僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

文字の大きさ
680 / 934
十九章

3

しおりを挟む
 けどなぜだろう、黛さんの次の指示は「解散!」ではないと、僕は何となく考えていた。またそれに、思い当たる節がないでもなかったのである。
 この部の前身である新忍道サークルが発足して、一年四カ月。集中力がこうも低下したのは、今日が初めてだった。本来なら、一度もないのが最善なのは僕にも解る。だが、
 ――前部長の達人級の受け身が気になって仕方なかった
 という今回の理由は、雨降って地固まるに持って行きやすいのではないか? 黛さんなら今回の件を、災い転じて福となすにしてくれるのではないか? 僕は、そう感じていたのだ。
 そしてそれは正しかった。黛さんが厳しい表情のまま、公式AIにこう尋ねたのである。
「エイミィ、これから五分間、十一人横隊の全員で受け身の練習をする。各自が行った最高の受け身と、五分間の平均的な受け身を、エイミィに選んで欲しい。そしてそれらの受け身における、サタンの攻撃の回避確率を、一人一人に出して欲しい。可能だろうか?」
 その途端、
 カッッ!!
 十一人横隊の全員が一斉に踵を打ち鳴らし、直立不動になった。
 世界最年少でサタンに勝利した三戦士に憧れない部員など、いやしない。
 自分もいつかサタンに勝ってみせると闘志を漲らせない部員など、いやしない。
 最後のインハイまでに技を磨き上げ、サタンと堂々渡り合っている自分の勇姿を想像しない部員など、この部に一人もいないのである。よって、
「もちろん可能です」
 という公式AIの回答に、僕らは腹の底から雄叫びを上げた。ただのシミュレーションでも、現在の技量がサタンにどれほど通用するかを知るのは、非常に有意義と言える。その情報をもとに短所を是正し長所を伸ばして、サタンに勝ってみせるぞ! との熱き想いが、雄叫びとなって皆の腹から絞り出されたのだ。それが静まるのを待ち、公式AIが補足説明をした。
「湖校新忍道部は、十八歳以下でサタンに勝った世界唯一のグループであると同時に、サタンと最も多く戦ったグループでもあります。皆さん以上にサタンのデータを保有している同世代のグループは、世界中を探してもありません。つまり、部長の提案を実行できるのは世界広しと言えど、皆さんだけなのですね」
 今回僕らは無言を貫いた。騒いだらその分、練習が遅れてしまう。それを断じて避けたかった僕らは百面相をして、開こうとする口を閉じたままに保っていた。そんな部員達へ、サタン討伐を成し遂げた英雄の一人が命じた。
「受け身の練習は、三分後とする。各自、準備運動開始!」
「「「イエッサ――ッッ!!!」」」
 僕らはその後、脳と体をフル稼働させる三分間を過ごしたのだった。

 ロールプレイングゲームには、盾役たてやくと呼ばれる職業がある。盾役がモンスターの敵意と攻撃を引き受け、その隙に仲間達がモンスターを攻撃するという、防御のかなめの職業があるのだ。
 ここまでは、ロールプレイングゲーム未経験者でも容易に想像できると思う。しかし盾役が、巨大な盾を装備する者と、盾を装備しない者の二種類に分かれるのは、説明を要するだろう。その後者、つまり「盾を装備しない盾役」は、新忍道のサタン戦を考察すれば理解しやすい。なぜならサタンは、あらゆる物質を切り裂く次元爪を有するため、盾を構えても無意味だからだ。然るに無意味な盾を捨て、身軽になり回避率を上げ攻撃を避けることで、仲間達の安全と攻撃手段を確保するという、盾を装備しない盾役がサタン戦には必須となる。具体的には、サタンに接近された真田さんが次元爪を回避すれば、荒海さんと黛さんは安全な後方から銃弾を放てるといった感じだ。ロールプレイングゲームではこのような役職を回避盾、巨大な盾を装備する役職を大盾と呼び、区別するのが一般的だった。
 とはいえ、それをそのまま新忍道に用いるのは不可能。コンピューターゲームにはレベルがあり、レベルを上げれば人間離れした身体能力を得られるが、生身の体で戦う新忍道にそんな都合の良いものは無いからである。よって湖校チームは三人全員が回避盾の能力を身に付け、回避役を暫時変えることで、全力受け身の連続発動による莫大な疲労を三人で分散する措置を講じていた。それはどういう事かと言うと、
『サタンの次元爪を連続回避できない選手は、サタン戦に参加できない』
 という事。またそれが六年時のインハイ決勝だったらその部員は、
『六年間の集大成の戦闘に、出たくても出られない』
 という結末を迎えざるを得なくなってしまうのである。真田さんと荒海さんと黛さんのサタン戦を目の当たりにした後輩として、そんな未来は到底受け入れられない。三人の英雄のように、自分も最強の敵と渡り合ってみせる。その第一歩が、これから始まる五分間受け身なのだと肌で感じた僕ら十一人は、
「始め!」
 黛さんの号令一下、飛び込み受け身に全力で臨んだのだった。

 コンピューターゲームと新忍道は、別物と言える。それはレベルの有無のみならず、戦闘理論の現実性にも及んでいる。
 例えばゲームでは、身長と同じ長さの剣や、トラックほどの巨大モンスターが普通に出てくる。人とモンスターが一か所に腰を据え、目にも止まらぬ速さで武器を操るという、派手な剣劇もゲームでは頻繁に登場する。だがあの剣劇は、の字が含まれるように、ただの演劇でしかない。ゲームを面白くするための、演出に過ぎない。翔刀術を学ぶ者として先ず疑問に思うのは、「なぜモンスターが一か所に腰を据えると考えるのか」だ。長大な剣の遠心力を支える体重が人にあるのかという疑問以前に、突進してきたモンスターが急制動を無理矢理かけ、人の都合の良い場所に停止してくれるのが、僕には不思議でならないのである。急制動をかけずそのまま走って体当たりすれば、人は何メートルも吹き飛ばされて戦闘不能になる。これが、現実なのだ。
 僕が3DGをとても好きな理由の一つは、そこにある。3DGでは、不自然極まるあんな急制動をモンスターは絶対かけない。サタンもそれは変わらず、人に向かって走りながらサタンは次元爪を振るってくる。だからボクシングのように上体だけを動かして爪を避けても、硬い外骨格に覆われたサタンに体が触れた途端、3D映像の自分が吹き飛んでゆく映像を見ることになる。足を動かして避けても体の一部が接触しただけで、コマのように回転しながらぶっ飛んでゆく自分と、ゲームオーバーの表示を見るのがオチだ。つまり、
 ターン クルリターン クルリターン
 と、飛び込み受け身をし続けない限り、サタン戦における回避盾の役目をまっとうするのは不可能なのである。
 とは言うものの、全力の飛び込み受け身を五分間続けるのは、生命力の追加流入を体得した翔人クラスでないと無理な話。これは体力のみならず視力にも当てはまり、飛び込み受け身の最中に肉眼でサタンの動きを捉えて次の行動を正確に予測し続けるのは、正直無理だと思う。かく言う僕も感覚体を展開しない限り、五分間逃げおおせる自信は、ほぼ無いからね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -

鏡野ゆう
キャラ文芸
特別国家公務員の安住君は商店街裏のお寺の息子。久し振りに帰省したら何やら見覚えのある青い物体が。しかも実家の本堂には自分専用の青い奴。どうやら帰省中はこれを着る羽目になりそうな予感。 白い黒猫さんが書かれている『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 とクロスオーバーしているお話なので併せて読むと更に楽しんでもらえると思います。 そして主人公の安住君は『恋と愛とで抱きしめて』に登場する安住さん。なんと彼の若かりし頃の姿なのです。それから閑話のウサギさんこと白崎暁里は饕餮さんが書かれている『あかりを追う警察官』の籐志朗さんのところにお嫁に行くことになったキャラクターです。 ※キーボ君のイラストは白い黒猫さんにお借りしたものです※ ※饕餮さんが書かれている「希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々」、篠宮楓さんが書かれている『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』の登場人物もちらりと出てきます※ ※自サイト、小説家になろうでも公開中※

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...