霊感少女は事件がお好き?

てめえ

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第1話 霊感少女降臨?

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 長かった……。

 この一ヶ月、俺はどんなにこの日を待ちわびたことか。



 廊下側の一番後ろの席は、俺に何の実りももたらさなかった。

 隣の席の女子は、無愛想かつ、ガリ勉の田中……。

 別に、美人で愛想が良くて……、なんて高望みはしないけど、俺としては最低限のコミュニケーションがとれる奴が隣に座って欲しかったんだ。



 田中も、良く付き合えば良い奴なのかもしれない。

 お世辞にも美人とは言えないけど、笑えば何となくカワイイような気がするし……。

 まあ、滅多に笑わないけどな。

 それに、田中の反対側に座っていたのが、クラスで二番目に頭の良い小林だから、田中は俺のことなんて見向きもしなかったんだ。



 成績が下から数えた方が早い俺に問題があるのかもしれないが、俺にとっての中学校生活は、勉学に励むことではないのだから仕方がない。

 田中は守備範囲の広い俺にとっての、数少ない死角だったに違いない。

 こう、何て言うか、楽しく伸び伸びとした生活を送ることが俺にとっては大事なんだよ。

 だけど、一人じゃ楽しく伸び伸びとした生活を送ることは出来ない。

 当然、座席の近くに実りのある人間関係が出来なければ、俺の目標の生活は達成されないのだ。






 ……ってことで、今日が席替えの日だったりする。

 教室の隅と言う最悪の場所ともこれでおさらばだ。

 朝のHRが始まるまで、こっそりドキドキしながら席替えを待っていた俺の気持ちは、多分、クラスの誰にもバレていないだろう。



 俺が求めているのは、野郎との人間関係じゃない。

 俺は、男友達に関しては、部活の剣道部も含め不自由していないのだ。

 求めているのは、女子との人間関係……。

 欲を言えば、付き合うところまで……、ってことだが、そこまでいかなくても気軽に話せるような相手が欲しいんだ。

 お互いにファーストネームで名前を呼んだりしちゃってさ……。



 ほらっ、良くあるだろう?

 何となく気の合う女子と親しくなって、気がついたらお互いに好きになっていた……、みたいな展開。

 俺が望んでいるのは、そういうのなんだ。






 席替えは、とどこおりなく進んでいく……。

 番号の書かれた村上先生お手製のくじが、窓側の席から粛々と引かれている。

 オッサン教諭のくせして、村上先生は妙なところだけ几帳面なのだ。



 そうだなあ……。

 今回は、片側だけしか女子と接しない廊下側の席だけは勘弁してもらいたい。

 男子列と女子列は交互に三列だから、確率は三分の二。

 前回、貧乏くじを引いたのだから、この程度の確率くらいはクリアしてもらいたいものだ。



 ……って、よく考えたら、俺が一番最後にくじを引くことになるじゃないか。

 つまり、俺自身には選択権がないってこと?

 一カ月、教室の隅で虐げられて、この仕打ちはどうなのよ?



 ま、まあ……、落ち着け。

 別に、俺に選択権がなくても、確率的には同じはずだ。

 確か、数学の得意な石井がそう言っていた。

 だったら、三分の二をクリアするくらい何とでもなるはずだ。



 くじを引き、番号を確認した奴等は、次々に新しい席についていく……。



 おっ、おい……。

 クラスで一番モテる長谷川愛美の隣は、もう埋まっちゃってるじゃないか。

 それに、密かに俺がチェックしている近藤彩奈の隣も、もう片方は埋まっちまった。

 い、いや……。

 高望みしないと決めたんじゃなかったのか、俺?



 そうだ……。

 まだ、両側女子の席は半分以上も残っている。

 廊下側の席は、俺が今座っている36番以外、全部埋まっているにも拘わらずだ。

 ……ってことは、大チャンスじゃないか。

 誰か、36番を引いてしまえっ!

 それで俺の目的は達成されるのだから……。



 おかしいな……。

 誰も36番を引かない。

 くじの残りは、あと六枚……。

 そろそろ誰かが36番を引き当てて、俺を安心させてくれ。



 おいおい……。

 結局、俺と前の席の新井だけになっちまった。

 だけど、まだ近藤彩奈の隣と36番は空いたままだ。

 天国か地獄か……。

 おらっ、新井、引いちまえよっ!

 

 ……、新井、何番だ?

 36番だろう?

 そうだと言ってくれ!

 こないだ、コーヒー牛乳をおごってやっただろうがっ!



 な、なにぃっ!

 22番だと……?

 ……ってことは。

 ふ、ふざけんなっ!

 二回連続で俺が36番だとぉ?

 新井……。

 もう、おまえにコーヒー牛乳をおごることは一生ない。

 覚悟しろよ……。

 今度おごるときは、おまえの嫌いな豆乳のストレートだからなっ!



 俺は、分かりきっているくじを手に取り、一応確認してみた。

 だが、やはり、俺が手にすべきくじは、確認するべくもなく36番であった……。






 落胆しすぎちまって、俺は机に突っ伏したよ。

 隣を確認する気力もない……。



 心の中で、百回くらい、「クソっ……」って言ってみたけど、気分は晴れない。

 何で……。

 どうして俺だけこんな仕打ちを受けるんだ?

 ほんのささやかな願いじゃないか……。

 女子と仲良くなりたいって望みは……。

 俺、そんなに悪い人間か?

 意外と良い奴だと思うけど、席替えの神様はどう思ってるんだよ?



「ツンツン……」

おいっ、よせ……。

 俺、今、心の余裕がないから、触るな。



「ツンツン……」

何だよ……。

 誰だ、俺の肩を指で突くのは……?

 どうせ、哀れな俺を笑ってる男共だろう?



「ツンツン……」

おいっ、マジで怒るぞ!

 ……って、待て。

 もしかして、隣の女子が俺のことを心配してくれてるのかな?

 だとしたら、片側だけしか女子はいないけど、俺の願望は叶うな。

 うん……、そうだ。

 そうに違いない。

 もし、もう一回ツンツンされたら、俺を心配している女子だと言うことにしよう。



「ツンツン……」

きっ、きたーーーーーーっ!

 もう、俺の思い込みとかって言わせないぞ。

 それに、男だったら、俺の必殺の面を喰らわしてやる。

 さて、じゃあ、一気に顔を上げて確認するぞ……。

 第一声は何かな?



 ガバっ!



「宏太、何事も修行じゃ……」

「えっ?」

「……と、あなたのお祖父さんが仰っているわ」

「……、……」

「あと、朝っぱらから、シャキッとせんかっ! と怒鳴っているわよ」

「……、……」

お、大伴花?

 ま、まさか……、俺は一カ月間、大伴の隣で暮らすのか?



 あの、リアクション薄い率で、ブッチギリのクラストップを誇る……。

 それに、クラスに揉め事があると必ず首を突っ込みたがる迷惑女……。

 しかも、自称、霊感少女という、超うさん臭い奴……。

 さらに、日本人形のような薄い顔……。

 そして、何と言っても、こいつとは親しく付き合える気がまったくしない。

 俺、霊だけはだめなんだ、怖いんだよ。

 だって、あいつら必殺の面も効かないんだろう?



 それにしても、こいつ、何か俺をファーストネームで呼んでなかったか?

 ……って言うか、何で、一昨年に死んだ祖父ちゃんの口癖を知ってるんだ?



 祖父ちゃんは、剣道の錬士八段だったんで、子供を教えることが多かったんだよな。

 だから、よく、

「何事も修行じゃ……」

と、

「シャキッとせんか……」

って、俺も言われたもんだよ。



 もしかして、霊感少女って、マジモンってことか?

 じ、自称じゃなかったのかよ……。



「何じゃ、宏太。まだお化けが怖くて寝しょん便をたれてるのか?」

「んなわけねーだろうがっ!」

「ほう……。小学校五年生のときの話をしてやろうかのう」

「まっ……、待てっ! それ以上言ったらはっ倒すぞ、大伴っ!」

「と、お祖父さんが仰っているわ」

「……、……」

く、クラスの連中が俺を見てる。

 だけど、俺が突然叫んだから見てるだけだよな?

 大伴の言ってたことなんか、聞こえてないよな?



「結城、どうした? 突然、叫びだして」

「い……、いえ。ちょっと、大伴さんと話をしていただけっす」

「そうか。隣同士になって、早速仲良くなったのか。大伴は勉強が出来るから、結城はしっかり教えて貰えよ。もうすぐ中間試験だからな」

「……、……」

おいおい、村上先生……。

 ちげーよ、そうじゃねーんだよ。

 仲良くだって?

 勘弁してくれよ。



 だけど、クラスの連中は、皆、俺を見てニヤニヤしてやがる。

 ちょ、ちょっと待て……、誤解だぞっ!

 俺は、全然、大伴と仲良くなってなんかないぞ。



 霊感少女となんて、俺は絶対に仲良くなりたくないんだからなっ!
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