絶対抱かれない花嫁と呪われた後宮

あさ田ぱん

文字の大きさ
33 / 57
三章

33.幽閉・プレイバックPart2

しおりを挟む
 死んだ、と思ったけど死んではいなかった。

 前にもこういことあったよね?王族になると、良くあること?感覚が麻痺しそうだ。
 そして俺は意識を取り戻した後……そうまた、軟禁というか、後宮の自室に幽閉されているのである。


 デュポン公爵家に向かったあの日…俺は何者かに襲われた。俺を助けてくれたのはなんと本当に陛下だったのだ。あの時、聞こえた陛下の声は空耳じゃなかったんだ。でも後に、空耳だったほうが良かった、と思うことになるとは…。
 陛下はあの日、ナタの星詠みによって「俺が何者かに襲われる」と知り、駆け付けたらしい。そうしたら俺が本当に襲われて死にかけてたってわけ!びっくりだよね!ナタの星詠みがピタリ的中…!王城はナタ様への賛美、一色…。
 そうなっちゃうんだったらさ…、あっさり死んだ方が俺、幸せだった説ない?!そんな、恋敵に助けられて、恋の手助けしちゃうなんて…!

 賞賛の的のナタに対して俺はというと……。目が覚めた俺を待っていたのは、目が覚めるような美貌のイリエス・ファイエット国王陛下……の尋問、であった。

「どうして後宮を出た?」
「デュポン公爵夫人のお見舞いに行こうと思いまして…。」
「なぜ、私に黙って?」
「お話をしようとしたのですが、お帰りにならないとのことでしたので…。」
 陛下は俺をじろり、と睨んだ。
「私以外にも、母上にも碌に理由を言わなかったとか…。それになぜ家紋入りの馬車を使わなかった?護衛もろくに付けずに、わざわざ迂回して…。なぜだ?」
 ですから、それは陛下が帰ってこないってことにすべて起因しているわけで…。俺が答えに詰まると、陛下は立ち上がった。
「あ、あの…!」
 助けてもらったお礼とヒューゴに薬を頼みたいと言おうとしたが、陛下に思い切り睨まれた。こ…怖い!美形の睨みは恐ろしい…!俺はそれ以上何も言えず、陛下の後姿を見送るしかなかった。

 それから俺は部屋から出ることを許されていない。食事も自室で取らされて王女達にも会えないのだ!俺は処分を待つ、罪人のように数日過ごしたのだが。…ねえ?!いつまで?!
 っていうか花粉の薬がないと、無理!痒みが引かない…!

 メアリーには呆れられた。
「アルノー様、馬鹿だ馬鹿だとは思っていましたが、こんなにだなんて思いませんでした。大人しくしていれば後宮を追い出されるなどの処分を受けることなく、衣食住くらいは保証されたでしょうに…。」

  そうだな、そうかもしれないけど…。

 陛下がナタと結ばれるのなら、俺はここにはいられない。だって俺…陛下のこと、本気で好きになってしまったから。誰かと結ばれる姿を見て、耐えていることなんて出来ない。だから教会に戻されるというのならば、それはそれで別に構わない。
 
 あとは、王女達と、陛下との約束を果たす…。それだけ。

 あの日、俺の命を救ってくれたのは陛下であり、王女殿下達だ。俺の胸ポケットにあった、金属製の小さな手鏡が、剣先から俺を守ってくれた…。
 俺は割れてしまった鏡を、何とか直せないか、まとまらない思考の中、考えていた…。


 …が、いかんせん痒くて思考がまとまらないのだー!無理!俺は痒みが引かないことをメアリー経由で陛下に訴えて、何とかヒューゴの薬だけは貰えることになった。診察はなしで薬を送ってもらえる、そう聞いていたのだが…。

「頭から被った割に、顔は髪に守られたのか無事ですね。しかし首から、胸にかけて赤みがある。かきむしって広がったようだ。もう、掻いてはいけませんよ!」

 ヒューゴはどうやって後宮に入って来たのか知らないが、俺を診察して丁寧に薬を塗ってくれた。掻かない、というのは非常に難しい。困り果てた俺を、ヒューゴはじっと見つめた。

「アルノー殿下…。あなたが襲われたと聞いた時、肝が冷えました。…しかし何故、貴方は呪いではなく、普通に殺されかけたのですか?」
「え……あれが普通?!」
 全然普通じゃなかったよ?!めちゃくちゃ強いやつに剣で胸をどん、と突かれて…思い出しただけで泣きそう!
「…妃の中であなただけが、実力行使で殺されかけ、連れ攫われそうになった。何故です?」
「俺だけ…?」
「そう、あなただけだ…。やはりあなたは何かを見たのではないですか…?」
 ヒューゴに問い詰められて俺の胸は、ドキン、と大きな音を立てた。ヒューゴは知っていて俺を問い詰めているのだろうか、それとも…?
「よく思い出してください。特にデュポン公爵夫人が倒れたあの日、あなたは何か見ませんでしたか?例えば、夫人が嘔吐したものなど…。」
 ヒューゴは切羽詰まった顔で俺に質問した。それは、何故…?
「私はあの日、苦しむデュポン公爵夫人を必死で看護しました。必死だったので、ほぼ記憶がありません。吐いたものを、と言うなら、私の他にも見たものがいるはずです。」
 俺は当たり障りなく質問に答えた。それに俺自身、他に見たものがいるのかも気になっていた。
「私が駆けつけた時、貴方の服は既に洗われていた。何も痕跡がなかったのです。私も慌てていて…迂闊でした…。」
 ヒューゴは俺の両腕を掴み、顔を近づけて問いかける。その顔は真剣そのもの…。
「私が信じられませんか?」
 
 ヒューゴの問いに俺は思わず、こくんと頷いた。

「ふはっ!」
  ヒューゴも思わず、と言ったように吹き出した。なに、そんなにダメだった?だってヒューゴが怪しいんだから仕方ない!今日だって警備をかい潜って俺のところまでちゃっかりやって来ている。
「アルノー殿下…私は、あなたを信じました。なぜなら、デュポン公爵夫人の応急処置、大変見事でした。あれがなかったら、彼女の命はなかったでしょう。」
「はあ…しかし先日、私に“ここに居座ることが目的だ”!と…おっしゃっていましたが…。」
「なかなか記憶力もよろしい。さすが、陛下が見初めた方だ。」
 見初めたーー?!褒められ慣れていない俺は思わず赤面した。
「そ、そんなことありません。その…。陛下は別に、私のことは…。」
「“別に…”と思っているものを、一国の王、自らが馬を飛ばして助けには行きませんよ…。」
「え…っ?!」
 ヒューゴは真剣な目で俺を見つめた。
「こんなに煽てても、話していただけない?」
「?!」
 “煽てて”話を聞き出そうとしていたのかよ…!最悪…!俺は今度こそ、口をつぐんだ。

「私は諦めません。決して。三人の妃と…もう一人…その死因を解明します。必ず……。」
「ヒューゴ…?」
 三人ともう一人…?陛下の恋人のこと、ご学友のヒューゴも知っているんだろうか?どことなく、哀切を含んだ声だった。ヒューゴは帰り支度をすると俺に微笑みかける。

「イリエスが、なんとも思っていないものを助けに行かない…というのは煽てたのではなく客観的事実ですよ、殿下。」
 
 ヒューゴは手を振って帰って行った。後姿はやはりどことなく切なかった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林
BL
「やっと見つけたましたよ。私の姫」  暗闇でよく見えない中、ふに、と柔らかい何かが太陽の口を塞いだ。    この至近距離。  え?俺、今こいつにキスされてるの? 「うわぁぁぁ!何すんだ、この野郎!」  太陽(男)はドンと思いきり相手(男)を突き飛ばした。 「うわぁぁぁー!落ちるー!」 「姫!私の手を掴んで!」 「誰が掴むかよ!この変態!」  このままだと死んじゃう!誰か助けて! ***  男とはぐれて辿り着いた場所は瘴気が蔓延し滅びに向かっている異世界だった。しかも女神の怒りを買って女性が激減した世界。  俺、男なのに…。姫なんて…。  人違いが過ぎるよ!  元の世界に帰る為、謎の男を探す太陽。その中で少年は自分の運命に巡り合うー。 《全七章構成》最終話まで執筆済。投稿ペースはまったりです。 ※注意※固定CPですが、それ以外のキャラとの絡みも出て来ます。 ※ムーンライトノベルズ様でも公開中です。第四章からこちらが先行公開になります。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

異世界転生したと思ったら、悪役令嬢(男)だった

カイリ
BL
16年間公爵令息として何不自由ない生活を送ってきたヴィンセント。 ある日突然、前世の記憶がよみがえってきて、ここがゲームの世界であると知る。 俺、いつ死んだの?! 死んだことにも驚きが隠せないが、何より自分が転生してしまったのは悪役令嬢だった。 男なのに悪役令嬢ってどういうこと? 乙女げーのキャラクターが男女逆転してしまった世界の話です。 ゆっくり更新していく予定です。 設定等甘いかもしれませんがご容赦ください。

炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 希望したのは、医療班だった。  それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。  「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。  誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。  ……けれど、婚約者に裏切られていた。  軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。  そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――  “雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。 「君の料理が、兵の士気を支えていた」 「君を愛している」  まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?  さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

処理中です...