【完結】追放された嫌われ魔法使いは、拾った毛玉を盲愛する

飛鳥えん

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嫌われ者は石を投げられる【1】

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数日後、レネは一人でロザンナの村に出掛けて行った。何日もかけて調合した薬を持って。そして夜も更けてから戻ってきたとき、彼の額には赤黒いあざが出来て、血が目の覆い布の下まで垂れていた。
「レネ様っ!!その怪我、何があったんです!……ああ、どうしよう血が……こっちへ、ゆっくり、座れますか」
ユシウスは怪我を見た瞬間、悲鳴にも似た声を上げてレネに駆け寄り、ふらつく身体を支えた。全身の血が凍ってしまったような心地がする。毛を逆立て、おろおろとレネの背中を支えて椅子に座らせる。
「……落ち着きなさい、大した傷ではありません。書斎にある薬箱から塗り薬を持ってきて」
飛ぶように書斎に駆け込んで、書棚の奥から貝殻で装飾された薬箱を取り出した。どれが塗り薬が分からず、そのままレネの所まで持っていく。
「水で洗いましょう、ちょっと待ってくださいね」
清潔なガーゼと包帯、それに麻布を引っ掴み、布は水瓶から掬った水で少し濡らした。
そっと布の角をつくってレネの額の血を拭うと、レネが痛みに小さく呻いた。
「っ、痛い」
「ごめんなさい。じっとしてください、すぐだから」
レネの白い額にできた痣は見ているだけでいたましかった。
(大した傷じゃないなんて嘘だ、こんなに血が出てるし顔が真っ青だ)
「目の布を取ってもいいですか。血が垂れてます……」
レネは無言で頷いたが、ぐったりとして動かないので、ユシウスが慎重な手つきで目隠しを外した。そして、眠っているレネを遠目に見た時は気づかなかったある事に、この時始めて気付いた。
レネの瞼は本来眼球がおさまっているなら、そこにあるはずのまろい盛り上がりがなかった。
まるでそこには何もない、ぽっかり空洞があることを示すような平坦な瞼。
「ユシウス?」
驚いて、血を拭う手が止まったユシウスに怪訝そうにレネが何か言いかけ、次の瞬間、何かに気付いたようにユシウスを振り払うと勢いよく立ち上がろうとし、ふらっと横によろめいた。がしゃん、と机の上に置かれた食器同士がぶつかって音を立てた。
「レネ様!? どこに行くんですか、待って、手当させて!」
「離しなさい!もう平気です、薬は自分で塗れますから、自分の部屋に戻っていなさい。こっちへ来ないで!」
「お部屋に行くなら僕も一緒に行きます。薬もちゃんと塗るから」
「あなたみたいな獣人に傷の手当なんてできるものですかっ。うっかり爪で傷でも増やされたら溜まったもんじゃない。いいからあっちへ行きなさい」
鼻の奥がツンとなる。両耳がぺたりと垂れた。
(人型の時は爪なんて短いよ、たとえ鋭くても、レネ様に怪我なんてさせないのに)
このまま部屋に入って鍵を掛けられたらユシウスは何もできない。まだちゃんと傷口の手当ても出来ていないのに。
ぐっと拳を握った。
「分からず屋!レネ様の馬鹿!意地悪で我儘野郎!」
「……何ですって」
階段に足をかけたレネが、ぴたりと止まった。こんな時でも、馬鹿にされると我慢ならないらしい。ユシウスは内心びくびくしながら安堵もしていた。
「なんと言いましたか。ユシウス」
ごくっと唾を飲み込み、目の前のレネを見つめる。乱れた銀髪によって、瞼は覆われていた。
「手当だけさせてください。その後、僕をぶっても水責めにしても構いません。……でも、何でもしますからレネ様の側から追い出さないでください」
レネは無言だった。ユシウスは手の中の覆い布を握りしめて泣き出すのをこらえた。自分でも言っていることが滅茶苦茶だと思うのだから、レネが呆れて怒るのは無理もない。
「お願いします。さっき夕食にミートパイを作ったんです。うまく出来ました。薬を塗ったら食べてください。あったかいお茶も淹れてきます、髪が汚れてるからお拭きします、寒かったら僕の毛布も持ってきます……あと、あと……」
レネのためにできることを片っ端から上げていこうと思ったのに、それっぽっちしか浮かばない。
「はあ……ごちゃごちゃ騒いだと思ったら、泣き出さないでください……鬱陶しい」
前にも同じようなことを言われた気がする。ユシウスは自分の頬っぺたに触ると、涙で濡れていることに気付いた。
気付いてしまった途端、せき止めていた何かが決壊した。
うわぁぁんと子供のように泣き声を上げた。
「レネ様死なないでぇっ!」
「人を勝手に殺さないでください。そしてうるさい。頭に響くから泣き止みなさい」
「うっ、ひぐ、……手当て」
「あー、はいはい、分かったからそれを寄越しなさい」
催促された手に覆い布を手渡すと、それを付けて、レネは階段を降りた。途中、ユシウスの頭に手を置くと嘆息した。
「あなたなんて買うんじゃなかった。うるさいったらない」
「ふっ、う、わぁぁん、レネ様の馬鹿~、なんでぞんなごど言うの~」
びくっとレネの手が離れた。まるでついさっきのユシウスのように、おろおろと彷徨わせた後、躊躇うようにもう一度、今度はゆっくりと頭を撫でた。
「わたくしが虐めているみたいじゃありませんか!……嘘ですよ、嘘!これでいいですか」
ひっくとしゃくりあげながら、ユシウスはレネの手を掴んで椅子に座らせた。顔を赤くしていたが、それは怒りではなく、レネの前で子供のように大泣きしたことによる羞恥心のためだった。
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