではない魅力か……。
雑務係だお手伝いだと揶揄されるくらいには仕事をこなす。
時々…いや、定期的に突拍子もない事をするが、良い上官だ。
良い上官。多分……。
好みは人それぞれなのはわかってはいる。
が、そもそも巨大な魔物を締め殺すような相手と
急所を晒して対峙したいというのはどういう心理なのだろう…。
問題の原因をつきとめなければ、施しようもない。
「副団長殿、そろそろ野営地につきそうだ。団員たちに伝えてくれ」
「は、はい!」
「やけに気合が入っているな。から回ってくれるなよ」
「はい……」
戦闘以外ではなるべく力を使うな。
使わなければいけない時に疲弊していたら元も子もない。というのが団長の方針だ。
力を使わず人力で点呼していく。
地図やコンパスを確認しながら、そう伝える団長は貞操概念がぶっ壊れた人には見えず、
どこか近寄りがたい、威厳のある、いつもの団長だった。

暗くなる前に林の中に野営をはれた。この調子なら明後日にでもつくだろう。
交代で食事、見張り、睡眠をとる。
見張り番につく頃には夜も更け一面暗闇の世界になっていた。
広範囲を確認できるこの目は半端なところで人間仕様なのか、
暗い場所では使い物にならなかった。
かわりに周囲の音を拾う。
団長の言いつけを破るのは少々心苦しいが、
騎士団の自滅回避のためだから許してもらいたい。
魔物の気配がない事よりも、妙な音や会話がない事に安心してしまっていた。
皆どこか、やつれているような……。
王都近辺で行った訓練の野営と、都市を離れた実践の野営は緊張感が違う。
それとも故郷を離れた心労…。はたまた単なる飲み過ぎか?

「副団長。昼間といい、今といい。たるんでいますね。
上に立つものが、更なる上を、訝しむように見るモノではない。
遠征中は些細なことも士気に関わる」
同じく見張り番をしているアルテルフが不機嫌そうに突っかかってくる。
「すまない…」
一瞬しか見ていないつもりだったが、傍から見たらそんな風だったのか?
気をつけないと、どこに起爆装置が隠れているのか分からない。
「全く。前回の遠征で通った道だからといって、うわつくなんて。
どうかしてる……」
景気付けでも願掛けでもなく、通りやすい道だから結果的に利用してるだけだけど……。
俺に言っている、というよりは自分に言い聞かせているようだ。
代々武人の家系に生まれた赤髪の青年。
啓示者のアルテルフは祝福を受けるより前から、軍人として王都につかえていた。
幼い頃から鍛錬や勉強に明け暮れていたのだろう。
優秀な彼には、ことあるごとに苦言を受ける。
けしてただの小言ではなく、身になることだ。
が、毒が少々効きすぎな気もしなくもない……。

「…アルテルフは確か、騎士団物語が好きなんだよな」
「物語ではなく、事実です」
あ、マズイ。と思った時には遅かった。
アルテルフはメガネをかけてもいないのに、くいっとかけ直す動作をする。
「12年前の騎士団が各地の村々や集落を魔物から救ったのはご存じですよね?
それ以前は大きな街や王都と深い繋がりのある地域しか騎士団は行かず
小さな集落はただただ壊滅を待つばかり。
魔物を退けた事で公道を通せるようになり
結果的に国の発展にまで貢献したのは事実。
誇張された書物が出回っていますが、物語ではない」
一呼吸で言い終えた…。
「あー、絵本とか、あったなあ。
妹たちに読んでくれってよくせがまれたよ」
ドラゴンや悪い魔法使いを騎士が倒していき、最後にお姫様と結婚して終わる話だ。
今まで意気揚々と話していたアルテルフが周囲を見渡し警戒する。
だが、団員以外の気配はない。
「その絵本。王都じゃ発売からすぐに発禁食らっているんですよ」
「絵本が?」
「終盤の結婚式。黒髪の姫が特に問題です。
彼女は、この国の王女がモデルですからね」
「結婚式あげてたな。まあ騎士とお姫様が実際に結婚なんてありえないけど……。
お話だろう?問題にするほどのことじゃ」
「まだ所持しているのであれば。処分した方がいいですよ。
王族を巻き込んだ書物。何が起きるかわかりません」
大袈裟な物言いに何を言っているんだと笑い飛ばそうとしたが、
アルテルフの表情は真剣で、どこか強張っていた。

「姫様は、もう隣の国に嫁がれてご子息までいる。
たかがおとぎ話に構うほど国も暇ではないだろう」
「隣の国に行かれたのは、もう1人の第一王女です」
「一人娘と聞いているけど?」
「忌子の、双子の片割れ。描かれてはならない人物です。
まずいでしょう。絵、よくみました?」
「……細かく書かれてはいたけど、発禁って感じでは……」
「一見するとただの模様に、ひとつひとつに暗号が施されているんですよ。
先程言った、双子の件について触れていたり。
呪いまじないの一節が書かれていたり。
危険思想の塊です。とはいえ、歴史的に価値があるのは確か。
ご実家まで取りに行きますので、是非。
我が家の書物庫に保管させてください」
「……そんなに欲しいのか」
「欲しい、欲しくない。その程度の問題ではないのですよ。
下手に処分したら爆発する代物ですからね」
「ば、爆発!?」
「大声をあげないでください。本来ならば私語は厳禁。
居眠りした、というていで気絶させますよ」
すぐ人に手をあげようとするアルテルフ、呪いが施されている絵本。
どちらの方が危険なのだろう。
「アルテルフから話しかけたんだろう。まあ、応じた俺も悪いけど……。
処分もなにも、落書きされて見る影もないから安心してくれ」
「術の施された書物に落書き?正気の沙汰ではありませんね。
……それ以前に。あれは、落書きなんてするような内容じゃない」
鋭く尖った瞳で見詰められる。

確かに、あれは落書きするような内容ではない。
かっこいい騎士が魔物を倒し、お姫様を救う物語。
子供ながらに美しいと思わせる、細やかな背景、柔らかな人物画と、優しい文体。
弟たちはすぐに飽きたけれど。
妹たちの、お気に入りの絵本だった。
「結婚式の場面を見てから、騎士を妹たちがとりあったんだ。
自分達の絵を姫様の上に描いて。
姫様はもう見る影もない。
様々なページで騎士を中心に女の子がひしめきあってる。
作者の人には悪いけど……とんだハーレム本になってるよ」
「んぐふ」
笑いを堪えるような咳払い。
アレを見たら笑ってなんかいられない。
凄まじい執念。
とは言え、絵本はもう、みんな卒業してしまった。
取り合うほど好きだったのに。
成長に合わせた切り替えは、驚くほどにあっさりしている。

「今の話、他言無用ですよ。バレたら副団長、処されますから」
暗闇の中でもくっきりとわかるほど、冷笑するアルテルフは不気味であった。
「騎士団の話、王族の話……。もっと語り合いましょうよ。
多少は融通が効くみたいですし」
「何故、俺に持ちかける。目的はなんだ」
「あなたが副団長である以上、避けては通れない。ただ、それだけのことです」
冷たい声色に、僅かに熱がこもったように感じた。
「ですが。余計なコト起こされても面倒ですし、小出しにしますけどね。
詰め込み教育で狂うガキって哀れじゃないですか。
副団長にはそうはなって欲しくないので」
「俺はガキじゃないし、一応、上司だ。敬えなんていうのはおかしいけど……。
いくらなんでも礼儀ってものがあるだろう」
「一応。ですね。そういうところですよ」
「う……」
交代の時間になり、休憩用のテントで横になる。
下手したら死ぬ情報を唐突に掴まされた。そう思うと気が気ではない…。
いつにも増して眠れないが、隣からは、静かな寝息が聞こえた。
アルテルフ、なんて図太いやつなんだ。
寝付きの良さは純粋に羨ましい。
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