新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART5 ~傷だらけの女神~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第五章その9 ~お願い、戻って!~ 最強勇者の堕天編

あの女も逃げたんだろう?

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 銃撃の威力に恐れおののき、一先ず黄泉人どもは逃げ去った。

 しかし混乱は続いている。

 激しい怒号、詰め寄る人々。必死にそれをなだめる、歳若き兵士達。

 しばし呆然とする誠だったが、後ずさった拍子に、手にしたペットボトルの水が音を立てて揺れた。

「そうだ、今はこれを……!」

 その感触のおかげで、誠はようやく我に返れたのだ。

「鳳さん、こんな時にすみません。ヒメ子が苦しがって水を欲しがってるんで、戻らせてもらいます……!」

「そっ、それは一大事ですね! ここは私どもにお任せ下さい。黒鷹様はどうぞお早く」

 だが誠が駆け出そうとすると、行く手を塞ぐように人々の群れが押し寄せた。

「なっ……!?」

 前も後ろも人波で遮られ、最早行くも戻るも出来ない。

 被災者の1人が、目ざとく誠のパイロットスーツを見て言った。

「おいその格好、あんたも仲間なんだろ!? 無関係なふりで逃げようってのか?」

「違います! そのお方は、ここの守備隊ではありません!」

 鳳も必死に叫んでくれるが、興奮した人々は追求の手を緩めない。

「そのお方? さては責任者えらいさんか! だったらお前が責任を取れっ!」

「そうよ、この人殺しっ! 部下にやらせて自分だけ逃げるなんて!」

「ち、違います……とにかく落ち着いて」

 後ずさる誠だが、人々はますます凶暴な怒りをぶつけてくる。

(早く、早くヒメ子に持ってってやらないと……!)

 誠の脳裏に、弱々しく嘆願する鶴の姿が思い浮かんだ。

『……わがまま言っていい?』

『……お水が欲しい』

(あんな頑張ってくれたんだ。せめて最後に水くらい……!)

 でも抜けられないのだ。

「すみません、仲間が待ってるんです! どうか、どうか行かせて下さい!」

 誠は嘆願するが、人々は誠を掴んで放そうとしない。

「誤魔化すな! さあ言え、何で撃ったんだ! 相手は人間だぞ!」

「そうよ、どうして話し合おうとしないの! 相手は言葉が話せるんでしょ!?」

「こ、言葉を話す事と、意思疎通の可否は別です。錯乱しても、言葉は言えますから……」

 誠は戸惑いながら答えるが、半端な理屈は、むしろ逆上した人々の神経を逆撫でした。

「馬鹿にしてる、馬鹿にしてるわ! 屁理屈で逃げる気でしょう!」

「そうだ、人の命より、理屈の方が大事なんだろう!」

「そ、そんな事は……」

 誠は混乱の極みに達していた。

 今まであらゆる事態において、自分達は困難を乗り越えてきた。

 もちろん天草さんや船渡さん、嵐山さんのように、説得が難しかった事もある。

 それでも意思の疎通は出来たし、賛成反対は別として、話す内容そのものは理解してもらえたのだ。

 でも今の状況は違う。

 最早言葉が通じないレベルにまで興奮した人々。この場全体を覆っている、異常なまでに高まった狂気。

 善意がまるで意味を成さず、理屈が全く通用しない。

 それを衆愚しゅうぐ……と呼ぶほど誠は傲慢ごうまんにはなり切れないが、一体この場をどう乗り切ればいいのだろうか。

 だが最悪の事態は尚も重なる。

「あっ、ああああっ、やられる、やられるぞ!」

 人々の叫びに我に返ると、壁にある大型モニターには、外の様子が映されていた。

 避難車両の駐車場で、バスに大量の黄泉人どもが群がっていたのだ。

「あいつら、逃げてなかったんだ……!」

「こちらの銃が手強いと見て、襲う獲物を変えたのですね……!」

 鳳も顔色を変えてモニターを見つめる。

 そこから先は地獄絵図だった。

 無数の黄泉人に囲まれ、運転手は耐え切れずバスを発車させる。

 だが黄泉人どもは怯まず、運転席の窓にびっしりと張り付いた。

 バスはたちまち蛇行し、闇の中に火花を上げながら横転した。

 そのまま横滑りし、別の車両に正面から激突……!

 大爆発が起こり、黄泉人どもは興奮を抑え切れずに飛び跳ねている。

「…………なんて事」

 鳳は青ざめ、手で口を覆って絶句していた。

「鳳さん、僕は大丈夫です。あなただけでも抜けて下さい」

 誠は彼女だけでもこの渦中から逃がそうと思ったが、取り囲む人々はそれすら許さない。

「逃がさんぞ、自分の女だけ守る気か!」

「いいわよねぇ、若くて綺麗なら、真っ先に助けてもらえるんだもの!」

「ちっ、違います……私は黒鷹様とは、何も……」

 鳳は殆ど泣きそうになって首を振った。

「わ、私はただ、皆様を守るために……」

 だが詰め寄る女達はそれを聞かず、鳳の腕や髪を掴んで何かを叫んでいる。

「鳳さん!」

 誠は彼女の元へ近寄ろうとする。

 ……しかしとうとう、その言葉が投げつけられたのだ。

「どうせあの鶴とかいう女も、真っ先に逃げたんだろうっ!?」
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