上 下
35 / 154

ポルカと懐かしの鏡⑤

しおりを挟む
 じわじわ、じわじわとゆっくり涙がせりあがってくる。駄目だ、このままでは泣いてしまう。只でさえ報復相手として嫌われているというのに、引っぱたいた上に泣き出すなんて何と面倒くさい阿婆擦れ女か!
 せめて泣いている顔を見せまいとポルカが両目を覆おうとした、その時。

「……ポルカ」
「へ?」

 目尻に柔らかなものが当たり、ちゅっと音を立てて涙を吸い取っていった。その一回では終わらず、二度、三度、四度と押し付けては涙を吸い取ってゆく。
 時たま間から熱い吐息を漏らす、柔らかなソレ。

「へっ! え、じじじじじジル……!?」

 目尻にキスをされている。
 その事に気付いて吃驚したあまり、ポルカの涙は引っ込んだ。引っ込んだが、何故だかジルは止まらない。
 訳も分からず真っ赤になって硬直したポルカをよそに、彼の唇は目尻から瞼、鼻筋、頬を通って、ついにポルカの唇に辿り着いてしまった。

「ふぁっ………」

 柔らかく、柔らかく下唇を食まれる。ふにふにと唇同士が触れ合い、時折『ちゅ』という音をたてて吸い付かれればもうたまらなかった。
 元々、ジルに心底惚れまくっているポルカの頭は沸きに沸いた。ついでに言うと腰も震えて砕ける寸前である。
 ……しかし、それでもジルの猛攻は終わらない。

「ぁっン……んん、ふっぁ……ジル……ッ」
「ん、ちゅ……は、……」

 二人分の体重を受け止めたベッドが、ギシリと大きな音をたてる。ジルはひたすら柔らかなキスを繰り返されながら、ポルカはますます蕩けていった。
 舌も入れない、普段と比べると柔らかく軽いキスなのに、ポルカの腰はゾクゾクと震え……腹の奥がキュンキュンと疼き始める。

 ――チクショウ、これが惚れた弱み……!

 自分の体の現金っぷりが心底嫌になってきたポルカの耳元で、固くて低い声が響く。

「……悪かった」
「……へぁッ!?」
「お前が、逃げるかと思って。……焦っちまった」

 ポルカが目を見開けば、鼻先あたりに相変わらずの顰めっ面。奥歯を食い締めたその顔は何とも苦み走って見える。
 ……けれど、朝焼け色の瞳は、何故だが不安げに揺れていた。

 ――不安? 何で?……アタシが、家族の元に帰りたそうに見えたから?

「何言ってんだい。帰るなんてそもそも無理だろ」

 他でもないジルが、ポルカにキッパリと言ったではないか。「お前はもう帰れない」「帰る場所もない」と。
 まぁそれについては別にいい。今更こんな若返った姿で帰っても居場所がないのはきっと本当だ。

「だ、大体アタシは婆になって老衰で死んだんだよ。言うなりゃ寿命さね。あんなに長生きさせて貰ったのに、生き返るとかバチが当たるよぅ」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

うさぎ獣人くん、(自称)名器な私はいかがですか?【R18】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:177pt お気に入り:200

クール令嬢、ヤンデレ弟に無理やり結婚させられる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:47

時間が戻った令嬢は新しい婚約者が出来ました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:468pt お気に入り:5,836

お前が脱がせてくれるまで

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:99

床下手な白騎士とリードする未亡人

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:3

【R18】あなたの心を蝕ませて

恋愛 / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:3,901

「俺、殿下は女だと思うんだ」

恋愛 / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:53

押しかけ皇女に絆されて

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:8

処理中です...