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第二章その4 ~信じてほしいの!~ ガンコ才女の説得編

鳳の戦い

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 そこから先は、誠も無我夢中だった。

 鳳が室内に何かを投げ入れると、物凄い光が目を叩いた。

(何だ!? 閃光弾?)

 目をそらす誠をよそに、罵声と轟音が響き渡る。

「行くしかないよな!?」

 歯を食いしばって室内に駆け込むと、鳳があいての背に太刀のつかを振り下ろすところだった。

 崩れ落ちる男をよそに、彼女は次の敵へと向かう。

 走ったと同時に、全身から青い光が溢れ、瞬間的に加速していたのだ。

(慣性制御の電磁式!? 添加機もなしに???)

 人型重機の加速と同じ理屈だが、それを瞬時に、自らの術で行っているのか。

 鳳は相手の懐に飛び込むと、腹に手の平をあてがう。

体の六式たいのろくしき穿うがち……!」

 相手は爆発したように吹っ飛んで、壁に頭をぶつけて動かなくなった。

 ……が、そこで鳳は飛び退いた。

 彼女が今まで居たところに、無数の銃弾が殺到したのだ。

 鳳は壁沿いに走りながら左手をかざす。

 その手には、いつの間にか拳銃ハンドガンが現れていた。

 鳳は床を横滑りしながらハンドガンを連射。

 弾丸は粉塵を切り裂いて飛ぶが、赤い幾何学模様を描いて弾かれた。

 粉塵が裂かれた事で、誠の目にも相手の姿が見えた。

 室内にいる数名の男女……いずれも人間然とした見た目だが、その目は赤く光っている。

全神連ぜんしんれんの犬が!!!」

 一人の叫びを皮切りに、相手が拳銃を連射する。

 鳳も走りながら応戦し、弾丸を発射。

 その弾が、敵の眼前で赤い光に防がれた……と思った刹那せつな、相手が悲鳴を上げてのけぞった。皆、胸や肩口に青く光る刃が刺さっている。

 いつの間にか鳳は銃を消し、左手に複数の小刀を携えていた。

 着弾して光の障壁が弱った瞬間、見えにくい刃物で追撃していたのだ。

「……雷技の二式らいぎのにしき稲魂いなだま

 鳳の言葉と共に、相手は落雷にあったかのように痙攣けいれんし、焦げた匂いを上げて崩れ落ちた。

「……すごいわ」

 誠の隣で、鶴が小さく呟いた。

 珍しく余所見もせず、興味深げに戦いを見つめている。

「才次郎達も片付いたようですね」

 鳳の言う通り、他の2人が奥の部屋から戻ってくる。

 槍を掲げた少年は、物足りなげに呟いた。

「歯ごたえないなあ、つまんない。鎮西ちんぜいの敵はたるんでるんじゃないの?」

「こら才次郎さいじろうっ、調子に乗るんじゃないの。油断して損害出たら、弁償させるからね」

 隣で藤色の髪の少女が怒っている。

 どちらも狐面を付けているので、表情は分からないのだが……そこで突然、鳳が物凄い剣幕で叫んだ。

才次郎さいじろうっ、湖南こなんっ!!!」

 面を付けた2人は、弾けるように床を蹴った。

 次の瞬間、たった今まで彼らがいた場所に、紅蓮ぐれんの炎が渦巻いたのだ。

「……あーらら、避けられた。なかなかやるじゃないの、ボクちゃん達?」

 いつの間に現れたのだろう。

 奥の部屋から繋がる通路に、一人の青年が佇んでいた。

 歳は20代の半ばほどか。

 波打つ金髪、やや垂れ気味の目元。均整の取れた体を、派手な色のスーツに包んでいる。

「始めまして。俺っちはほむら。と言っても真名まなは別にあるんで、コードネームみたいなもんかな?」

 男は片手で髪をかき上げながら言葉を続ける。

 一見チャラついて隙だらけにも見えるが、鳳は油断なく太刀に手をかけた。

「………………姫様も、黒鷹殿もお下がり下さい。かなりの使い手です。恐らく始祖しその血を引く者かと」

「始祖ねえ……ま、御前ごぜん様は俺らの先祖なんだが、昔過ぎてよく分かんないんだわ。俺も千年ぐらいは生きてるけどなあ…………燐火ちゃん?」

 そこで男の目に、不気味な赤い光が宿る。

 瞬間、鶴が叫んだ。

「黒鷹、右よっ!!!」

 鶴の声と共に、誠の右手側から女が現れた。

 女が手をかざした瞬間、誠に火球が殺到する。

 やられる、と思う誠だったが、間一髪かんいっぱつ、槍を持つ狐面の少年が、炎を突き刺し四散させていた。

「ナイスフォロー、才次郎!」

 藤色の髪の少女はそう言って、槍を持つ少年の隣に立つ。

 そんな2人を眺めながら、女は無機質な声で言った。

「……全神連も、余程人手不足みたいね。子供がはしゃぐとケガするわよ?」

 女の言葉と同時に、誠の頬を爆風が叩いた。

 目をやると、鳳が壁際まで飛び退いている。

 素早く体をひるがえし、壁ぞいに駆け抜けるが、赤い火球が次々彼女を襲っていく。

 長い髪が、衣服のはしが、炎で焼けて焦がされていく。

「そらそら、さっきの勢いはどうした!」

 男は加虐かぎゃくを楽しむように言葉をかけるが、鳳は加速しながら呟いた。

「……らいの二、やいば……!」

 鳳は妙に大げさに振りかぶると、数本の小刀を投げつけた。

 さっきと同じ、刺さると電撃を与える術か?

 男が余裕の表情で手をかざすと、赤い幾何学模様が小刀を弾いた。

「ワンパターンだな姉ちゃん。雷の人工精霊しきがみごときで……」

 だが男が軽口を叩きかけた時、いきなり鳳が相手の目前まで迫った。

 鳳の太刀は、強烈な光を放って男を襲う。

「刀技いつ式・流星斬ほしかがり……!!!」

「うおっ!?」

 男は咄嗟に両腕を交差クロスさせ、鳳の斬撃を受け止めた。

 腕と太刀の間に、赤い光が浮かび上がっていたが、完全には防げなかったらしい。

 男の袖は切り裂かれ、青紫の血が床に垂れ落ちた。

「……なるほど、2術を同時に練ってたか。器用な姉ちゃんだぜ」

 男の顔から笑みが消え、2人は同時に動き出す。

 それぞれが魔法で身体能力を増強し、加速。

 男が炎を操り、太刀の届かない間合いから鳳を追い込む。

 だが鳳が壁際にしゃがんだ瞬間、彼女の太刀を巨大な光の刃が覆った。これなら刀身は数倍に達する。

 刀が届かないふりをして、相手を油断させていたのだ。

 光の刃が閃くと、男の肩口から血が飛び散る。

 だが男は飛び退きざまに、刀を振り切った鳳に向けて火球を放つ。

 鳳は咄嗟に手に光を満たし、裏拳で炎を弾き飛ばした……が、完全に炎の威力を殺せなかったのか、手の甲が焼けただれていた。

 2人は更に交錯こうさくする。

 絶え間なく牽制の術を繰り出し、フェイントを織り交ぜ、相手が体勢を崩したら大技を出す。

 前に見せた技の先入観を利用して相手を誘導し、次の技へと追い込んでいく。

 それら全てが、瞬きほどの刹那せつなに繰り広げられるのだ。

「ほんと……すごいな……」

 誠は思わず口に出していた。

 人型重機に乗って巨大な敵と戦うのとは、全く違うベクトルの強さだった。

 いつもは騒がしい鶴も、今は感心したように戦いを見つめている。
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