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六章
嵐丸、1
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「全員、突撃!」
僕の号令で一年生三人によるトカゲ王への包囲突撃が始まった。
そして真っ先に走り出した僕がトカゲ王との距離を15メートルまで詰めた瞬間、
「回転攻撃、来るぞ!」
北斗が叫んだ。長さ9メートルのトカゲ王の尾が蠕動したのを確認したのだ。
一瞬遅れて、
「眠留、左回転!」
トカゲ王の左足が僕へ向けられたのを確認し京馬が叫んだ。
それに合わせ、北斗と京馬が身を屈め回避運動へ移る。
だが先陣を切り突撃していた僕に回避は叶わず、全身を恐怖に染めた。
その直後、
ドドン!
身の丈4メートルのトカゲ王が地響きを立て僕に急速接近。
そして樽の如き両脚を踏ん張り、
グワッッ!
右足を軸に体を高速回転させ、尾で僕を薙ぎ払いにかかった。
ヒュン!!
全長9メートルの鞭と化した尾の先端が僕に迫る。
回避の最も難しい腹部に狙いを定め、左から時速290キロで僕に迫る。
地に伏せることもジャンプすることも叶わなかった僕は左腕の盾を構えた。
それを一瞥し、そんな玩具で防げるものかと、トカゲ王は残忍に笑った。が、
タンッッ
陽動を止め僕は跳ぶ。
左腕を下にした背面跳びの要領で、僕は跳躍する。
そして盾から高周波カッターを出し、迫りくる尾と直角になるよう固定した。
横向きになった僕の直下を、霞むほどの速さで尾が駆け抜けてゆく。
と同時に、
スパンッ!
高周波カッターが、分厚い鱗で覆われた尾の先端を切断した。
ウガ――!!
尾を切られたトカゲ王は動きを止め、苦痛の叫び声を上げる。
その背後から間髪入れず北斗が迫る。
陽動でしかなかった回避運動を止めた北斗が全速力で接近し、
ビチャッ
盾に装備した液体窒素カートリッジの中身をトカゲ王の背中へぶちまけた。その途端、
ビクッッ
弱点の冷気で脊髄を冷却されたトカゲ王が、のけぞり天を仰いだ。
その一瞬の隙を突き京馬がダッシュする。
半径2メートルの相殺音壁に包まれトカゲ王へ肉薄する。
全身を分厚い鱗で守られたトカゲ王唯一の急所である喉元へ、京馬が銃口を向ける。
そして露わになった唯一の急所へ、対鱗徹甲銃の引き金を引いた。
ズキュ―――ン
至近距離から喉を撃ち抜かれ、トカゲ王は時を止め静止。
その数秒後。
シュワ――ン・・・
トカゲ王は無数のポリゴンと化し、空へ消えていった。
YOU WIN!
燦然と輝く勝利の文字が空中に浮かび上る。
地に片膝着き銃を構えた京馬の顔が、
液体窒素カートリッジを構えた北斗の顔が、
背面飛びの衝撃を受け身で躱し地に横たわる僕の顔が、
時を同じくして綻ぶ。その刹那、
「「「ウオ――――!!!」」」
3DGを見学していた数十人のギャラリーが、一斉に雄叫びを上げた。
僕ら一年生トリオは両手を高々と掲げ、皆の雄叫びに応えたのだった。
今日の日付は、夏休みも残すところ明日のみとなった八月三十日。時刻は、午前十一時四十五分。場所は、新忍道サークルのいつもの練習場であるテニスコート横の広場。その広場の南側と西側に、五十人をゆうに超す湖校生が詰めかけ、新忍道サークルの活動風景を見学していた。正式な部でなく、他校と試合をしている訳でもない弱小サークルの日課の練習が、これほど多数の生徒から注目を浴びるのは極めて珍しい事。よって普通なら、「地道に鍛錬を重ねてきた甲斐があったな」と、僕らは胸を熱くしただろう。「グラウンドとは到底呼べないこの広場で、目立たずとも毎日こつこつ練習を積んできて良かったな」と、これまでの日々を感慨深く振り返ったはずだ。しかし、大勢のギャラリーが僕らだけを目当てに集まっているワケではない事をまざまざと見せつけられている今の状況では、それは無理と言うもの。見学者の大半を占める女子生徒の歓声に耳を傾ければ、それは歴然だったからだ。
「きゃ~~、嵐丸く~ん」
「こっち向いて、嵐丸く~ん」
「こっちに来て、嵐丸く~ん」
「嵐丸くんって、最高~~!!」
「「「だよね~~~」」」
と、モンスターに勝利した一年生トリオなぞ存在しないとばかりに黄色い大歓声を浴びているのは、新公式AIの現身である、3D子犬の嵐丸に他ならなかったからだ。
「みなさん、応援ありがとうございます。つきましては採点に移りますので、ご静粛にお願いします」
まだ成犬に程遠い、子犬特有の短い脚で大地を踏みしめ、両耳をピンと立て、けれども尻尾は盛んに振りながら元気いっぱいに話す嵐丸に、女子生徒たちは目じりを下げまくっていた。
「嵐丸くん、りょうか~い」
「嵐丸くん、またね~」
「「「またね~~!!」」」
ひときわ大きな歓声を上げ、女の子たちは一応静まってくれた。嵐丸はペコリと頭を下げ、次いで僕らへ体を向け、お尻を地面にちょこんと下ろし空を見上げる。するとその視線の先に人の身長ほどの、淡く揺らめく炎の如き白光が出現した。
「Cチームのみなさん、勝利、おめでとうございます。それでは質問しますね」
右に並ぶ二人の戦友とタイミングを合わせビシッと背筋を伸ばすも、いつも僕は心の中で、こう挨拶してしまう。「やあ、エイミィ」と。
新公式AIは嬉しげに揺らめいたのち、問いを発した。
「トカゲ王の必殺技である回転攻撃に陽動作戦を講じていたら、教えてください」
「長い尾を持つモンスターは、包囲されると高確率で、尾による回転攻撃をします。地位が高いほど尾が長大になるトカゲ族はそれが最も顕著なため、三人で三方から攻撃すれば、トカゲ王は間違いなく回転攻撃をすると俺達は予測しました」
北斗が話すこれらのことは、陽動が滅法苦手な僕すら知っている事柄だった。しかし北斗はあえてそれを、ゆっくり、滑舌良く、理解しやすいよう話した。
その理由は、
「なるほど!」
「そうだったんだ!」
「作戦って重要なのね!」
という、見学者達の感嘆にある。僕らが極めようとしている新忍道は、プレイヤーと観客が一体となって楽しむことを目指した、スポーツだからね。
「その回転攻撃の最初の標的を、トカゲ王は猫将軍選手に定めました。これも陽動ですか?」
「トカゲ王は軸足を交互に使うことで、魔族一の回転攻撃を行います。それを誇りとしているトカゲ王は、範囲攻撃である回転攻撃を、各個撃破のためにしばしば使います。よって最も身体能力の高い眠留に、一番攻撃されやすい場所で号令をかけ先陣突撃をするという、トカゲ王の敵意を一身に集める任務を担ってもらいました」
僕の頭上に、僕を指し示す矢印と、彼が猫将軍眠留ですという表示と、その時の映像が映し出された。それを受け、
「「おお~~」」
「猫将軍君すご~い」
「「ひゅ~ひゅ~」」
なんて分不相応な拍手と歓声が起こり、僕は胸の中で懇願した。「ああエイミィ、お願いだからこの手の歓声は、相殺音壁で消して下さいませ~~!」
とはいえそう願うのは、僕が注目されている場面に限った事。なぜならその後エイミィは、高レベルの陽動作戦を立案した北斗の頭脳と、トカゲ王に肉薄し唯一の急所を撃ち抜いた京馬の度胸を、それぞれ浮き彫りにする質問を投げかけ、見学者を沸かせたからである。
――戦友達が僕の誇りであるように、僕も戦友達の誇りとなろう。
大勢の見学者から賞賛を浴びる二人の戦友の姿に、僕は今日もそう、想いを新たにしたのだった。
僕の号令で一年生三人によるトカゲ王への包囲突撃が始まった。
そして真っ先に走り出した僕がトカゲ王との距離を15メートルまで詰めた瞬間、
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一瞬遅れて、
「眠留、左回転!」
トカゲ王の左足が僕へ向けられたのを確認し京馬が叫んだ。
それに合わせ、北斗と京馬が身を屈め回避運動へ移る。
だが先陣を切り突撃していた僕に回避は叶わず、全身を恐怖に染めた。
その直後、
ドドン!
身の丈4メートルのトカゲ王が地響きを立て僕に急速接近。
そして樽の如き両脚を踏ん張り、
グワッッ!
右足を軸に体を高速回転させ、尾で僕を薙ぎ払いにかかった。
ヒュン!!
全長9メートルの鞭と化した尾の先端が僕に迫る。
回避の最も難しい腹部に狙いを定め、左から時速290キロで僕に迫る。
地に伏せることもジャンプすることも叶わなかった僕は左腕の盾を構えた。
それを一瞥し、そんな玩具で防げるものかと、トカゲ王は残忍に笑った。が、
タンッッ
陽動を止め僕は跳ぶ。
左腕を下にした背面跳びの要領で、僕は跳躍する。
そして盾から高周波カッターを出し、迫りくる尾と直角になるよう固定した。
横向きになった僕の直下を、霞むほどの速さで尾が駆け抜けてゆく。
と同時に、
スパンッ!
高周波カッターが、分厚い鱗で覆われた尾の先端を切断した。
ウガ――!!
尾を切られたトカゲ王は動きを止め、苦痛の叫び声を上げる。
その背後から間髪入れず北斗が迫る。
陽動でしかなかった回避運動を止めた北斗が全速力で接近し、
ビチャッ
盾に装備した液体窒素カートリッジの中身をトカゲ王の背中へぶちまけた。その途端、
ビクッッ
弱点の冷気で脊髄を冷却されたトカゲ王が、のけぞり天を仰いだ。
その一瞬の隙を突き京馬がダッシュする。
半径2メートルの相殺音壁に包まれトカゲ王へ肉薄する。
全身を分厚い鱗で守られたトカゲ王唯一の急所である喉元へ、京馬が銃口を向ける。
そして露わになった唯一の急所へ、対鱗徹甲銃の引き金を引いた。
ズキュ―――ン
至近距離から喉を撃ち抜かれ、トカゲ王は時を止め静止。
その数秒後。
シュワ――ン・・・
トカゲ王は無数のポリゴンと化し、空へ消えていった。
YOU WIN!
燦然と輝く勝利の文字が空中に浮かび上る。
地に片膝着き銃を構えた京馬の顔が、
液体窒素カートリッジを構えた北斗の顔が、
背面飛びの衝撃を受け身で躱し地に横たわる僕の顔が、
時を同じくして綻ぶ。その刹那、
「「「ウオ――――!!!」」」
3DGを見学していた数十人のギャラリーが、一斉に雄叫びを上げた。
僕ら一年生トリオは両手を高々と掲げ、皆の雄叫びに応えたのだった。
今日の日付は、夏休みも残すところ明日のみとなった八月三十日。時刻は、午前十一時四十五分。場所は、新忍道サークルのいつもの練習場であるテニスコート横の広場。その広場の南側と西側に、五十人をゆうに超す湖校生が詰めかけ、新忍道サークルの活動風景を見学していた。正式な部でなく、他校と試合をしている訳でもない弱小サークルの日課の練習が、これほど多数の生徒から注目を浴びるのは極めて珍しい事。よって普通なら、「地道に鍛錬を重ねてきた甲斐があったな」と、僕らは胸を熱くしただろう。「グラウンドとは到底呼べないこの広場で、目立たずとも毎日こつこつ練習を積んできて良かったな」と、これまでの日々を感慨深く振り返ったはずだ。しかし、大勢のギャラリーが僕らだけを目当てに集まっているワケではない事をまざまざと見せつけられている今の状況では、それは無理と言うもの。見学者の大半を占める女子生徒の歓声に耳を傾ければ、それは歴然だったからだ。
「きゃ~~、嵐丸く~ん」
「こっち向いて、嵐丸く~ん」
「こっちに来て、嵐丸く~ん」
「嵐丸くんって、最高~~!!」
「「「だよね~~~」」」
と、モンスターに勝利した一年生トリオなぞ存在しないとばかりに黄色い大歓声を浴びているのは、新公式AIの現身である、3D子犬の嵐丸に他ならなかったからだ。
「みなさん、応援ありがとうございます。つきましては採点に移りますので、ご静粛にお願いします」
まだ成犬に程遠い、子犬特有の短い脚で大地を踏みしめ、両耳をピンと立て、けれども尻尾は盛んに振りながら元気いっぱいに話す嵐丸に、女子生徒たちは目じりを下げまくっていた。
「嵐丸くん、りょうか~い」
「嵐丸くん、またね~」
「「「またね~~!!」」」
ひときわ大きな歓声を上げ、女の子たちは一応静まってくれた。嵐丸はペコリと頭を下げ、次いで僕らへ体を向け、お尻を地面にちょこんと下ろし空を見上げる。するとその視線の先に人の身長ほどの、淡く揺らめく炎の如き白光が出現した。
「Cチームのみなさん、勝利、おめでとうございます。それでは質問しますね」
右に並ぶ二人の戦友とタイミングを合わせビシッと背筋を伸ばすも、いつも僕は心の中で、こう挨拶してしまう。「やあ、エイミィ」と。
新公式AIは嬉しげに揺らめいたのち、問いを発した。
「トカゲ王の必殺技である回転攻撃に陽動作戦を講じていたら、教えてください」
「長い尾を持つモンスターは、包囲されると高確率で、尾による回転攻撃をします。地位が高いほど尾が長大になるトカゲ族はそれが最も顕著なため、三人で三方から攻撃すれば、トカゲ王は間違いなく回転攻撃をすると俺達は予測しました」
北斗が話すこれらのことは、陽動が滅法苦手な僕すら知っている事柄だった。しかし北斗はあえてそれを、ゆっくり、滑舌良く、理解しやすいよう話した。
その理由は、
「なるほど!」
「そうだったんだ!」
「作戦って重要なのね!」
という、見学者達の感嘆にある。僕らが極めようとしている新忍道は、プレイヤーと観客が一体となって楽しむことを目指した、スポーツだからね。
「その回転攻撃の最初の標的を、トカゲ王は猫将軍選手に定めました。これも陽動ですか?」
「トカゲ王は軸足を交互に使うことで、魔族一の回転攻撃を行います。それを誇りとしているトカゲ王は、範囲攻撃である回転攻撃を、各個撃破のためにしばしば使います。よって最も身体能力の高い眠留に、一番攻撃されやすい場所で号令をかけ先陣突撃をするという、トカゲ王の敵意を一身に集める任務を担ってもらいました」
僕の頭上に、僕を指し示す矢印と、彼が猫将軍眠留ですという表示と、その時の映像が映し出された。それを受け、
「「おお~~」」
「猫将軍君すご~い」
「「ひゅ~ひゅ~」」
なんて分不相応な拍手と歓声が起こり、僕は胸の中で懇願した。「ああエイミィ、お願いだからこの手の歓声は、相殺音壁で消して下さいませ~~!」
とはいえそう願うのは、僕が注目されている場面に限った事。なぜならその後エイミィは、高レベルの陽動作戦を立案した北斗の頭脳と、トカゲ王に肉薄し唯一の急所を撃ち抜いた京馬の度胸を、それぞれ浮き彫りにする質問を投げかけ、見学者を沸かせたからである。
――戦友達が僕の誇りであるように、僕も戦友達の誇りとなろう。
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