僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

文字の大きさ
136 / 934
四章

鬼王、1

しおりを挟む
「ボク、あれに興味があるのかい」
 後ろから肩を叩かれ我に返った。声のほうへ顔を向けると、中吉の人バージョンによく似た、綺麗でかっこいい大人の女性が僕を見下ろしていた。腰骨が驚くほど高い位置にある超メリハリボディーを新忍道の戦闘服で包んだ、貴子さんに雰囲気がそっくりの美女に、僕は息せき切って尋ねた。
「あっ、あの刀は何ですか!」
「あれかい。あれは新忍道本部が試作した対モンスター専用刀、出雲だ。盾に内蔵されたセラミックカッター同様、高速振動する高周波刀だから、鬼王の鎧もボス蠍の甲殻も豆腐のように斬り割くことができる。無論むろん、その腕があればだがな」
 対モンスター専用刀があるなんて考えたこともなかったですと溜息をもらす僕に、お姉さんは無表情で答えた。
「米国人が開発した3DGには、剣でモンスターと戦う発想が組み込まれていない。盾を用いて攻撃を避ける際、内蔵されたカッターでモンスターの拳や尻尾を傷つけ注意を逸らす程度が、米国人の認識だ。しかし、我々日本人もそれに従ういわれはない。我々には、我々の戦い方がある。ボクは、どう思うかい?」
「僕は、日本刀が大好きなんです!」
 お姉さんの話に同意するあまり、僕はあらゆる説明を端折はしょり、心の中心にある想いをそのまま口にしてしまった。だがそんな失態をすべて忘れ、僕は出雲を凝視しつづけた。
 ――わかる。魔想と無数の命のやり取りをしてきた僕にはわかる。この刀なら、出雲となら、人を凌駕するモンスターと互角以上の戦いをすることが可能だと、僕には確信できる。金棒を振り下ろそうとする鬼王に、足を右に踏み出すフェイントをかけ、金棒の軌道を右に逸らしてから左に踏み出し懐に飛び込み、そのまま駆け抜け鎧の隙間へ――
 みたいな感じに鬼王との戦闘を一心不乱にシミュレーションしていた僕の耳に、
「ボク、ちょっと体を触るよ」
 お姉さんの凛々しい声が届いた。虚を突かれ返事ができない僕をよそに、お姉さんは僕の体を触りまくる。ふえっ、ひゃあっ、そこはダメですと連発するも、お姉さんは容赦なく広背筋や腹斜筋や大殿筋を触り、掴み、そして撫でまわしてゆく。背後から聞こえた「いいなあ・・・」という二階堂の呟きに、このままでは見知らぬ自分に目覚めてしまうのではないかと真剣に危惧し始めたころ、お姉さんはポツリと言った。
「ボク、ついておいで」
「いっ、イエス マム!」
 僕は条件反射でそう応えた。そして上官に心酔する新兵よろしく手を大きく振り膝を高く持ち上げ、その背中を追ってゆく。
 お姉さんが僕の他にも新兵を二人引き連れていたのは、言うまでもない事だった。

 僕らが連れて行かれたのは、ショップ二階のシミュレーションエリアだった。その中央の、最も立派な最新式シミュレーターの前でAIとやり取りをしていたお姉さんが、僕にある物を差し出した。
「先ずはコレで、モンスターを『斬って』ごらん」
 それは二尺二寸ほどの、センチで言うと長さ66センチほどのカーボン製の模擬刀だった。僕はいつもどおり、両掌を上に向け頭を下げてそれを受け取った。たとえ模擬刀であっても刀をぞんざいに扱うなど、思いもよらぬ事なのである。
 初めは片手で、次に両手で握って軽く振った。二尺の猫丸より6センチ長いが、祖父の指示を守り様々な長さの木刀を自主練で使っていたことが幸いし、すぐ手に馴染んでくれた。それを待っていたかのようにお姉さんがシミュレーターの扉を開ける。模擬刀を左手に一礼して、僕は中に入った。
 刀を中段に構える。空中に敵が現れる気配を察知し反射的に感覚体を展開しそうになるも、すんでのところで思いとどまった。「お姉さんは感覚体を読み取る」 そう感じたからだ。
 ほどなく、胸の高さに体調30センチ強の雀蜂が一匹現れ、こちらへ向かってきた。僕は左足を半歩踏み出しつつ、切っ先を下へ10センチ前方へ10センチ押し出す、突き切りを実行する。刀と僕の移動エネルギーに雀蜂の移動エネルギーを上乗せしたため、10×10突き切りで雀蜂は縦に綺麗に両断された。驚愕する二人の友の気配が後方から伝わって来るも、間を置かず二匹の雀蜂が現れたのでそれに集中する。さっきより若干高い、喉の高さでホバーリングしていた二匹の雀蜂が同時に突っ込んでくる。だがそれより0.1秒早く、僕は一歩前に飛び出し模擬刀を左薙ぎに一閃。弾みをつけ飛びだしたばかりの二匹の雀蜂は、成すすべなく四つになり霧散した。ここで脊髄に電気がチクリと走る。これは、気を抜けない敵が現れる兆候だ。僕は感覚体を体外ではなく体内に展開し、神経感度を二倍に強化。その直後、周囲に五匹の雀蜂が出現した。
 五匹の雀蜂が周囲を乱れ飛ぶ。それを一見無視するが如く、僕は無造作に右足を踏み出す。人を凌駕する複数の魔物と対峙する際、両足を踏ん張り刀を振ることは高確率で死を招く。僕は一か所に留まらず左右の足を交互に踏み出し続け、右足を軸に三回転、左足を軸に二回転して五匹の雀蜂を葬った。
 一旦停止というAIの声に従い戦闘態勢をく。すると、お姉さんがシミュレーターの中に入ってきた。
「今度はこれをお使い」
 感情の色が微かに現れたお姉さんへ僕は模擬刀を返す。そして代わりに、出雲を受け取った。
「モンスターの要望はあるかい」
 僕はこの声を知っていた。これは日常的に命のやり取りをしている者だけ発しうる、核心に覚悟を秘めた声だ。僕は同じ声で応えた。
「鬼王をお願いします」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

私の守護霊さん

Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。 彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。 これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

処理中です...