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リズヴァーンのお見舞い
しおりを挟む翌日の放課後にリズヴァーンがやって来た。
俺はベッドの上でお出迎えだ。
いや、きちんと起きてサロンで迎えようと思ったんだよ?
でも兄も両親も、まだ床(とこ)から出るなって。
過保護なんだから。
因みに兄は俺が襲われかけたことまでは知っているようだ。
相手は知らないけれど。
両親は、ただ単に体調を崩しただけだと思っている。
だってさ、両親にバレるとマジに問題が大きくなり過ぎる。
それこそモースディブス関連の店を、全部国から追い出すとか?
それもあるし、俺の名誉のためにも、兄は秘密にしているようだ。
兄とリズヴァーンが部屋に入って来て、ベッドのそばに椅子を寄せ座る。
さて、まずはお礼を言わないとね。
「リズヴァーン、先日は危ないところを助けていただき、ありがとうございました。
本当に助かりました」
「いや、もう少し早く辿り着いてたなら、怖い目にも合わせなかっただろう」
「いえ、来ていただいただけでありがたかったです」
二人で頭を下げあっていると、兄が割り込んできた。
「やはり詳しくは教えてくれないのかい?」
「……ごめんなさい、お兄様」
「アル…いずれそのうち全てを話すから、今は抑えてくれないか」
俺とリズヴァーンが言うと、兄はクッと唇を噛みしめた。
「あの……少し気になるのですけれど………リズヴァーンの左目の下って、お兄様のせいなのですか?」
リズヴァーンの左目の下が、薄らと青黄色い。
青タンの治りかけって感じなんだけど、コレって兄が殴ったんだよな?
「………………リズが俺に隠し事をするから……」
「アル……キャスティーヌの為にも、お前の為にも、今はまだ話せない」
二人とも辛そうな顔をしている。
兄に隠し事はしたくないけど、詳しく言うには、俺のショックが薄れていないだろうし、犯人をバラすと、兄が半分でも殺っちゃいそうで。
半殺しにして気が済んでも、そこから何があったか周囲にバレる可能性がとても大きい。
そうすると俺がまた傷つくから。
周りから色々ゲスな勘ぐりとかさ、ある事ないことを、面白おかしく話を広げて、被害者が傷を重ねることになる。
セカンドレイプって言うんだっけ?
だからこそ何を言われても殴られても、リズヴァーンは口を閉じてくれているんだよね。
いい男だよなぁ。
今日来てもらったのは、直接礼を言いたかったのともう一つ、聞きたいことがあるからなんだけど………兄が邪魔だ。
「お兄様、わたし少し喉が渇きました。
マリアンヌにお茶を淹れるように伝えて来ていただけませんか?」
「ああわかった。
少し待っていなさい」
素直に部屋から出て行ってくれて助かったよ。
よし、今のうちに聞かなければ!
「あの、…リズヴァーン、あの時仰っていたのはどう言うことですの?」
「言ってたこと?」
「その……私との婚約とか…………」
「ああ、あれはうちの両親がそうしたいとは言っているが、ああ言っておけば彼方も引きやすいだろ」
なんと、相手が手を引くように嘘をついたと。
「キャスティーヌが卒業するまでは、そうしておけば今回みたいなことが、ある程度は抑えられるのではないのか」
確かに、全くのフリーより、親も認めた婚約者がいますよ、って大義名分があれば、そうそう今回みたいな目に遭わないか?
「卒業した後は、何かと理由をつけて、婚約解消となったとすれば良い。
結婚するわけではないから、問題はないだろう」
それはそうかな。
これはこのままリズヴァーンを婚約者としておくのはお得かな。
でも……
「私はとても助かりますけれど、リズヴァーン様に迷惑がかかりませんか?
なんのメリットもありませんし」
「いや、俺も見合いよけになるしな」
「でも、リズヴァーン様に一緒になりたい方が現れたら……」
その時は婚約解消すれば良いんだろうけど、相手の方が【婚約者持ち】だと、一歩引いてしまうのでは?
「一緒になりたい人、か…………。
ずっと一緒にいることさえできればいいからな……」
リズヴァーンが小さな声で呟くけど、はっきりと聞こえなかった。
でも聞き返さない方がいい雰囲気?
少し考えてみて、他に名案もないし、話を合わせてくれるなら助かるから、こな話に乗ることにした。
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