瀧華国転生譚 美貌の悪役文官は病弱皇子を手懐けたい

飛鳥えん

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第3部(終章)

三觜

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末草が用意した紙を人数分になるように細かく裂いて「躄蟹いざりがに」をあらわす文字を書いた。病人の枕の下に一枚ずつねじ込むと、戸口を確認して、懐から小さな木製小箱を取り出した。紐を解くと、中には石を削ってできたお猪口のようなものが入っている。

子供の手の平におさまるくらいの大きさで、真ん中にくぼみがあり、縁には三羽の小鳥が、真ん中のくぼみに嘴を向ける形で彫刻されている。

三觜さんすい、この者たちを起こせ」

言いながら、適当な一羽の頭をくいと溝に向けて倒そうとし……。

(駄目だな、動かない。やっぱり俺だと無理か……ということは)

すだれを持ち上げて、振り向いた三人の中から、はつりをちょいちょいと手招いた。

私?という顔のはつりに、無言でうんうんと頷く。

その横で寂しそうな顔をした花鶏に向かって「沙羅、頼みたいことがあります」と言うと、ぱっと顔を明るくした。

「はい、何でしょう!」

「波瀬と一緒に、朱野のどこかにある睡蓮の群生地を探してきてくれますか?」

「わかりました、先生!」

何の疑いもなし、という様子の花鶏の横で、波瀬と末草は怪訝な顔をした。

「祠ではなく、ですか?なぜ睡蓮の群生地なんて」

「……後で話しますが、行方不明になった所員達はおそらくそこにいるはずです」

(原作通りなら、命までは取られてないだろうけど、それも時間の問題だ)

「末草殿はここにいてください。危険があるかもしれませんし」

「でしたらなおのこと、地理に詳しい私が皆さんを案内します。任せきりは申し訳ないです」

蘇芳はしばし考えて、花鶏を見た。

「沙羅、彼を護衛してあげなさい。何かあればすぐに動けるようににも伝えておいてください」

花鶏はわずかに目を眇めてから頷いた。



「私の他に、女の護衛なんていましたっけ?」

三人が谷川の方へ向かった後、はつりが小屋の中で首を傾げた。

「さあ、いるかもしれませんね。……さて、りつに手伝ってもらいたいことがあるのですが。これを手に取って」

はつりは石の器を片手に乗せられて、目をぱちくりとさせた。

「このガラクタはなんですか?」

「三つの嘴と書いて<三觜>という名前です。ちなみにカデンルラでは別の名前で呼ばれていましたが、本来は瀧華国の宝物殿にあったはずの物ですよ」

「宝物?これが?」

信じられない、という顔のはつりに苦笑する。

(ほんとは君が北斗皇子のルートで手に入れて、瀧華国に持ち帰るんだけどね。せっかくだから、便乗して俺が貰って来たよ。まあ、俺が持ってても宝の持ち腐れだけど)

「この三羽の鳥は過去・現在・未来の象徴です。神力を持った人間は、三つのうちどれか一つだけ、願い事を叶えてもらえるそうです」

はつりの顔に今度こそ呆れた表情が浮かんだ。

「そんな都合のいいものがあったら、世の中はすごく大変なことになってると思います。皇子様たちは自分が王になりたくて、他の兄弟を始末したりとか……」

蘇芳は指を一本たてた。

「なので、三觜はいくつかの制約があるんです」

ひとつ、他者の命を奪う願いは無効。
ふたつ、自分以外の大きな世の流れを変えるような願いは無効。
みっつ、死んだ命をよみがえらせる願いは無効。


「それって……ほとんど何もできないんじゃ」

「まあ、りつが言ったように、そんな都合が良いものがあったらがすぐ終わってしまいますからね」

神力を持つ皇族にとって、ここぞという時以外、あまりメリットが無いように設定されているのだ。
そういうアイテムが作中にいくつか登場するが、残念ながら手に入ったのはこれだけだった。

「物語?……どうして蘇芳先生がそれを持ってるんですか? カデンルラから盗んできたの?」

「滅相もない!正当な対価として、向こうの皇子様から頂いたんですよ」

嘘ではない。それにカデンルラにあっても誰にも使えないのだから、たいして困らないだろう。どういう経緯で向こうに渡ったのか知らないが、元は瀧華国の物だから、あるべき場所に戻っただけともいえる。


「もしかして私に使わせようとしてます?」
「ご名答」

蘇芳が頷くと、はつりは小屋の中を見回した。こんこんと眠る里人は、二人がこれだけ話し込んでいても目覚める気配はない。

「<三觜>に願えるのは一度きりだから、もしあなたにどうしても叶えたいことがあるなら、別ですが」

はつりがん~、と腕組みをして目を瞑る。その様子に、蘇芳は思わず<三觜>を彼女の手からさっと取り返した。

「……あるんですか?別のお願い」

危ない。原作のはつりなら、一も二もなく皆を助けましょう!となるはずなのだが。

「そりゃ、ありますよ!」

はつりが身を乗り出すので、思わずのけ反ってしまった。

「父さんの商売がずっと繁盛したらいいなとか、母さんの身体が丈夫になったらいいとか……あとは」

「……好きな人と結婚できればいい、とか?」

指を折って数えていた顔を上げて、はつりの大きな目が蘇芳を見つめた。
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