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9 出会いはいつも突然で
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気ままに進んでいると、徐々に人影がなくなっていく区域にきていた。だいぶ城内でも奥のほうに来たようだった。
前から風の流れを感じ目を向けると、薄暗い通路の先に光が入り込んでいるのが見える。導かれるように進むと建物の外に出たようで突然視界が開けた。
目の前には青々と茂った木が均一の間隔で植わっていて、所々にひざ丈くらいの低木が植えてあり花が咲いていた。
「わあー」
口から感嘆の声がこぼれた。
城の中なのに、緑の豊かな森の様に気持ちのいい場所だった。
慣れ親しんだ心地よさに、深く深呼吸する。
導かれるように足を踏み入れる。
歩いてしばらくすると、一際大きな見上げてもてっぺんが見えないほどの立派な樹があった。
その側に探していた精霊が立っていた。助けを求めてきた、あの精霊が。
「あなた」
急く心を落ち着けて、驚かさないようにそっと声をかける。
「そっちにいってもいい?」
シャンリリールが声をかけると、精霊がこちらを見た。
やっと会えた。そのことにほっとした。
「誰だ」
突然別の方向からの声に肩が跳ねる。
人がいる?
声がしたほうを見ると、シャンリリールの隣にある茂みの後ろに寝転がっている人の体が見えた。
ここで休憩していたのだろうか。もしかしなくても、休憩の邪魔をしてしまった?
精霊のことは気になるが、まずは邪魔をしてしまったことを謝らないと。
「失礼いたしました。城内を散策しておりまして。休憩中にお邪魔してしまい申し訳ございません」
頭を下げると、寝転がっていた人が上半身を起こした。
そして目が合った。
「ああ、あの時の子供か」
「……国王陛下」
まさか寝転がっていた人が国王陛下だとは思わず固まる。
「猫でもいるのか?」
「えっ?」
「話しかけていただろう、先程」
話しかけていたと言われてシャンリリールは視線を精霊に向ける。
つられたように国王陛下も同じ方向に視線を向けるが、精霊に視点がいっていなくて何かを探すように視線が動いている。
どうやら精霊を認識できていないようだ。
それとも、見えていて見えないふりをしているのだろうか。
「国王陛下は精霊を見たことがありますか?」
「精霊だと? 存在しないものを見たことがあるわけないだろう?」
怪訝そうに顔をしかめ、その目は訝しむように細められた。
その様子に目の前の精霊が見えていないのは確実だった。
精霊が見えている人ならば、精霊を否定したりはしない。
例え精霊を守る目的であっても、精霊を存在しない者として扱い、否定する言葉を使えば精霊はそのまま受け止める。そして必ず嫌われてしまう、精霊は純粋で真っ直ぐだから。
精霊が見えていない。それがとても残念だった。
国王陛下ならば精霊も見えるかもしれないと思っていたから。
「もしや、猫ではなく精霊に話しかけていたのか?」
「はい」
「……まあ、子供には見えるのかもしれないな」
肯定してくれているのに、陛下自身はまったく信じていないようだった。
信じていない人の前で精霊と話すわけにもいかないし、信じていない人がいると精霊はすぐにいなくなってしまう。
精霊にせっかく会えたのに、これではすぐにいなくなってしまう。話せなくなることに悲しくなった。
いついなくなってしまうのかと意識だけは精霊に向けていると、珍しいことに精霊はその場から動かず、じっとシャンリリールたちを見つめていた。
「それでここへは何をしにきた?」
精霊に向けていた意識を国王陛下に戻す。
「城内を散策していたら、ここに辿り着きました」
「こんな何もないところへか」
無表情で見つめられる。
どうやら正直に話しても信じてはもらえないようだった。
「何もなくはございません。緑が生き生きとしていて、とても気持ちのいい場所です」
正直に話したのに、シャンリリールを見つめる目は噓をつけと言っていた。
噓じゃないのに。
「子供にはつまらないところだろう」
「そんなことはありません」
「というか、なぜここに入れた? 簡単に入ってはこれない場所だぞ?」
「ハロルゼン・ホルス様に許可をいただきました」
「ハロルゼンが?」
ハロルゼンの名を聞いて、国王陛下は考え込む。
勝手に入り込んだと思われても困るので、しっかりと許可を得たことを伝える。
「先程、姫様のところにハロルゼン様がいらっしゃって、婚姻の儀の日程が変更になったことをお聞きしました。その時にわたくしが城内の散策を願い出ましたら、ハロルゼン様のお名前で許可をいただきました。どこでも入って構わないと」
ハロルゼンに許可を得た過程を説明していると、国王陛下がじっと観察するように見ていた。
「お前、子供らしくないな」
「そっ、そんなことありません。立派な子供です」
すっかり子供の姿だったことを忘れていた。
まさかばれてしまったのだろうか。
いや、見た目にそぐわないと言われているだけみたいだ。
「子供はもっと馬鹿だろう?」
「それは子供に対して失礼じゃありませんか?」
「まあ子供なんて見たことないがな」
「見たこともないのに馬鹿呼ばわりは失礼じゃないの?」
言ってしまってから、慌てて手で口を塞ぐ。
ため口はいくらなんでもまずい。
さすがに国王陛下に対してやってはいけないことだとわかった。
ど、どうしよう。
不敬罪とかで捕まったりするのかな。
王妃となる者が投獄とかありえないよね。
あわあわと慌てていると、国王陛下の口の端が持ち上がった。
「子供なんだから、ため口なのもしょうがないよなあ」
どう考えても馬鹿にされているのがわかったけれど、子供だからという理由で許されたこともわかった。
「お前、名は何というんだ?」
「リリと申します」
シャンリリールが丁寧に答えると、国王陛下は顔をしかめた。
「気にせず普通に話せ」
どうやら先ほどのため口が通常に使っていると思われたようだ。
でも、さすがに侍女リリとしてそれはできないから、断りの言葉を続ける。
「それは……」
「いいから、聞いてるこちらがイライラする」
「…………わかった」
国王陛下の顔を見て、ここはシャンリリールが引かなければならないと理解する。
まあ、国王陛下に言われたら従うしかないのだけれど。
「はあ、子供に八つ当たりするなんてな」
顔を手で覆った国王陛下の声は、シャンリリールには届かなかった。
「それからもうここには来るなよ」
「なんで?」
「いいから来るな」
「いやです。わたしもここが気に入ったんだから」
ということにして、どうにかここに来てもいい許可をもらわなければ。
今もまだシャンリリールたちを見ている精霊に会いに来るために。
理由はわからないけれど、今もこの場所にいるということはこの場所から離れられないのかもしれない。
それに実際ここは祖国のレギナン国のシャンリリールのお気に入りの場所に似ているのだ。
だから一目見て気に入った場所だった。
「ここは俺が気に入っているんだ。静かに過ごしたい」
「……では国王陛下がいない時なら来てもいいですか?」
一歩も引く気のないシャンリリールと見つめあった国王陛下は、根負けしたように盛大なため息をついた。
「好きにすればいい」
「ありがとうございます」
やった。
国王陛下から直接許可をもらえたのなら誰にも止められることもなく通える。
これで精霊と話すことができる。
喜んでいると、国王陛下はまたため息をついた。
顔をよく見ると疲労が滲み出ていた。そして思い出した。休憩してしていたところに邪魔したことを。
これはもう帰ったほうが良さそうだ。
「休憩中にお邪魔しました。わたしは帰ります」
「勝手にしろ」
国王陛下の許可を得ずとも、好きにしてもいいってことかな。
お辞儀して、来た道を引き返す。
建物まで戻ってきて数歩して、また来た道を引き返した。
「……あの」
「なんだ?」
「帰り道がわかりません」
「は? ……やはり子供だな」
反論したい。
したいけれど、シャンリリールの現状ではできなかった。
そして呆れた顔がつらい。
「ついてこい。途中までなら送ってやる」
「ありがとうございます」
結局国王陛下の休憩を邪魔してしまったことが申し訳なかった。
前から風の流れを感じ目を向けると、薄暗い通路の先に光が入り込んでいるのが見える。導かれるように進むと建物の外に出たようで突然視界が開けた。
目の前には青々と茂った木が均一の間隔で植わっていて、所々にひざ丈くらいの低木が植えてあり花が咲いていた。
「わあー」
口から感嘆の声がこぼれた。
城の中なのに、緑の豊かな森の様に気持ちのいい場所だった。
慣れ親しんだ心地よさに、深く深呼吸する。
導かれるように足を踏み入れる。
歩いてしばらくすると、一際大きな見上げてもてっぺんが見えないほどの立派な樹があった。
その側に探していた精霊が立っていた。助けを求めてきた、あの精霊が。
「あなた」
急く心を落ち着けて、驚かさないようにそっと声をかける。
「そっちにいってもいい?」
シャンリリールが声をかけると、精霊がこちらを見た。
やっと会えた。そのことにほっとした。
「誰だ」
突然別の方向からの声に肩が跳ねる。
人がいる?
声がしたほうを見ると、シャンリリールの隣にある茂みの後ろに寝転がっている人の体が見えた。
ここで休憩していたのだろうか。もしかしなくても、休憩の邪魔をしてしまった?
精霊のことは気になるが、まずは邪魔をしてしまったことを謝らないと。
「失礼いたしました。城内を散策しておりまして。休憩中にお邪魔してしまい申し訳ございません」
頭を下げると、寝転がっていた人が上半身を起こした。
そして目が合った。
「ああ、あの時の子供か」
「……国王陛下」
まさか寝転がっていた人が国王陛下だとは思わず固まる。
「猫でもいるのか?」
「えっ?」
「話しかけていただろう、先程」
話しかけていたと言われてシャンリリールは視線を精霊に向ける。
つられたように国王陛下も同じ方向に視線を向けるが、精霊に視点がいっていなくて何かを探すように視線が動いている。
どうやら精霊を認識できていないようだ。
それとも、見えていて見えないふりをしているのだろうか。
「国王陛下は精霊を見たことがありますか?」
「精霊だと? 存在しないものを見たことがあるわけないだろう?」
怪訝そうに顔をしかめ、その目は訝しむように細められた。
その様子に目の前の精霊が見えていないのは確実だった。
精霊が見えている人ならば、精霊を否定したりはしない。
例え精霊を守る目的であっても、精霊を存在しない者として扱い、否定する言葉を使えば精霊はそのまま受け止める。そして必ず嫌われてしまう、精霊は純粋で真っ直ぐだから。
精霊が見えていない。それがとても残念だった。
国王陛下ならば精霊も見えるかもしれないと思っていたから。
「もしや、猫ではなく精霊に話しかけていたのか?」
「はい」
「……まあ、子供には見えるのかもしれないな」
肯定してくれているのに、陛下自身はまったく信じていないようだった。
信じていない人の前で精霊と話すわけにもいかないし、信じていない人がいると精霊はすぐにいなくなってしまう。
精霊にせっかく会えたのに、これではすぐにいなくなってしまう。話せなくなることに悲しくなった。
いついなくなってしまうのかと意識だけは精霊に向けていると、珍しいことに精霊はその場から動かず、じっとシャンリリールたちを見つめていた。
「それでここへは何をしにきた?」
精霊に向けていた意識を国王陛下に戻す。
「城内を散策していたら、ここに辿り着きました」
「こんな何もないところへか」
無表情で見つめられる。
どうやら正直に話しても信じてはもらえないようだった。
「何もなくはございません。緑が生き生きとしていて、とても気持ちのいい場所です」
正直に話したのに、シャンリリールを見つめる目は噓をつけと言っていた。
噓じゃないのに。
「子供にはつまらないところだろう」
「そんなことはありません」
「というか、なぜここに入れた? 簡単に入ってはこれない場所だぞ?」
「ハロルゼン・ホルス様に許可をいただきました」
「ハロルゼンが?」
ハロルゼンの名を聞いて、国王陛下は考え込む。
勝手に入り込んだと思われても困るので、しっかりと許可を得たことを伝える。
「先程、姫様のところにハロルゼン様がいらっしゃって、婚姻の儀の日程が変更になったことをお聞きしました。その時にわたくしが城内の散策を願い出ましたら、ハロルゼン様のお名前で許可をいただきました。どこでも入って構わないと」
ハロルゼンに許可を得た過程を説明していると、国王陛下がじっと観察するように見ていた。
「お前、子供らしくないな」
「そっ、そんなことありません。立派な子供です」
すっかり子供の姿だったことを忘れていた。
まさかばれてしまったのだろうか。
いや、見た目にそぐわないと言われているだけみたいだ。
「子供はもっと馬鹿だろう?」
「それは子供に対して失礼じゃありませんか?」
「まあ子供なんて見たことないがな」
「見たこともないのに馬鹿呼ばわりは失礼じゃないの?」
言ってしまってから、慌てて手で口を塞ぐ。
ため口はいくらなんでもまずい。
さすがに国王陛下に対してやってはいけないことだとわかった。
ど、どうしよう。
不敬罪とかで捕まったりするのかな。
王妃となる者が投獄とかありえないよね。
あわあわと慌てていると、国王陛下の口の端が持ち上がった。
「子供なんだから、ため口なのもしょうがないよなあ」
どう考えても馬鹿にされているのがわかったけれど、子供だからという理由で許されたこともわかった。
「お前、名は何というんだ?」
「リリと申します」
シャンリリールが丁寧に答えると、国王陛下は顔をしかめた。
「気にせず普通に話せ」
どうやら先ほどのため口が通常に使っていると思われたようだ。
でも、さすがに侍女リリとしてそれはできないから、断りの言葉を続ける。
「それは……」
「いいから、聞いてるこちらがイライラする」
「…………わかった」
国王陛下の顔を見て、ここはシャンリリールが引かなければならないと理解する。
まあ、国王陛下に言われたら従うしかないのだけれど。
「はあ、子供に八つ当たりするなんてな」
顔を手で覆った国王陛下の声は、シャンリリールには届かなかった。
「それからもうここには来るなよ」
「なんで?」
「いいから来るな」
「いやです。わたしもここが気に入ったんだから」
ということにして、どうにかここに来てもいい許可をもらわなければ。
今もまだシャンリリールたちを見ている精霊に会いに来るために。
理由はわからないけれど、今もこの場所にいるということはこの場所から離れられないのかもしれない。
それに実際ここは祖国のレギナン国のシャンリリールのお気に入りの場所に似ているのだ。
だから一目見て気に入った場所だった。
「ここは俺が気に入っているんだ。静かに過ごしたい」
「……では国王陛下がいない時なら来てもいいですか?」
一歩も引く気のないシャンリリールと見つめあった国王陛下は、根負けしたように盛大なため息をついた。
「好きにすればいい」
「ありがとうございます」
やった。
国王陛下から直接許可をもらえたのなら誰にも止められることもなく通える。
これで精霊と話すことができる。
喜んでいると、国王陛下はまたため息をついた。
顔をよく見ると疲労が滲み出ていた。そして思い出した。休憩してしていたところに邪魔したことを。
これはもう帰ったほうが良さそうだ。
「休憩中にお邪魔しました。わたしは帰ります」
「勝手にしろ」
国王陛下の許可を得ずとも、好きにしてもいいってことかな。
お辞儀して、来た道を引き返す。
建物まで戻ってきて数歩して、また来た道を引き返した。
「……あの」
「なんだ?」
「帰り道がわかりません」
「は? ……やはり子供だな」
反論したい。
したいけれど、シャンリリールの現状ではできなかった。
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