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第五章その10 ~何としても私が!~ 岩凪姫の死闘編
神雷に何があったのか
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少し時を遡り、全神連の東国本部である。
神雷の発射は最終段階に入り、言い表せない緊張が本部全体を包んでいた。
術者数十人が神雷を取り囲み、極限まで精神を研ぎ澄ませていく。
「永津様からのご指示である。邪神の出現に備え、全てのエネルギーは使うなとの事。威力を絞った発射とする」
台が告げると、術者達は無言で頷いた。
「大したもんだぜ。あの1人1人が、因幡に匹敵する式神使いなんだろ?」
ふと台の傍で高山が言った。
紺の作務衣姿でボサボサの短髪。敬語も何もあったものではないが、彼にしては真面目に話しているつもりなのだろう。
「その通りですが……体術等は修めておりませんし、咄嗟の術の速度などは、因幡殿の方が格段に上でしょう。あくまで神雷の操作のみに特化しているのです」
台はそう説明してやる。
「……とは言え、その発動は至難を極めます。追尾の軌道などは神雷が己で思考しますが、攻撃する魔物の位置などは、念のため人が確認せねばなりませんから」
「そうよねうっちゃん。式神は単純な意識しか持ってないから、こっちが教えてあげないと」
(うっ、うっちゃんだと……!? 私は300年以上生きているのに……)
因幡が気さくにニックネームで呼ぶのに耐えながら、台はなんとか頷いた。
やがてその時は訪れる。
輝く神雷が、一際強い光を放った…………そう思った瞬間、不可視の波動が押し寄せてきた。
発射直前、攻撃範囲にある全ての敵を確認する作業である。
霊気を広げて触覚の役目を果たす術であり、例えは悪いが、あの南アルプスの山中で、鳳天音が使った感知能力に近いだろう。
これで状況を確認し、最新の魔物の位置と定義を神雷に覚えさせてから発射するわけだ。
…………だがそこで異変が起こった。
神雷を囲むように座っていた術者達が、発射直前にその表情を曇らせたのだ。
「どうした、何が起きたのです!?」
台が問うのと、その映像が頭に飛び込んでくるのがほぼ同時だった。
森の中の社と、周囲に聳える幾多の柱。社の中には邪神の気が感じられる。
(これは……魔族の里!? 邪気の質から恐らく土蜘蛛。夜祖もいるのか……!)
里全体が発光して幾何学模様を発生させており、その光は中央の社へと集中していた。
(里全体が、巨大な呪具のように築かれている。あれで夜祖の思念を増幅、この本部まで届けているのか……!)
そしてとうとう、台にも見えたのだ。その里に捕らわれた、無数の人々の姿がだ。
恐らく数百人はいるだろうか。皆、目を白布で覆われ、体の半分程を青紫の細胞に覆われている。
彼らの意識ははっきりしているようで、時折苦しげに顔を歪めては声を上げていた。
混乱の当初に多数の人々が犠牲になったが、こうしてその一部が夜祖に捕われていたのである。
(迷いの原因はこれか! 魔の細胞が植えつけてある……神雷を撃てばあの者達に当たるのだ……!)
(この発射の直前で、魔とそうでないものの定義がごちゃ混ぜになる。もしそんな事になれば、神雷の制御そのものがおぼつかない……!)
世の人々を守る事を是とする全神連。その正義感が仇となり、強い迷いを生じさせていたのだ。
そこで台の脳裏に、夜祖の姿が浮かび上がった。邪神は獣のように口を引き裂き、こちらをあざ笑っている。
(全て計算ずくだったか……! こちらの動きを察し、起動に合わせて仕掛けたのか……!?)
その推測を裏付けるように、神雷は恐ろしい声で咆えた。
「まずい、すぐに止めよっっっ!!!!!」
台が叫ぶのと、神雷から無数の光が飛び出すのがほぼ同時だった。
やがて映像は、外部のそれへと切り替わった。
闇の中、天を目指した無数の雷龍。
それらは弧を描き、渦を巻くように空を舞う。
闇夜に輝くその様は、巨大な菊花のように美しく見えた。
やがて雷の龍は、次第に渦を広げ始めた。
始めはゆっくりと…………少しずつ速度を増して。
凄まじい咆哮を上げながら、周囲の地表に突進し始めたのだ。
見守る全神連の多くが、勝利を確信しただろう。
発射された雷の龍は、進撃する黄泉の軍勢を蹴散らし、人々を守ってくれる……そう信じていたのである。
だが現実は異なっていた。
雷の龍達は、黄泉の軍勢を素通りした。
唸り声を上げながら、周囲の地表に落下し始めたのだ。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
龍達は牙を剥き、建物や岩山を易々と食い破る。
それはほとんど無差別であり、人の車両も人型重機でさえも、全く例外ではなかった。
「……………………っ」
台は言葉を失っていたし、既に本部は混乱の極みに達していた。
幾多の人員が走り回り、口々に状況確認を行っている。
「なぜ神雷が暴走したのだ?」
「これも魔族の工作ではないのか!?」
そんな言葉が飛び交っている。
恐るべきは夜祖…………智謀に長けた土蜘蛛の神であった。
徹底的に情報を集め、こちらの切り札さえも逆転の一手に利用したのだ。
神雷の発射は最終段階に入り、言い表せない緊張が本部全体を包んでいた。
術者数十人が神雷を取り囲み、極限まで精神を研ぎ澄ませていく。
「永津様からのご指示である。邪神の出現に備え、全てのエネルギーは使うなとの事。威力を絞った発射とする」
台が告げると、術者達は無言で頷いた。
「大したもんだぜ。あの1人1人が、因幡に匹敵する式神使いなんだろ?」
ふと台の傍で高山が言った。
紺の作務衣姿でボサボサの短髪。敬語も何もあったものではないが、彼にしては真面目に話しているつもりなのだろう。
「その通りですが……体術等は修めておりませんし、咄嗟の術の速度などは、因幡殿の方が格段に上でしょう。あくまで神雷の操作のみに特化しているのです」
台はそう説明してやる。
「……とは言え、その発動は至難を極めます。追尾の軌道などは神雷が己で思考しますが、攻撃する魔物の位置などは、念のため人が確認せねばなりませんから」
「そうよねうっちゃん。式神は単純な意識しか持ってないから、こっちが教えてあげないと」
(うっ、うっちゃんだと……!? 私は300年以上生きているのに……)
因幡が気さくにニックネームで呼ぶのに耐えながら、台はなんとか頷いた。
やがてその時は訪れる。
輝く神雷が、一際強い光を放った…………そう思った瞬間、不可視の波動が押し寄せてきた。
発射直前、攻撃範囲にある全ての敵を確認する作業である。
霊気を広げて触覚の役目を果たす術であり、例えは悪いが、あの南アルプスの山中で、鳳天音が使った感知能力に近いだろう。
これで状況を確認し、最新の魔物の位置と定義を神雷に覚えさせてから発射するわけだ。
…………だがそこで異変が起こった。
神雷を囲むように座っていた術者達が、発射直前にその表情を曇らせたのだ。
「どうした、何が起きたのです!?」
台が問うのと、その映像が頭に飛び込んでくるのがほぼ同時だった。
森の中の社と、周囲に聳える幾多の柱。社の中には邪神の気が感じられる。
(これは……魔族の里!? 邪気の質から恐らく土蜘蛛。夜祖もいるのか……!)
里全体が発光して幾何学模様を発生させており、その光は中央の社へと集中していた。
(里全体が、巨大な呪具のように築かれている。あれで夜祖の思念を増幅、この本部まで届けているのか……!)
そしてとうとう、台にも見えたのだ。その里に捕らわれた、無数の人々の姿がだ。
恐らく数百人はいるだろうか。皆、目を白布で覆われ、体の半分程を青紫の細胞に覆われている。
彼らの意識ははっきりしているようで、時折苦しげに顔を歪めては声を上げていた。
混乱の当初に多数の人々が犠牲になったが、こうしてその一部が夜祖に捕われていたのである。
(迷いの原因はこれか! 魔の細胞が植えつけてある……神雷を撃てばあの者達に当たるのだ……!)
(この発射の直前で、魔とそうでないものの定義がごちゃ混ぜになる。もしそんな事になれば、神雷の制御そのものがおぼつかない……!)
世の人々を守る事を是とする全神連。その正義感が仇となり、強い迷いを生じさせていたのだ。
そこで台の脳裏に、夜祖の姿が浮かび上がった。邪神は獣のように口を引き裂き、こちらをあざ笑っている。
(全て計算ずくだったか……! こちらの動きを察し、起動に合わせて仕掛けたのか……!?)
その推測を裏付けるように、神雷は恐ろしい声で咆えた。
「まずい、すぐに止めよっっっ!!!!!」
台が叫ぶのと、神雷から無数の光が飛び出すのがほぼ同時だった。
やがて映像は、外部のそれへと切り替わった。
闇の中、天を目指した無数の雷龍。
それらは弧を描き、渦を巻くように空を舞う。
闇夜に輝くその様は、巨大な菊花のように美しく見えた。
やがて雷の龍は、次第に渦を広げ始めた。
始めはゆっくりと…………少しずつ速度を増して。
凄まじい咆哮を上げながら、周囲の地表に突進し始めたのだ。
見守る全神連の多くが、勝利を確信しただろう。
発射された雷の龍は、進撃する黄泉の軍勢を蹴散らし、人々を守ってくれる……そう信じていたのである。
だが現実は異なっていた。
雷の龍達は、黄泉の軍勢を素通りした。
唸り声を上げながら、周囲の地表に落下し始めたのだ。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
龍達は牙を剥き、建物や岩山を易々と食い破る。
それはほとんど無差別であり、人の車両も人型重機でさえも、全く例外ではなかった。
「……………………っ」
台は言葉を失っていたし、既に本部は混乱の極みに達していた。
幾多の人員が走り回り、口々に状況確認を行っている。
「なぜ神雷が暴走したのだ?」
「これも魔族の工作ではないのか!?」
そんな言葉が飛び交っている。
恐るべきは夜祖…………智謀に長けた土蜘蛛の神であった。
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