僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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十七章

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 従業員制服のラップスカートは、巻きかた次第で膝丈ほどのスリットを入れることができる。それに沿い脚をグイッと出して腰に手を当てると、シルクの豪華さもあって本当にカッコ良かった。つま先側に大きなリボンの付いたパンプスは「カワイイ!」の集中砲火を浴び、スリットとは逆方向に流したバンダナ巻きのスカーフは「素敵!」の集中砲火を浴びていた。つまり現時点で既に大騒ぎだったのに、
「スカーフは自分の好きな柄にデザインできます」
 との説明をされたものだからさあ大変。教育AIが男子生徒一人一人の周囲に相殺音壁を展開せねばならぬ事態に、教室はなってしまったのである。帰宅したら咲耶さんに、謝っておかなきゃな・・・
 それはさて置き、男子の蝶ネクタイも思いのほか好評で実行委員は胸をなでおろした。僕らの学年の男子は自分達が脇役なことを重々承知しているから従業員制服の男女差に文句は出ないと予想していたが、それでも委員全員で安堵の目配せをしたものだった。
 という教室の空気がある内に、
「実技棟は女子に比重が傾いたので、教室棟の『冒険者服』は男子に比重を傾けました」
 水谷さんが冒険者の個所を強調して皆に語りかけた。と同時に神々しい五つの武器が空中に出現し、次いで深紅のロングマントをたなびかせた男子冒険者の後ろ姿が中央に浮かび上がり、そして両手剣が煌々と輝きながら冒険者の背中に収まった。その途端、
「「「ウオオオ――ッッ!!」」」
 野郎どもの雄叫びが教室を揺るがした。教育AIは今度は女子を、相殺音壁で守らなければならなかったのだった。
 カッコイイ武器を持たせさえすれば、男子が大満足になるのは100%確実と言える。そんな子猿どもと比べたら女子は難しいが、この武器なら大丈夫との予想を胸に、女子冒険者の演出が始まった。大剣を背負った男子冒険者が窓辺へ移動し、女子冒険者が中央に浮かび上がる。クラスメイトの目にまず映ったのはスカート丈に合わせた深紅のハーフマントで、予想にたがわずとても好評だった。そして満を持し、女子冒険者がクルッと回転して背中の武器を見せる。すると、
「「キャ――!!」」「「カワイイ――!!」」
 黄色い歓声が教室を満たした。金と銀を基調とし、純白の羽が二枚付いたキューピットの弓に、女子はハートを射抜かれてしまったのだ。頃合いを計り、水谷さんの最後の説明が入った。
「男子はごらんのように、五種類の中から好きな武器を選ぶことができます。実技棟の従業員制服を豪華にしたぶん女子の武器は一種類ですが、その代わり教育AIと交渉し、キューピットの弓の使用許可をもらいました。マントの丈についてはクラスHPでアンケートを取り、柔軟に対応しようと思っています」 
 昨夜話し合った結果、男子の籠手と女子のブーツは、現時点では伏せることになった。同時開催案における回転率の有用性を伝える方が、より重要と判断したのである。制服責任者としての役目を終えた水谷さんへ、実行委員主導で盛大な拍手を贈ったのち、回転率の有用性に話題を移行すべく智樹が舵を切った。
「二か所開催案における、3Dの虚像では賄えない備品を俺達は検証しました。その結果、八つのティアラ、四種類の制服と六種類の武器、そしてティアラを乗せる台が、実際に用意せねばならない備品と判明しました」
 実技棟の男女の制服が窓側に、教室棟の男女の制服及び武器が廊下側に改めて映し出され、そして中央に長テーブルの3Dが出現した。天板の上に一辺30センチほどの段ボール箱が八つ置かれ、シャンパンゴールドの布が段ボールごと長テーブルにかぶせられる。そこに八色のティアラが並べられるや、感嘆のため息が教室に溢れた。
「今みなさんが目にしているのが、実際に制作する備品の全てです。実技棟でお客様が身に付けるドレスやタキシード、教室でお客様が身に付ける戦闘服や武器は、すべて3Dで賄われます。そのメリットを、去年の文化祭で四冠を成し遂げた旧十組の眠留に、説明してもらいましょう」
 注目を集めるのは覚悟していたけど、立ち上がると同時になぜか拍手が鳴り響き、僕は半ば腰砕けになった。しかしそれがウケて爆笑が沸き起こったお陰で、落ち着きを取り戻すことができた。
「旧十組の四冠の秘訣を一言で表すなら、『回転率の高さ』になるでしょう。メニューを一種類に限定し、お客様がテーブルに着くなり入れたての紅茶と焼きたてのお菓子を・・・」
 四冠の軌跡は六学年共通の学内ネットに去年掲載しており、閲覧者数五千という大記録を樹立していた。その記事を書いたのは香取さんで、かつ今僕が読んでいる原稿を書いてくれたのも香取さんだったから、クラスメイト達は回転率のメリットを心に素早く染み渡らせたようだった。僕は活舌よく話を進めていった。
「湖校写真館に足を運んでくださったお客様に、3D衣装を重ねるだけなら、着替えの時間を省けます。それどころか、3D衣装をまとう工程を、魔法による変身のように演出することもできます。待ち時間中にドレスとタキシードを決めて頂いたお客様には、背景の舞踏会会場を無料でグレードアップする等の特典を付ければ、写真撮影に要する時間は更に短くなるでしょう。回転率が高ければ料金を安くでき、料金が安ければ多数の来客数を見込め、大勢の人達が喜ぶ様子を目の当たりにすれば、働くのが楽しくて仕方なくなる。そんな文化祭を、みんなと体験できたらいいなって、僕は思います」
 アクリル窓を振動させるほどの雄叫びと拍手が轟くも今回は腰砕けにならず、四方にペコペコお辞儀して着席した。二度目の爆笑に照れていると、智樹が溌剌とした声を放った。
「時間が差し迫って来たので、まとめに入ります。明日明後日の土日を使いクラス展示の三案についてHPで話し合い、日曜の二十時から三十分間、暫定投票を行います。時間の都合の付かない人は事前投票も受け付けていますから、お気軽にご利用ください。クラス展示が三つの案のどれになっても、男女三人ずつの六人チームによるローテーションは変わりません。部活やサークルの展示に参加する予定のある人はローテーションを調整しますので、クラスHPの専用掲示板に遠慮せず書き込んでください。俺からは以上です。質問はありますか」
 ポカンやポケ~系の表情をしているクラスメイトが半数近くいたため智樹が尋ねたところ、二カ所開催で確定した気になっていたとその人達は答えた。智樹は「眠留の猿真似だが」と余計な一言を加えて、HRを締めくくった。
「研究学校には、過去の労力を惜しむなかれ、という鉄則があります。学問の未開領域に分け入り、そこに眠る宝物を世界で初めて見つけたいなら、無数の失敗と多大な無駄を覚悟せよという意味ですね。それと同種の事態に、ニ十組は直面しています。確かに俺ら実行委員は、二カ所開催案にそれなりの時間を費やしました。ですがみなさん、どうかそれを無視して、クラス展示について話し合ってください。その先にこそ、世界に通用する研究者になる未来が拓けていると、俺は信じています」
 キーンコーンカーンコーン♪
 計ったように四限終了のチャイムが鳴り、文化祭のHRは無事終了した。ただ、
「クオリティーが去年と全然違う!」「うん、ビックリするよね!」
 に類する会話が至る所でされていたのは意味が分からず、僕は首をしきりと捻っていた。

 その日のパワーランチはお休みになり、僕らは久しぶりにお昼ご飯をのんびり食べた。けど途中から何となく物足りなさを感じて、またそれは他の実行委員達も同じだったらしく、結局十人で集まり文化祭の話をしまくってしまった。
 まあ楽しかったから、全然いいんだけどさ。
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