上 下
27 / 54

【第27話:信頼】

しおりを挟む
 オレの故郷の村は『デルナーク』という何の変哲もない村だ。

 ただ、村にしてはそれなりの規模を持っており、農業だけでなく、他の商売もそれなりに盛んで訪れる人の数も多く、たくさんの人が住んでいる。そんな村だ。

 オレは冒険者になるために王都にやって来るまでは、ずっと村で育った。
 一緒に王都に来たローリエとは残念なことになってしまったが、他の多くの友人や知人は、今もデルナークの村で穏やかな暮らしを続けているはずだ。

 もちろんオレの両親や妹も……。

 その村の近くに、衛兵の一部隊が全滅するような恐ろしいBランクの魔物が現れたというのか……。

「ふぉ、フォーレスト……」

「フォーレストさん……」

 二人がオレを気遣って声を掛けて来てくれたのはわかっていたが、オレはうまく反応することが出来なかった。

 するとそこへ、オックスさんが話しかけてきた。

「こういう話の持って行き方をして、すまなかったね。ただ、フォーレストくんなら、自分の力で何とかしたいと思うんじゃないかと思って、差し出がましい真似をさせて貰った」

「オックスさん……そう、ですね。オレなら勝てるかもしれない……村の皆を救えるかもしれない……」

「フォーレストさん!? ダメです! ちゃんと冷静に考えて決めて下さい!」

 受付嬢のシリアがオレにこの依頼を勧めたくなかったのは、オレの故郷の村の近くで起こったことだったからか。
 冷静な判断が出来なくなり、考えなしで依頼を受けてしまうと思ったのかもしれないな。

 でも……その通りかもしれない……。

「シリア……それでもこれは、受けないわけにはいかない。村のみんなが危険にさらされているんだ」

「で、ですけど、フォーレストさん! フィアやロロアちゃんはどうするのですか!?」

 それは……さすがにこんな危険な依頼に、二人を付き合わせるわけにはいかない。

「悪いが二人には王都で待っ……」

「勝手に決めないで! 私も一緒に行くわよ!」

「わ、私も行きます!」

 オレの言葉を遮って一緒に行くと言い出した二人に驚いたが、すぐにそれはダメだと断った。

「ダメだ。これはオレの個人的な問題だ。二人は王都で待っていてくれ」

 もしこれが他の街や村の近くで起こった事なら、確実に断っていたような割に合わない依頼だ。
 危険だとわかっているのに、二人に受けさせるわけにはいかない。

 だけど、二人は納得してくれなかった。

「いやよ」

「ダメです」

「どうしてだ。これはオレが私情で受けようとしている依頼なんだ」

 なんとか説得してと思ったのだが、次の言葉に反論できなくなってしまった。

「もう、後悔したくないのよ……」

「後悔?」

「フォーレスト、私たちの兄さんはね。次の依頼は危険だからと、私たちに街で待っているように言って……そのまま帰ってこなかったの」

「それでもお姉ちゃんは絶対についていくって言い張ったんだけど、模擬戦で勝てばついて来て良いって言われて、その、それで負けちゃって……」

 前に模擬戦した時に、あんなに勝ちにこだわっていたのは、もしかしてそのせいなのか。

 しかし、どうしたものか……。
 今のオレにとって、彼女たちは家族と同じぐらい大切に思っている。

「フォーレストくん。彼女の腕は信用できないのかい? 妹さんの方も回復魔法の使い手だろ? 二人を連れて行った方が勝率はぐっとあがるんじゃないかな?」

 確かにオックスさんの言う通りなのだが、出来れば巻き込みたくない。

「そ、それは……フィアの槍の腕も、ロロアの回復魔法も信頼していますが、そういうことでは……」

「あら? それなら問題ないわよね?」

「シリアさん、そもそもその依頼って個人で受けれるものなのですか」

 はっ!? 確かに、この手の依頼はパーティーでしか受けられない事が多い!?

「……はぁ~、ロロアちゃんの言う通りですね。この依頼は個人で受ける場合はゴールドランク以上となります」

「そんな……」

「フォーレストくん。村に被害が及ぶことを防ぐためにも、ここはパーティーで受けた方が良いのじゃないかな?」

 もちろん二人がいてくれた方が切れる手札は多くなるし、勝つ可能性もあがるのだが、やはりようやく出来た大事な仲間を、危険な依頼に巻き込みたくなかった。

 だけど、そんなオレの気持ちは、二人の次の言葉で吹き飛ばされた。

「もう! 私たち仲間じゃないの!? す、少なくとも私はフォーレストの事を信頼できる仲間だと思っているし、困った事があったら遠慮せずに頼るわ!」

「お姉ちゃんの言う通りです! だから、フォーレストさんも私たちを頼ってください! その……私はちょっと頼りないかもしれないけど、でも……でも、頑張りますから!」

「二人とも……本当に、本当にいいのか? ロックオーガ以上に危険かもしれないんだぞ?」

 ロックオーガは、その驚異的な防御力から倒す事が出来ないという理由でBランクに認定された魔物だ。
 それに対してサラマンダーは、炎を纏い強固な鱗を持つ防御力もさることながら、その炎を用いた攻撃力と攻撃範囲の広さなどからBランク認定された魔物だったはずだ。

 オレたちが戦う場合、明らかにサラマンダーの方が危険度は上だろう。

「だからなに? それでもフォーレストは戦うんでしょ?」

「フォーレストさんの攻撃が決まれば絶対に勝てます! それに、怪我なら私の回復魔法で治してみせますから!」

 冒険者になって、最悪なことが立て続けに起こっていたのに……今は本当に二人との出会いに感謝しかないな。

「二人とも……本当に良いのか?」

 オレは笑顔で頷く二人に「ありがとう」と伝え、その依頼をパーティーとして受ける事に決めたのだった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。 「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。 魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。 ――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?! ――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの? 私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。 今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。 重複投稿ですが、改稿してます

「追放」も「ざまぁ」も「もう遅い」も不要? 俺は、自分の趣味に生きていきたい。辺境領主のスローライフ

読み方は自由
ファンタジー
 辺境の地に住む少年、ザウル・エルダは、その両親を早くから亡くしていたため、若干十七歳ながら領主として自分の封土を治めていました。封土の治安はほぼ良好、その経済状況も決して悪くありませんでしたが、それでも諸問題がなかったわけではありません。彼は封土の統治者として、それらの問題ともきちんと向かいましたが、やはり疲れる事には変わりませんでした。そんな彼の精神を、そして孤独を慰めていたのは、彼自身が選んだ趣味。それも、多種多様な趣味でした。彼は領主の仕事を終わらせると、それを救いとして、自分なりのスローライフを送っていました。この物語は、そんな彼の生活を紡いだ連作集。最近主流と思われる「ざまぁ」や「復讐」、「追放」などの要素を廃した、やや文学調(と思われる)少年ファンタジーです。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

嫌味なエリート治癒師は森の中で追放を宣言されて仲間に殺されかけるがギフト【痛いの痛いの飛んでいけぇ〜】には意外な使い方があり

竹井ゴールド
ファンタジー
 森の中で突然、仲間に追放だと言われた治癒師は更に、 「追放出来ないなら死んだと報告するまでだ、へっへっへっ」  と殺されそうになる。  だが、【痛いの痛いの飛んでけぇ〜】には【無詠唱】、【怪我移植(移植後は自然回復のみ)】、【発動予約】等々の能力があり······· 【2023/1/3、出版申請、2023/2/3、慰めメール】

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

処理中です...