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第5話 神奈川県③ 鶴岡八幡宮、江ノ島
しおりを挟む「ほう、美しく大きな赤い門じゃな。これまでの建物とはまた少し違うみたいじゃ」
「ここは鶴岡八幡宮といって、今から千年近く昔に建てられたものなんだ」
「千年前っ!? それはすごいのう!」
鶴岡八幡宮は鎌倉幕府の象徴とも呼べる神社だ。源頼朝ゆかりの場所でもある。
「この国では神社と言って、昔から全国各地に神様を祀る場所として建てられているんだよ」
「なるほど、妾の国にも教会があるぞ」
「そうだね、教会みたいに神様に祈る場所と思ってくれればいいかな」
厳密に言えば教会と神社は違うのだろうけど、似たようなものである。
「ここはパワースポットにもなっているから、せっかくなので旅の祈願でもしていきましょう」
「うむ、こちらの世界の神様に祈るとしよう」
鶴岡八幡宮は勝負運や仕事運、良縁などのパワースポットでもある。無事にこの旅が終わることを祈ってお守りも買っておくことにしよう。
ちなみに神奈川県川崎には厄除けで有名な川崎大師もある。正月の初詣はものすごく混んでいる。そして川崎大師の商店街にあるくず餅を買って帰るのが定番だな。
「……おお、これが電車という乗り物か!」
「江ノ電は普通の電車よりだいぶ短いかな。さっきまでいた横浜駅の電車は15両編成が大半なんだよ」
江ノ島電鉄、通称江ノ電。鎌倉駅と藤沢駅を結ぶ短いローカル線だが、ローカル線の中でも有名な電車である。
鶴岡八幡宮を観光してから江ノ島へと向かう際に、江ノ電を使うことにした。せっかくなら鎌倉駅周辺の街並みを歩くのも楽しいからな。
「すごいスピードで走るのじゃな! この電車という乗り物は馬車よりも全然速いのう!」
「江ノ電は街中を走るから、他の電車のほうがもっと速いよ」
江ノ電は民家の横をスレスレで通るのでスピードはそれほど速くない。
「タケミツ、もしかしてあれは海というものなのか!? すごく大きな水たまりじゃ!」
「ああ、あれが海だよ。もう少し暖かい時期だと、海に泳ぎにくる人がいっぱいいるんだよね」
江ノ電からは湘南の海が見える。どうやらミルネさんは海を見るのは初めてらしい。初めて海を見る子供のように興奮している。
ちなみに江ノ電の鎌倉高校前駅には有名なバスケットボールアニメに出てくる踏切があったりもする。俺も聖地巡礼したもんだ。
「ほう、ここは島になっておるんじゃな!」
「ああ、江ノ島と言う小島と対岸を橋で繋いでいるんだ。周囲が全部海になっている小島だから、向こうから見る景色もなかなかだぞ」
鎌倉駅から江ノ電で江ノ島駅へと到着した。大きな橋を渡って江ノ島へと渡る。
「両隣はお店ばかりじゃな。美味しそうな匂いがあちこちからするのじゃ!」
「もうすぐ日が暮れるから、先に上に登っちゃおう。晩ご飯はこのあたりのお店にしようか」
江ノ島弁財天仲見世通りにはたくさんの飲食店やお土産屋さんが並んでいる。タコを丸々プレスしたたこせんべいも有名である。
江ノ島の頂上まで繋がっているエスカレーターである江ノ島エスカーを使って頂上まで登る。ちなみに下りのエスカレーターがないからエスカーというらしい。そしてそのまま江ノ島シーキャンドルという展望台へと登った。
「おお~これは見事な景色じゃな!」
「ちょうど夕陽が落ちる時間だったね」
時間もちょうどよく、夕日がゆっくりと沈んでいくところであった。展望台の上から、湘南の美しい海が夕陽に染まるこの瞬間を一望できる。
「……これほどの高い山に、これほどの施設を作るとはなんとも凄いものじゃ。それにこの茜色に染まる景色は本当に美しいのう」
そう言いながら夕焼けが照らすミルネさんの横顔には少しドキッとしてしまった。エルフの象徴であるその長い耳はニット帽に隠れているし、こうしてみると本当に可愛らしい女の子だ。隠密魔法を使っていなかったら、周りの人の注目を集めていたに違いない。
ぐううううう~
「………………」
「こっ、これは違うのじゃ! い、今の腹の音は妾ではないぞ!」
美しい夕暮れの湘南の海を眺めていると、ミルネさんのお腹の腹の虫が盛大に鳴った。今日はいろいろと食べたのにもうお腹が空いてしまったようだ。顔が真っ赤になって恥ずかしがっていそうだが、この夕陽で顔色はわからないな。
「さて、何のことでしょうかね? そろそろ降りましょうか。日が暮れたあとのここのライトアップはとても綺麗ですよ」
ここは聞いてなかったことにするのが吉だろう。ふっ、良い男は女性に恥をかかせないものだぜ。
「う、うむ。そうするとしよう!」
「おお、これはなんとも美味しそうじゃ!」
江ノ島シーキャンドルをあとにして、ゆっくりと先程の仲見世通りまで戻ってきて、とあるお店に入った。
「この辺りだとしらすやサザエが有名なんだよ。しらすのほうは生でそのまま食べたり、釜揚げにしても美味しいんだよね」
湘南は国内でも有数のしらす漁場のひとつである。このあたりのしらすはイワシの稚魚のようだ。ちなみにしらすの旬は春で、3月までは禁漁期間となっているので、もしも江ノ島を訪れるなら時期も大切である。
ミルネさんは生の魚などを食べてみたいということでもあったので、今回の旅では刺身や寿司なども食べる予定だ。今回は生しらすと釜揚げしらすの二食丼と、しらすのかき揚げ、サザエのつぼ焼きを選んだ。
本当はこれにビールがあれば完璧なのだが、ミルネさんは酒を飲まないということなので、俺もやめておいた。少なくとも今日は初日だし、酒に酔って失態を晒すようなことはないと思うが、念のためだな。
「うむ、これは美味しいのじゃ! さっぱりとしており、優しい甘みもある。そしてこの調味料の醤油というものとご飯によくあうのじゃ。こっちの釜揚げのほうはひとつひとつに味が凝縮しておる!」
すぐに鮮度が落ちてしまうしらすは獲ってすぐに釜揚げにするか、漁港の近くでしか生で食べることはできない贅沢な味わいというやつだ。獲れたての生しらすは臭みもなく、あっさりとした味である。
「こっちのかき揚げのほうもサクサクして美味しいぞ。こっちの世界だと、高音に熱した油に浸して揚げる揚げ物という料理法があるんだ。サザエのつぼ焼きはサザエを殻ごと火にかけて醤油を垂らした料理だ」
うむ、新鮮なしらすのかき揚げは、しらすの旨みが凝縮されて本当にうまい。酒は控える予定だったが、思わずビールが飲みたくなる味だ。サザエのほうも歯応えがあり、少し苦味もあるから酒によく合うんだよなあ。
「どれも本当に美味しいのう。ラーメンや中華街の料理とは違った味じゃが、どれも初めて食べる味じゃ!」
どうやらミルネさんも満足してくれたみたいでよかったよ。とりあえず1日目の神奈川県の案内はなんとかなったみたいだ。
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