【完結】追放された嫌われ魔法使いは、拾った毛玉を盲愛する

飛鳥えん

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赤毛の獣

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視界の中に豆粒大の人影が見え、それがこちらに歩いてくるレネの姿だと分かると、ユシウスの耳としっぽはピンと立った。
(よかった!ご無事だった)
しかし、獣人の視力はレネ以外のものも視界の端に捉えた。
きら、と鈍色に光を反射する何か。目を凝らすと、それは大型獣を狩るときに使われる弓銃だった。
レネとユシウスの中間地点、平原の雪に穴を掘って、何人かの男たちが伏せている。殺気立って武器を持ち、その内の一人が弓銃を構えていた。
「レネ様っ」
叫んでも届かない。咄嗟に森から飛び出そうとしたとき、木の根や蔦が足に絡みつき、まるでユシウスを逃すまいとするようにきつく巻き付いた。
(魔女の呪い!?くそ、こんな時にっ)
「離せ、離せったら!お願い離して!」
レネの姿が近づいてくる。手に藤籠を持って、きっと中にはユシウスのために手に入れてくれた薬や食べ物が入っている。
威嚇か、本当に当てるつもりか、つがえられた矢が引き絞られたのを視界に捉え、目の前が真っ赤になった。
次の瞬間、腹の底から咆哮を上げ、ユシウスの身体は森の外へと弾丸のように飛び出していった。

「おい、なんだあれっ」
雪原の中、森の方向から何かが物凄い勢いで走ってくる。四つ足の獣だ。銀世界の中を、赤茶色の毛並み、大きな牙を剥き出しながら、太い爪が雪を蹴散らしこちらへ突進してきた。
「狼だ!」
「待て、あんな大きさの狼がいるか!魔獣じゃないのか」
「聖女様の雨の御力で魔獣は城壁を超えて入って来られないはずだろう」
「……落ち着け」
男のひとりが落ち着いた声で仲間を制した。弓銃を構えた男は経験豊富な流れの猟師だった。今もほかの男たちが慌てふためく中、冷静に的を絞った。魔法使いから、赤褐色の狼へ。白い雪の中、標的は簡単に射程距離に入ってくる。まるで射られることを恐れていないようだ。
(魔法使いの使い魔か?有り得る話だ。主人を守りに来たのか)
ハッ、ハッという息遣いが届く距離まで引き寄せ、矢を放った。
ビュン、と飛んだ矢を赤毛狼は寸出の所で真横に避けた。矢がトスンと雪の上に刺さる。
(やはり普通の獣ではないな)
猟師は狙いを変えた。さっきより近くに来ていた魔法使いの方へ、ぐっと銃身をひねる。狼は案の定、グルル、と怒りの唸り声を上げると、冷静さを欠いて男に突進してきた。
わっ、と他の男たちは堪らず逃げ出す。飛び掛かった狼に向かって、漁師は矢を放った。銀色の矢は特殊な金属で出来ており、対魔獣用の毒を塗ってある。魔法使いを急襲するのだからそれくらいの備えはいるだろうと、用意したものだった。
キャン、と甲高い悲鳴とともに、狼は雪原に倒れ込んだ。
「ちっ、外した」
狙いは胴だったが、当たったのは前脚だ。まあいい、矢毒は効きが早いか遅いかの違いだ。
狼は起き上がろうともがき、雪に足を取られてまた倒れた。
「やった、倒したのか」
「でかした、邪悪な使い魔を倒したぞ!」
その時「ユシウスっ!」と切迫した叫び声が空を裂いた。全員が声の方を振り返った。
狼がかっと目を見開き、起き上ったかと思うと猟師に向かって突進した。抗う間もなく弓銃を持ったままの腕に食らいつく。
「がぁっ、この、くそ狼!」
血が噴き出し、雪原を赤く染める。怯んだ隙に、狼はよろけながらも魔法使いの元まで何とか駆け寄り、盾になるように身体に擦り寄った。
レネは恐る恐るその毛並みを撫で、長い鼻面に触り、耳の形を確かめた。
「ユシウス、あなたですか?」
泣き出す前のような、弱弱しい声だった。
ユシウスは答えず、ぐるる、と喉を鳴らした。そして地面に伏せると、鼻先をレネの腰に当て、背に跨るようぐいぐいと押した。レネがゆっくり跨ると、ユシウスはすぐに走り出した。実施は矢が刺さったまま、3本の足で不格好に飛び跳ねているというのが正しい。
必死に森の入り口にたどり着くと、うっそうと茂った樹々の暗闇に飛び込んでいった。

村の男たちは真っ青になりながら、腕を噛みちぎられた男を介抱していた。
「村長になんて報告するんだ……」
「冬は弱っていると言ったじゃないか」
村長の溺愛する一人娘が病で死に、魔法使いが毒を流したためだという噂が立った。かの悪名高いレネリウス・ザラの仕業に違いない、と。
激高した村長の恨みつらみは簡単には納まらないだろう。それに、風の噂で、他の村でも同じような病にかかる者があるらしい。これが広まりでもしたら、伝染病の時のように、国王の命令で村全部が焼かれることさえあり得る。

そうなる前に、原因を何とかしなくては。
レネリウス・ザラを、壁の外へ追い出さなくてはならない。それが無理なら、古来悪しき魔女にそうしてきたように、聖女アステリアの名のもとに粛清せねば。

「帰って村長に報告しよう……」
力なく男たちの一人が言うと、他の面々も頷いた。いずれにせよ、使い魔がいるなら、残った装備で森に入るのは危険すぎる。
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