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第四章その10 ~最終決戦!?~ 富士の裾野の大勝負編
勝利の美酒と未来予知
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厳しい戦いであった。
かつて八岐大蛇と呼ばれ、太古から争いに明け暮れたディアヌスにとっても、ついぞ経験した事の無い死闘である。
須佐之男には騙し討ちを食らった。
その弟子の永津彦とは、ここまで追い詰められる前に痛み分けになった。
……もちろん厳密に言えば、この戦いの前に消耗はしていたのだ。
女神達に時を止められ、そこを出るのに力を使った。
足元に結界をはられ、防御力が弱ったところに予期せぬ砲撃を受け。しかもその砲撃に永津彦の剣の霊気が込められていたため、見た目以上のダメージを受けた。
そもそも8つに分裂していたため、全盛期より力は落ちていた。
……それでも眼前の相手は強く、かつてない激戦であった事は事実なのだ。
互いに刃を交えた事で、相手を称える気すら湧いてきていた。
山河の神として絶大な力を持ち、人など塵芥としか思っていなかった自身にとって、驚くべき変化であろう。
だからと言って決着は避けられず、もうすぐこの相手とも別れの時だ。
長きに渡るこの戦い、人間ごときがよく食らいついた。
しかしやはり勝利の美酒は、神の名を持つ自らの物だったのだ……!
「ぐっ……うううううおおおおおおっっっ!!!」
激しい力のぶつかり合いの中、ディアヌスは勝利を確信した。
右手にエネルギーを集中させると、外皮を押し上げて腕の筋肉が膨張。右手1本で刃を握り、左手を離す事に成功したのだ。
(よくやった、だがここまでだ……!!)
心の中で賞賛しながら、ディアヌスは左手に邪気を集めた。
強固な防御を誇り、小手先の術など跳ね返したであろう相手も、今は攻撃に全ての力を集中している。しかも両手で太刀を掴み、避ける事も防ぐ事も叶わない。確実な勝利である。
微かな名残惜しさを覚えながら、ディアヌスは掌の術を発達させた。
だが今にもその術を放とうとした時。不意に左手に妙な気配を覚えた。
(…………何だ……?)
思わず手元に目線を動かす。左手の甲……外皮に覆われたその部分に、青く清浄な霊気を感じたのだ。
次の瞬間、何かの映像が脳裏に浮かんだ。
それは神としての神通力の産物である。神は時として因果を読み、要事を事前に知る事が出来るのだ。
その映像は、鎧姿の娘を映していた。敵方の神人であり、高天原の神々が選んだ聖者である。
娘と人間達は、小さな祠の前にいた。
その祠は自身の分霊を祀っており、そこに捧げられた生贄どもの霊気を食らって、ディアヌスは永津彦から受けた傷を癒したのだが……
娘は祠の前の水路を見つめ、あろう事か掃除を始めたのだ。頼んでもいないのに、つくづく勝手な娘である。
水路は澄み渡る流れとなり、手に感じた違和感はこれであった。
全身を邪気で包んだ邪神にとって、その身に清浄なる水の気が紛れ込むのは、普通ながら不愉快な刺激であろう。
しかし河の神たるディアヌスは、それを不快とは思わなかった。清らかなその感覚は、世の河川が醜く汚される以前の、太古のままの在り方だったからだ。
映像は更に切り替わり、今度は小さな機体を映した。あの砲撃を受ける直前、足元で蠢いていた虫けらである。
死にそうな人間ごときが、身の程知らずに語りかけてきたが、その言葉が今は妙に気になった。
『だったら戦う相手ぐらい、ちゃんと分かると思うんだ』
『ボク達は敵じゃない。ボク達は……』
ディアヌスは迷った。
(一体何だ? あの虫けらの言葉ごときが、なぜこのように気になるのだ?)
(こいつらは戦うべき相手ではない? 今殺してはならないだと?)
答えが出ないディアヌスだったが、その躊躇が命取りとなった。
急激に相手の力が増し、刃を押し返されそうになったのだ。
「!!!???」
再び力をこめようとしたが、そこで右肩に痺れが走った。
闘神・永津彦にもらった刀傷のダメージが、激しい戦いでぶりかえしていたのだ。
気付けば左手に集めた術も、その形を乱している。
かつて八岐大蛇と呼ばれ、太古から争いに明け暮れたディアヌスにとっても、ついぞ経験した事の無い死闘である。
須佐之男には騙し討ちを食らった。
その弟子の永津彦とは、ここまで追い詰められる前に痛み分けになった。
……もちろん厳密に言えば、この戦いの前に消耗はしていたのだ。
女神達に時を止められ、そこを出るのに力を使った。
足元に結界をはられ、防御力が弱ったところに予期せぬ砲撃を受け。しかもその砲撃に永津彦の剣の霊気が込められていたため、見た目以上のダメージを受けた。
そもそも8つに分裂していたため、全盛期より力は落ちていた。
……それでも眼前の相手は強く、かつてない激戦であった事は事実なのだ。
互いに刃を交えた事で、相手を称える気すら湧いてきていた。
山河の神として絶大な力を持ち、人など塵芥としか思っていなかった自身にとって、驚くべき変化であろう。
だからと言って決着は避けられず、もうすぐこの相手とも別れの時だ。
長きに渡るこの戦い、人間ごときがよく食らいついた。
しかしやはり勝利の美酒は、神の名を持つ自らの物だったのだ……!
「ぐっ……うううううおおおおおおっっっ!!!」
激しい力のぶつかり合いの中、ディアヌスは勝利を確信した。
右手にエネルギーを集中させると、外皮を押し上げて腕の筋肉が膨張。右手1本で刃を握り、左手を離す事に成功したのだ。
(よくやった、だがここまでだ……!!)
心の中で賞賛しながら、ディアヌスは左手に邪気を集めた。
強固な防御を誇り、小手先の術など跳ね返したであろう相手も、今は攻撃に全ての力を集中している。しかも両手で太刀を掴み、避ける事も防ぐ事も叶わない。確実な勝利である。
微かな名残惜しさを覚えながら、ディアヌスは掌の術を発達させた。
だが今にもその術を放とうとした時。不意に左手に妙な気配を覚えた。
(…………何だ……?)
思わず手元に目線を動かす。左手の甲……外皮に覆われたその部分に、青く清浄な霊気を感じたのだ。
次の瞬間、何かの映像が脳裏に浮かんだ。
それは神としての神通力の産物である。神は時として因果を読み、要事を事前に知る事が出来るのだ。
その映像は、鎧姿の娘を映していた。敵方の神人であり、高天原の神々が選んだ聖者である。
娘と人間達は、小さな祠の前にいた。
その祠は自身の分霊を祀っており、そこに捧げられた生贄どもの霊気を食らって、ディアヌスは永津彦から受けた傷を癒したのだが……
娘は祠の前の水路を見つめ、あろう事か掃除を始めたのだ。頼んでもいないのに、つくづく勝手な娘である。
水路は澄み渡る流れとなり、手に感じた違和感はこれであった。
全身を邪気で包んだ邪神にとって、その身に清浄なる水の気が紛れ込むのは、普通ながら不愉快な刺激であろう。
しかし河の神たるディアヌスは、それを不快とは思わなかった。清らかなその感覚は、世の河川が醜く汚される以前の、太古のままの在り方だったからだ。
映像は更に切り替わり、今度は小さな機体を映した。あの砲撃を受ける直前、足元で蠢いていた虫けらである。
死にそうな人間ごときが、身の程知らずに語りかけてきたが、その言葉が今は妙に気になった。
『だったら戦う相手ぐらい、ちゃんと分かると思うんだ』
『ボク達は敵じゃない。ボク達は……』
ディアヌスは迷った。
(一体何だ? あの虫けらの言葉ごときが、なぜこのように気になるのだ?)
(こいつらは戦うべき相手ではない? 今殺してはならないだと?)
答えが出ないディアヌスだったが、その躊躇が命取りとなった。
急激に相手の力が増し、刃を押し返されそうになったのだ。
「!!!???」
再び力をこめようとしたが、そこで右肩に痺れが走った。
闘神・永津彦にもらった刀傷のダメージが、激しい戦いでぶりかえしていたのだ。
気付けば左手に集めた術も、その形を乱している。
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