絶対抱かれない花嫁と呪われた後宮

あさ田ぱん

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三章

35.デュポン公爵夫人の懺悔

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 俺とデュポン公爵夫人は縛られた状態で、話し始めた。できれば普通の状態で話したかったのだが…贅沢を言っていられる余裕はない。

「デュポン公爵夫人に、謝罪しなければならないと思っていました。私が、豊穣祭のことや王女たちの事をいろいろとお願いしたばかりに、巻き込んでしまって…。」
「いえ、アルノー殿下。それは違います。それらのことがあったにせよ、なかったにせよ、これは私の責任です。私の懺悔を聞いていただけますか?アルノー殿下にしか、お話できそうにありません。」
「懺悔…?」
 “懺悔”というデュポン公爵夫人の言葉に俺は首を傾げた。なぜ倒れた側のデュポン公爵夫人に、懺悔することがあるのだろうか…?

「アルノー殿下はあの日、私が吐いたものをご覧になりましたか?何か、変わったことがありませんでしたか?」
「そのことは私も、デュポン公爵夫人にお伺いしようと思っていました。その…食べ物には見えないものが混じっていたのです…。」
「そうですか…。私が生死の境をさまよったのはそれが原因ですね。そしてそれは、王妃様達も飲まれていたものです。」

 デュポン公爵夫人は原因と、それは王妃たちも飲んでいたものだと断定した。しかし…何故、そこまで言い切れるのだろうか?

「どうして、お分かりになるのですか?」
「私にその薬を見せた方が…おっしゃっていました。」
「薬を見せた方が…?」
「その方は、これは王妃たちが飲んでいた、“男児を妊娠する薬だ”とおっしゃいました。この薬を飲んで男児を妊娠したが、世継ぎを産ませてなるものかと妃同士は憎み合い、呪い合ったのだと…!」
「男児を妊娠する薬…?!まさか、そんなものが…?!」
「実際、側妃様は男児を死産されていると…。それは私も噂で聞いたことがあったので…信じてしまいました。」
 そう言えば、父も言っていた、陛下が“身ごもっても死んでしまうなら仕方ない”といって世継ぎを諦めた、と…。

「その…デュポン公爵夫人に薬を見せた方はどうやってその薬を手に入れ…どうしてデュポン公爵夫人がその薬を手に入れたのですか?」
「…その方は王妃様たちと交流している時に、薬の存在を知り偶然手に入れたと。この薬が元凶で呪い合い殺し合ったのだから、この恐ろしい薬を世に広めないため…また後宮の呪いを慰めるために持っていると仰っていました。私はその話を聞いて、その薬が欲しくてたまらなくなりました。男児がほしい…世継ぎをあと数年で産めなければ、第二夫人を迎えると言われていた私は…喉から手が出るほどにそれを欲しました。私には呪い合う第二夫人はまだいないのですから飲んでもいいはずだと。…いくらお支払いすればいいのかと尋ねましたが、その方がどうしても譲れないとお断りになると、私は我慢できずに後宮の部屋へ…。」
 それは誰の部屋?まさか…?俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「…ナタ様の部屋へ忍び込み、薬を飲みました。私が後宮の部屋に向かったことは、デュポン公爵家の執事も証言するはずです。」
「あの日、後宮にいらしたのはそういった訳だったのですね…。」
「そうです。本当に愚かでした。しかし、呑み込んだ後、急激に具合が悪くなって…。あの薬しか原因は考えられません。ナタ様によると、宮廷医ヒューゴ・クラテス伯爵が妃たちに特別に調剤した薬だ、と…。」
「ヒューゴ・クラテス伯爵が…?まさか…!」
「ナタ様にその話を伺った後、ヒューゴ・クラテス伯爵に男児を妊娠する薬のことを後宮のことは伏せて尋ねましたが、そのような薬はないと仰って…。むしろ性別の決定は神の領域だと叱られ、直前に医師契約を反故にした恨みから譲っていただけないのだと私は考え言い合いになり、ヒューゴ・クラテス伯爵とはその場で決別してしまいました。しかし私が薬を飲んで倒れたあと、ヒューゴ・クラテス伯爵が執拗に吐き出したものを探していたと聞き、思ったのです。私に薬を譲らなかったのも、それが毒薬と知っていたからではありませんか?吐き出したものを探していたのは証拠隠滅のため…自分の調剤の失敗を隠すなどの理由があったとしたら…!」
 
 デュポン公爵夫人はそこまで一気に話すと、涙を流した。実際ヒューゴが宮廷医の職を失ったのは陛下に妃達の死が”処方した薬のせいだ”と疑われたからだ。信じたくはないが、それを”うそだ”と簡単に言うことは出来ない。俺は、相槌を打つことさえ出来なかった。

「また、ナタ様も、本当にあれが毒だとご存じなかったのでしょうか?陛下だって、本当にお気づきになられていなかったのですか…?当時からナタ様は宮廷に出入りし、二人は噂になっておられました。それで邪魔になった王妃様たち、今度はアルノー殿下を…!」
「……。」
 それで、“妃達が亡くなられたときに後宮に関わった、すべての人を疑っている”ということか。確かにそうだ。そう言われたら、陛下だって怪しい。でも…。

「デュポン公爵夫人…話していただいて、ありがとうございます。後宮に忍び込んだことは、その…罪を償って頂く必要があると思いますが…。デュポン公爵夫人は“男児が欲しい”という呪いに、かかっていらっしゃったのですね。きっと。」
「……アルノー殿下。殿下にならわかっていただけると思いました。世継ぎが産めない、私の気持ちを…。だから私の罪については、アルノー殿下にお任せしたいのです。よろしいでしょうか?」
「わかりました。私は必ず、犯人を捕まえ後宮の呪いを解きます。犯人を明らかにするにあたり、デュポン公爵夫人のことはまだ公にはできません。苦しいと思いますが…。」
 デユポン公爵夫人は涙を流しながら頷いた。

 周囲から“世継ぎを”、“産めないなら第二夫人を”と言われ、デュポン公爵夫人は相当、追い詰められたんだろう。公爵家でさえそうなのだから、王妃たちのプレッシャーは如何ほどだったか、想像に難くない。
それで真偽不明の、“男児を妊娠する薬”を飲んでしまったのだろうか…。

 どうして、女児では駄目なのだ…。同じ命で、同じ、陛下の血を引いている、聡明な子供たちなのに、まるでいないように扱われる…。
 俺は憤りを感じた。この状況にも、それを利用して妃たちを殺害した犯人にも。

必ず、犯人を明らかにしなければならない…。

 話し疲れた頃、教会から正午の祈りの時間を知らせる鐘が鳴り響いた。
 
 テレーズ様は鐘の音が鳴りやむ前に部屋に戻ってきてデユポン公爵夫人を開放すると、召使に車寄せまで送るように指示した。あれ…?俺のことは…?!

「アルノーはこのままでいいでしょう。少しは反省しなさい。」

 テレーズ様は、フン、と鼻を鳴らすと再び部屋を出行き、本当に、戻ってこなかった。
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