僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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十四章

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 その後、湖校チームの戦闘を観戦していた複数の部からも、同種の映像が届けられた。その全員が、世界最高評価を更新したことより「その言葉は自分達にとっても真実」を強調していたことを、真田さん達は何より喜んでいるようだった。
 観客席に戻った湖校新忍道部を他校の部員達が訪問してくれたのも、埼玉予選と変わらなかった。予選と違い席に余裕がなかったため一塊になって観戦することは叶わなかったが、短い言葉を交わしただけで仲良くなれたのは同じだった。神崎さんと紫柳子さんの微笑む姿が瞼に映るようで、僕は嬉しくて仕方なかった。
 後半の五校の評価は、BプラスからAだった。十五時四十分に始まった閉会式で涙を流す部員は一人もいなかったが、閉会式が終わり自校の応援席へ今までの謝意を述べた十校に、涙を流さない部員は一人もいなかった。
 ただ一校、今までの謝意を明日述べることが決まった湖校新忍道部員だけは、涙を流すのも明日と思い定め、フィールドを後にしたのだった。

 真田さん達の御両親は同じ旅館に泊まらなかった。妹の美鈴にしてあげられることは年々少なくなってゆくと感じている僕には、親御さん達の気持ちが何となくわかった。
 親が子供にしてあげられることは、年々少なくなってゆく。部活動は特にそうで、親にできるのはせいぜい、遠くから見守ることだけなのだろう。真田さん達の御両親はそれを知っているからこそ、学校生活の集大成の一つであるインハイ最終日に臨む息子達の、邪魔をしなかった。子供を想う親の気持ちより、インハイ最終日にかける子供達の想いを優先し、これまでと同じく遠くから見守ることを、親御さん達は選んだのだ。異なる宿泊所にあえて泊まる理由はそれなのだと、僕は考えている。
 とはいえそれが、
「そうですか。千家さんはやはり、同じ旅館には泊まらないんですね」
 三枝木さんを落胆させてしまうのも、人間関係の難しいところだった。親御さん達の気持ちを理解していても、千家さんと布団を並べて寝られるのはこれが最初で最後かもしれないと思うと、三枝木さんは肩を落とさずにはいられなかったのである。僕だって本音を言えば千家さんがいてくれた方が嬉しいし、荒海さんと千家さんが公然とイチャイチャするとは思えないし、二人だけで旅館を抜け出してイチャコラする事もないだろうけど、やはりここは諦めるしかない。二人の将来を第一とするなら、義両親になる人達へ負の感情を抱かせる行為は避けるべきなのだ。よって別れ際、
「千家、気を遣わせてすまない。三枝木も悪かったな」
 AICAに乗る千家さんと肩を落とす三枝木さんに荒海さんは詫びた。ただ詫びたその声が、かつて聞いたことのないほど優しかったので、三枝木さんを始めとする部員達はニコニコ顔になり、千家さんは幸せを噛みしめる女性の面差しになっていた。
 のだけど、
「お二人は、将来を誓いあった仲なのですか?」
 颯太君の純朴素直な豆柴発言によりほのぼのした空気はかき消され、慶事を祝う宴会場さながらのハッチャケた空気に、その場はなったのだった。

 その後もハッチャケ状態はなかなか収まらなかった。というか八月四日午後四時の信州の豊かな自然に、ある意味日本人の魂と呼べる「夏休み気分」を爆発させた僕らは、小川横の小道をゆけばゆくほど騒がしくなっていった。このままでは他の宿泊客に迷惑をかけてしまうという事になり、颯太君の御両親に事情を説明し、旅館裏の私道を使わせてもらった。三巨頭は疲労回復効果の高い運動を、四年生以下は短距離全力走をそれぞれ行い、汗をたっぷりかくことで、周囲に迷惑をかけない精神状態を何とか獲得した。そしてそのまま浴場へ直行し、温泉にのんびり浸かることで、気持ちをもう一段落ち着かせた。一昨日の僕の湯あたりが塞翁が馬となり、二日かけて温泉成分を体に馴染ませていたので、みんな心ゆくまで温泉を楽しんでいた。あの時は恥ずかしい思いをしたけど皆の役に立てたのだから、僕は大満足だった。
 しかし運動と温泉をもってしても興奮状態を一掃できなかった僕らは、この余剰エネルギーの使い道を検討した。三枝木さんも交えて話し合った結果、筋肉をこれ以上使えないなら脳を使おうという北斗らしい案が採用され、皆でそのお題目を探した。と言っても考えることに差はなく、
「「ん?」」「「え?」」「「「マジか!」」」
 僕らは一斉に驚きの声をあげた。本部HPにアクセスし、明日二日目に駒を進めた四校を調べたところ、全員がそこに予期せぬ校名を見つけたのだ。地方予選の上位四校を本部は四つの会場へ振り分け、かつ湖校と同じ第六戦を割り当てていたから他の三校の名を覚えていたのだけど、記憶にない鎌倉研究学校の名が目に飛び込んできたのである。
「第三会場は第五戦に勝利した、鎌校だったんだな」
「予選はAマイナスの二十九位、本選はAプラスの四位か。だがこれ、マグレじゃねぇな」
「予選は雀蜂族と戦い、今日はコモドドラゴン族と戦ったようですね。飛行型に弱くトカゲ型に強いという線もありますが、荒海さんの見解が正しいと俺も思います」
 黛さんの発言に全員が首肯した。コモドドラゴンは、マグレでAプラスを出せるモンスターではない。膂力と突進力は鰐に劣っても、川辺で進化した鰐が瞬発力特化型なのに対し、陸上で進化したコモドドラゴンは持久力もあり、しかも口から毒液を飛ばす厄介なモンスターなのだ。遠間から毒液を噴射しつつ集団でジワジワ責めてくるコモドドラゴンは火炎放射器を使えば比較的楽に倒せるが、それは裏を返せば、火炎放射器を使うと高評価を得られないという事。Aプラスを出すには高度な作戦と高精度の射撃が必須となり、そしてそれを満たしたからこそ、鎌校は上位四校に食い込んだのである。では鎌校の戦闘をさっそく観てみよう、いやいや先ずは予選からだとワイワイやったのち、僕らは鎌校の神奈川予選を観戦した。
 それは一言でいうと、基本に忠実な戦闘だった。基礎体力と基礎技術と基礎戦術を、毎日コツコツ積み上げてきたことが伝わってくる鎌校の三戦士へ、僕らは深い共感と好意を覚えた。しかし、インハイ本選までの二か月で三戦士が劇的に成長した仕組みを解析できなかった僕らは、成長以外の要因を話し合い、最も可能性の高い要因に合意が得られたのち、本選観戦に移った。そしてその映像が映し出されたとたん、皆でガッツポーズをした。新メンバーが加わったのではないかと予想したとおり、そこには四人目の戦士が映っていたのである。なら次は、その新メンバーは射撃の妙手ではないか、という予想の解析だ。僕らは目を皿にして本選を観戦した。けどふと気づくと映像は止められ、十四対の目が僕に向けられていた。失態に気づき、謝罪が口を突きかけた。だが、
「眠留、何か閃いたか?」
 叱責の欠片もなく問いかける真田さんの信頼に応えるべく、2Dキーボードから指を離し背筋を伸ばして、僕は秘密の一端を明かした。
「新メンバーの足運びに古武術の匂いを感じ、我を忘れて名前を調べ、そして固まってしまいました。新メンバーは、射撃の妙手で間違いないと思います。あの戦士の名は、鳳。鎌倉時代から続く古流弓術の、本家の跡取りですね」
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