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新婚旅行編

長男次男の墓参り①(長男ジャン視点)

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 夕陽が山際に沈む頃。ジャンは店じまいを終え、棚の商品と今日の売上を確認していた。計算板を弾く指は、今までで最高速度を叩き出している。

 何せ、今日は亡き母ポルカの一周忌なのだ。

 大口の取引に立ち会う予定があったから休めなかったのが……本来なら、一日休んでゆっくりと墓参りがしたかった所である。 

 ――さっさと終わらせて、母ちゃんに挨拶してぇな。 

 母が天へと召された後。故人が知ったら怒るくらいの金をかけて、ジャンたちはそれはもう立派な墓をたてた。
 希少で大きな石を取り寄せて、母の好きだった色の花で埋め尽くして……それが、あの糞父の髪や目の色と同じ朱色だったのは頂けないが、まぁ、そこは故人の願いだったのだから仕方がない。 

『アタシが死んだら、立派なお墓はいらないヨ……その代わり、朝焼け色の花を供えて見送っとくれな』 

 最期に聞いた力無い声を思い出し、思わず舌打ちをした瞬間。若い店員が、手近な窓からひょっこり顔を出した。 

「……テメェ、倉庫整理はどうした?」
「んもぅ、ジャンさん怖いっスよぉ! ちゃんとやってるっス! それより、ジャンさんの弟さんがいらっしゃってるっスよー」
「あ゛?……どっちだ。ガルラか? ミゲルか?」
「えー分かんないスけど。うーん、とにかくデッカかったっス!!」 

 ……ジャンには、弟が二人いる。すぐ下の弟がガルラ、一番下の弟がミゲル。その内デッカい方なら、猟師をやっている真ん中のガルラのことだろう。
 店の裏口に回ると、戸口の石段にデカい図体を縮こまらせて大男が座ってた。 

「……兄貴」
「ガルラ。どうした、何かあったか?」
「……いや、何もない。仕事が終わったから、一緒に……墓参り、しようと」 

 短く刈った焦茶色の頭をボリボリと大きな手のひらで掻きながら、ガルラはボソボソと喋る。一見すると機嫌が悪そうに見えるが、この弟はいつもこんな喋り方だ。おまけに図体に反して気が優しい。兄弟でおやつをとりあっても、結局ジャンやミゲルに大きい方を譲ってしまうような奴である。
 焦茶の髪や黒い瞳が、家族の誰とも似ていないのを本人は気にしているが、ジャンから見ればチャンチャラおかしい。――ガルラの立派すぎる体や厳つい顔は、あの糞父に憎いほどそっくりなのだから。 

「そうか。俺も今終わるからよ、コレでも食ってもうちょい待ってろ」
「……わかった」 

 売れ残りの焼き菓子をポン!と投げ渡せば、弟は厳つい顔に深い皺を刻んだ。ちなみに、何も知らない子どもが見れば泣いて逃げ出す形相だが、これはガルラの『嬉しい顔』である。
 デカくて厳つい図体の割に、甘い菓子や小さくて可愛い物が好きなのだ。そういう所もあの糞父にそっくりだが、言ったら傷付くのが分かっているので弟想いの長男ジャンは黙っていることにしている。 

 ――俺も、ガルラのことは言えねぇしな。 

 ふと外を見れば、日が落ちて暗くなった窓ガラスに己の顔が映っている。そこには、母譲りの銀髪を短く切った、ひょろ長い背をした男が――糞父によく似た朱色の瞳で、じっとこちらを睨みつけていたのだった。
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