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十一章
合宿
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春休み等の長期休暇中、体育会系の部やサークルは一部の例外を除き、活動時間を三時間に制限されてしまう。しかし合宿中はそれが撤廃され倍の六時間を練習に費やせるため、真田さんと荒海さんは足腰立たなくなるほどの猛練習を計画していた。そのはずなのに、
「テメエら、なに余裕かましてんだよ! 合宿はあと三十分しかねぇんだぞ!」
「後先考えるな、がむしゃらに行け!」
「「「はいっっ!!」」」
合宿三日目の、通常より三十分遅い午後三時五十五分。僕らは、疲れを知らないサイボーグの如く戦闘をこなしていた。力が無尽蔵に湧いてきて、幾らでも戦えるという状態に全員がいたのである。思い当たる理由は幾つかあった。練習が充実していた事、先輩方と語らう夜が楽しすぎた事、朝食と夕食が美味しすぎた事、その料理を作ってくれた三人娘が綺麗すぎたこと等々、無限の体力を得た複数の理由を僕らはすぐ思いつくことができた。それでも心の奥底に、いや自分という存在の中心に、まだ気づいていない本当の理由があると感じられてならなかった。それが知りたくて、僕らは鬼族とがむしゃらに戦った。そして二十分後、戦闘に充てられる時間が残り五分となった時、
「アイ、すべての鬼族を鬼王に!」
「了解しました。鬼王が援軍に続々駆けつける、最難関モードへ移行します」
「テメエら、ここが正念場だ! 全員生き残るぞ!」
「「「はいっっ!!」」」
残り三体となった戦士階級の鬼が、全身鎧をまとう鬼王へとそれぞれ変わる。鬼王らは咆哮し、一発くらっただけで即死の巨大金棒を振り回し突撃して来た。にもかかわらず、恐怖は少しもなかった。個人としての戦闘にも集団としての戦術へも、迷いは一切なかった。僕らは3チームに分かれて鬼王と戦い、1チームにつき一人が余るよう陽動し、その余った一人が一斉に、別チームの鬼王へ背後から奇襲をかけた。
「「ウガッ!」」
鬼王三体が同時に驚愕し後ろへ注意を向ける。すかさず、
「ズキューン」「ズキューン」「ズキューン・・・」
三人の射手が兜の隙間に対巨人徹甲弾を叩き込んだ。鬼王達が地面に崩れ落ちる。間を置かず、
「「ウガ――ッッ!!」」
新手の鬼王三体が地響きを立て突進してきた。僕らは目配せすらせず、新たな戦いへ無言で突入してゆく。その四分後、戦闘は終わった。地面に横たわる十五体の鬼王に、僕らはやっと思い出した。ああこれは3DGのゲームで、最難関モードでは敵は霧散せず、倒れた場所にそのまま残るのだと。
その瞬間、十一人のサークルメンバー全員が、無限の体力を得た真の理由を悟った。
たしかにこれは、ゲームでしかない。
地面に横たわる敵は、3Dの虚像でしかない。
だが、身に付けた戦闘力、意志疎通、乱戦時の戦術、仲間達への信頼。
サークルで過ごして来た日々、流してきた汗、あまたの涙。
それらすべては、ゲームでも3Dでもない、正真正銘の現実。
それらの現実が、絶体絶命の窮地を乗り越える体力を、この身に育んでくれた。
メンバー全員がそうだったからこそ僕らはこうして、全員で生き残ることができた。
自分という存在の中心に叩き込んだそれを、全員が同時に悟ったのである。
僕らは円陣を組み泣いた。
肩を組んでいたから涙も鼻水も垂れ流しだったが、そんなのはどうでも良かった。
グラウンドに、合宿専用の終了チャイムが響く。阿吽の呼吸の、
「新忍道――、オオッ」
「「「オオ――ッッ!!」」」
一糸乱れぬ円陣雄叫びをもって、僕らの初合宿は、幕を下ろしたのだった。
寮に宿泊する正規の合宿では皆と同じ食卓を囲むのは三日目のお昼御飯までだが、「せっかくだから夕ご飯を食べて行きなさい」「楽しみに待っていますからね」との祖父母の勧めに従い、僕ら十一人は皆で神社に帰って来た。その折の玄関で事件は起きた。三人娘が上り框に集合し、
「「お帰りなさい!」」
と花の笑顔を振りまいたとたん、一年生トリオを除く先輩方全員が、フラフラになってしまったのである。後に先輩方は、口を揃えてこう語ったものだ。「合宿を経てどんな強敵にも臆さぬ心を獲得したと思っていたが、それは間違いだった。戦いようのない真の強者が、男にはいるのだな」と。
それから僕らは三日間の最後を飾るに相応しい、美味で豪華で底抜けに楽しい夕食を共にした。その最中、食事を作ってくれた五人の女性へ、サークルを代表し真田さんがプレゼントを渡した。合宿二日目の昼食後に「あれほど美味しい料理を心を込めて作ってくれる女性達に、お礼を何もしないなど言語道断だ」と、かつて聞いたことのない厳しい口調で真田さんは言った。もちろん皆即座に同意し、お礼について話し合った。黛さんの「定番中の定番だが、ハンカチはどうだろう」という提案に、竹中さんが「春に販売されるハンカチはピンクや黄緑や水色を用いたカラフルなものが多く、女性を笑顔にするみたいですね」と意見を添えたのが決定打となり、プレゼントはハンカチとなった。新忍道公式AIに事情を説明し、春の新作ハンカチのサンプルを映し出してもらった僕らは、黛さんと竹中さんの慧眼を称えた。初々しい春の草花をあしらったハンカチは、野暮ったいプレハブに集まった野郎共すら笑顔にしてしまったのだ。公式AIに手伝ってもらい皆の笑顔の度合いを測定し、合計値が最も多かった五枚のハンカチを僕らは購入した。そして今日のお昼、僕名義で神社に届けられたそれを、夕ご飯を食べている今、真田さんが代表して女性達にプレゼントしたのである。定番ではあっても心浮き立つ色とりどりのハンカチに、女性達は華やかな笑顔を浮かべ歓声をあげていた。すると真田さんが、可愛くラッピングした新たな箱を取り出した。そして、
「美鈴さん、湖校入学おめでとう。俺達は美鈴さんの先輩だ。いつでもどんな事でも、頼りにして良いからね」
美鈴の手にそれを乗せた。驚きに何も言えない僕を尻目に、
「「「入学おめでとう、先輩をいつでも頼れよ」」」
全員が声を揃え美鈴に拍手を贈った。後に知ったのだが、神社での合宿を教育AIが許可した日、先輩方と北斗と京馬は美鈴に入学祝を贈ることを満場一致で決定したと言う。しかもそれを秘密にする事で、神社を合宿場所として提案した僕への、お礼にしてくれたのだ。入学祝に喜ぶ美鈴を目にしただけで視界が霞んだのに、続いて北斗から明かされた皆の気遣いを知った僕は、どうしても涙を止められず大変な苦労をした。だがほどなく、それは僕だけの現象ではなくなった。美鈴が二つのプレゼントを胸に僕の隣に座り、「どれもこれも、お兄ちゃんがいてくれたお蔭だって、私は知ってるからね、お兄ちゃん」と言ったとたん、皆の目に涙があふれたのである。祖父が気を効かせ「さあ皆さん、皆で笑ってご飯を食べ、この一時を心と体の糧にしようではありませんか」と語りかけ、そしてそのご飯が空前絶後に美味しかったお蔭で、僕らは食事を何とか再開することができた。それ以降は、笑顔と笑いに満たされた時間が続いた。そして午後七時半、先輩方と北斗と京馬は幾度も幾度も体を直角に曲げお礼を述べたのち、それぞれの場所へ帰って行った。
これが、僕の合宿の想い出。
胸の中で永遠に輝き続ける、かけがえのない三日間の、想い出なのだ。
「テメエら、なに余裕かましてんだよ! 合宿はあと三十分しかねぇんだぞ!」
「後先考えるな、がむしゃらに行け!」
「「「はいっっ!!」」」
合宿三日目の、通常より三十分遅い午後三時五十五分。僕らは、疲れを知らないサイボーグの如く戦闘をこなしていた。力が無尽蔵に湧いてきて、幾らでも戦えるという状態に全員がいたのである。思い当たる理由は幾つかあった。練習が充実していた事、先輩方と語らう夜が楽しすぎた事、朝食と夕食が美味しすぎた事、その料理を作ってくれた三人娘が綺麗すぎたこと等々、無限の体力を得た複数の理由を僕らはすぐ思いつくことができた。それでも心の奥底に、いや自分という存在の中心に、まだ気づいていない本当の理由があると感じられてならなかった。それが知りたくて、僕らは鬼族とがむしゃらに戦った。そして二十分後、戦闘に充てられる時間が残り五分となった時、
「アイ、すべての鬼族を鬼王に!」
「了解しました。鬼王が援軍に続々駆けつける、最難関モードへ移行します」
「テメエら、ここが正念場だ! 全員生き残るぞ!」
「「「はいっっ!!」」」
残り三体となった戦士階級の鬼が、全身鎧をまとう鬼王へとそれぞれ変わる。鬼王らは咆哮し、一発くらっただけで即死の巨大金棒を振り回し突撃して来た。にもかかわらず、恐怖は少しもなかった。個人としての戦闘にも集団としての戦術へも、迷いは一切なかった。僕らは3チームに分かれて鬼王と戦い、1チームにつき一人が余るよう陽動し、その余った一人が一斉に、別チームの鬼王へ背後から奇襲をかけた。
「「ウガッ!」」
鬼王三体が同時に驚愕し後ろへ注意を向ける。すかさず、
「ズキューン」「ズキューン」「ズキューン・・・」
三人の射手が兜の隙間に対巨人徹甲弾を叩き込んだ。鬼王達が地面に崩れ落ちる。間を置かず、
「「ウガ――ッッ!!」」
新手の鬼王三体が地響きを立て突進してきた。僕らは目配せすらせず、新たな戦いへ無言で突入してゆく。その四分後、戦闘は終わった。地面に横たわる十五体の鬼王に、僕らはやっと思い出した。ああこれは3DGのゲームで、最難関モードでは敵は霧散せず、倒れた場所にそのまま残るのだと。
その瞬間、十一人のサークルメンバー全員が、無限の体力を得た真の理由を悟った。
たしかにこれは、ゲームでしかない。
地面に横たわる敵は、3Dの虚像でしかない。
だが、身に付けた戦闘力、意志疎通、乱戦時の戦術、仲間達への信頼。
サークルで過ごして来た日々、流してきた汗、あまたの涙。
それらすべては、ゲームでも3Dでもない、正真正銘の現実。
それらの現実が、絶体絶命の窮地を乗り越える体力を、この身に育んでくれた。
メンバー全員がそうだったからこそ僕らはこうして、全員で生き残ることができた。
自分という存在の中心に叩き込んだそれを、全員が同時に悟ったのである。
僕らは円陣を組み泣いた。
肩を組んでいたから涙も鼻水も垂れ流しだったが、そんなのはどうでも良かった。
グラウンドに、合宿専用の終了チャイムが響く。阿吽の呼吸の、
「新忍道――、オオッ」
「「「オオ――ッッ!!」」」
一糸乱れぬ円陣雄叫びをもって、僕らの初合宿は、幕を下ろしたのだった。
寮に宿泊する正規の合宿では皆と同じ食卓を囲むのは三日目のお昼御飯までだが、「せっかくだから夕ご飯を食べて行きなさい」「楽しみに待っていますからね」との祖父母の勧めに従い、僕ら十一人は皆で神社に帰って来た。その折の玄関で事件は起きた。三人娘が上り框に集合し、
「「お帰りなさい!」」
と花の笑顔を振りまいたとたん、一年生トリオを除く先輩方全員が、フラフラになってしまったのである。後に先輩方は、口を揃えてこう語ったものだ。「合宿を経てどんな強敵にも臆さぬ心を獲得したと思っていたが、それは間違いだった。戦いようのない真の強者が、男にはいるのだな」と。
それから僕らは三日間の最後を飾るに相応しい、美味で豪華で底抜けに楽しい夕食を共にした。その最中、食事を作ってくれた五人の女性へ、サークルを代表し真田さんがプレゼントを渡した。合宿二日目の昼食後に「あれほど美味しい料理を心を込めて作ってくれる女性達に、お礼を何もしないなど言語道断だ」と、かつて聞いたことのない厳しい口調で真田さんは言った。もちろん皆即座に同意し、お礼について話し合った。黛さんの「定番中の定番だが、ハンカチはどうだろう」という提案に、竹中さんが「春に販売されるハンカチはピンクや黄緑や水色を用いたカラフルなものが多く、女性を笑顔にするみたいですね」と意見を添えたのが決定打となり、プレゼントはハンカチとなった。新忍道公式AIに事情を説明し、春の新作ハンカチのサンプルを映し出してもらった僕らは、黛さんと竹中さんの慧眼を称えた。初々しい春の草花をあしらったハンカチは、野暮ったいプレハブに集まった野郎共すら笑顔にしてしまったのだ。公式AIに手伝ってもらい皆の笑顔の度合いを測定し、合計値が最も多かった五枚のハンカチを僕らは購入した。そして今日のお昼、僕名義で神社に届けられたそれを、夕ご飯を食べている今、真田さんが代表して女性達にプレゼントしたのである。定番ではあっても心浮き立つ色とりどりのハンカチに、女性達は華やかな笑顔を浮かべ歓声をあげていた。すると真田さんが、可愛くラッピングした新たな箱を取り出した。そして、
「美鈴さん、湖校入学おめでとう。俺達は美鈴さんの先輩だ。いつでもどんな事でも、頼りにして良いからね」
美鈴の手にそれを乗せた。驚きに何も言えない僕を尻目に、
「「「入学おめでとう、先輩をいつでも頼れよ」」」
全員が声を揃え美鈴に拍手を贈った。後に知ったのだが、神社での合宿を教育AIが許可した日、先輩方と北斗と京馬は美鈴に入学祝を贈ることを満場一致で決定したと言う。しかもそれを秘密にする事で、神社を合宿場所として提案した僕への、お礼にしてくれたのだ。入学祝に喜ぶ美鈴を目にしただけで視界が霞んだのに、続いて北斗から明かされた皆の気遣いを知った僕は、どうしても涙を止められず大変な苦労をした。だがほどなく、それは僕だけの現象ではなくなった。美鈴が二つのプレゼントを胸に僕の隣に座り、「どれもこれも、お兄ちゃんがいてくれたお蔭だって、私は知ってるからね、お兄ちゃん」と言ったとたん、皆の目に涙があふれたのである。祖父が気を効かせ「さあ皆さん、皆で笑ってご飯を食べ、この一時を心と体の糧にしようではありませんか」と語りかけ、そしてそのご飯が空前絶後に美味しかったお蔭で、僕らは食事を何とか再開することができた。それ以降は、笑顔と笑いに満たされた時間が続いた。そして午後七時半、先輩方と北斗と京馬は幾度も幾度も体を直角に曲げお礼を述べたのち、それぞれの場所へ帰って行った。
これが、僕の合宿の想い出。
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