新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART5 ~傷だらけの女神~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
53 / 117
第五章その5 ~黙っててごめんね~ とうとうあなたとお別れ編

不老長寿の秘薬があれば、人は血みどろで奪い合う

しおりを挟む
 恐れていた事が起こった。

 封鎖した旧市街区の上空には、マスコミの報道ヘリが爆音を立てて行き交っている。

 一度は鎮まったはずの細胞が力を発露し、人々がその存在を知ってしまったのだ。

 細胞の存在を隠すため、突貫工事でかけられたドーム型大型テントは、何度も何度も報道番組に映し出された。

 ……もちろん魔王の細胞が発見されたというだけでは、ここまで人々が熱狂するはずはない。

 問題はその力の発揮によって、周囲に奇跡が起きた事だ。

 ケガや病気など、様々な健康問題が改善した人もいたし……あまり大きな声では言えないが、肉体が数十年単位で若返った者までいたらしい。

 杖をついた老人が、まるで10代の若さを取り戻し、DNA検査によっても本人と断定された。

 既存の常識を超えた……いやそれどころではない魔法の力に、日本列島は震撼しんかんしたのだ。

 そしてその奇跡が、旧富士市近郊にある細胞から起きたと知れ渡るのに、それほど時間はかからなかった。

 あの雷の下に魔王ディアヌスの細胞があり、神のごとき力が得られる。

 手にした者は、巨万の富と不老不死の加護を欲しいままにし、新しい時代の覇者となるのだ。

 そんな情報が、凄まじい速度で日本列島を駆け巡ったのだ。



 繰り返し流される報道特番を、誠達は呆然と見つめる。

 通信車のモニターいっぱいに司会者のアップが映され、したり顔で視聴者こちらに語りかけている。

『にわかには信じられませんが、肉体年齢がまるで10代に! いわば60年以上若返るという、まさに奇跡が起きたわけです。この辺りについて、かつて高千穂研で勤務されておられた花園はなぞのさんにお話をうかがいましょう。こうした事例は高千穂でも起きた事なんですか?』

『そうですねっ』

 白衣で浅黒い肌の男は、待ってましたとばかりに身を乗り出した。

 机上のネームプレートでは大層立派な研究員だったように書かれているが、誠の記憶ではかなり違う。

 研究項目カテゴリーの1つ、『反重力実験アンチグラビティ班』でもかなり補佐的な立ち位置であり、もっときつい言い方をすれば、超末端の雑用係だったはずだ。

『高千穂研におきましては、さすがに若返りといった事までは起きませんでしたが、およそ現代科学で説明出来ない現象は、数限りなく確認しました』

『となるとやはり、一度魔王となった細胞の方が、かつての竜芽細胞ドラゴンセルより強い効果があると?』

『そう考えていいでしょう。実はこれ以前にですね、ここ最近、各地で似たような現象が確認されているんです。不思議な力を得たり、到底回復するとは思えない怪我が、瞬時に快癒かいゆしたりですね。今回はその大掛かりなバージョンと言えるでしょう』

『ほう、今までも起きていたんですか!』

 司会者は大げさな表情で驚き、自称専門家はニヤリと笑う。

『そうなんですよ。つまり極めて大きな力を持つ魔王の欠片が……少し非科学的な例えをすれば、不老長寿の霊薬のようなものが、この世に生まれたという事です。これは非常に大きな問題ですね。あらゆる医学の常識を超えた人類の宝、共通財産ですから。それを政府が独占するとなれば、利益の再分配、平等性という観点からしましても……』

 そうなんですか、それは問題ですねえ、と繰り返されるやり取りは、明らかに事前練習した筋書きなのだろう。



「何が問題や、分け前が欲しいだけやろ」

 難波が苛立ってチャンネルを変えると、今度は政府の会見映像になった。ただし政府と言っても、臨時的な仮政府である。

 まずはこの臨時政府の元、急を要する各地の被害の回復をはかり、その後に6つの船団を統合した国家体制に移行するはずだった。

 はずだったのだが、まさかその臨時政府の最初の仕事が、報道陣への対応になるとは……映像に映る佐々木達も、夢にも思っていなかっただろう。

 カメラの撮影用照射光フラッシュが連続でたかれ、批判的な声が矢継ぎ早に投げかけられる。

『新たな細胞が発見されたとの事で、何を隠しているのですか!?』

『政府の一部の人間が、利益を独占しているとの話ですが!』

『立ち入り禁止にして、一体どうするつもりなんですか!?』

 いくらなんでも無茶苦茶な非難である。

 一時的に奇跡のような恩恵があっても、そもそもあれは魔王の細胞だ。今後どのような影響があるか分からないし、隔離して様子を見るのが当然だろう。

 だが報道陣の追及は凄まじく、まるで政府が悪事を働き、利益を独占しているかのような印象操作を行っているのだ。

 その方が視聴者に分かりやすく、叩く図式で視聴率すうじが稼げるからだろう。

「何やねん、今まで隠れとったくせに。平和になったら一気に湧いてきとるやんか」

 難波はかんかんになって怒ったが、今の放送法上、チャンネルは各船団ごとに2局しかないため、これ以上切り替える事が出来ない。

 普段は支給品・避難所の状況などの情報伝達するチャンネルが1つと、被災者の気分転換のために、過去のテレビ番組を流すチャンネルが1つだ。しかし今はどちらも細胞関連の話題一色だった。

「うちらが死にそうな時は何も言わんかったくせに、自分らの利益になる思ったら必死やんな」

「まるで砂糖に群がる蟻みたいね。今引っ掻き回したら、事態が悪化するって分かってるでしょうに」

 カノンが苦々しげに言うと、香川も目を閉じて眉を顰めた。

「……やれやれだ。なりを潜めてた連中が、平和になったら好き勝手か。あさましいったらありゃしない。なあ宮島?」

 香川が隣を見ると、宮島は車外に出ようとしている所だった。

「もう我慢できねえっ、俺が行って文句言ってやるよ!」

「ちょっと宮島、これ生放送じゃないわよ」

「おっとそっか。でも腹立つなあ……!」

 カノンのツッコミに宮島は立ち止まったが、おさまりがつかないのだろう。片手で頭をガシガシ掻いて、悔しそうに呟いた。

「船団長のおっちゃんだって、何も悪い事してねえのによ。隊長達が他んとこ行った後も、随分世話になったんだぜ?」

 誠もそれは耳にしていた。自分達が九州・北陸・東海と転戦していた間、船団長の佐々木は精力的に働いてくれたのだ。

 私利私欲を捨て、賄賂や不正を徹底的に排除し、困窮する人々のために走り回ってくれた。

 それはまさに頼れる大人の姿だったし、その強力なカリスマもあって、各地の避難区は、現代の明治維新かとも思える奇跡の復興を遂げていたのだ。

 信頼出来る大人が、自分達のために頑張ってくれている。それを見た若者達が、どれだけ未来に希望を持てた事か。

「鳴っち、佐々木のおっちゃんに電話したら? 案外出てくれるかもしれんで」

「い、いや、どう考えても忙しいだろ」

 誠は迷ったが、迫る難波達の気迫に押され、とうとう佐々木に連絡してみる。

 緊急時に備え、特別に教わっていた回線なので、画面にはすぐに佐々木が映った。

「佐々木さん、今通話大丈夫ですか? 随分大変でしたね」

 誠が言うと、画面上で佐々木は力こぶのポーズをとってみせる。

「いや、なんのなんの。今のわしはネオ佐々木、もうこれしきではへこたれません。胃もまだまだ残っておりますぞ」

「ええでおっちゃん、うちらはちゃんと見とるからな」

「そうだっ、頑張れおっちゃん! 俺も応援してっからよ!」

「これは心強い。新しい国づくりも始まりましたし、戦ってきた皆さんの分まで、我々が頑張らねば」

 佐々木は少し調子に乗り、ボディービルダーのようなポーズを次々披露したが、そこで真面目な表情に戻った。

「今はさすがに身動きが取れんのですが、ひと段落したら、我々も見舞いに行きますから」

「それは、ヒメ子も喜ぶと思います」

 だが、誠がそう答えた時、またも車外で轟音が聞こえた。

「何だ……!?」

 耳を澄ますと、何か大勢の人々が集まり、口々に叫んでいるようだ。

「佐々木さん、ありがとうございます。何かあったようなので、これで失礼いたします」

「そうですな、皆さんも気をつけて下さい」

 佐々木は片手の親指を立てて画面から消えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

処理中です...