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第五章その5 ~黙っててごめんね~ とうとうあなたとお別れ編

押し寄せた抗議団体

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 誠達が駆けつけると、既に多数の市民が押し寄せ、大声で叫んでいた。

 誠は手近な兵に尋ねる。

「どうした、何があった?」

「あっ、これは鳴瀬少尉! お、お疲れ様でありますっ!」

 若い兵は誠に気付くと、全員が弾けるように敬礼した。

 魔王ディアヌスを一騎討ちで倒した誠の知名度は、こういう時には役に立つのだ。

「じ、実は例の細胞関連の抗議で、民間人が殺到しているんです」

 警備兵はそこで群集の方に目をやった。

 服装も年齢も様々な人々は、狂気にも似た表情で叫んでいる。

『危険だから。まだ未知の物体だから。すぐに対処する事は難しいのです』

 そういくら説明しても、彼らは引き下がらなかった。

 感情のままに叫び散らす者、警備の兵に掴みかかる者。それを止めようと触ると、暴力だとわめく者。

 最早話が通じる状況ではなく、兵の疲労もかなり蓄積していた。

 掲げられたプラカードには、『細胞の独占を許すな!』『適切な利益の分配を!』といった言葉もあれば、逆に『危険な研究の過ちを繰り返すな!』『私達の家族と10年を返せ!』といった細胞利用への反対意見もあった。

 犠牲になった家族のための抗議。それは誠にも理解できる。

 この10年の耐え難い我慢の反動。それも理解できなくも無い。

 分かる……分かるのだが、今解き放っていい感情ではないだろう。

「………………っ!」

 好き勝手に叫ぶ彼らを見るうち、誠は拳を握り締めた。

(今騒いでどうする? 今我儘わがまま言ってどうなるんだよ)

(死に物狂いで魔王を倒して、ようやく日本が立ち直る……その一番大事な時なのに)

(勝ったからって、調子に乗りやがって……!)

 そんな言葉が脳裏に湧き出る。

 今まで沢山の仲間達が、戦いの中で死んでいった。

 誰もが恐怖に怯え、それでも勇気を振り絞って、生き残った人々に明日を託してくれたのだ。

(みんなこんな我儘な奴らのために戦って、犠牲になったのか?)

(あのヒメ子も……こんな奴らのために、短い命を使ったのか……!?)

 そう思うと、自分でも驚く程の怒りが湧き上がってきて、頭が真っ白になりそうだった。

(今まで隠れてたくせに……お前らが何したってんだ……!!!)

 無意識に前に踏み出す誠だったが、そこで後ろから肩を掴まれた。

 振り返ると、鳳が険しい顔でこちらを見つめている。

「…………黒鷹様。もう一度、お話をよろしいでしょうか」

「話って……まさか、ヒメ子の容態が?」

 誠ははっとして我に返った。

「鳴っち、ここはうちらが見とくで。遠慮せんで行きや」

「すまん、頼むっ……!」

 誠は鳳と共にその場を離れた。
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