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十章
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「輝夜さんと昴が、目立ち過ぎることを恥ずかしがっています。水晶の指示に従い、生命力の放射量を操作せぬよう二人は努めていますが、二人はその理由を知らないと言っていました。もし可能なら、その指示の理由を僕に教えて頂けませんか」
「まったくおぬしは、何でも答えると言うておるのに、それを自分のためではなく他者のために使うのじゃの。儂は愉快でたまらぬわい」
ふお~~、ふぉっ、ふぉっ、と哄笑してから、水晶はこう約束してくれた。
「儂の勘では、二人の隣に眠留がいる時、儂はそれを話すはずじゃ。その際は、眠留だけに見えるよう現れるから、ものおじせず儂に語りかけるのじゃぞ」
あれから三日経った、今日。
二人に漫才を見てもらい、二人に真情を打ち明け、二人を真っ赤にしてしまった、今。
なぜか今こそが、あの約束が果たされる瞬間なのだと、僕は心の奥深くで感じていた。
それを裏付けるように、
シュワ――ン
精霊猫出現の合図である光の渦がコタツの向こうに湧き起こる。しかもそれは水晶だけが成しうる、無色透明に輝く光だった。水晶に心酔しきっている二人はそれが現れるや、敬意と親愛を溢れさせるのが常なのに、今回はなぜかそれに気づいていないらしい。よって三日前の指示に従い、ものおじせず光の渦に語りかけた。
「水晶、来てくれたんだね」
閃光の体さばきと謳われる輝夜さんはまさに閃光の速さで、雷光の剣速と謳われる昴はまさに雷光の速さで、顔を四方へ向け水晶を探した。だがそのどこにも水晶を見つけられなかった二人は僕の目線を確認し、その先へ体ごと向ける。二人が座布団を降り姿勢を正すと同時に光の渦は「精霊猫共通の白光」へと変わり、その中心に水晶が降臨した。三つ指つく二人へ、
「和やかな時間を邪魔してすまぬの。儂も寛ぐゆえ、どうか寛いでおくれ」
孫娘にデレデレのおじいちゃんの顔で水晶は告げた。そして七段重ねの座布団を出現させ、その上で香箱座りをし、ふわぁとアクビをする。玉を転がすようにコロコロ笑ったのち、娘二人は座布団に戻った。水晶はにこにこ頷き、その真ん丸顔を僕に向ける。
「眠留、儂が現れた様子を、最初から話してごらん」
僕は話した。水晶特有の「無色透明に輝く光」が空中に出現し、それが精霊猫共通の白光に変わって水晶が現れた、と。
すると予想外のことが起きた。輝夜さんと昴が口をポカンと開け、間抜け面になったのである。そんな二人に驚く余り、僕も口を開けてポカンとしてしまう。三人揃って間抜け面を晒したのち、僕らは揃って笑い声を上げた。負けじと水晶も参戦し、表情をくるくる変えて笑いを取ったものだから、皆で腹筋がつるほど笑い転げた。でもそこは、さすが精霊猫の長たる者。爆笑が心地よい運動になった頃合を計り、水晶は初めて聴く話をしてくれた。
「眠留はその名のとおり、良く寝る赤子での。いつもすやすや寝ていて、起きると笑顔を振りまくと言う、たいへん可愛らしい赤子じゃった。それでも、深夜に目覚める事がたまにあっての。これが昼時なら、泣くことは赤子の全身運動ゆえ好きなだけ泣かせてあげるのじゃが、深夜は健やかな眠りこそ赤子の宝ゆえ、儂ら陽晶は眠留をあやした。こと、様々な色で光ると純真無垢な笑顔でよう笑っての。儂らはこぞって、様々な色を見せた。ある晩ふと思い立ち、儂のみが成しうる、色のない原光で輝いてみた。眠留は手足をばたつかせ、きゃっきゃと笑い声を上げた。赤子は生まれながら上位視力を持つが、あの光を見極める赤子は儂も初めてでの。うれしゅうて、儂はあやすたびそれを見せた。こうして眠留は、上級翔人の中でさえ稀な、原光を見定める者となったのじゃよ」
僕はやっと自分の間違いを知った。この部屋にいる三人の翔人の中で、水晶特有の透明な光を見ていたのは、なんと僕だけだった。然るに僕だけが水晶出現の予兆に気づき、そしてそれが、輝夜さんと昴に口をポカンと開けさせたのである。その衝撃の事実に、僕はまたもや口をポカンと開ける。けど輝夜さんや昴ならいざ知らず、僕がその状態になるのは日常茶飯事だったため、笑いは起きなかった。水晶は少し残念そうな仕草をしたのち、話を再開した。
「原光は翔人でもそうそう見られぬが、白光なら全翔人が知覚可能じゃ。翔人でなくとも上位視力があれば白光を知覚でき、また上位視力がなくとも、大量の生命力を本能的に察することなら誰にも容易い。儂の直弟子に目を向ける、同級生達のようにの」
話の道筋がようやく見え、僕は背筋を伸ばした。輝夜さんと昴も柔らかな気配を改め、凛々しい空気を纏っている。そんな僕らへ、生命力放射を操作しない理由を水晶は明かした。
「特別な訓練をせずとも、人は上位視力を獲得できる。また獲得せずとも、生命力放射に鋭くなれば感情放射にも鋭くなり、人生で直面する様々な出来事により良い判断を下せるようになる。そなたらと机を並べ、そなたらの清らかな生命力に親しんできた級友達が、その証人じゃな」
気持ちの良い子ばかりゆえ儂もあの子らが好きでのうと微笑む水晶へ、僕らは拝殿で毎朝しているように手を合わせた。こらこら場所を間違っておるぞとおどけて、水晶は続ける。
「級友達はそなたらに親しんでおるが、他の組の生徒らにそれは望めん。人は衝撃が強すぎると、身構え壁を作り、得難い機会を逃しがちになる。然るに儂はそなたらへ、自然を命じた。そなたらの生命力を、そのまま世へ送り出すことを強いた。そなたらの恥ずかしさも、儂にはありがたかった。仮にそなたらが慢心を抱いていたら、一体どうなっていたかの。眠留、想像してみなさい」
突然の指名だったが自分でも不思議なほど、僕はすらすらそれに答えていた。
「心を通過して溢れる生命力は、心の色に染められて世に送り出されます。人は特別な力に憧れるものですから、たとえそれが慢心に染められていても、人はそれに憧れを抱くでしょう。すると人は、それを真似てしまう。優越感を満たすべく、生命力を使うようになるのです。僕は、そう感じました」
「成長著しい若者と接するのは、なんとも胸がすくのう。眠留、痛快じゃったぞ」
水晶の褒め言葉に輝夜さんと昴の喜びの生命力が加わったため、僕は盛大に照れてしまった。この機を逃してなるものか、と水晶が思ったかは定かでないが、水晶は先日の芹沢さんと青木さんを駅まで送った件を二人に話して聞かせた。それに関しては、芹沢さんと青木さんから直接聞いていたはずなのに、「眠留かっこいい!」「眠留くん素敵!」と二人はさんざん僕を持ち上げた。おそらく二人は、さっき水晶が見せた残念そうな仕草をずっと気に掛けていて、その埋め合わせをすべく僕を持ち上げたのである。なんて裏事情を知っていても、二人から褒められた僕は尻尾を振って跳び回る豆柴と化し、そんな僕らに水晶もほくほくの笑顔を浮かべていたから、豆柴化の甲斐もあるというもの。水晶は、福神様のようなまん丸顔を僕に向けた。
「こうして眠留は感覚透過のコツを掴んだ。正しい動機で臨んだからこそ、素晴らしい結果を得られたのじゃ。眠留、あっぱれじゃったぞ」
輝夜さんと昴は華やかに拍手した。でも、歓声はあげなかった。二人は、水晶の声音の変化に気づいていたのだ。赤ん坊のころから水晶を知っている僕も同様だったので、三人揃って居住まいを正す。満足げに頷き、水晶は指導を再開した。
「警戒心がないほど、意識は心を素直に通過する。我が愛弟子らも、警戒心など欠片も抱いていない眠留に綺麗になったと褒められ、それはそれは喜んでおった。然るに弟子らは一層、その生命力を正しき事に使ってくれるじゃろう。眠留、二人の師として、礼を言わせておくれ」
水晶は、後ろ脚はそのままに前脚だけを伸ばし、僕に頭を下げた。畏れ多すぎ、急いで上体を前に投げ出す。僕が顔を上げるのを待ち、水晶は教えを締めくくった。
「注目を集めすぎることを恥ずかしがっていたそなたらは、同級生の警戒心を和らげた。多くの少年が恥じらうそなたらへ正義感を燃やし、多くの少女が同じ乙女としてそなたらへ共感を抱いていた。それら美しき心はそなたらの生命力をさえぎることなく、心の奥深くへ届けた。今では大勢の同級生がそなたらに慣れ、そして己が生命力の正しい使用方法に気づき始めておる。昴、輝夜、恥ずかしさによう耐えてくれた。その甲斐は充分あったと、儂が保証するからの」
二人は再度座布団から降り、水晶へ三つ指ついた。けどなぜだろう、前回と同じ完璧な所作で謝意を示しているはずなのに、僕には二人が今までとは違って見えたのだ。訝しみ水晶へ目を向けたとたん、悟った。
輝夜さんと昴はそれぞれの翔体から、水晶と同じ原光を、かすかに漏れさせていたのだと。
「さてさて、儂はそろそろ去るとするかの。眠留、悪いがこの座布団を、拝殿の押入れに戻しておくれ」
「承知しました。すぐ持って行きます」
そうかそうかとニコニコし、水晶は座布団を離れる。そして絨毯に額を付けたままの二人の頭を優しく撫でてから、宙の彼方へ消えて行った。
立ち上がり、クローゼットに向かう。ブルゾンを二着取り出し、二人の背中にそれぞれ掛ける。コタツの上座に膝を突き、水晶の座っていた座布団を七枚ごと抱えて、僕は部屋を後にした。
拝殿の押入れに座布団を戻し、祭壇の前に座る。それから暫く、神社の長男として学んできた祝詞を僕はあげた。
十分後。
――もう大丈夫よ。
家族を守る一番新しい神様に、そう教えられた気がして立ちあがる。拝殿を出ると母屋の方から、夕ご飯を作る三人娘の賑やかな声が聞こえた。
その声に手を合わせ、三人がいつまでも健やかでいるよう祈る。
そしてスキップしたがる足を苦労して制御しつつ、僕は母屋へ歩いて行った。
「まったくおぬしは、何でも答えると言うておるのに、それを自分のためではなく他者のために使うのじゃの。儂は愉快でたまらぬわい」
ふお~~、ふぉっ、ふぉっ、と哄笑してから、水晶はこう約束してくれた。
「儂の勘では、二人の隣に眠留がいる時、儂はそれを話すはずじゃ。その際は、眠留だけに見えるよう現れるから、ものおじせず儂に語りかけるのじゃぞ」
あれから三日経った、今日。
二人に漫才を見てもらい、二人に真情を打ち明け、二人を真っ赤にしてしまった、今。
なぜか今こそが、あの約束が果たされる瞬間なのだと、僕は心の奥深くで感じていた。
それを裏付けるように、
シュワ――ン
精霊猫出現の合図である光の渦がコタツの向こうに湧き起こる。しかもそれは水晶だけが成しうる、無色透明に輝く光だった。水晶に心酔しきっている二人はそれが現れるや、敬意と親愛を溢れさせるのが常なのに、今回はなぜかそれに気づいていないらしい。よって三日前の指示に従い、ものおじせず光の渦に語りかけた。
「水晶、来てくれたんだね」
閃光の体さばきと謳われる輝夜さんはまさに閃光の速さで、雷光の剣速と謳われる昴はまさに雷光の速さで、顔を四方へ向け水晶を探した。だがそのどこにも水晶を見つけられなかった二人は僕の目線を確認し、その先へ体ごと向ける。二人が座布団を降り姿勢を正すと同時に光の渦は「精霊猫共通の白光」へと変わり、その中心に水晶が降臨した。三つ指つく二人へ、
「和やかな時間を邪魔してすまぬの。儂も寛ぐゆえ、どうか寛いでおくれ」
孫娘にデレデレのおじいちゃんの顔で水晶は告げた。そして七段重ねの座布団を出現させ、その上で香箱座りをし、ふわぁとアクビをする。玉を転がすようにコロコロ笑ったのち、娘二人は座布団に戻った。水晶はにこにこ頷き、その真ん丸顔を僕に向ける。
「眠留、儂が現れた様子を、最初から話してごらん」
僕は話した。水晶特有の「無色透明に輝く光」が空中に出現し、それが精霊猫共通の白光に変わって水晶が現れた、と。
すると予想外のことが起きた。輝夜さんと昴が口をポカンと開け、間抜け面になったのである。そんな二人に驚く余り、僕も口を開けてポカンとしてしまう。三人揃って間抜け面を晒したのち、僕らは揃って笑い声を上げた。負けじと水晶も参戦し、表情をくるくる変えて笑いを取ったものだから、皆で腹筋がつるほど笑い転げた。でもそこは、さすが精霊猫の長たる者。爆笑が心地よい運動になった頃合を計り、水晶は初めて聴く話をしてくれた。
「眠留はその名のとおり、良く寝る赤子での。いつもすやすや寝ていて、起きると笑顔を振りまくと言う、たいへん可愛らしい赤子じゃった。それでも、深夜に目覚める事がたまにあっての。これが昼時なら、泣くことは赤子の全身運動ゆえ好きなだけ泣かせてあげるのじゃが、深夜は健やかな眠りこそ赤子の宝ゆえ、儂ら陽晶は眠留をあやした。こと、様々な色で光ると純真無垢な笑顔でよう笑っての。儂らはこぞって、様々な色を見せた。ある晩ふと思い立ち、儂のみが成しうる、色のない原光で輝いてみた。眠留は手足をばたつかせ、きゃっきゃと笑い声を上げた。赤子は生まれながら上位視力を持つが、あの光を見極める赤子は儂も初めてでの。うれしゅうて、儂はあやすたびそれを見せた。こうして眠留は、上級翔人の中でさえ稀な、原光を見定める者となったのじゃよ」
僕はやっと自分の間違いを知った。この部屋にいる三人の翔人の中で、水晶特有の透明な光を見ていたのは、なんと僕だけだった。然るに僕だけが水晶出現の予兆に気づき、そしてそれが、輝夜さんと昴に口をポカンと開けさせたのである。その衝撃の事実に、僕はまたもや口をポカンと開ける。けど輝夜さんや昴ならいざ知らず、僕がその状態になるのは日常茶飯事だったため、笑いは起きなかった。水晶は少し残念そうな仕草をしたのち、話を再開した。
「原光は翔人でもそうそう見られぬが、白光なら全翔人が知覚可能じゃ。翔人でなくとも上位視力があれば白光を知覚でき、また上位視力がなくとも、大量の生命力を本能的に察することなら誰にも容易い。儂の直弟子に目を向ける、同級生達のようにの」
話の道筋がようやく見え、僕は背筋を伸ばした。輝夜さんと昴も柔らかな気配を改め、凛々しい空気を纏っている。そんな僕らへ、生命力放射を操作しない理由を水晶は明かした。
「特別な訓練をせずとも、人は上位視力を獲得できる。また獲得せずとも、生命力放射に鋭くなれば感情放射にも鋭くなり、人生で直面する様々な出来事により良い判断を下せるようになる。そなたらと机を並べ、そなたらの清らかな生命力に親しんできた級友達が、その証人じゃな」
気持ちの良い子ばかりゆえ儂もあの子らが好きでのうと微笑む水晶へ、僕らは拝殿で毎朝しているように手を合わせた。こらこら場所を間違っておるぞとおどけて、水晶は続ける。
「級友達はそなたらに親しんでおるが、他の組の生徒らにそれは望めん。人は衝撃が強すぎると、身構え壁を作り、得難い機会を逃しがちになる。然るに儂はそなたらへ、自然を命じた。そなたらの生命力を、そのまま世へ送り出すことを強いた。そなたらの恥ずかしさも、儂にはありがたかった。仮にそなたらが慢心を抱いていたら、一体どうなっていたかの。眠留、想像してみなさい」
突然の指名だったが自分でも不思議なほど、僕はすらすらそれに答えていた。
「心を通過して溢れる生命力は、心の色に染められて世に送り出されます。人は特別な力に憧れるものですから、たとえそれが慢心に染められていても、人はそれに憧れを抱くでしょう。すると人は、それを真似てしまう。優越感を満たすべく、生命力を使うようになるのです。僕は、そう感じました」
「成長著しい若者と接するのは、なんとも胸がすくのう。眠留、痛快じゃったぞ」
水晶の褒め言葉に輝夜さんと昴の喜びの生命力が加わったため、僕は盛大に照れてしまった。この機を逃してなるものか、と水晶が思ったかは定かでないが、水晶は先日の芹沢さんと青木さんを駅まで送った件を二人に話して聞かせた。それに関しては、芹沢さんと青木さんから直接聞いていたはずなのに、「眠留かっこいい!」「眠留くん素敵!」と二人はさんざん僕を持ち上げた。おそらく二人は、さっき水晶が見せた残念そうな仕草をずっと気に掛けていて、その埋め合わせをすべく僕を持ち上げたのである。なんて裏事情を知っていても、二人から褒められた僕は尻尾を振って跳び回る豆柴と化し、そんな僕らに水晶もほくほくの笑顔を浮かべていたから、豆柴化の甲斐もあるというもの。水晶は、福神様のようなまん丸顔を僕に向けた。
「こうして眠留は感覚透過のコツを掴んだ。正しい動機で臨んだからこそ、素晴らしい結果を得られたのじゃ。眠留、あっぱれじゃったぞ」
輝夜さんと昴は華やかに拍手した。でも、歓声はあげなかった。二人は、水晶の声音の変化に気づいていたのだ。赤ん坊のころから水晶を知っている僕も同様だったので、三人揃って居住まいを正す。満足げに頷き、水晶は指導を再開した。
「警戒心がないほど、意識は心を素直に通過する。我が愛弟子らも、警戒心など欠片も抱いていない眠留に綺麗になったと褒められ、それはそれは喜んでおった。然るに弟子らは一層、その生命力を正しき事に使ってくれるじゃろう。眠留、二人の師として、礼を言わせておくれ」
水晶は、後ろ脚はそのままに前脚だけを伸ばし、僕に頭を下げた。畏れ多すぎ、急いで上体を前に投げ出す。僕が顔を上げるのを待ち、水晶は教えを締めくくった。
「注目を集めすぎることを恥ずかしがっていたそなたらは、同級生の警戒心を和らげた。多くの少年が恥じらうそなたらへ正義感を燃やし、多くの少女が同じ乙女としてそなたらへ共感を抱いていた。それら美しき心はそなたらの生命力をさえぎることなく、心の奥深くへ届けた。今では大勢の同級生がそなたらに慣れ、そして己が生命力の正しい使用方法に気づき始めておる。昴、輝夜、恥ずかしさによう耐えてくれた。その甲斐は充分あったと、儂が保証するからの」
二人は再度座布団から降り、水晶へ三つ指ついた。けどなぜだろう、前回と同じ完璧な所作で謝意を示しているはずなのに、僕には二人が今までとは違って見えたのだ。訝しみ水晶へ目を向けたとたん、悟った。
輝夜さんと昴はそれぞれの翔体から、水晶と同じ原光を、かすかに漏れさせていたのだと。
「さてさて、儂はそろそろ去るとするかの。眠留、悪いがこの座布団を、拝殿の押入れに戻しておくれ」
「承知しました。すぐ持って行きます」
そうかそうかとニコニコし、水晶は座布団を離れる。そして絨毯に額を付けたままの二人の頭を優しく撫でてから、宙の彼方へ消えて行った。
立ち上がり、クローゼットに向かう。ブルゾンを二着取り出し、二人の背中にそれぞれ掛ける。コタツの上座に膝を突き、水晶の座っていた座布団を七枚ごと抱えて、僕は部屋を後にした。
拝殿の押入れに座布団を戻し、祭壇の前に座る。それから暫く、神社の長男として学んできた祝詞を僕はあげた。
十分後。
――もう大丈夫よ。
家族を守る一番新しい神様に、そう教えられた気がして立ちあがる。拝殿を出ると母屋の方から、夕ご飯を作る三人娘の賑やかな声が聞こえた。
その声に手を合わせ、三人がいつまでも健やかでいるよう祈る。
そしてスキップしたがる足を苦労して制御しつつ、僕は母屋へ歩いて行った。
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