12 / 21
12 違い2
しおりを挟む
「美味しそうですね。姫様、運んでくださりありがとうございます」
テーブルに並んだ料理の品々を見て、ライラは顔を綻ばせる。
「さっ、姫様。こちらにお座りください」
示された先は姫様用の料理の前。
「いやいや、誰か来た時に困るでしょう」
「食事中になんて誰も訪ねてきませんよ。そんな礼儀のない人なんて」
「でもね、わからないじゃない? ここはレギナン国ではないんだもの」
「わかりました。今回食べて何もなかったら、次からは姫様は姫様用のお料理を召し上がってくださいね」
「うん、そうしよう」
言い合いをしている間にも料理が冷めていっていることに気づいたシャンリリールとライラは互いに引いて先に食事を優先することにした。
「「いただきます」」
スープを一口。
少しぬるくなっていたが、とても美味しかった。
「少し冷めていますね。調理場はここからかなり遠いところにあるのですか?」
「そこまでは遠くなかったよ。10分くらい?」
「10分。では混んでいて待ち時間が長かったのですか?」
「うん? うーん、まあ、そうだね。毒見してたから」
「ウッ、ゴホッ、ゴホッ」
「大丈夫?」
ライラに水を差しだすと、呼吸を整えたあと一息に飲み干す。
「毒見ですって?!」
「そうなの。びっくりだよね」
「びっくりどころではありません。……姫様が召し上がっている料理は毒見済みですか?」
「こちらはしてないよ」
「?! してないよ、ではないでしょう。吐き出してください」
「だ、大丈夫だよ。ほら、苦しくないし」
「何かあってからでは遅いのですよ。のんきに笑っている場合ではありません」
「でもね、大丈夫だと思ったんだよ」
「………………姫様がそう思われたのなら信じます。ですが、それでも私に一度毒見をさせてください。私の心の安寧のために」
「わかった。お願い」
ライラはシャンリリールの前に置かれた料理を一口ずつ食べては確認していく。
毒を盛るにしても、侍女の食事には入れないだろう。だから侍女用の料理の方が安全だと分かっている上で、それでも自分の舌で確認してからシャンリリールに食べてほしいのだろう。
「それにしても、毒見なんてしているとは思いませんでした」
「本当にね」
「この国では毒を警戒しなければならないほど、殺伐としているのですね」
「うーん、形式的なものみたいだったけれど。でも、ちょっと寂しいね。人を疑わなければならないなんて」
「レギナン国が特殊なのだと他国出身者から言われてもどこがと思ってきましたが、今やっと理解した気がします」
「そうだね。レギナン国ではそんな心配したこともなかったものね」
城で働く者はみんな家族。
レギナン国ではそれくらい身近で親しみがあって気安かった。
そして城の外で暮らしている人達は親戚縁者くらいの距離感。
大きく括れば国民すべては家族。
そのように思っていたし、そのような間柄だった。
でも、フィナンクート国は違うようだ。
それでも。
「みんなと仲良くなりたいな」
「そうですね。ゆっくりと仲良くなっていきましょう。時間はあります。まずは元に戻らなければ」
「そうだね。まずはそれからだった。……そうだ、前に話した精霊に会ったの」
「前と言うと、助けを求めてきた精霊ですか?」
「そう。お城の外れに緑豊かな場所があってね、そこ、すごく気持ちのいい場所だったの。で、一際大きい樹の近くにいたんだ。あ、そこで国王陛下にも会ったんだけど」
「ええっ! 大丈夫だったのですか?」
「ばれてはいないよ」
子供らしくないとは思われたけれど。
「それはひとまず良かったですね。それで姫様はその精霊に会いに行くのですね」
「うん。まずは話を聞いてみないと、何をすればいいかわかないから」
「会えて良かったですね」
「うん。そちらは一歩前進できたけれど、……ライルからの連絡はまだない?」
「定期連絡は届いていますが、進捗状況は芳しくないようです」
「そう。わたしも精霊に会ったのは1人だけだからね……」
「困りましたね」
「困ったね」
同時にため息がこぼれて、顔を見合わせる。
「もしかしたら、今日精霊に会った場所にいるかもしれないし。そこで他の精霊がいないかも探してみる」
「そうですね。1人居れば、2人3人居てもおかしくないですから」
やっと出会えた精霊。
小さいけれど、手掛かりは掴んだ。
ならばあとは動くのみ。
やることがはっきりしたので、食べることに集中することにする。
「美味しい」
「いつか温かいまま食べられるといいですね」
「ほんとだね」
冷めても美味しいけれど、熱々のほうがもっと美味しいことだろう。
毒見なんてしなくてもいい国にしたいものだ。
テーブルに並んだ料理の品々を見て、ライラは顔を綻ばせる。
「さっ、姫様。こちらにお座りください」
示された先は姫様用の料理の前。
「いやいや、誰か来た時に困るでしょう」
「食事中になんて誰も訪ねてきませんよ。そんな礼儀のない人なんて」
「でもね、わからないじゃない? ここはレギナン国ではないんだもの」
「わかりました。今回食べて何もなかったら、次からは姫様は姫様用のお料理を召し上がってくださいね」
「うん、そうしよう」
言い合いをしている間にも料理が冷めていっていることに気づいたシャンリリールとライラは互いに引いて先に食事を優先することにした。
「「いただきます」」
スープを一口。
少しぬるくなっていたが、とても美味しかった。
「少し冷めていますね。調理場はここからかなり遠いところにあるのですか?」
「そこまでは遠くなかったよ。10分くらい?」
「10分。では混んでいて待ち時間が長かったのですか?」
「うん? うーん、まあ、そうだね。毒見してたから」
「ウッ、ゴホッ、ゴホッ」
「大丈夫?」
ライラに水を差しだすと、呼吸を整えたあと一息に飲み干す。
「毒見ですって?!」
「そうなの。びっくりだよね」
「びっくりどころではありません。……姫様が召し上がっている料理は毒見済みですか?」
「こちらはしてないよ」
「?! してないよ、ではないでしょう。吐き出してください」
「だ、大丈夫だよ。ほら、苦しくないし」
「何かあってからでは遅いのですよ。のんきに笑っている場合ではありません」
「でもね、大丈夫だと思ったんだよ」
「………………姫様がそう思われたのなら信じます。ですが、それでも私に一度毒見をさせてください。私の心の安寧のために」
「わかった。お願い」
ライラはシャンリリールの前に置かれた料理を一口ずつ食べては確認していく。
毒を盛るにしても、侍女の食事には入れないだろう。だから侍女用の料理の方が安全だと分かっている上で、それでも自分の舌で確認してからシャンリリールに食べてほしいのだろう。
「それにしても、毒見なんてしているとは思いませんでした」
「本当にね」
「この国では毒を警戒しなければならないほど、殺伐としているのですね」
「うーん、形式的なものみたいだったけれど。でも、ちょっと寂しいね。人を疑わなければならないなんて」
「レギナン国が特殊なのだと他国出身者から言われてもどこがと思ってきましたが、今やっと理解した気がします」
「そうだね。レギナン国ではそんな心配したこともなかったものね」
城で働く者はみんな家族。
レギナン国ではそれくらい身近で親しみがあって気安かった。
そして城の外で暮らしている人達は親戚縁者くらいの距離感。
大きく括れば国民すべては家族。
そのように思っていたし、そのような間柄だった。
でも、フィナンクート国は違うようだ。
それでも。
「みんなと仲良くなりたいな」
「そうですね。ゆっくりと仲良くなっていきましょう。時間はあります。まずは元に戻らなければ」
「そうだね。まずはそれからだった。……そうだ、前に話した精霊に会ったの」
「前と言うと、助けを求めてきた精霊ですか?」
「そう。お城の外れに緑豊かな場所があってね、そこ、すごく気持ちのいい場所だったの。で、一際大きい樹の近くにいたんだ。あ、そこで国王陛下にも会ったんだけど」
「ええっ! 大丈夫だったのですか?」
「ばれてはいないよ」
子供らしくないとは思われたけれど。
「それはひとまず良かったですね。それで姫様はその精霊に会いに行くのですね」
「うん。まずは話を聞いてみないと、何をすればいいかわかないから」
「会えて良かったですね」
「うん。そちらは一歩前進できたけれど、……ライルからの連絡はまだない?」
「定期連絡は届いていますが、進捗状況は芳しくないようです」
「そう。わたしも精霊に会ったのは1人だけだからね……」
「困りましたね」
「困ったね」
同時にため息がこぼれて、顔を見合わせる。
「もしかしたら、今日精霊に会った場所にいるかもしれないし。そこで他の精霊がいないかも探してみる」
「そうですね。1人居れば、2人3人居てもおかしくないですから」
やっと出会えた精霊。
小さいけれど、手掛かりは掴んだ。
ならばあとは動くのみ。
やることがはっきりしたので、食べることに集中することにする。
「美味しい」
「いつか温かいまま食べられるといいですね」
「ほんとだね」
冷めても美味しいけれど、熱々のほうがもっと美味しいことだろう。
毒見なんてしなくてもいい国にしたいものだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
あなたが望んだ、ただそれだけ
cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。
国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。
カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。
王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。
失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。
公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。
逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。
心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」
仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。
「で、政略結婚って言われましてもお父様……」
優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。
適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。
それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。
のんびりに見えて豪胆な令嬢と
体力系にしか自信がないワンコ令息
24.4.87 本編完結
以降不定期で番外編予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる