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四章
サークル前史、1
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その日の帰りがけ、1対1の練習に誘ってくれたヤツらが、顔を輝かせて話題を振ってきた。
「女子の先輩の中にはホント巧い人達がいて、見ているだけでやる気が出てくるんだ」
男子サッカー部と女子サッカー部は、いつも同じ時間に隣り合って練習している。女子サッカー部のトップ選手達が男子の練習にしばしば混ざるので、伝統的にそうしているのだそうだ。
「しかもあんなに巧いのに、普段は優しい素敵なお姉さんなんだぜ。猫将軍、信じられるか?」
体育祭のストラックアウトで活躍した九組の一条さんを、僕は思い浮かべた。確かに一条さんなら二年後、男子一年生部員の女神的存在になっているだろう。納得した僕は皆とその話で盛り上がった。そしてその最中、もう一つ納得したことがあった。それは、サッカー部と陸上部が必ず時間をずらして日程を組まれている事への、納得だったのである。
第一グラウンドを使う八つの部活の中で最も人数が多いのは、関東有数の強豪校である陸上部だ。次に多いのが男子サッカー部で、少し離されてラグビー部や女子サッカー部が続くのだけど、サッカー部はいつも男女一緒に練習しているため、合計部員数で陸上部を上回るのだと言う。よって教育AIは、三位以下を大きく引き離すこの二大グループの練習時間を、毎日ずらして夏休みの予定を組んだ。二つの部はこうして、午前と午後に必ず分かれて練習することとなったのである。
それは僕にとって、二つの面でメチャクチャ有難いことだった。一つは、「陸上部の練習に参加しているのを、休んでいるサッカー部の皆に横目で見られる」なんて恐ろしい事態に陥らず済んだ事。そしてもう一つは、新忍道サークルと二つの部の掛け持ちが容易になった事だ。
サッカー部の練習に初めて参加した日の夕方、北斗と二階堂に電話し手伝ってもらったところ、「陸上部とサッカー部に週四日参加し、新忍道サークルを週一で休む」というスケジュールを、夏休み終了まで組めることが判明した。それは中央図書館へのトボトボ歩きを一掃した瞬間でもあったから、手伝ってもらったことも考慮すれば、僕は飛び上って喜ぶべきだったのだろう。でも、それはできなかった。一番初めに誘ってもらい、そして一番長く汗を流してきた新忍道サークルを、休まなければならなかったからだ。項垂れる僕の耳に、北斗の声が届いた。
「眠留、明日のお昼、真田さんとの約束を果たそう」
僕は力なく頷いた。二階堂も、このスケジュールに従うことを快く賛成してくれた。僕は次の日のお昼、皆でお弁当を食べながら、先輩方にその話をした。話を聞き終えた真田さんは一言、言った。
「三日ある自由日をどう使うかは、猫将軍の自由だ。正直、寂しくはあるがな」
真田さんに続き、副長や先輩方が次々声をかけてくれた。
「ったく、ちょこまか動くお前がいないと、少し物足りない気がするぜ」
「副長は口が悪いから、同じ想いの俺が翻訳しよう。骨惜しみせず何事にも全力で臨むお前を、副長はとても気に入っているそうだ」
「お前と壁越え練習をできないのは寂しいが、お前の夏休みはお前のものだ。猫将軍、しっかりやれよ」
「寂しいがしっかりやれよ。それにしても自由日を一日使うだけなのに、猫将軍は大層な人気者だな」
「お前は潜入と射撃が巧すぎだから、一日と言わず三日休め。そうでもしないと、差がちっとも縮まらん。と言う先輩が一人もいないと猫将軍も自由日を使いづらいだろうから、二年の俺が代表して言っておこう」
「なんで二年のテメーが代表すんだよ。射撃が一番下手な代表でもしとけ」
「副長は口が悪いから、同じ想いの俺が・・・」
「ま、黛さん! 打たれ弱い俺を、これ以上打ちのめさないでやって下さい!」
ボケ担当の加藤さんをダシにして、先輩方はいつも通りワイワイやり始めた。新しいことを始める僕を励ましつつも、それが重荷にならない気づかいをしてくださっているのだ。先輩方の懐の深さに、僕は何も言うことができなかった。
そんな僕の肩を、両側に座っていた二人の友が、優しくぽんぽんと叩いてくれたのだった。
七月末の夕方、二階堂の呼びかけにより、僕ら一年生トリオは北斗の家で会合を持った。腰を落ち着けグラスを合わせ乾杯するや、なみなみ注がれた麦茶を二階堂は一気に飲み干し、新忍道サークルの誕生の経緯を話してくれた。
「新忍道サークルは、北斗と猫将軍を除く七人全員が、元忍術部員だってことは知ってるよな」
もちろん知っていた。けど僕はそれを、触れてはいけない事のように感じていたので、黙って頷くだけに留めた。二階堂はそんな僕に、目元をほんわり和ませた。
「猫将軍は何かを察しているようだな。元忍術部員として口にしにくい箇所があるから伏せていただけで、後味の悪い話ではないんだ。安心して聞いてくれ」
そう言って二階堂は一息入れ、自分達の過去を明かした。
「女子の先輩の中にはホント巧い人達がいて、見ているだけでやる気が出てくるんだ」
男子サッカー部と女子サッカー部は、いつも同じ時間に隣り合って練習している。女子サッカー部のトップ選手達が男子の練習にしばしば混ざるので、伝統的にそうしているのだそうだ。
「しかもあんなに巧いのに、普段は優しい素敵なお姉さんなんだぜ。猫将軍、信じられるか?」
体育祭のストラックアウトで活躍した九組の一条さんを、僕は思い浮かべた。確かに一条さんなら二年後、男子一年生部員の女神的存在になっているだろう。納得した僕は皆とその話で盛り上がった。そしてその最中、もう一つ納得したことがあった。それは、サッカー部と陸上部が必ず時間をずらして日程を組まれている事への、納得だったのである。
第一グラウンドを使う八つの部活の中で最も人数が多いのは、関東有数の強豪校である陸上部だ。次に多いのが男子サッカー部で、少し離されてラグビー部や女子サッカー部が続くのだけど、サッカー部はいつも男女一緒に練習しているため、合計部員数で陸上部を上回るのだと言う。よって教育AIは、三位以下を大きく引き離すこの二大グループの練習時間を、毎日ずらして夏休みの予定を組んだ。二つの部はこうして、午前と午後に必ず分かれて練習することとなったのである。
それは僕にとって、二つの面でメチャクチャ有難いことだった。一つは、「陸上部の練習に参加しているのを、休んでいるサッカー部の皆に横目で見られる」なんて恐ろしい事態に陥らず済んだ事。そしてもう一つは、新忍道サークルと二つの部の掛け持ちが容易になった事だ。
サッカー部の練習に初めて参加した日の夕方、北斗と二階堂に電話し手伝ってもらったところ、「陸上部とサッカー部に週四日参加し、新忍道サークルを週一で休む」というスケジュールを、夏休み終了まで組めることが判明した。それは中央図書館へのトボトボ歩きを一掃した瞬間でもあったから、手伝ってもらったことも考慮すれば、僕は飛び上って喜ぶべきだったのだろう。でも、それはできなかった。一番初めに誘ってもらい、そして一番長く汗を流してきた新忍道サークルを、休まなければならなかったからだ。項垂れる僕の耳に、北斗の声が届いた。
「眠留、明日のお昼、真田さんとの約束を果たそう」
僕は力なく頷いた。二階堂も、このスケジュールに従うことを快く賛成してくれた。僕は次の日のお昼、皆でお弁当を食べながら、先輩方にその話をした。話を聞き終えた真田さんは一言、言った。
「三日ある自由日をどう使うかは、猫将軍の自由だ。正直、寂しくはあるがな」
真田さんに続き、副長や先輩方が次々声をかけてくれた。
「ったく、ちょこまか動くお前がいないと、少し物足りない気がするぜ」
「副長は口が悪いから、同じ想いの俺が翻訳しよう。骨惜しみせず何事にも全力で臨むお前を、副長はとても気に入っているそうだ」
「お前と壁越え練習をできないのは寂しいが、お前の夏休みはお前のものだ。猫将軍、しっかりやれよ」
「寂しいがしっかりやれよ。それにしても自由日を一日使うだけなのに、猫将軍は大層な人気者だな」
「お前は潜入と射撃が巧すぎだから、一日と言わず三日休め。そうでもしないと、差がちっとも縮まらん。と言う先輩が一人もいないと猫将軍も自由日を使いづらいだろうから、二年の俺が代表して言っておこう」
「なんで二年のテメーが代表すんだよ。射撃が一番下手な代表でもしとけ」
「副長は口が悪いから、同じ想いの俺が・・・」
「ま、黛さん! 打たれ弱い俺を、これ以上打ちのめさないでやって下さい!」
ボケ担当の加藤さんをダシにして、先輩方はいつも通りワイワイやり始めた。新しいことを始める僕を励ましつつも、それが重荷にならない気づかいをしてくださっているのだ。先輩方の懐の深さに、僕は何も言うことができなかった。
そんな僕の肩を、両側に座っていた二人の友が、優しくぽんぽんと叩いてくれたのだった。
七月末の夕方、二階堂の呼びかけにより、僕ら一年生トリオは北斗の家で会合を持った。腰を落ち着けグラスを合わせ乾杯するや、なみなみ注がれた麦茶を二階堂は一気に飲み干し、新忍道サークルの誕生の経緯を話してくれた。
「新忍道サークルは、北斗と猫将軍を除く七人全員が、元忍術部員だってことは知ってるよな」
もちろん知っていた。けど僕はそれを、触れてはいけない事のように感じていたので、黙って頷くだけに留めた。二階堂はそんな僕に、目元をほんわり和ませた。
「猫将軍は何かを察しているようだな。元忍術部員として口にしにくい箇所があるから伏せていただけで、後味の悪い話ではないんだ。安心して聞いてくれ」
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