僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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二十章

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 一組の外には、体育祭で使うテントが八張り設けられていた。体育祭では実行委員用のテント一張りと、保険医用のテント一張りと、具合が悪くなった生徒用のテント二張りの、計四張りのテントを設置する決まりになっている。その第一グランド用の四張りと第二グラウンド用の四張りを、
 ―― 屋外食事場
 として、北斗が学校から借り受けたのだ。テントはとても大きく、八張り並べると教室四つ分の広さがあった。ただ屋外で使える椅子と長テーブルは八十人分しか確保できず、足りないことが予想されたが、
「男はビニールシートの上にでも座らせておけばいい」
 との湖校的真実に、一組の生徒はすぐ辿り着いたと言う。
 まあ確かに、否定はしないけどさ。
 とは言うものの、問題もあった。最も危惧されたのは、お味噌汁だった。ビニールシートの上では、お盆などを用いたとしても、汁物は非常に食べにくいのが実情なのだ。けどこれも市場調査をしたところ、突破口が発見された。男子生徒は、
「味噌汁を注文する金があったら米をいたい」
 が九割を占めたのに対し、女子生徒のほぼ全員を占めたのは真逆の、
「具沢山のお味噌汁があったら食べてみたい」
 だったのである。男は好物を集中して食べるのを好み、女は多種多様な食材をまんべんなく摂取するのを好むのを知識としては知っていても、これほどの差が出るとは予想していなかった一組の生徒は、これを逆手に取ることにした。男子はおにぎりのみを注文するよう、逆に女子はお味噌汁を注文するよう、献立を工夫したのだ。その結実が、僕の眼前で繰り広げられている臨時昼食会の光景だった。ビニールシートに胡坐あぐらをかいた男子六人が喉を詰まらせる勢いで食べているのは一点物の巨大おにぎりであり、隣接するテーブルで女子六人がきゃいきゃい食べているのは、ミニおにぎりと根菜お味噌汁のセットだった。男子を標的にした巨大三角おにぎりには二合、三合、四合の三種類を設け、具は唐揚げやミートボール系の肉のみとなっていた。一方女子がにこにこ顔で頬張るミニおにぎりは可愛い丸型で直径5センチしかなく、その代わり具は九種類用意されていて、セットの根菜お味噌汁には里芋、牛蒡、人参、南瓜、絹サヤ、そして油揚げが入っていた。女子六人が各々三個のおにぎりを注文し一個を三等分することで全員が九種類の具を制覇する様は、頭脳派の戦闘を観戦するが如くであり、男子六人が三合おにぎりを一心に食べる様は、猪武者の突撃を呆れて眺めるが如くだった。
 いや野郎共はまだしも、女の子たちはホント賑やかに食事してたんだけどね。
 それはさておき、臨時昼食会。芹沢さんに案内されて向かったのは校舎から最も遠い場所にあるテントだった事もありまだ空いていて、椅子席とビニールシートが隣接する場所を確保できた。北斗がおにぎりを全員の前に並べ、一組のスタッフが根菜お味噌汁をテーブルに配膳するなり始まった昼食会は、様々なことが普段と違っていても、底抜けに楽しかったのはいつもと同じだった。まあ二個ずつの唐揚げとミートボールとウインナーをおかずに三合のお米をやっつけた野郎共はしばらく動けず、テント近くのアスファルトに寝転んでいたんだけどね。
 そう僕も、三合おにぎりを平らげた。一組前の廊下で見た同学年男子たちが食べていたのは二合おにぎりで、僕もそれを注文するつもりだったのだけど、「ほら食え」と北斗に差し出されたのが三合だったから、結局それを完食したのである。ただ驚くべきことに、僕は他の五人と比べて明らかに余裕があり、「工夫すれば四合もいけるのではないか?」なんて、空を見ながら秘かに考察していた。今朝は通常より二時間早く朝ご飯を食べ終わり、加えて神経感度五割増しを二時間行ったから、午後十二時半に極端な空腹を覚えた。だがそれは十時半にエナジーバー二本を腹に収めた上での空腹でしかなく、仮にそれを食べず、かつ食事を始めたのが一時間遅い十三時半だったら、
 ―― オメガの戦士
 を拝命できたのではないか。そんなことを、僕は考えていたのである。
 ちなみに「オメガの戦士」は、一組のクラス展示施設内で四合おにぎりを完食した強者に献ぜられる二つ名。また二つ名だけでなく、直径五センチの六芒星の勲章も贈呈されることになっていた。一組のHPで確認したところ高級品の印象はお世辞にもなかったが、それでも巨大おにぎりに打ち勝った証の勲章は、男子にとって計り知れない価値を有すると言えた。現にオメガの戦士の2ランク下にすぎない、二合おにぎり完食で贈られる「メガの戦士」の勲章すら、僕ら二年生男子の憧憬の的になっていたのだ。横軸3センチ縦軸4センチの菱形の勲章を左胸に着け、二年生校舎を闊歩する男子生徒の、なんと誇らしげだった事か。衆目を集めやすい廊下でおにぎりをがっつく男子が多かったのも、二合に挑戦しているだけで一目置かれるからに他ならない。「男子って子供よねえ」と女子に揶揄されようと、男とはそういう生き物なのである。
 その一員に、夕食会メンバーの男子六人も名を連ねる時がやって来た。三合を完食した証拠である、五芒星の勲章の贈呈式が始まったのだ。ファンファーレと共に女子スタッフが進み出て、勲章を一人一人に手渡してゆく。贈呈式が行われるのは三合以上であり、四合完食の場合は手渡しでなく、スタッフが胸に直接着けてくれるそうだ。ちなみに二年生は今のところ三合完食が最高で、僕ら六人を含む八人が店内の「ギガの戦士」欄に名前を連ねていた。そして驚愕すべきことに「オメガの戦士」欄には、五人の名前が既に列挙されていると言う。いやそれどころか、現実は想像の遥か先を行っていた。
「元ラグビー部や元柔道部の六年の先輩には四合でも足りない方々がいて、唐揚げとミートボールとウインナーが三個ずつ盛られた『肉一徹』も、ペロリと平らげていた」
 北斗はそう、明かしたのである。先輩方が成し遂げた偉業に、オメガの戦士への挑戦心を僕は燃え上がらせたのだった。
 というのが、十三時ちょい過ぎの話。ライブの開催時間を逆算すると三十分の猶予しかないことが判明し、五組の「縁日」へ皆ですぐ向かった。僕の神社には夏祭りがなく、幼稚園入園前からの憧れだった事もあって、縁日は楽しすぎた。三十分を、三分に感じたほどだったからね。
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