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第二章その4 ~信じてほしいの!~ ガンコ才女の説得編

突入するのは『我々』です

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 車が停車すると、中から多数の人影が降りてきた。

 皆が黒いスーツ姿で、顔には狐の面を付けている。

 どこかで見た服装だな、と誠が考えていると、そのうちの1人が面を取った。

 燐とした雰囲気をした20歳はたち前後の女性で、誠のよく知る人物である。

「あれっ、おおとりさん?」

「お久しぶりです。こちらでも頑張っておられるようですね」

 誠を見ると、鳳は懐かしそうに微笑んだ。

 女神の命に従い、色々と助けてくれた彼女だったが、四国の奪還に成功した後は、しばらく姿を見せなかったのだ。

「ここのところ、ずっと西国支部……つまり第4船団に行っておりまして。本日こちらに来たばかりなのです」

「第4船団て、日本海ですよね。自由に出入り出来るんですか?」

「そこは企業秘密ですよ、黒鷹殿」

 鳳は少し悪戯っぽく答える。

「ともかく、人の世の闇と戦うは我々の仕事。どうぞお任せ下さい」

「……そ、そうよね、正直怖いと思い始めてたの」

 湯香里が素直に言うと、志布志隊の面々も頷いた。

「それでは状況を確認いたします。普段なら式神を飛ばして探るのですが、姫様の大鏡ちずをお見せいただけますか?」

 鳳の言葉に、コマがぽんと前足を叩いた。

「そうだよ鶴、道和多志みちわたし大鏡おおかがみだ。そろそろ九州こっちの気に慣れただろうし、今なら使えるんじゃないかな」

「それもそうね」

 鶴が念じると、虚空にあの半透明の地図が浮かび上がった。

 鶴が持つ神器・道和多志みちわたし大鏡おおかがみの力であり、遠くから敵の様子を映し出せるのだ。

 鳳はさっそく地図を拡大し、建物内部のチェックを始めた。

「地上も地下も、ほとんどはおとり。何も無い部屋ばかりですね。地下3階に降りると行き止まりの扉……ここから先が本命でしょう」

 鳳が映像を下にスクロールすると、その先の様子が映し出される。

 扉の先は思いのほか手狭てぜまで、手前にソファーを置いた待機部屋、そして資料を満載した部屋がある。

 一番奥の一室は、洞窟のような岩肌が剥き出しになっていたが、床面に赤い光の魔法陣が見える。

 そして数人の人影が、待機部屋の椅子に腰掛けているのが見えた。

「今は8人程が中におりますか。拠点にしては生活感がありませんが、あくまで出入り口なのでしょう」

 鳳はどんどん説明を続ける。

「地下3階のドアに強い結界が張られていますので、ここの前まで転移しましょう。転移と同時にドアを破壊して突入、奥の魔法陣を抑えられれば最良ですが……無理な場合は、一人でも確保して情報を引き出します」

 鳳はそこで顔を上げ、一同をぐるりと見渡した。

「突入するのは『我々』ですが、くれぐれもお気をつけ下さい。今は敵に有利な邪気に覆われております。いわば日本全土が敵地アウェーなのです」

 誠は一同を代表して尋ねる。

「そ、それで勝てるんですか……?」

「心配ご無用、我々はそのために修練を積んでいます。まあ、間近で見れば分かりますよ」

「間近……???」

 誠は嫌な予感を感じたが、鳳はにっこり微笑んだ。

「はい。突入するのは『我々』と申し上げましたので」

「ええっ!? い、いや、別にサボりたいわけじゃないですけど、俺、術とか何にも使えないし」

「それで構いません。仕事柄、守る者が無い戦いの方が珍しいですから。安心してご見学下さい」

 鳳がしれっと言い放つので、誠は内心たじろいだが、ここまで来て後戻りなど出来ないのである。

「……ええいっ、もうこうなったら、なるようになるさっ」

 誠がやけくそで腹をくくると、鶴も頷いた。

「そうよ黒鷹、なんとかなるわ! 私は500年ぐらい、それだけで乗り切ってきたんだもの。命続く限り、それ一本で押し切りましょう!」

「いやいや鶴、それはちょっとどうかと思うよ」

 コマが慌ててツッコミを入れるが、そこで女神が口を開いた。

「それでは2人とも、此度こたびの戦いよく見ておけよ。あまりゆっくりはしておられんのだ。お前達が順ぐりに各地を取り戻し、次第に強くなっていくのを、敵が待ってくれると思うか?」

「思えるなら思いたいけど、さすがの私も思わないわ」

 鶴の答えに、女神は頷いた。

「そうだ。敵はそろそろ手を打つだろうし、戦いはお前達が思うより、ずっと早く加速していく。荒療治あらりょうじではあるが、実戦で見て学べ。勿論心配はいらん。鳳は全神連ぜんしんれん守護方しゅごがたでも一流の腕。術だけなら懲罰方ちょうばつがたには及ばぬが、総合的な戦力ならかなりのものだ」

「ぜ、全神連? 守護方に……懲罰方?」

 誠が呟くが、そこで鳳が口を挟んだ。

「その辺はおいおい分かるでしょう。それでは代行様、追ってご報告いたします」

 神器のタブレット画面が消えると、鳳は何も無い虚空に手をかざす。

 宙に光が満ち溢れ、抜き身の太刀が現れた。

 鳳がそれを掴むと、刀身に青い輝きが満ちていく。

「…………っ!」

 誠は目を奪われた。

 同じく刃を包む電磁式でも、属性添加機で発生させたそれは一本調子のシンプルな編成である。

 だが鳳の持つ刀身には、それよりずっと複雑で、緻密な電磁式が入り乱れて見える。薄く繊細、かつ多重の術が、生き物のように駆け巡っているのだ。

「それでは参りましょう。津和野つわのさん達は外のからを頼みます。才次郎さいじろう湖南こなん、2人は中へ」

 鳳の言葉に、一番背の低い人物が、槍を手にして進み出た。

 こちらも面を付けているが、恐らく12歳ぐらいの男の子だろうか。

 もう一人、少し藤色がかった髪をした少女も、黙って男の子の傍に立った。

 彼女は特に武器らしきものは持っていない。

「それでは姫様、転移をお願いできますでしょうか。転移後は後ろでご見学下さい。コマ殿は足が速いので、逃げる敵に備えて外で待機を」

「わかったよ。鶴、気をつけてね」

 コマは答えると、鶴の肩から飛び降りた。

 鶴は目を閉じて何事か唱え始める。

 誠達の足元に、光の円が現れた……と思った瞬間、景色は一変していた。

 辺りは暗く、非常灯の光のみが頼りだ。

 不意に誠の傍を、鳳が駆け抜けていく。

 彼女が駆けるその先には、堅牢な金属製の扉があった。

 表面には不気味な模様が描かれ、赤く毒々しい光を帯びて輝いている。

 太刀が閃くと、扉は一刀の元に切り裂かれていた。

 両断された扉が倒れるのも待たず、鳳は横蹴りでそれを突き飛ばしていた。
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